傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件

篠の目

文字の大きさ
296 / 345

第300章 火槍開発――戦力更新の第一歩

しおりを挟む
「ガシャン!」
金属音と同時に、完成目前だった魔鉄がぱきりと折れた。
これでこの特殊魔器の精錬は失敗。素材に込められていた魔力も、完全に霧散した。
――やはり、そう簡単にはいかないか。
この黒精鉄は密度が異常だ。
親指ほどの長さしかないドリルビットが、重量は実に1ポンド。
握った手に鈍い痛みが走り、フィルードはわずかに顔を歪めた。
その後も試行は続いた。
三回連続で失敗。
翌日も再挑戦し、一度目は失敗したものの、二度目でようやく成功する。
完成した瞬間、ドリルビットから濃密な魔力が立ち昇った。
――これで、ようやく次の段階に進める。
フィルードは胸の高鳴りを抑えながら、静かに評価を始めた。
このドリルがあれば、低級魔鉄に穴を開け、魔紋を刻み、大容量の火薬を内包させられる。
理論上、その威力は手持ちの大砲に匹敵し、上位初級魔法すら射程に収める。
超常者小隊の装備は、根本から刷新できる。
いや、魔法武器でなくともいい。
通常の銃身を量産するだけでも、常人なら一日で数十本は可能だ。
このドリルにとって、普通の鋼鉄など豆腐同然。
その後も数日間、製作を継続。
最終的にドリルビットを十本完成させたところで、ようやく手を止めた。
黒精鉄100ポンドのうち、すでに三分の一を消費。
だが、この十本があれば、初期量産用の銃身には十分だ。
火薬生産量も、まだ限られている。
成功率はすでに七~八割。
フィルードは残りの黒精鉄のうち、10ポンドを使い、大型ドリルビットの製作に着手することを決めた。
――砲身用だ。
失敗できる回数は、あと七回。
この素材は、ボア・マンが地下深くに隠していた秘蔵品。
次はまず手に入らない。
呼吸を整え、集中する。
鋭利のルーン、次に堅固のルーン。
小型とは比べ物にならない難度。
経験を積んだ今でも三度失敗し、四度目でようやく成功した。
巨大なドリルビットを見つめ、フィルードは静かに拳を握る。
――これで、領地は本格的な魔法兵器生産に入れる。
見習いレベルの魔鉄を砲身に用い、このドリルで穿孔し、堅固のルーンを刻む。
通常の倍量の火薬にも耐えられるはずだ。
小型砲を大型砲並みに。
重量は軽く、威力は増す。
だが最終的に、フィルードは砲の製作を後回しにした。
砲身一本には、数十~百ポンド単位の魔鉄が必要だ。
それだけあれば、火槍を何十本も作れる。
何より、そんな量を買える保証がない。
価格も現実的ではない。
一方、銃身なら数ポンドで済む。
倉庫には在庫もある。
フィルードは魔鉄塊を取り出し、魔力で円柱状に成形。
ドリルビットで中心に穴を開け、削り屑は回収して再溶解した。
続いて記憶を頼りに銃床を作る。
木材も魔法素材。
銃身上部に点火孔を穿ち、簡易的な引き金機構を組み、火縄を取り付ける。
――完成だ。
最も原始的な火縄式火槍。
試さずにはいられなかった。
まず黒火薬を30gだけ装填。
安全確認を最優先する。
それでも銃腔の五分の一を占める量だ。
鉄球を装填し、麻布で密閉、強く突き固める。
100m先の石板を狙い、点火。
パン、と乾いた音。
弾丸は目標から1~2m外れた。
フィルードは小さく息を吐く。
――精度は、最悪だな。
火薬を50gに増量。
念のため、上位鎧を着込む。
再び発射。
やはり命中せず。ただし射程は明らかに伸びた。
威力と精度は比例しない。
これは前世の知識通りだ。
70gまで増やすと、手に強烈な反動。
銃身は変形し、ひびが入った。
――上限は70gか。
見習い初級魔鉄でこの数値なら、十分すぎる。
実戦用装薬量は50g前後が妥当だ。
問題は点火機構。
あまりにも原始的すぎる。
フィルードはこの課題をシャルドゥンに託した。
前世の燧石点火装置の構造を説明し、発想の種を渡す。
短期完成は無理だが、火縄式ならすぐ量産できる。
再び銃身を作り、距離を70mに縮めて試射。
精度はまだ不十分。
50mでようやく実用域。
――有効射程、50m。
だが貫通力は凶悪だった。
ドワーフ製鎧すら、泥のように貫く。
ボア・マンもミノタウロスも、標的に過ぎない。
精度向上には、ライフリングが必要。
フィルードはすぐに研究に入った。
旋盤に似た工具。
ミクロン単位の精度が要求される世界。
前世で工作機械に触れたことはない。
三日間の試行錯誤で方向性は見えたが、制御はまだ遠い。
――だが、道筋は立った。
ここから先は、時間の問題だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元勇者は魔力無限の闇属性使い ~世界の中心に理想郷を作り上げて無双します~

