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第4話:【対決】契約の終わりと、世界の敵意
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第4話:【対決】契約の終わりと、世界の敵意
カイエンの城で、最後の冬が過ぎようとしていた。
私たちが交わした一年という契約は、あまりに短く、そして濃密だった。その終わりが、すぐそこまで迫っている。
手の甲の水晶は輝きを失い、契約の終わりが近いことを示していた。彼の瘴気に触れている限り、私の病は時が止まったかのように進行を止める。だが、それは治癒ではなく、仮初めの猶予に過ぎない。この城を出れば、私の命の砂時計は再び砂を落とし始めるのだ。
私たちの間で、契約の終わりは禁句となっていた。終わりが来る事実から目を逸らし、偽りの平穏を貪るように日々を過ごした。彼が淹れる不味い紅茶。私が作る焦げたシチュー。不完全で、だからこそ愛おしい日常が一日でも長く続くよう、ただ祈っていた。
だが、世界は私たちのささやかな楽園を許さなかった。
その日、城を訪れたのは叔父と、王宮の首席魔術師を名乗る冷たい目の男だった。彼らは国王陛下の勅書を携えていた。
「リディア。お前をこのような呪われた場所から、救いに来てやったぞ」
叔父は恩着せがましく言う。その目は、背後に立つカイエン公爵へのあからさまな侮蔑と恐怖に濡れていた。
首席魔術師が、冷然と続ける。
「調査の結果、聖女リディア・ハミルトンの体質とアークブラッド公爵の『呪い』が、特異な共生関係にあると判明した。これは国にとって極めて重要な発見である」
彼は私を、珍しい虫でも値踏みするように見た。
「よって王命である。リディア嬢の身柄を王立魔術院の管理下に置き、その特異体質を徹底的に解析する。アークブラッド公爵、貴殿も自らの呪いを解くまたとない機会だ。異論はあるまい」
それは、あまりに理不尽で非人道的な宣告だった。私を研究用の実験動物にするというのだ。
叔父が、私の腕を掴もうとする。
「さあ、リディア、こちらへ。お前の犠牲で、ハミルトン家は再び栄光を取り戻せるのだぞ」
その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが弾けた。
そうだ。私はもう、犠牲になるためにここにいるのではない。
ただ、生きたい。この不器用で、孤独で、誰よりも優しい愛しい人の隣で。
私は叔父の手を強く振り払った。
「お断りします」
私の凛とした声が、玉座の間に響き渡る。
「私の居場所は、ここにあります。この方のおそばだけです」
「……愚かな!」
叔父が怒りに顔を歪ませる。首席魔術師が冷たく言い放った。
「ならば力ずくだ。公爵の『呪い』など恐るるに足らず。我々には対抗策がある」
合図と共に、謁見の間の外に控えていた王宮騎士団が一斉になだれ込んでくる。
その時だった。
背後から、カイエンの大きな腕がそっと私を抱きしめた。
「……リディア」
彼の低い声が、耳元で囁く。
「ありがとう。……もう、十分だ」
次の瞬間、城全体が揺れた。
カイエンの体から、比較にならぬほど濃密で絶望的な死の瘴気が迸る。
だが、その力はもはや荒れ狂う嵐ではなかった。私という存在、そして私への想いに共鳴したそれは、絶対的な王の威厳となって、静かに、しかし抗いようもなく空間を支配した。
騎士たちは剣を抜くことすらできず、死への本能的な恐怖に凍りつく。
首席魔術師が必死に展開した防御魔法は、カイエンの瘴気に触れた瞬間、光を失い霧散した。
カイエンは私を抱きしめたままゆっくりと立ち上がり、血のように赤い瞳で侵入者たちを見下ろす。
彼の声はもはや人間のそれとは思えぬほど、深く重く響いた。
「彼女は、道具ではない」
瘴気が、彼の怒りに呼応して渦を巻く。
「――私の、唯一の光だ」
言葉と共に、彼がただ手を振るう。
それだけで、首席魔術師も、叔父も、騎士たちも、見えざる巨人に弾き飛ばされたかのように謁見の間から吹き飛ばされた。
命までは奪わない。それが彼の最後の理性だった。
嵐が過ぎ去り、玉座の間に残されたのは私とカイエンの二人だけだった。
彼は私を抱きしめる腕の力を少し緩める。
だが、私たちの問題は何一つ解決していない。
「……リディア」
彼の切実な声が私の名を呼ぶ。
「契約は一月後に終わる。だが、私たちの物語を終わらせるわけにはいかない」
彼は私に向き直ると、その両手で私の手を強く握った。
「共に道を探そう。この呪いと病の、その先にある未来を」
