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「なぜ泣く?」
いつの間にか、目から大粒の涙が零れていた。
北条の手が、頬を流れる涙をそっと拭う。
「全部話せ。何を考えてる」
北条の声から苛立ちが消え、唇が、いたわるように額にそっと押し当てられた。
拘束を解かれた腕が、だめだと思うのに北条の広い背中をたどり、薄いシャツを握りしめる。
「ダメ……なんだよ」
「何が?」
「これで終わりにするんだ」
その言葉を口にするのは他のどんなことをするよりも難しく、心が張り裂けそうな程苦しかった。
「何故だ?」
健吾の言葉に動揺する様子もなく、北条はあやすように健吾を抱えたまま、静かに言葉の続きを待っていた。
「俺は、アメリカには行けないから。蒼馬と一緒にいられないから。仕事がすごく大切なわけじゃないけど、ただ蒼馬と一緒にいたいっていう気持ちだけで、今自分がやってること全部捨ててついて行くようなこと、俺は出来ない」
ダメな自分になりたくない、そう、ところどころしゃくり上げながら健吾が話すのを、北条は黙って聞いていた。
「でもそうしたら、俺はきっと蒼馬に会いたくて会いたくて、我慢できなくなる。全部投げ出して、会いに行きたくなるに決まってる。だから……」
ぐうっと喉が鳴り、言葉がつまる。
本当にそうしたいのかどうか、わからない。
北条が今の言葉を全部否定してくれたら、一緒に行こうと誘ってくれたら、もしかしたら全部捨ててついて行けるのかもしれないという、ずるい考えが一瞬頭をよぎった。
でもそれはただの逃避で、結局のところ健吾は、自分自身で出した答えでしか行動することはできないだろう。
「だから、蒼馬とはこれで終わりにしたい。全部、なかったことにして欲しい」
思いを言葉に変え、健吾は固く目を閉じた。
不思議な程、声が震えたりはしなかった。
絶対にこれが正しいのだと、自分自身に言い聞かせるように言葉を発したつもりだ。
一緒にいられないのなら、全て白紙に戻して北条を忘れてしまった方がいい。
深く息を吐く気配がして、とん、と健吾の肩に北条の額が乗せられる。
北条の髪が、さらりと頬をくすぐった。
「それが、おまえの出した答えか?」
「……うん」
心が痛くて叫び出しそうで、悲しみの涙をこらえる為に、何度もひくりと子供のようにしゃくりあげてしまっていた。
最後なのだから情けないところは見せたくなかったのに、どうしても涙が止まらない。
「ひとつ、聞いていいか?」
北条が顔を横に向け、吐息が届くほど近い場所から健吾を見上げた。
すこし困ったような表情……。それを見るとやっぱり好きだという気持ちが湧き上がり、また涙がこぼれる。
「な……に?」
「お前、俺の事をどう思っているんだ?」
そんなわかりきった事をなぜ今さら聞くのかと不思議に思ったが、そういえば気持ちをまともに伝えたことがなかったことに、今更気付いた。
最後だから、きちんと伝えたい。
そう思いぐっと奥歯を噛みしめたが、涙ばかりがぼろぼろとこぼれ落ちていき、なかなか言葉が出てこなかった。
「蒼馬……」
「うん」
「蒼馬が、好き」
愛してる。
ありったけの思いを込めてそう告げると、健吾を見つめる目元がふわりと緩み、勢いよく体を起こした北条に強く抱き締められた。
頬をすり寄せられ、髪に何度もキスが落とされる。
そのまま抱き上げられ、ベッドの上にダイブさせられて、健吾は驚いてじたばたと暴れまわった。
「蒼馬っ!俺の話ちゃんと聞いて……」
「ストップ。お前の考えてることはわかったから、今度は俺の話を聞け」
上から圧し掛かるように押さえ込まれ、しゃべるな、と唇を長い人差し指で封じられる。
「まずは……健吾。おまえがアメリカに行く必要は全くない」
いつものように人の悪い笑みを浮かべながら、北条が囁くように言う。
「もちろん、仕事を辞める必要もない」
チュッと、小さな子供にするような、やさしいキスが上唇に落とされる。
「それなら、別に終わりにする必要はないだろう?」
違うか?と北条に問いかけられ、健吾はベッドに貼り付けられたまま、きょとんと固まる。
健吾が北条についていく必要はなく、仕事を辞める必要もないならば、終わりにしようという選択肢は消えるわけだが、けれどそれならば、どうすれば北条と一緒にいられるというのだろう。
