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第4章:過去の呪縛、絆の証明
第98話:次のマイルストーン
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ミレット村での一件を終え、王都へと帰還してから一ヶ月が過ぎていた。
季節は移ろい、街は冬の訪れを告げる冷たい空気に包まれている。
ケンジたちが拠点とする安宿の一室。そこはもはや、ただの宿屋ではなかった。
壁という壁には、ケンジが描き殴ったおびただしい数の羊皮紙が張り巡らされ、床にはルリエルが王立魔術院から持ち帰った古代文献の束が山のように積まれている。それは、世界の根源的な謎に挑む研究者たちの秘密のラボだった。
あの日、ケンジが解読した【創世の仕様書】の衝撃的な内容。
『魔王=世界の自動メンテナンス機能』
そのあまりにも常識からかけ離れた真実は、仲間たちの価値観を根底から揺さぶった。
彼らは今、自分たちが対峙している敵が、単純な「悪」ではないことを理解していた。それは、善意で作られ、そして何らかの原因で暴走してしまった、哀れな「システム」そのものなのだと。
ならば、なぜそのシステムは暴走したのか?
その巨大で根源的な謎を解き明かすための、ケンジの孤独な戦いは、あの日からずっと続いていた。
彼はこの一ヶ月間、寝る間も惜しんで【創世の仕様書】のさらなる解読にすべてを捧げてきた。
それはもはや、ただの解読作業ではない。神が遺した不親切でバグだらけの設計図を読み解き、その脆弱性を見つけ出す、ハッキングにも等しい行為だった。
仲間たちも彼を支え続けていた。
シーナは裏社会の情報網を駆使し、古代遺跡に関するあらゆる噂を集める。ゴードンはそのドワーフとしての知識で、古代文明の建築様式や動力源に関する考察を提供する。ルリエルは天才的な魔法理論で、仕様書に記された古代魔法の断片を一つ一つ解き明かしていく。そして、ガイは王家の書庫に眠る禁断の歴史書を紐解き、過去に魔王が出現した時期と場所のデータを洗い出す。
彼らの持つすべての知識と経験が、ケンジという一つの頭脳へと集約されていく。
そして。
長い、長い分析の末に。
ケンジはついに、その膨大な情報の海の中から、二つの極めて重要な「キーワード」を拾い出すことに成功したのだ。
その日、ケンジは仲間たちを司令室へと招集した。
彼の目の下には深い隈が刻まれていたが、その瞳には確かなブレークスルーを果たした者だけが持つ、力強い光が宿っていた。
彼は壁に張り巡らされた巨大な相関図の中心を指し示した。
「皆さん。ついに見つけました」
ケンジの声は静かだったが、その響きにはこれまでにないほどの興奮が込められている。
「魔王プロセスの暴走。その根本原因に繋がるであろう、二つの重要なシステムコンポーネントの存在を」
彼は羊皮紙の上に、二つの単語を書き記した。
それはこの世界の誰も聞いたことのない、古代の言葉だった。
【マナ・レギュレーター】
【地熱コア】
「…なんですの、それは…?」
ルリエルが興味深そうに問う。
ケンジは頷いた。
「まだ、仮説の段階ですが」
彼は自らの分析結果を説明し始めた。
「仕様書の記述を読み解く限り、『マナ・レギュレーター』とは、その名の通り、この世界の魔力(マナ)の総量を調整(レギュレート)するための巨大な施設のようです。世界の魔力が過剰になれば、それを吸収、貯蔵し、逆に枯渇すれば、それを放出する。おそらくは、魔王プロセスが暴走する引き金となった『生命エネルギーの過剰供給』を、本来は抑制するための安全装置だったのでしょう」
「…そして、もう一つの『地熱コア』」
ケンジの声がわずかに低くなる。
「これはさらに重要です。おそらくは、この世界そのものの動力源。前世の言葉で言うならば、この世界という巨大なサーバーを動かすためのメインの発電所です。もし、このコアに何らかの異常が発生すれば、世界中のあらゆるシステムに致命的なエラーが発生してもおかしくはない」
マナの調整弁と、世界の心臓部。
その壮大な仮説に、仲間たちはただ息をのんで、その言葉に耳を傾けていた。
ケンジは確信を込めて宣言した。
「魔王プロセスの暴走は、単独で起きたエラーではありません。おそらくは、この二つの重要施設が何らかの原因で機能不全に陥ったことによる、複合的なシステム障害(マルチプル・エラー)なのです」
その言葉は、暗闇の中にいた彼らにとって、初めて示された具体的な道筋だった。
敵の正体はまだ分からない。だが、その正体へとたどり着くための「手がかり」は、確かに掴んだのだ。彼らの新たな戦いが今、始まろうとしていた。
