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第二話
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「現在旦那様とお嬢様は王国北部の駐屯基地に召集されております。」
まずは現在置かれている状況の確認。報復といってもむやみやたらに暴れまわるわけにはいかない。
「平和な家庭」を取り戻すため、やらなければいけないことは多い。
「できれば軍の上層部と話をつけたいところだけど…」
「この戦時中ですからね。敵兵の襲撃と思われて2度目以降の接触が格段に難しくなってしまうでしょう。」
「だよね… それじゃあまずもとの原因を叩こうかな。」
「原因? ま、まさか戦場に乗り込むおつもりですか!?」
「それくらい予想していたでしょう?」
「奥様の魔法の強さは十分に理解しておりますが訓練と実践は全くの別物です。奥様に万が一のことがあっては…」
「大丈夫よ、私だって十数年も働かず寝ていたわけじゃないの。魔法はもちろん大陸中の地理も歴史も、今なら知識は大陸の賢人たちとも遜色ないわ。ものを覚えることだけは昔から得意なのよ。」
「…無理だけはなさらないでくださいね。」
「そうね。その時はかつての守護騎士様が守ってくれるから大丈夫よ。」
実際私たちの戦場における相性はかなり良い。優秀な前衛と後衛。お互いのことを知り尽くしているから連携も問題ない。懸念点はやはり私の実践経験だが、今から鍛えるわけにもいかない。戦いの中で成長していく今後の自分に期待するしかない。
「具体的な作戦はあるのですか?」
「そうね、直接戦場に出ては目立って動きにくくなってしまうし、やっぱりむこうの上層部との交渉がメインになると思うわ。」
「交渉、ですか…」
「あら、不満? もちろん簡単じゃないことくらいわかっているけど、2人しかいない以上、指揮系統との直接の接触以外の方法はたぶん無理よ?」
「そうですね。かなり危険ではありますが…」
「これからやることで危険じゃないことなんてないわ。腹をくくりましょう。」
「…旦那様の元に戻られる日まで、私が命をかけてお守りいたします。」
「…死なれたら困るわ。」
ーーー数日後。
私とヘルメスは騎乗して、北部の敵国へと向かっていた。
馬車に乗るわけにもいかないので、顔を隠して途中の村で休憩をとりつつ着々と歩を進める。
そしてさらに数日後、敵国の領地への潜入に成功する。
まずは怪しまれない程度に情報収集を始める。
「あんた、外国の人だな。こんな時期に来るなんて、大事な商談でもあったのかい?」
「…いえ、祖母が病気で。大事になる前にお見舞いに行こうかと。」
「そうかい、それは大変だなあ。」
「…ところで、この国は以前と随分と雰囲気が違いますね。私の知っている頃と随分雰囲気が違います。戦時中だからでしょうか?」
知識に嘘を織り交ぜつつ酒場で情報を集める。書籍と伝聞によるものしかないが、それでもこの国は私の想像していたものと大きく異なっていた。
「なんだ、ここにいた時期があったのか。そりゃ驚いただろうな。うちの国はここ数年で随分と変わっちまった。」
「なにか、特別な原因が?」
「もちろん戦争の影響もある。だがそれだけじゃない。というよりこの国が変わり始めたのは戦争が始まる前だからな。」
「…詳しく教えていただいても?」
「なんだ、随分と積極的だな。」
「…無用のトラブルは、避けたいものですから。」
「随分用心深いんだな。それならこんな場所で一人飲みはお勧めしないがね。」
「…すみません。ふと、気になったもので。」
「冗談だよ。この辺りに危ない店はないから安心してくれていい。」
敵国での情報収集というものを甘くみていたかもしれない。優しいマスターで助かったが、こんな調子では無用なトラブルを避けたいと言いながら自分で原因を作りかねない。
「で詳しく知りたいんだってな。いいよ、教えてやる。といっても有名な話だから隠すようなことでもないんだけどな。」
「…では、お願いします。私の国では聞いたことがありませんでしたので。」
「国内では有名でも、国外への情報は規制されてるからな。知らないのも無理はないさ。」
「情報の規制、ですか?」
「ああ、なんていっても事態の原因は国の上層部だからな。言論弾圧なんてお手の物、ってわけだ。」
また上層部。どこもかしこもそんなのばっかりみたいだ。
しかし、これは私の問題の解決にもつながるかもしれない。
