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第10章 まだ名もない想い
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朝・宗一の家・キッチン
宗一が珈琲を淹れる湯の音が、静かな朝の空気に広がっていた。
アルマはテーブルの椅子に座りながら、それを無言で見つめている。
宗一が湯気立つカップを差し出すと、アルマは少し驚いたように瞬いた。
「お前、珈琲飲めたっけ?」
「分からない。だが……匂いは悪くない」
そっと口をつけるアルマ。苦味に眉をしかめるが、どこか不思議そうに味わっていた。
宗一は笑いながら、隣に腰を下ろす。
「ここ、気に入ってきた?」
「……少しずつ。お前の作る空間は……静かだ。だが、居心地が悪くない」
その言葉に、宗一の手がわずかに止まった。
彼の横顔を見たアルマは、なぜか胸の奥がきゅ、と鳴る。
⸻
昼下がり・病院の裏庭
宗一がしゃがみこみ、子犬の治療を終える。
アルマはその様子を、影のように静かに見つめていた。
「この子、昨日保護されたんだ。怖かったんだろうな、身体中震えてた」
包帯を巻いた小さな体を抱きしめる宗一の手が、ひどく優しい。
その手を見ていたアルマは、ぽつりと零す。
「お前は……なぜそこまで、他者に優しくできる?」
「さあな。でも……昔、大事な奴を救えなかったからかも」
宗一の声に一瞬だけ影が落ちる。
アルマはその言葉の裏に、何か深い過去があることを感じた。
「――お前は、誰かを失ったのか」
宗一はふっと笑って、顔を上げる。
「それは……いつか話すかもな。お前がもう少し、うちの人間になったら」
“うちの人間”――その言葉に、アルマの心がかすかに揺れる。
⸻
夕暮れ・リビング
律が外出しており、家には二人きり。
夕食のあと、宗一がキッチンで皿を洗っている。
アルマは珍しく、自らすすんで布巾を手に取った。
「……俺がやる」
「へぇ、手伝ってくれるなんて意外」
「世話になっている。……借りは作りたくない」
「ふふ、そっか。でも借りとか、いちいち数えてないから」
軽く笑う宗一に、アルマは視線を落としたまま言う。
「お前は、そういうところが……ずるい」
「ん? 今なんて――」
ふと手が触れ合った。
皿を受け取るその一瞬、互いの指先が重なる。
それだけで、言葉が消えた。
静寂。
目が合う。
ただの触れ合い――のはずなのに、まるで時間が止まったようだった。
先に目を逸らしたのは、アルマだった。
「……濡れてる。拭け」
「……あ、うん。ありがとう」
宗一もまた、微かに顔を伏せた。
その頬には、ほとんど見えないほどの赤みが差していた。
⸻
夜・アルマの寝室
ベッドの中、アルマは天井を見つめながら静かに目を閉じた。
――この胸のざわめきは、なんなのだろう。
戦いでも、血でもない。
もっと、柔らかいもの。
それに名前をつけるには、まだ早すぎるのだと、どこかで分かっていた。
宗一が珈琲を淹れる湯の音が、静かな朝の空気に広がっていた。
アルマはテーブルの椅子に座りながら、それを無言で見つめている。
宗一が湯気立つカップを差し出すと、アルマは少し驚いたように瞬いた。
「お前、珈琲飲めたっけ?」
「分からない。だが……匂いは悪くない」
そっと口をつけるアルマ。苦味に眉をしかめるが、どこか不思議そうに味わっていた。
宗一は笑いながら、隣に腰を下ろす。
「ここ、気に入ってきた?」
「……少しずつ。お前の作る空間は……静かだ。だが、居心地が悪くない」
その言葉に、宗一の手がわずかに止まった。
彼の横顔を見たアルマは、なぜか胸の奥がきゅ、と鳴る。
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包帯を巻いた小さな体を抱きしめる宗一の手が、ひどく優しい。
その手を見ていたアルマは、ぽつりと零す。
「お前は……なぜそこまで、他者に優しくできる?」
「さあな。でも……昔、大事な奴を救えなかったからかも」
宗一の声に一瞬だけ影が落ちる。
アルマはその言葉の裏に、何か深い過去があることを感じた。
「――お前は、誰かを失ったのか」
宗一はふっと笑って、顔を上げる。
「それは……いつか話すかもな。お前がもう少し、うちの人間になったら」
“うちの人間”――その言葉に、アルマの心がかすかに揺れる。
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夕暮れ・リビング
律が外出しており、家には二人きり。
夕食のあと、宗一がキッチンで皿を洗っている。
アルマは珍しく、自らすすんで布巾を手に取った。
「……俺がやる」
「へぇ、手伝ってくれるなんて意外」
「世話になっている。……借りは作りたくない」
「ふふ、そっか。でも借りとか、いちいち数えてないから」
軽く笑う宗一に、アルマは視線を落としたまま言う。
「お前は、そういうところが……ずるい」
「ん? 今なんて――」
ふと手が触れ合った。
皿を受け取るその一瞬、互いの指先が重なる。
それだけで、言葉が消えた。
静寂。
目が合う。
ただの触れ合い――のはずなのに、まるで時間が止まったようだった。
先に目を逸らしたのは、アルマだった。
「……濡れてる。拭け」
「……あ、うん。ありがとう」
宗一もまた、微かに顔を伏せた。
その頬には、ほとんど見えないほどの赤みが差していた。
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夜・アルマの寝室
ベッドの中、アルマは天井を見つめながら静かに目を閉じた。
――この胸のざわめきは、なんなのだろう。
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それに名前をつけるには、まだ早すぎるのだと、どこかで分かっていた。
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