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
  魔王を倒した(和解)した元勇者・ユメは、平和になった異世界を満喫していた。しかしある日、風の帝王に呼び出されるといきなり『追放』を言い渡された。絶望したユメは、魔法使い、聖女、超初心者の仲間と共に、理想郷を作ることを決意。  帝国に負けない【防衛値】を極めることにした。  信頼できる仲間と共に守備を固めていれば、どんなモンスターに襲われてもビクともしないほどに国は盤石となった。  そうしてある日、今度は魔神が復活。各地で暴れまわり、その魔の手は帝国にも襲い掛かった。すると、帝王から帝国防衛に戻れと言われた。だが、もう遅い。  すでに理想郷を築き上げたユメは、自分の国を守ることだけに全力を尽くしていく。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

辺境で静かに暮らしていた俺、実は竜王の末裔だったらしく気づけば国ができていた

平木明日香
ファンタジー
はるか五億四千万年前、この星は六柱の竜王によって治められていた。火・水・風・土・闇・光――それぞれの力が均衡を保ち、世界は一つの大きな生命のように静かに巡っていた。だが星の異変をきっかけに竜の力は揺らぎ、その欠片は“魂”となって新たな生命に宿る。やがて誕生した人類は文明を築き、竜の力を利用し、ついには六大陸そのものを巨大な封印装置へと変えて竜王を眠りにつかせた。 それから幾千年。 現代では六つの大国がそれぞれ封印を管理し、かろうじて世界の均衡を保っている。しかし各地で異常な魔獣が出現し、封印の揺らぎが噂されはじめていた。 そんな世界を気ままに旅する青年がいる。名はブラック・ドラグニル。三年前からハンターとして魔獣を討伐し、その肉を味わいながら各地を渡り歩く放浪者だ。規格外の実力を持ちながら名誉や地位には興味がなく、ただ「世界のうまいものを食べ尽くす」ことを楽しみに生きている。 ある日、光の王国ルミナリア近郊で王女ユリアナが大型魔獣に襲われる事件が起きる。死を覚悟した騎士団の前に現れたブラックは、その怪物をわずか数十秒で討ち倒す。彼にとっては雑魚同然だったが、その圧倒的な強さは王国中に知れ渡る。王女は自由に生きる彼の姿に心を奪われるが、ブラックは次の目的地へ向かう計画を練るばかり。 だが彼自身はまだ知らない。 自らが竜族の末裔であり、世界を再び“統合”へ導く鍵となる存在であることを。 竜の封印が揺らぐとき、自由を愛する青年は世界の命運を左右する選択を迫られる。 これは、竜の記憶と人の魂が交錯する壮大なファンタジー叙事譚である。

追放されたけど実は世界最強だった件 〜異世界でスローライフを満喫してたら、元婚約者が泣きついてきた〜

にゃ-さん
ファンタジー
王国一の魔術師と呼ばれながらも、冤罪で追放された青年レオン。 田舎でのんびり暮らすつもりが、助けた村娘が実は聖女、拾った猫が神獣、弄った畑が伝説の大地に!? やがて彼の存在は国を超えて伝説となり、かつて彼を見下した者たちが次々とひざまずく――。 ざまぁあり、無自覚ハーレムありの、スカッと系異世界リベンジ譚。

辺境の落ちこぼれと呼ばれた少年、実は王も龍も跪く最強でした

たまごころ
ファンタジー
村で「落ちこぼれ」と呼ばれた少年アレン。魔法も剣も使えず、追放される運命だった。 だが彼の力は、世界の理そのものに干渉する“神級スキル”だった。 自覚のないまま危機を救い、美女を助け、敵を粉砕し、気づけば各国の王も、竜すらも彼に頭を下げる。 勘違いと優しさと恐るべき力が織りなす、最強無自覚ハーレムファンタジー、ここに開幕!

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

処理中です...