健吾が訝し気に首を傾げていると、北条があきれたようにため息をついた。
「おまえは本当に……変な所で強情な上に、鈍いな」
北条の手がTシャツの裾から侵入し、さらりと乾いた肌をなぞる。
驚いて阻止しようとした健吾の手は、縫い止められるようにベッドに押さえつけられる。
北条は鼻先でシャツを押し上げると、淡い色をした健吾の胸の突起に、ちろりと舌を絡めた。
「ちょっと…蒼馬っ……」
ちゅ、と吸い上げられて跳ね上がる体を、圧し掛かった大きな体に抑え込まれ、さらに尖らせた舌先で乳首を押し上げられた。
乳暈をぐるりと円を描くように大きく舐め回されると、腰のあたりにじん、と熱がたまるのが感じられる。
男なのでそんな場所が感じるはずはないと思っていたが、体の中心に得体のしれないうずきが起こり、北条に刺激される度に体全体に甘い痺れが行き渡った。
反対の乳首も北条のいたずらな指先につまみ上げられ、こよりを作るように擦りあわされてピンと立ち上がってしまった。
健吾の意思を無視して自己主張を始めたその場所が爪の先ではじくように刺激され、思わず腰がびくんと跳ね上がる。
乳首を交互につままれたり、舐めて刺激されることに耐えられなくなり、健吾は足をバタつかせて抵抗した。
「やめてってば!なにするんだよ!」
「なにってお前、ここまでされといて野暮な事聞くなよ」
案外器用な手が健吾のベルトを素早く外し、ズボンと下着を一気に引きずり下ろす。
北条はすでに勃ち上がっていた健吾自身に鼻先を擦りよせると、先端にチュッとキスをしたあと、パクリとそれを口に含んだ。
「やっ……蒼馬っ……」
突如湧き上がるしびれるような快感に、健吾は思わず身をよじる。
とろけるように熱く柔らかい北条の口の中で、肉厚の舌が屹立を出迎えるように絡みつき、熱心に蠢いて健吾の理性を奪い取っていく。
くびれた部分に舌先を這わされ、鈴口に舌全体を押し付けられて滲み出した粘液を舐め取られると、健吾の口はかすれた悲鳴しか紡げなくなった。
男同士、どうされれば感じるのかなんて考えずとも分かるのだろう。
北条は的確に、健吾の弱い部分を責め続ける。
両腕の拘束はとっくに解かれていたが、巧みな愛撫に理性をなくした健吾は、無意識に両手を伸ばして北条の艶のある髪をかき回していた。
「う…んんっ…、いやっ……!離して」
限界が近い事を察して、北条が執拗に唇と舌で健吾自身を責め立てる。
ジュプジュプと卑猥な音を立てて屹立を吸い上げる北条の髪に、健吾の男にしては細い指がピン、と絡まった。
「あっ……んぅ……」
つま先がきゅっと丸まり、ビクビクと腰が痙攣するのと同時に、北条の口にどろりと青臭い精液が吐き出された。
北条はためらわず、ごくりとそれを嚥下する。
ひくひくと細かい痙攣を繰り返しながら涙目で脚の間を見下ろすと、北条が口を拭いながら体を起こすところだった。
「の……んじゃったの?」
こくりと頷き、北条が顔をしかめる。
「……美味いものじゃないな」
見た事のない情けない表情で呟く姿に、健吾はいたたまれなさと恥ずかしさで「バカ!」と北条に蹴りを入れた。
「泣き止んだか?」
目尻にたまっていた涙を、北条の指が弾き飛ばす。
「いつ誰がアメリカに帰るなんて言った?」
北条が乱暴な仕草でシャツを脱ぎ捨て、殆ど脱げていた健吾のTシャツにも手をかけて頭を抜く。
健吾の服をすべて脱がせてしまうと、北条は確かめるように細い体のラインを手で辿り、そのあとを唇でなぞっていく。
一度達して気怠い体は逆らう術を持たず、ただ、北条の言葉の続きが知りたくて、健吾は黙ってされるがままになっていた。
「おまえは俺が帰国するものと思っていたようだが、生憎俺はそこまで薄情な男じゃない」
健吾の、男にしては柔らかな白い肌を北条の唇と舌が味わうようにして辿り、時々立ち止まっては所有の印を残す。
きゅっときつく吸われるたびに、健吾の体は細かく震えた。
「綺麗だな、健吾。おまえは全部俺のものだ。違うか?」
健吾の頬を大きな手で包みながら、額同士を擦り合わせるようにして北条が問いかける。
違わない。
誰がなんと言おうと、健吾は全て北条のものだ。
攫うようにして健吾のすべてを持って行ったのは、北条だ。
「アメリカに、帰らないの?」