民の不満、上層部の理想。どこかに交渉の糸口がある可能性は十二分にある。
危険を顧みず、私は情報収集の続行を決心する。
まずは現在置かれている状況の確認。報復といってもむやみやたらに暴れまわるわけにはいかない。
「平和な家庭」を取り戻すため、やらなければいけないことは多い。
「できれば軍の上層部と話をつけたいところだけど…」
「この戦時中ですからね。敵兵の襲撃と思われて2度目以降の接触が格段に難しくなってしまうでしょう。」
「だよね… それじゃあまずもとの原因を叩こうかな。」
「原因? ま、まさか戦場に乗り込むおつもりですか!?」
「それくらい予想していたでしょう?」
「奥様の魔法の強さは十分に理解しておりますが訓練と実践は全くの別物です。奥様に万が一のことがあっては…」
「大丈夫よ、私だって十数年も働かず寝ていたわけじゃないの。魔法はもちろん大陸中の地理も歴史も、今なら知識は大陸の賢人たちとも遜色ないわ。ものを覚えることだけは昔から得意なのよ。」
「…無理だけはなさらないでくださいね。」
「そうね。その時はかつての守護騎士様が守ってくれるから大丈夫よ。」
実際私たちの戦場における相性はかなり良い。優秀な前衛と後衛。お互いのことを知り尽くしているから連携も問題ない。懸念点はやはり私の実践経験だが、今から鍛えるわけにもいかない。戦いの中で成長していく今後の自分に期待するしかない。
「具体的な作戦はあるのですか?」
「そうね、直接戦場に出ては目立って動きにくくなってしまうし、やっぱりむこうの上層部との交渉がメインになると思うわ。」
「交渉、ですか…」
「あら、不満? もちろん簡単じゃないことくらいわかっているけど、2人しかいない以上、指揮系統との直接の接触以外の方法はたぶん無理よ?」
「そうですね。かなり危険ではありますが…」
「これからやることで危険じゃないことなんてないわ。腹をくくりましょう。」
「…旦那様の元に戻られる日まで、私が命をかけてお守りいたします。」
「…死なれたら困るわ。」
ーーー数日後。
私とヘルメスは騎乗して、北部の敵国へと向かっていた。
馬車に乗るわけにもいかないので、顔を隠して途中の村で休憩をとりつつ着々と歩を進める。
そしてさらに数日後、敵国の領地への潜入に成功する。
まずは怪しまれない程度に情報収集を始める。
「あんた、外国の人だな。こんな時期に来るなんて、大事な商談でもあったのかい?」
「…いえ、祖母が病気で。大事になる前にお見舞いに行こうかと。」
「そうかい、それは大変だなあ。」
「…ところで、この国は以前と随分と雰囲気が違いますね。私の知っている頃と随分雰囲気が違います。戦時中だからでしょうか?」
知識に嘘を織り交ぜつつ酒場で情報を集める。書籍と伝聞によるものしかないが、それでもこの国は私の想像していたものと大きく異なっていた。
「なんだ、ここにいた時期があったのか。そりゃ驚いただろうな。うちの国はここ数年で随分と変わっちまった。」
「なにか、特別な原因が?」
「もちろん戦争の影響もある。だがそれだけじゃない。というよりこの国が変わり始めたのは戦争が始まる前だからな。」
「…詳しく教えていただいても?」
「なんだ、随分と積極的だな。」
「…無用のトラブルは、避けたいものですから。」
「随分用心深いんだな。それならこんな場所で一人飲みはお勧めしないがね。」
「…すみません。ふと、気になったもので。」
「冗談だよ。この辺りに危ない店はないから安心してくれていい。」
敵国での情報収集というものを甘くみていたかもしれない。優しいマスターで助かったが、こんな調子では無用なトラブルを避けたいと言いながら自分で原因を作りかねない。
「で詳しく知りたいんだってな。いいよ、教えてやる。といっても有名な話だから隠すようなことでもないんだけどな。」
「…では、お願いします。私の国では聞いたことがありませんでしたので。」
「国内では有名でも、国外への情報は規制されてるからな。知らないのも無理はないさ。」
「情報の規制、ですか?」
「ああ、なんていっても事態の原因は国の上層部だからな。言論弾圧なんてお手の物、ってわけだ。」
また上層部。どこもかしこもそんなのばっかりみたいだ。
しかし、これは私の問題の解決にもつながるかもしれない。
民の不満、上層部の理想。どこかに交渉の糸口がある可能性は十二分にある。
危険を顧みず、私は情報収集の続行を決心する。
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