ケンジがその壮大な仮説を提示した後、司令室と化した安宿の一室は、熱を帯びた興奮と、未知への探究心に満ちていた。
魔王プロセスの暴走。その巨大で根源的な謎。
その核心へと繋がるであろう二つの具体的な「手がかり」。
それは、暗闇の中にいた彼らにとって、何よりも力強い希望の光だった。
ケンジは、仲間たちの高揚した雰囲気を見回すと、静かに、しかし力強く宣言した。
彼はテーブルの上の巨大なロードマップ――彼らがこれまで歩んできたすべての戦いの記録が記された羊皮紙を指し示す。
「これより、我々のプロジェクトは、新たな段階へと移行します」
ケンジのその言葉に、仲間たちの視線が再び真剣なものへと変わる。
「我々の最終目標は、魔王プロセスの完全な正常化です。ですが、そのゴールはあまりにも遠い。故に、我々はその道のりの途中に、いくつかの中間目標を設定する必要があります」
彼は仲間たちに分かりやすいように言葉を選んだ。
「それを僕は、『マイルストーン』と呼びます。一つ一つのマイルストーンを着実にクリアしていくこと。それこそが、この不可能とも思えるプロジェクトを成功させるための、唯一の道筋です」
そして、彼はロードマップの一番下に、新たな項目を書き加えた。
【次のマイルストーン:重要施設『マナ・レギュレーター』および、『地熱コア』の調査・正常化】
その壮大な中間目標に、仲間たちはゴクリと喉を鳴らした。
「ですが」
ケンジは続ける。
「この二つの施設を同時に調査するのは、非効率的です。我々はまず、どちらか一方にリソースを集中させるべきだ」
その問いに答えたのはルリエルだった。
彼女は、その翡翠の瞳を興奮に輝かせながら、叫ぶように言った。
「…『マナ・レギュレーター』ですわ!それしかありません!」
彼女は自らが持ち帰った古代文献の一つのページを広げる。
そこには、神話の時代に存在したとされる伝説の都市の記述があった。
「この文献によれば…。遥か古代、神々は、世界の魔力の流れを安定させるため、大陸の中心に巨大な調整施設を建設したとあります。そして、その施設の周りに、我々魔術師の祖先が集い、作り上げたのが…」
彼女は地図上の一点を指し示した。
王都から遥か北東に位置する一つの巨大な都市。
「―――魔法都市、アイドス!」
その名を聞いて、シーナもガイも顔色を変えた。
アイドス。
この大陸で最も古い歴史を持つ都市国家。
すべての魔法の始まりの地であり、今もなお、世界中の魔術師たちが集う、学問と神秘の都。
「間違いありませんわ」
ルリエルは確信を込めて言う。
「もし、『マナ・レギュレーター』が実在するのだとしたら。その場所は、アイドス以外にあり得ません!」
ルリエルの専門家としての見解。そして、仕様書からケンジが読み解いた断片的な位置情報。
それらが完全に一致した。
ケンジは力強く頷いた。
「…分かりました。我々の次の目的地は、魔法都市、アイドスです」
彼らの次なる目標が定まった瞬間だった。
安宿の一室は再び、新たなプロジェクトの始動を前にした熱気に包まれていく。
彼らはすぐに旅の準備を開始した。
それはこれまでのどの旅とも違う、希望に満ちた船出だった。
彼らはもはや、ただ目の前の問題に対処するだけの存在ではない。
自らの意志で、世界の謎の核心へと迫ろうとしているのだ。
数日後。
万全の準備を整えた一行は、王都の北門からその旅路へと出発した。
ガイとその仲間たちは、王都に残り、後方支援とワイバーンのヒナたちの監視を引き受けてくれた。
ケンジたちは四人で新たな冒険へと向かう。
それは、彼らが初めて一つのチームとして結成された、あの頃を思い出させた。
彼らの足取りは軽い。
その心は希望に満ちている。
アイドスへ。
そして、世界の真実へ。
彼らの本当の物語が、今、ここから、始まろうとしていた。
季節は移ろい、街は冬の訪れを告げる冷たい空気に包まれている。
ケンジたちが拠点とする安宿の一室。そこはもはや、ただの宿屋ではなかった。
壁という壁には、ケンジが描き殴ったおびただしい数の羊皮紙が張り巡らされ、床にはルリエルが王立魔術院から持ち帰った古代文献の束が山のように積まれている。それは、世界の根源的な謎に挑む研究者たちの秘密のラボだった。
あの日、ケンジが解読した【創世の仕様書】の衝撃的な内容。
『魔王=世界の自動メンテナンス機能』
そのあまりにも常識からかけ離れた真実は、仲間たちの価値観を根底から揺さぶった。
彼らは今、自分たちが対峙している敵が、単純な「悪」ではないことを理解していた。それは、善意で作られ、そして何らかの原因で暴走してしまった、哀れな「システム」そのものなのだと。
ならば、なぜそのシステムは暴走したのか?
