ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

YY

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第4章:過去の呪縛、絆の証明

第103話:あなたの魔法は“リスクファクター”です

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「…無能、ですって…?」

ルリエルの震える声に、その翡翠の瞳は屈辱と抑えきれない怒りの炎で燃え盛っていた。
「あなたに何が分かりますの!? 私のこの力は、野蛮だとあなたが言ったこの力は、仲間を、そして村を救った力ですわ! あなたのようにこの安全な箱庭の中で書類だけを眺めているあなたに、何が…!」

その感情的な反論を、シルヴィアは冷たい視線で受け止めていた。まるで子供の癇癪でもなだめるかのように。彼女は静かに、そしてゆっくりと口を開く。

「…どうやら、あなたはまだ何も理解していないようですわね、ルリエル」

シルヴィアは立ち上がり、純白のローブの胸元に付けられた徽章を指し示した。それは、この都市の秩序を象徴する天秤と歯車をかたどった緻密なデザインだった。光を浴びて、その銀色の輝きは冷たいほどに完璧に見えた。

「私はこの都市のインフラを管理する、『魔力基盤管理局』の主席技術官僚です」

「技術官僚」。その聞き慣れない、しかしあまりにも重い響きを持つ肩書きに、ルリエルの叫びが止まる。彼女の怒りは一瞬で凍りついた。

「私の仕事は、書類仕事だけではありませんわ」

「この天空都市アイドスに住まう十万の民の命を預かること…それが、私の職務です」

彼女の声に個人的な感情は一切ない。ただ、自らが背負う巨大な責任を語る、プロフェッショナルとしての揺るぎない誇りだけがそこにあった。その言葉は、まるで都市の心臓を動かす歯車の音のように、正確で、無機質で、そして止めようのない力を感じさせた。

「この街の浮遊盤がなぜ落ちないのか、考えたことは?」
「そして、この街の光がなぜ絶えないのか、疑問に思ったことは?」

シルヴィアはそこで言葉を切り、一瞬、遠い目で虚空を見つめた。その瞳の奥に、終わりなき監視と制御の重圧が見え隠れする。

「そのすべては、私たちが24時間365日、心臓部であるマナ・コンジットの魔力の流れをコンマ以下の単位で制御しているからです」

「この重圧を背負えば、情熱だけで動くことがどれほど危険か、嫌でも分かりますの」

彼女の言葉には、冷たさの中に微かな疲労が滲んでいる。それは、この完璧なシステムを守るための個人的な犠牲をほのめかすようだった。そして、その紫水晶の瞳でルリエルを射抜いた。その視線はもはやかつてのライバルへ向けるものではない。自らが管理するシステムに紛れ込んできた危険な「異物」へ向ける技術者の視線だった。

「…あなたの魔法を報告書で確認させていただきましたわ、ルリエル」
シルヴィアの声は冷徹なまま、しかしわずかに嘲笑が混じった。
「その魔力量は確かに規格外。素晴らしい。ですが、その出力は不安定で、感情的…一言で言うならば、大雑把ですわね」

「大雑把」。ルリエルの人生をかけた努力と才能をたった一言で切り捨てるその言葉が、彼女の心臓を氷の刃のように抉った。

シルヴィアは続ける。その言葉はもはや断罪そのもの。

「あなたのその情熱的な魔法は、この都市の繊細なシステムにとっては予測不能なノイズであり、断じて許容できないリスクファクターです」

リスクファクター。ケンジが好んで使う無機質な言葉が、シルヴィアの口から紡ぎ出された瞬間、ケンジは悟った。目の前のこの女性は、自分と同じ種類の人間なのだと。ただ、守るべき対象が違うだけの。

