ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

YY

文字の大きさ
11 / 156
第1章:炎上プロジェクトと問題児(エリート)たち

第11話:完璧なガントチャートと絶望的な現実

しおりを挟む
翌朝。宿屋の食堂に集まったパーティメンバーの前に、ケンジは目の下に達成感の隈を浮かべ、意気揚々と姿を現した。その腕には、ずっしりと重い羊皮紙の巻物が抱えられている。

「皆さん、おはようございます。これより、本日実行する『ゴブリン討伐プロジェクト』に関する朝のブリーフィングを開始します」

まるで役員会議のプレゼンターのように、ケンジは朗々とした声で宣言した。そして、一晩かけて作り上げた彼の最高傑作、「プロジェクト計画書」をテーブルの上に広げる。

「な、なによ、これ…」

最初に驚きの声を上げたのはルリエルだった。無理もない。広げられた羊皮紙には、蜘蛛の巣のように緻密な線と米粒のような小さな文字が、余白なくびっしりと書き込まれていたのだから。

ケンジは、彼女の反応を称賛だと解釈する。

「ふふふ。驚かれましたか。これは、今回のプロジェクトの全工程を時間軸に沿って可視化した、ガントチャートです」

彼は自信満々に、その複雑怪奇な図表を指し示した。

「ご覧ください。我々の行動はすべて15分単位で管理されます。09:15に森林へ浸透、11:00には敵の本拠地を発見。1時間の昼食休憩と最終確認の後、13:00に強襲を開始し、15:00には作戦を完了させる予定です。完璧なスケジュールでしょう?」

その言葉に、ルリエルは思考を完全に停止させたようだった。ガントチャート…クリティカルパス…マイルストーン…。彼女の美しい瞳は、ケンジが発する魔術の詠唱めいた言葉の羅列に、ぐるぐると渦を巻き始める。

ケンジは次に、壁際で腕を組むゴードンへ向き直る。

「ゴードンさん。あなたには最重要ミッションである『前線維持(タンク役)』をアサインします。このRACIチャートによれば、あなたは戦闘における実行責任者(R)であり、私がその承認責任者(A)となります。よろしいですね?」

「…………」

ゴードンは何も言わない。ただ、その石のような瞳で、羊皮紙の複雑なマス目とケンジの顔を交互に見比べる。そして数秒の沈黙の後、重々しく、一度だけ頷いた。

(よし! 伝わっている!)

ケンジは内心でガッツポーズをした。この寡黙なドワーフは、言葉は少なくとも、論理的な思考は理解できる信頼に足る男だと。

その時のケンジは、もちろん知る由もなかった。ゴードンが、目の前の男がとても真剣な顔で話しているから、とりあえず相槌を打っておくのが礼儀だろうと考えていただけだということを。

そして最後に、ケンジはシーナへ視線を移した。彼女だけが、退屈そうにも、感心したようにも見えず、ただ冷めた目で、じっとプレゼンを聞いていた。

「…というわけで。この計画書通りに進めれば、リスクは最小限に抑えられ、我々のプロジェクトは99.8%の確率で成功します。何か、質問はありますか?」

ケンジはプレゼンの締めくくりとして、自信満々に問いかけた。

すると、それまで沈黙を保っていたシーナが、すっと手を挙げる。

「…はい、ボス。一つだけ、聞きたいんだけどさ」

彼女の声は、妙に落ち着いていた。

「その、あんたが、一晩寝ないで作ったらしい、完璧で、緻密で、素晴らしい計画書については、よーく分かったよ」

彼女は一度言葉を切ると、子供に言い聞かせるように、ゆっくりと、そして残酷なほど的確な質問を投げかけた。

「で。その、あんたが作った完璧なスケジュール通りに、ゴブリンどもが、きっかり動いてくれるっていう“保証”は、一体、どこにあるんだい?」

その一言は、鋭い刃のように、ケンジの自信に満ちた心を深く、正確に抉った。

保証。

そんなもの、あるわけがない。

「そ、それは…! もちろん、不確定要素です! ですから、そのためのリスク対策も、この通り…」

慌ててリスク一覧表を指さすケンジ。だが、シーナは鼻で笑った。

「対策? 『速やかな撤退と計画の見直し』? そりゃ、ただの“逃げる”ってことだろうが。あんたの計画は、全部、敵が、あんたの都合のいいように動いてくれるっていう、甘っちょろい前提の上に成り立ってるんだよ。そんなものは、ただの紙切れさ」