その巨大で根源的な謎を解き明かすための、ケンジの孤独な戦いは、あの日からずっと続いていた。
彼はこの一ヶ月間、寝る間も惜しんで【創世の仕様書】のさらなる解読にすべてを捧げてきた。
それはもはや、ただの解読作業ではない。神が遺した不親切でバグだらけの設計図を読み解き、その脆弱性を見つけ出す、ハッキングにも等しい行為だった。
仲間たちも彼を支え続けていた。
シーナは裏社会の情報網を駆使し、古代遺跡に関するあらゆる噂を集める。ゴードンはそのドワーフとしての知識で、古代文明の建築様式や動力源に関する考察を提供する。ルリエルは天才的な魔法理論で、仕様書に記された古代魔法の断片を一つ一つ解き明かしていく。そして、ガイは王家の書庫に眠る禁断の歴史書を紐解き、過去に魔王が出現した時期と場所のデータを洗い出す。
彼らの持つすべての知識と経験が、ケンジという一つの頭脳へと集約されていく。
そして。
長い、長い分析の末に。
ケンジはついに、その膨大な情報の海の中から、二つの極めて重要な「キーワード」を拾い出すことに成功したのだ。
その日、ケンジは仲間たちを司令室へと招集した。
彼の目の下には深い隈が刻まれていたが、その瞳には確かなブレークスルーを果たした者だけが持つ、力強い光が宿っていた。
彼は壁に張り巡らされた巨大な相関図の中心を指し示した。
「皆さん。ついに見つけました」
ケンジの声は静かだったが、その響きにはこれまでにないほどの興奮が込められている。
「魔王プロセスの暴走。その根本原因に繋がるであろう、二つの重要なシステムコンポーネントの存在を」
彼は羊皮紙の上に、二つの単語を書き記した。
それはこの世界の誰も聞いたことのない、古代の言葉だった。
【マナ・レギュレーター】
【地熱コア】
「…なんですの、それは…?」
ルリエルが興味深そうに問う。
ケンジは頷いた。
「まだ、仮説の段階ですが」
彼は自らの分析結果を説明し始めた。
「仕様書の記述を読み解く限り、『マナ・レギュレーター』とは、その名の通り、この世界の魔力(マナ)の総量を調整(レギュレート)するための巨大な施設のようです。世界の魔力が過剰になれば、それを吸収、貯蔵し、逆に枯渇すれば、それを放出する。おそらくは、魔王プロセスが暴走する引き金となった『生命エネルギーの過剰供給』を、本来は抑制するための安全装置だったのでしょう」
「…そして、もう一つの『地熱コア』」
ケンジの声がわずかに低くなる。
「これはさらに重要です。おそらくは、この世界そのものの動力源。前世の言葉で言うならば、この世界という巨大なサーバーを動かすためのメインの発電所です。もし、このコアに何らかの異常が発生すれば、世界中のあらゆるシステムに致命的なエラーが発生してもおかしくはない」
マナの調整弁と、世界の心臓部。
その壮大な仮説に、仲間たちはただ息をのんで、その言葉に耳を傾けていた。
ケンジは確信を込めて宣言した。
「魔王プロセスの暴走は、単独で起きたエラーではありません。おそらくは、この二つの重要施設が何らかの原因で機能不全に陥ったことによる、複合的なシステム障害(マルチプル・エラー)なのです」
その言葉は、暗闇の中にいた彼らにとって、初めて示された具体的な道筋だった。
敵の正体はまだ分からない。だが、その正体へとたどり着くための「手がかり」は、確かに掴んだのだ。彼らの新たな戦いが今、始まろうとしていた。
ケンジがその壮大な仮説を提示した後、司令室と化した安宿の一室は、熱を帯びた興奮と、未知への探究心に満ちていた。
魔王プロセスの暴走。その巨大で根源的な謎。
その核心へと繋がるであろう二つの具体的な「手がかり」。