「ケンジ殿もすでに分析済みでしょうが」
シルヴィアはケンジに一瞥をくれる。

「この都市のシステムは、完璧なバランスの上に成り立つ、脆い芸術品です」

「そこに、あなたのような規格外の魔術師が一人でも紛れ込めば――どうなるか、想像できますか?」

彼女はルリエルに最後の宣告を告げた。それは個人的な感情論ではない。この都市の機能を背負うプロの技術者としての、的確で残酷な事実だった。

「感情のままに魔法を放てば――」

シルヴィアはゆっくりとルリエルを見つめた。

「この街は、崩壊します」

ルリエルの肩が震えた。反論したい。自らの魔法がどれほどの奇跡を生み出し、どれほどの仲間を救ってきたか。そのすべてを叩きつけてやろうと思った。

だが、言葉が出てこない。喉が詰まり、息を吸うのも苦しい。

シルヴィアの言うことは、あまりにも正論だった。それは彼女自身が薄々気づいていた、しかし決して認めたくなかった残酷な真実だった。自らの魔法が、大雑把で、感情の波に左右されやすい危険なものであることを。これまではケンジの完璧な管理(マネジメント)のおかげで、かろうじてその力を制御できていただけ。もし自分一人だったら、この完璧な調和に満ちた街で、自分はただの破壊者にしかなり得ない。

その残酷な自己認識が、ルリエルのすべての反論を喉の奥へ押し戻した。

彼女はただ、きつく唇を噛み締めることしかできない。

翡翠の瞳には、悔し涙がこぼれそうになり、それを必死に堪えていた。

シルヴィアはルリエルの完全な敗北を確認すると、紫水晶の瞳からすっと感情の色を消した。彼女はケンジへと向き直る。その表情は、もはや冷徹な技術官僚のそれに。

「…ご理解いただけましたようですわね、プロジェクトマネージャー殿」
彼女は静かに告げる。
「あなた方の申請。その結論を申し上げます。現時点において、あなた方パーティがマナ・レギュレーターという最重要施設へアクセスすることを許可することはできません」

その無慈悲な宣告。

「ただし」
シルヴィアは続ける。
「あなた方の目的が、世界の危機を救うためという大義名分に基づくものであることも理解はしています。よって、今回の申請は『却下』ではなく、『保留』とさせていただきます」

「保留」。そのどこまでも官僚的で、希望を与えるかのように見せかけて、その実、一切の救いがない言葉。

「我々管理局の方で、あなた方パーティがこの都市のシステムに与えるリスクについて詳細な再評価を行います。その結果が出るまで、あなた方はこの街で待機していてください。よろしいですわね?」

それはもはや問いかけではなかった。ただの一方的な通告だった。彼女はそう言うと、ケンジたちの返事を待つこともなく、水晶の板へと視線を戻してしまう。もはや、あなたたちに関心はない、とでも言うかのように。

一行は庁舎を後にした。その足取りは、来た時とは比較にならないほど重い。磨き上げられた大理石の廊下。静寂に満ちた空間。そのすべてが、彼らの惨めな敗北を嘲笑っているかのようだった。

街に戻っても、重苦しい空気は変わらない。宙を行き交う浮遊盤。きらびやかに輝く魔法の光。その美しい幻想都市の風景が、今はただひどく冷たく、そしてよそよそしく感じられる。

パーティには、これまでで最も気まずい沈黙が流れていた。誰も何も言えない。ゴードンは怒りを押し殺すように巨大な篭手を固く握りしめ、シーナはフードの奥でじっと床を見つめている。特にルリエルには、どんな言葉をかければいいのか誰にも分からなかった。彼女はただうつむいたまま、銀色の髪で表情を隠し、一行の一番後ろを力なく歩いているだけだった。その小さな背中は今にも消えそうなほどか弱く、そして孤独に見えた。

ケンジはただ黙ってその一歩前を歩いていた。プロジェクトは完全に暗礁に乗り上げた。そして何よりも深刻なのは、チームの心臓とも言うべきルリエルというリソースが、今、完全にその機能を停止しかけているということだった。

(……このままではいけない)
沈黙の中、ケンジは心の中で呟いた。
(だが、手はまだあるはずだ……)

彼は、まだ見つからない次の一手を探し、その思考の海に深く潜っていった。その視線は、街の隅々まで張り巡らされたマナ・コンジットの輝く網を追っていた。
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