おそるおそる確認するように健吾が呟くと、それを封じるように北条が唇をふさぐ。
何度も舌を絡め合わせ、お互いの体温が溶け合う頃にようやくゆっくりと、重なり合った唇が離れていく。
「いつだったか、おまえと約束しただろう?おいていかないと」
北条と離れることが考えられなくて、毎日ひどく不安に過ごしていた頃にねだった約束だった。
まさか北条が覚えていたとは思わず、健吾は驚きに目を見張る。
「でも……だって、仕事は?」
地位も名誉もある、北条にとっては天職ともいえる重要な仕事があったはずだ。
しかし北条はあっさりと「辞めてきた」と答える。
「手続きにリミットがあったから、一度あっちに戻っただけだ。これからは日本で暮らす」
言ってなかったか?と北条は悪びれもせず、いたずらっ子のような表情で健吾の顔を覗き込む。
聞いてない!と叫びたかったが、口から出たのは違う言葉だ。
「……俺と、一緒に?」
「そうだ。おまえと一緒に。ダメか?」
ダメじゃない、と答えるのが精一杯だった。
「おまえが不自由を背負ってあっちに行くより、俺が日本に残る方が自然だろう?俺はお前が側にいればどこだっていい」
無人島だってかまわない、と北条が笑う。
あまりにも急に、自分の思っていたこととは正反対の方向へ広がる未来図についていけずに、頭の整理が追い付かなかった。
別れることを決意していたのに、二度と会えない事を覚悟していたのに……健吾が悩んでいたことのすべてを、北条に力技で吹き飛ばされてしまった。
健吾が乗り越えられなかった壁を、北条はいとも簡単に飛び越えて当たり前のように健吾のそばにいると言ってくれる。
「俺も、ひとつ聞いていい?」
そういえば、聞いていなかったことがある。
「なんだ?」
なんとなく聞かれる内容を予想しているであろう北条が、いつもの自信に満ちた顔でニヤリと笑う。
「俺のこと、どう思ってるの?」
やっと聞いてくれたか、と北条が声を立てて笑った。
北条が耳もとに唇を寄せて、愛の言葉を囁く。
低く響いたその言葉が胸いっぱいに押し寄せ、健吾はただ、北条の顔を見つめ続けた。
「知っていただろう?」
屈託なく笑う北条を引き寄せ、健吾は心の底からすべての思いをこめて深く口づけた。
いつの間にか、目から大粒の涙が零れていた。
北条の手が、頬を流れる涙をそっと拭う。
「全部話せ。何を考えてる」
北条の声から苛立ちが消え、唇が、いたわるように額にそっと押し当てられた。
拘束を解かれた腕が、だめだと思うのに北条の広い背中をたどり、薄いシャツを握りしめる。
「ダメ……なんだよ」
「何が?」
「これで終わりにするんだ」
その言葉を口にするのは他のどんなことをするよりも難しく、心が張り裂けそうな程苦しかった。
「何故だ?」
健吾の言葉に動揺する様子もなく、北条はあやすように健吾を抱えたまま、静かに言葉の続きを待っていた。
「俺は、アメリカには行けないから。蒼馬と一緒にいられないから。仕事がすごく大切なわけじゃないけど、ただ蒼馬と一緒にいたいっていう気持ちだけで、今自分がやってること全部捨ててついて行くようなこと、俺は出来ない」
ダメな自分になりたくない、そう、ところどころしゃくり上げながら健吾が話すのを、北条は黙って聞いていた。
「でもそうしたら、俺はきっと蒼馬に会いたくて会いたくて、我慢できなくなる。全部投げ出して、会いに行きたくなるに決まってる。だから……」
ぐうっと喉が鳴り、言葉がつまる。
本当にそうしたいのかどうか、わからない。
北条が今の言葉を全部否定してくれたら、一緒に行こうと誘ってくれたら、もしかしたら全部捨ててついて行けるのかもしれないという、ずるい考えが一瞬頭をよぎった。
でもそれはただの逃避で、結局のところ健吾は、自分自身で出した答えでしか行動することはできないだろう。
「だから、蒼馬とはこれで終わりにしたい。全部、なかったことにして欲しい」
思いを言葉に変え、健吾は固く目を閉じた。
不思議な程、声が震えたりはしなかった。
絶対にこれが正しいのだと、自分自身に言い聞かせるように言葉を発したつもりだ。
一緒にいられないのなら、全て白紙に戻して北条を忘れてしまった方がいい。
深く息を吐く気配がして、とん、と健吾の肩に北条の額が乗せられる。
北条の髪が、さらりと頬をくすぐった。