それは、暗闇の中にいた彼らにとって、何よりも力強い希望の光だった。
ケンジは、仲間たちの高揚した雰囲気を見回すと、静かに、しかし力強く宣言した。
彼はテーブルの上の巨大なロードマップ――彼らがこれまで歩んできたすべての戦いの記録が記された羊皮紙を指し示す。
「これより、我々のプロジェクトは、新たな段階へと移行します」
ケンジのその言葉に、仲間たちの視線が再び真剣なものへと変わる。
「我々の最終目標は、魔王プロセスの完全な正常化です。ですが、そのゴールはあまりにも遠い。故に、我々はその道のりの途中に、いくつかの中間目標を設定する必要があります」
彼は仲間たちに分かりやすいように言葉を選んだ。
「それを僕は、『マイルストーン』と呼びます。一つ一つのマイルストーンを着実にクリアしていくこと。それこそが、この不可能とも思えるプロジェクトを成功させるための、唯一の道筋です」
そして、彼はロードマップの一番下に、新たな項目を書き加えた。
【次のマイルストーン:重要施設『マナ・レギュレーター』および、『地熱コア』の調査・正常化】
その壮大な中間目標に、仲間たちはゴクリと喉を鳴らした。
「ですが」
ケンジは続ける。
「この二つの施設を同時に調査するのは、非効率的です。我々はまず、どちらか一方にリソースを集中させるべきだ」
その問いに答えたのはルリエルだった。
彼女は、その翡翠の瞳を興奮に輝かせながら、叫ぶように言った。
「…『マナ・レギュレーター』ですわ!それしかありません!」
彼女は自らが持ち帰った古代文献の一つのページを広げる。
そこには、神話の時代に存在したとされる伝説の都市の記述があった。
「この文献によれば…。遥か古代、神々は、世界の魔力の流れを安定させるため、大陸の中心に巨大な調整施設を建設したとあります。そして、その施設の周りに、我々魔術師の祖先が集い、作り上げたのが…」
彼女は地図上の一点を指し示した。
王都から遥か北東に位置する一つの巨大な都市。
「―――魔法都市、アイドス!」
その名を聞いて、シーナもガイも顔色を変えた。
アイドス。
この大陸で最も古い歴史を持つ都市国家。
すべての魔法の始まりの地であり、今もなお、世界中の魔術師たちが集う、学問と神秘の都。
「間違いありませんわ」
ルリエルは確信を込めて言う。
「もし、『マナ・レギュレーター』が実在するのだとしたら。その場所は、アイドス以外にあり得ません!」
ルリエルの専門家としての見解。そして、仕様書からケンジが読み解いた断片的な位置情報。
それらが完全に一致した。
ケンジは力強く頷いた。
「…分かりました。我々の次の目的地は、魔法都市、アイドスです」
彼らの次なる目標が定まった瞬間だった。
安宿の一室は再び、新たなプロジェクトの始動を前にした熱気に包まれていく。
彼らはすぐに旅の準備を開始した。
それはこれまでのどの旅とも違う、希望に満ちた船出だった。
彼らはもはや、ただ目の前の問題に対処するだけの存在ではない。
自らの意志で、世界の謎の核心へと迫ろうとしているのだ。
数日後。
万全の準備を整えた一行は、王都の北門からその旅路へと出発した。
ガイとその仲間たちは、王都に残り、後方支援とワイバーンのヒナたちの監視を引き受けてくれた。
ケンジたちは四人で新たな冒険へと向かう。
それは、彼らが初めて一つのチームとして結成された、あの頃を思い出させた。
彼らの足取りは軽い。
その心は希望に満ちている。
アイドスへ。
そして、世界の真実へ。
彼らの本当の物語が、今、ここから、始まろうとしていた。
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