黒羽の約束

猫目オテテ

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第27章 灰の結晶に触れるとき

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魔界・地下集会所

 誰からともなく、集会所の奥で蝋燭の火が揺れた。
 重たい石の壁に囲まれた空間。灰色の天井は低く、長女エリスによって監視の目が張り巡らされていた。

 「結界は刻一刻と強まっている。アルマを閉じ込めるために、魔力の供給を増やしているようだ」

 ジークが手元の魔導盤を睨みながら言う。

 「つまり、封印の維持には今が一番負担がかかっている。裏を返せば、“崩しどき”でもある」

 ノアが頷く。「その通り。だが正面突破は自殺行為だ。時間稼ぎと突破部隊、二手に分かれる」

 兄弟たちはそれぞれ、視線を交わしながら無言で頷き合う。
 どの顔にも覚悟の色があった。もう迷っている者はいない。



作戦前・宗一の独白

 石造りの廊下。薄明かりの魔灯が揺れる。
 宗一はその陰に立ち尽くし、ポケットから黒い羽を取り出していた。

 ――これが、あいつの一部だったんだな。

 思い返すのは、カラスだった頃のアルマ。
 無言で傷を癒されるままに耐えていた日々。
 その瞳の奥に確かにあった、どこか満たされない寂しさ。

 「お前……最初から、全部抱え込んでたんだな」

 手の中の羽が、ふと温かさを持った気がした。

 「勝手にいなくなるなよ。今度は――ちゃんと、お前の全部を受け止めるから」



魔界・封印の間への接近

 薄暗い洞窟の奥。冷たい空気が頬を刺す。
 兄弟たちは密かに移動を開始した。

 先導するノアが結界の網目を読み、弱い箇所を見つけるたびに印を刻む。
 宗一は最後尾で慎重に歩きながら、緊張の中にも不思議な確信を抱いていた。

 ――あいつは、そこにいる。

 心が、何かを感じ取っていた。理屈ではなく、ただ強く、揺るぎなく。

 やがて、重く閉ざされた“封印の扉”が姿を現す。
 黒曜石でできたその扉の前に、十字に重ねられた鎖。
 中央には結晶――氷のように透明でありながら、内側から淡く輝いている。

 「……アルマ」

 宗一がその名前を口にした瞬間、結晶の奥、閉ざされた空間で眠るアルマのまぶたが、かすかに揺れた。



封印内・アルマの意識

 光も音もない世界の中。
 唯一、確かに感じるものがある。

 ――声。

 遠くから、名を呼ぶ声。

 宗一の、低くてあたたかい声が、結晶の膜越しに染み込んでくる。

 (……ああ……また……)

 眠りの中、アルマはうっすらと涙をこぼした。
 封印に縛られ、肉体が動かなくても、想いだけはそこにある。

 (会いたい……まだ、伝えてないことがある)



決行

 「ノア、今だ!」

 ジークが大剣を振りかぶり、魔法陣に打ち下ろすと、結界が火花を散らして崩れた。
 同時にノアが血の魔法陣を発動。宗一の掌に魔力を通すと、封印に繋がる“魂の鍵”が反応した。

 宗一が結晶に手を伸ばす――その瞬間、地響きが鳴った。

 「エリスの守護獣……来るぞ!」

 兄弟たちが一斉に武器を構える中、宗一は叫んだ。

 「――もうすぐ、迎えに行くからな。待ってろ、アルマ!」

 彼の掌が結晶に触れた瞬間、氷のような牢獄に小さな亀裂が入った。
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