「それが、おまえの出した答えか?」
「……うん」
心が痛くて叫び出しそうで、悲しみの涙をこらえる為に、何度もひくりと子供のようにしゃくりあげてしまっていた。
最後なのだから情けないところは見せたくなかったのに、どうしても涙が止まらない。
「ひとつ、聞いていいか?」
北条が顔を横に向け、吐息が届くほど近い場所から健吾を見上げた。
すこし困ったような表情……。それを見るとやっぱり好きだという気持ちが湧き上がり、また涙がこぼれる。
「な……に?」
「お前、俺の事をどう思っているんだ?」
そんなわかりきった事をなぜ今さら聞くのかと不思議に思ったが、そういえば気持ちをまともに伝えたことがなかったことに、今更気付いた。
最後だから、きちんと伝えたい。
そう思いぐっと奥歯を噛みしめたが、涙ばかりがぼろぼろとこぼれ落ちていき、なかなか言葉が出てこなかった。
「蒼馬……」
「うん」
「蒼馬が、好き」
愛してる。
ありったけの思いを込めてそう告げると、健吾を見つめる目元がふわりと緩み、勢いよく体を起こした北条に強く抱き締められた。
頬をすり寄せられ、髪に何度もキスが落とされる。
そのまま抱き上げられ、ベッドの上にダイブさせられて、健吾は驚いてじたばたと暴れまわった。
「蒼馬っ!俺の話ちゃんと聞いて……」
「ストップ。お前の考えてることはわかったから、今度は俺の話を聞け」
上から圧し掛かるように押さえ込まれ、しゃべるな、と唇を長い人差し指で封じられる。
「まずは……健吾。おまえがアメリカに行く必要は全くない」
いつものように人の悪い笑みを浮かべながら、北条が囁くように言う。
「もちろん、仕事を辞める必要もない」
チュッと、小さな子供にするような、やさしいキスが上唇に落とされる。
「それなら、別に終わりにする必要はないだろう?」
違うか?と北条に問いかけられ、健吾はベッドに貼り付けられたまま、きょとんと固まる。
健吾が北条についていく必要はなく、仕事を辞める必要もないならば、終わりにしようという選択肢は消えるわけだが、けれどそれならば、どうすれば北条と一緒にいられるというのだろう。
健吾が訝し気に首を傾げていると、北条があきれたようにため息をついた。
「おまえは本当に……変な所で強情な上に、鈍いな」
北条の手がTシャツの裾から侵入し、さらりと乾いた肌をなぞる。
驚いて阻止しようとした健吾の手は、縫い止められるようにベッドに押さえつけられる。
北条は鼻先でシャツを押し上げると、淡い色をした健吾の胸の突起に、ちろりと舌を絡めた。
「ちょっと…蒼馬っ……」
ちゅ、と吸い上げられて跳ね上がる体を、圧し掛かった大きな体に抑え込まれ、さらに尖らせた舌先で乳首を押し上げられた。
乳暈をぐるりと円を描くように大きく舐め回されると、腰のあたりにじん、と熱がたまるのが感じられる。
男なのでそんな場所が感じるはずはないと思っていたが、体の中心に得体のしれないうずきが起こり、北条に刺激される度に体全体に甘い痺れが行き渡った。
反対の乳首も北条のいたずらな指先につまみ上げられ、こよりを作るように擦りあわされてピンと立ち上がってしまった。
健吾の意思を無視して自己主張を始めたその場所が爪の先ではじくように刺激され、思わず腰がびくんと跳ね上がる。
乳首を交互につままれたり、舐めて刺激されることに耐えられなくなり、健吾は足をバタつかせて抵抗した。
「やめてってば!なにするんだよ!」
「なにってお前、ここまでされといて野暮な事聞くなよ」
案外器用な手が健吾のベルトを素早く外し、ズボンと下着を一気に引きずり下ろす。
北条はすでに勃ち上がっていた健吾自身に鼻先を擦りよせると、先端にチュッとキスをしたあと、パクリとそれを口に含んだ。
「やっ……蒼馬っ……」
突如湧き上がるしびれるような快感に、健吾は思わず身をよじる。
とろけるように熱く柔らかい北条の口の中で、肉厚の舌が屹立を出迎えるように絡みつき、熱心に蠢いて健吾の理性を奪い取っていく。
くびれた部分に舌先を這わされ、鈴口に舌全体を押し付けられて滲み出した粘液を舐め取られると、健吾の口はかすれた悲鳴しか紡げなくなった。
男同士、どうされれば感じるのかなんて考えずとも分かるのだろう。
北条は的確に、健吾の弱い部分を責め続ける。
