余命一年の花嫁と死神公爵の契約結婚

YY

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第5話:【選択】余命一年のその先へ

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王宮からの追手を退けたあの日から城の中は以前とは違う張り詰めたようなしかし確かな熱を帯びた空気に満ちていた。
私とカイエン様はもはや偽りの夫婦ではなかった。死という共通の敵を前にした唯一無二の共犯者でありそして互いの命を預け合う運命共同体だった。
私たちは城の書庫に眠る膨大な古文書を読み解き始めた。彼の呪い私の病。それらは本当にただの不治の呪いと病なのだろうか。あるいは古代の魔法体系の中にその本質を解き明かす鍵が隠されているのではないか。
それは絶望的なまでに気の遠くなるような作業だった。だが私たちは諦めなかった。
夜蝋燭の灯りの下で難解な文献に頭を悩ませる私の隣でカイエン様が静かに頁をめくる。その穏やかで満ち足りた時間が私に生きるための力を与えてくれた。
そして私たちはついに一つの記述を見つけ出した。
それはアークブラッド公爵家に代々伝わる禁書の中に記されていた。
『始祖アークブラッドは闇の神より生命を喰らう呪いを受けし。されど光の巫女と結ばれし時その呪いは生命を育む祝福へと転化せん。二つの魂が完全に一つとなりて初めて死の運命は覆される』
光の巫女。
その記述は私の病「水晶の涙病」の特徴と奇妙なまでに一致していた。
私の病はただの病ではなかった。それは古代の巫女の血筋が現代に不完全に発現したものであり過剰な生命力がその身を蝕む祝福のなれの果てだったのだ。
「……二つの魂が完全に一つに」
カイエン様がその一文を静かに読み上げる。
そこに記されていたのはただ一つのあまりにも過酷でそしてあまりにも甘美な解決法だった。
それは二人が心も体も魂のレベルで完全に結ばれること。そしてその儀式には互いの命を完全に相手に委ねるという絶対的な信頼が必要不可欠であると。
失敗すれば二人ともその場で命を落とす。
「……リディア」
カイエン様が私の名を呼ぶ。その赤い瞳は見たこともないほど真剣だった。
「俺はお前に死を強要することはできん。この儀式はあまりにも危険すぎる。他に道があるはずだ」
私は静かに首を振った。
「いいえカイエン様。他に道はありません。それに……」
私は彼の大きな傷だらけの手を両手でそっと包み込んだ。
「私はもう怖くありません。あなたと共にいられるのならどんな運命も受け入れられます。いいえ受け入れるのではなくて選びたいのです。あなたと共に生きる未来を」
その夜私たちは城の最上階にある月光だけが差し込む古い礼拝堂にいた。
禁書に記された古代の儀式。
私たちは互いに向き合いそしてどちらからともなくそっと唇を重ねた。
それはただの口づけではなかった。
彼の冷たい死の瘴気が私の体へと流れ込み私の熱い生命力が彼の体へと注がれていく。
生と死が混じり合い溶け合いそして全く新しい一つのものへと生まれ変わっていく。
意識が遠のいていく。だが不思議と恐怖はなかった。ただ彼の魂がすぐそばにあるその温かさだけを感じていた。
どれほどの時間が経ったのだろうか。
私がゆっくりと目を開けるとそこには涙を流しているカイエン様の姿があった。
彼の体からあの禍々しい瘴気は完全に消え去っていた。そして私の左手の甲にあったあの水晶の涙も跡形もなく消えていた。
私たちは生きていた。
「……リディア」
彼は震える声で私の名を呼びその腕で私を壊れそうなほど優しく抱きしめた。
「ありがとう……。俺を信じてくれて」
呪いは解けた。
病は癒えた。
そして私たちの余命一年という名の契約は永遠という名の愛へと変わった。
数年後。
かつて死の大地と呼ばれたアークブラッド公爵領は緑豊かな生命力に満ちた土地へと生まれ変わっていた。
私の叔父と首席魔術師は公爵家に対する反逆罪でその地位を追われたと聞く。だがそんなことはもはやどうでもよかった。
私は今夫となったカイエンと共に城の庭で芽吹いたばかりの小さな薬草の芽を眺めている。
「見てくださいカイエン様。今年も綺麗に咲きそうです」
「ああ。すべて君のおかげだ」
彼は私の少しだけ膨らんだお腹にそっとその大きな手を触れさせた。
そこには新しい小さな命が宿っている。
かつて死神と呼ばれた男と余命一年を宣告された女。
その二人の間に生まれた希望という名の光。
私たちは絶望の淵で出会い互いの存在によって救われた。
そしてこれからも生きていく。
この愛おしい光と共に。
余命一年のそのずっとずっと先にある未来を。
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みんなの感想(1件)

檸檬
2025.08.01 檸檬

4話で叔父と筆頭魔術師の申し出を断る場面で、別作品の「聖女を辞めたら…」の文章が混じってるような?
エリアとギデオンが登場しちゃってます

2025.08.01 YY

ご指摘ありがとうございます。
AIで最後推敲させてから、再度チェックしてたのですが、チェック漏れてたみたいです。
修正しました。

解除

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