黒羽の約束

猫目オテテ

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第8章 距離、ひとさじ

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放課後・宗一の家・リビング

 宿題を広げた律が、ペンを回しながらアルマの方をちらちら見ている。

「なあ、アルマ。ちょっとこれ見てくんね? 物理の課題なんだけどさ」

 アルマはソファで本を読んでいたが、ゆっくりと顔を上げた。

「いいが……どこが分からない?」

「うん、てか、ほとんど全部っていうか。公式すら怪しい」

 小さくため息をつき、アルマは椅子を引いた。
 律の隣に座り、教科書をめくる。

「この問題はエネルギー保存の法則が基礎だ。式はこう。理解するにはまず、力の方向を……」

 黒髪をかき上げながら、落ち着いた声で淡々と解説を始めるアルマ。
 律は徐々に目を丸くしていった。

「……おお、なんか、すげぇ分かりやすい。てか、予備校講師レベルじゃね?」

「予備校……?」

「ううん、なんでもない。アルマ、頭いいんだな」

 嬉しそうに笑う律の顔に、アルマはほんのわずかに口元を緩めた。



夜・食後の団欒

 宗一が片付けをしている間、律とアルマはソファに並んでいた。

「なあアルマ。うちの兄貴のこと、どう思う?」

 唐突に放たれた言葉に、アルマの手が止まる。

「……どう、とは」

「いや、だってさ、兄貴、あんたが倒れてた時すげぇ必死だったんだぜ?」

 ニヤリと笑う律。

「俺、初めて見たよ。あんな顔。……カラスを拾ったときから、なんか特別っぽかったしさ」

 アルマは少しだけ目を伏せた。

「……お前の兄は、変わっている」

「まぁな。あんま自分のこと話さねーし、何考えてんのか分かんねーし。けど、情には厚い」

 律は肘でつつくようにアルマの肩を軽く突いた。

「アルマは? ……兄貴のこと、どう思ってんのさ」

 その問いに、アルマは少し黙ったあと、小さく呟く。

「……温かいと思った。初めて、そう思えた」

「へぇ……」

 律の視線は、どこか大人びたものになっていた。

「そっか。だったら、離れんなよ。……兄貴、案外、寂しがりだからさ」
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