両腕の拘束はとっくに解かれていたが、巧みな愛撫に理性をなくした健吾は、無意識に両手を伸ばして北条の艶のある髪をかき回していた。
「う…んんっ…、いやっ……!離して」
限界が近い事を察して、北条が執拗に唇と舌で健吾自身を責め立てる。
ジュプジュプと卑猥な音を立てて屹立を吸い上げる北条の髪に、健吾の男にしては細い指がピン、と絡まった。
「あっ……んぅ……」
つま先がきゅっと丸まり、ビクビクと腰が痙攣するのと同時に、北条の口にどろりと青臭い精液が吐き出された。
北条はためらわず、ごくりとそれを嚥下する。
ひくひくと細かい痙攣を繰り返しながら涙目で脚の間を見下ろすと、北条が口を拭いながら体を起こすところだった。
「の……んじゃったの?」
こくりと頷き、北条が顔をしかめる。
「……美味いものじゃないな」
見た事のない情けない表情で呟く姿に、健吾はいたたまれなさと恥ずかしさで「バカ!」と北条に蹴りを入れた。
「泣き止んだか?」
目尻にたまっていた涙を、北条の指が弾き飛ばす。
「いつ誰がアメリカに帰るなんて言った?」
北条が乱暴な仕草でシャツを脱ぎ捨て、殆ど脱げていた健吾のTシャツにも手をかけて頭を抜く。
健吾の服をすべて脱がせてしまうと、北条は確かめるように細い体のラインを手で辿り、そのあとを唇でなぞっていく。
一度達して気怠い体は逆らう術を持たず、ただ、北条の言葉の続きが知りたくて、健吾は黙ってされるがままになっていた。
「おまえは俺が帰国するものと思っていたようだが、生憎俺はそこまで薄情な男じゃない」
健吾の、男にしては柔らかな白い肌を北条の唇と舌が味わうようにして辿り、時々立ち止まっては所有の印を残す。
きゅっときつく吸われるたびに、健吾の体は細かく震えた。
「綺麗だな、健吾。おまえは全部俺のものだ。違うか?」
健吾の頬を大きな手で包みながら、額同士を擦り合わせるようにして北条が問いかける。
違わない。
誰がなんと言おうと、健吾は全て北条のものだ。
攫うようにして健吾のすべてを持って行ったのは、北条だ。
「アメリカに、帰らないの?」
おそるおそる確認するように健吾が呟くと、それを封じるように北条が唇をふさぐ。
何度も舌を絡め合わせ、お互いの体温が溶け合う頃にようやくゆっくりと、重なり合った唇が離れていく。
「いつだったか、おまえと約束しただろう?おいていかないと」
北条と離れることが考えられなくて、毎日ひどく不安に過ごしていた頃にねだった約束だった。
まさか北条が覚えていたとは思わず、健吾は驚きに目を見張る。
「でも……だって、仕事は?」
地位も名誉もある、北条にとっては天職ともいえる重要な仕事があったはずだ。
しかし北条はあっさりと「辞めてきた」と答える。
「手続きにリミットがあったから、一度あっちに戻っただけだ。これからは日本で暮らす」
言ってなかったか?と北条は悪びれもせず、いたずらっ子のような表情で健吾の顔を覗き込む。
聞いてない!と叫びたかったが、口から出たのは違う言葉だ。
「……俺と、一緒に?」
「そうだ。おまえと一緒に。ダメか?」
ダメじゃない、と答えるのが精一杯だった。
「おまえが不自由を背負ってあっちに行くより、俺が日本に残る方が自然だろう?俺はお前が側にいればどこだっていい」
無人島だってかまわない、と北条が笑う。
あまりにも急に、自分の思っていたこととは正反対の方向へ広がる未来図についていけずに、頭の整理が追い付かなかった。
別れることを決意していたのに、二度と会えない事を覚悟していたのに……健吾が悩んでいたことのすべてを、北条に力技で吹き飛ばされてしまった。
健吾が乗り越えられなかった壁を、北条はいとも簡単に飛び越えて当たり前のように健吾のそばにいると言ってくれる。
「俺も、ひとつ聞いていい?」
そういえば、聞いていなかったことがある。
「なんだ?」
なんとなく聞かれる内容を予想しているであろう北条が、いつもの自信に満ちた顔でニヤリと笑う。
「俺のこと、どう思ってるの?」
やっと聞いてくれたか、と北条が声を立てて笑った。
北条が耳もとに唇を寄せて、愛の言葉を囁く。
低く響いたその言葉が胸いっぱいに押し寄せ、健吾はただ、北条の顔を見つめ続けた。
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