痛烈で、反論のしようもない正論だった。

ケンジの顔から血の気が引いていく。ルリエルは、いつの間にか意識を取り戻し、「確かに、そうよね…」とシーナの意見に同調し始めている。ゴードンは相変わらず無言で頷いている(おそらく、話の内容は理解していない)。

ケンジが徹夜で作り上げた、完璧なはずのプロジェクト計画書。それは、実行される前に、たった一つの、シンプルな質問によって、その前提を完全に覆されてしまった。

食堂が、再び気まずい沈黙に包まれる。チームの全員が、プロジェクトマネージャーの次の一手を待っていた。

(…まずい)

ケンジの背中に、じわりと冷たい汗が流れた。プロジェクトの前提条件に対する根本的な疑義。これを論理的に覆すのは不可能だ。ここで曖昧な返答をすれば、リーダーとしての正当性が失われ、求心力は完全に失墜するだろう。

彼は、前世で幾度となく、この種の「正論」という名の抵抗勢力と戦ってきた。ここで、折れるわけにはいかない。

ケンジは、一度ゆっくりと目を閉じ、そして、開いた。彼の目に宿っていたのは、もはや狼狽の色ではない。自らの信念を貫き通そうとする、管理者の揺るぎない覚悟の色だった。

「シーナさん。あなたの指摘は、正しい」

ケンジはまず、静かに、そしてはっきりと、彼女の正しさを認めた。その意外な言葉に、シーナは少し驚いたような顔をする。

「ゴブリンがこの計画通りに動く保証は、どこにもありません。それは、このプロジェクトが抱える最大のリスクです」

彼はそこで言葉を切ると、より強い口調で続けた。

「しかし! だからといって、計画そのものが無意味だということには、断じてなりません!」

ケンジの声が食堂に響き渡る。

「計画とは、不確定な未来に対する、我々が持ちうる唯一の武器です。予測不能な敵を相手にするからこそ、我々は予測可能な自分たちの動きを完璧に定義し、制御する必要がある」

彼はテーブルの上のガントチャートを指さした。

「たとえ計画通りに進まなくとも、基準となるプロセス(手順)があることで、我々は混乱せず、即座に次善の策を打つことができる。私が徹夜で作り上げたのは、ただのスケジュール表ではない。あらゆる不測の事態に対応するための、チームの“共通言語”なのです!」

それは、彼のプロジェクトマネージャーとしての揺るぎない哲学だった。

彼の気迫に、ルリエルとシーナは思わず押し黙る。ケンジは、その隙を逃さなかった。彼はあらかじめ用意していた、各メンバー用の役割と行動計画が記された羊皮紙の写しを、一人ひとりに手渡していく。

「ゴードンさん、これがあなたの担当タスクと、行動タイムラインです」
「ルリエルさん、こちらを。特に、あなたの魔力の“コスト管理”については、厳守をお願いします」
「シーナさん、あなたの分です。索敵ルートと、報告のタイミングを、頭に入れておいてください」

それは、もはや提案や相談ではなかった。リーダーから、チームメンバーへの、明確な「指示」だった。

「出発までに、各自、自分の役割を完全にインプットしておくこと。いいね、これは決定事項です。異論は認めません」

シーナは「ちっ」と小さな舌打ちをすると、ひったくるように羊皮紙を受け取った。ルリエルは大げさにため息をつきながらも、しぶしぶ、それに目を通し始める。ゴードンは相変わらずの無表情で、羊皮紙を受け取ると、そこに書かれた理解不能な図表を、ただじっと見つめていた。

誰も、賛成はしていない。だが、誰も反対もしなかった。ケンジの、常軌を逸したとも言えるその気迫が、一時的に彼らの反発を封じ込めていた。

そして、数時間後。

王都の城門を、四人のパーティがくぐり抜けていく。先頭を歩くのは、数枚の羊皮紙を聖書のように大事に抱えたケンジ。その数歩後ろを、三人の仲間たちが、それぞれ全く別の方向を見ながら、気まずそうについていく。

彼らの間に会話はない。そこにあるのは、不穏で、どこか滑稽で、いつ破裂するとも分からない時限爆弾のような、緊張感だけだった。

ケンジの完璧なはずのプロジェクトは、その成功を誰一人信じていないチームメンバーと共に、破綻の足音を響かせながら、ゴブリンが住む「ウィスパーウッド」へと、その第一歩を踏み出したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。 貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。 だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。 なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。 その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

処理中です...