それは、運命に対する私たちの力強い宣戦布告だった。
込み上げる涙をこらえ、私は何度も頷いた。
カイエンの城で、最後の冬が過ぎようとしていた。
私たちが交わした一年という契約は、あまりに短く、そして濃密だった。その終わりが、すぐそこまで迫っている。
手の甲の水晶は輝きを失い、契約の終わりが近いことを示していた。彼の瘴気に触れている限り、私の病は時が止まったかのように進行を止める。だが、それは治癒ではなく、仮初めの猶予に過ぎない。この城を出れば、私の命の砂時計は再び砂を落とし始めるのだ。
私たちの間で、契約の終わりは禁句となっていた。終わりが来る事実から目を逸らし、偽りの平穏を貪るように日々を過ごした。彼が淹れる不味い紅茶。私が作る焦げたシチュー。不完全で、だからこそ愛おしい日常が一日でも長く続くよう、ただ祈っていた。
だが、世界は私たちのささやかな楽園を許さなかった。
その日、城を訪れたのは叔父と、王宮の首席魔術師を名乗る冷たい目の男だった。彼らは国王陛下の勅書を携えていた。
「リディア。お前をこのような呪われた場所から、救いに来てやったぞ」
叔父は恩着せがましく言う。その目は、背後に立つカイエン公爵へのあからさまな侮蔑と恐怖に濡れていた。
首席魔術師が、冷然と続ける。
「調査の結果、聖女リディア・ハミルトンの体質とアークブラッド公爵の『呪い』が、特異な共生関係にあると判明した。これは国にとって極めて重要な発見である」
彼は私を、珍しい虫でも値踏みするように見た。
「よって王命である。リディア嬢の身柄を王立魔術院の管理下に置き、その特異体質を徹底的に解析する。アークブラッド公爵、貴殿も自らの呪いを解くまたとない機会だ。異論はあるまい」
それは、あまりに理不尽で非人道的な宣告だった。私を研究用の実験動物にするというのだ。
叔父が、私の腕を掴もうとする。
「さあ、リディア、こちらへ。お前の犠牲で、ハミルトン家は再び栄光を取り戻せるのだぞ」
その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが弾けた。
そうだ。私はもう、犠牲になるためにここにいるのではない。
ただ、生きたい。この不器用で、孤独で、誰よりも優しい愛しい人の隣で。
私は叔父の手を強く振り払った。
「お断りします」
私の凛とした声が、玉座の間に響き渡る。
「私の居場所は、ここにあります。この方のおそばだけです」
「……愚かな!」
叔父が怒りに顔を歪ませる。首席魔術師が冷たく言い放った。
「ならば力ずくだ。公爵の『呪い』など恐るるに足らず。我々には対抗策がある」
合図と共に、謁見の間の外に控えていた王宮騎士団が一斉になだれ込んでくる。
その時だった。
背後から、カイエンの大きな腕がそっと私を抱きしめた。
「……リディア」
彼の低い声が、耳元で囁く。
「ありがとう。……もう、十分だ」
次の瞬間、城全体が揺れた。
カイエンの体から、比較にならぬほど濃密で絶望的な死の瘴気が迸る。
だが、その力はもはや荒れ狂う嵐ではなかった。私という存在、そして私への想いに共鳴したそれは、絶対的な王の威厳となって、静かに、しかし抗いようもなく空間を支配した。
騎士たちは剣を抜くことすらできず、死への本能的な恐怖に凍りつく。
首席魔術師が必死に展開した防御魔法は、カイエンの瘴気に触れた瞬間、光を失い霧散した。
カイエンは私を抱きしめたままゆっくりと立ち上がり、血のように赤い瞳で侵入者たちを見下ろす。
彼の声はもはや人間のそれとは思えぬほど、深く重く響いた。
「彼女は、道具ではない」
瘴気が、彼の怒りに呼応して渦を巻く。
「――私の、唯一の光だ」
言葉と共に、彼がただ手を振るう。
それだけで、首席魔術師も、叔父も、騎士たちも、見えざる巨人に弾き飛ばされたかのように謁見の間から吹き飛ばされた。
命までは奪わない。それが彼の最後の理性だった。
嵐が過ぎ去り、玉座の間に残されたのは私とカイエンの二人だけだった。
彼は私を抱きしめる腕の力を少し緩める。
だが、私たちの問題は何一つ解決していない。
「……リディア」
彼の切実な声が私の名を呼ぶ。
「契約は一月後に終わる。だが、私たちの物語を終わらせるわけにはいかない」
彼は私に向き直ると、その両手で私の手を強く握った。
「共に道を探そう。この呪いと病の、その先にある未来を」
それは、運命に対する私たちの力強い宣戦布告だった。
込み上げる涙をこらえ、私は何度も頷いた。
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