冷甘メイドの怪奇図書

要 九十九

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第一章「最初の一冊」

第4話「親友と双子」

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「…………で、一夜にしてメイドを攫い、屋敷まで奪ったと?」
「一つも合ってねぇ!!」
「違うのか?」
「何で俺が、一晩のうちに幾つもの罪を犯してる事になってるんだよ……。話、聞いてた?」
「いや、聞いてないが……」
「聞けよ!」
 普段の射すような暑さと違い、爽やかな風が心地よい早朝、俺は公園にいた。
 ベンチに座ったまま隣を見ると、銀色のざんばら髪に、キリッとした赤い瞳を持つ、眉目秀麗という言葉が最も似合いそうな男が、上下灰色のジャージで腰掛けていた。
 天光九無あまみつくない、俺の小さい頃からの親友だ。
「なぁ……? 我が従者よ」
「誰が従者だ!!」
 そう思っていたのは俺だけのようだ。
 九無は、俺の話そっちのけで何かを熱心に見ている。そこには、夏休み毎朝恒例のラジオ体操をする子ども達がいた。
 スタンプらしき物を首からぶら下げた地域の大人が、見本の形で何人か奥に立っており、その手前に沢山の子ども達が並んで元気にラジオ体操をしている。
「なぁ、見えるか……? 我が愛する妹と、愛しき弟が、あんなに頑張ってラジオ体操をしているぞ」
「お前、この間も全く同じこと言ってたぞ」
 九無の視線の先には、二人の子どもがいた。ツインテールの女の子と、おかっぱの男の子だ。二人とも九無と同じ銀髪で、女の子は赤いワンピース、男の子はヒーローがプリントされたシャツとズボンを着ている。二人は九無の妹と弟で、双子の姉弟だ。
「やっぱり最高だ! 我が愛妹弟はこの世で一番可愛い!!」
「俺は、ただのラジオ体操を泣きながら見ているお前がこの世で一番怖いよ……」
 号泣だった。今日だけならまだしも、数日前に付き合った時も泣いていた気がする。
 夏休みが始まって10日ぐらい経っているからか、ラジオ体操をしている大人も子どもも、それを見ても何の反応も一切示していない。こいつ、もしかして、毎日泣いてた?
 そんな馬鹿なやり取りをしている間に、ラジオ体操は終わる。
 隣で、ブラボー! ブラボー! と言いながら最高のコンサート終わりのような拍手をする男を無視しつつ、目の前を観察していると、それぞれのラジオ体操を終えた大人たちの前に、子ども達が一列に並び始めた。
 確か、夏休み中に毎朝参加してスタンプカードを全部埋めると、お菓子のセットが貰えるんだったか?
 スタンプを貰い、嬉しそうに双子が戻ってくる。
「にぃ、ただいま!」
「お兄ただいま」
「素晴らしかったぞ、我が愛妹弟よ!」
 双子を両手で強く強く泣きながら、抱き締める九無。あれ? これ、俺が知らないだけで10年振りぐらいの再会なのかな……? その異常な光景に、昨日やっていた、長年、事情があって離れていた家族が再会するドラマを思い出す。
「お疲れ、双子ども」
 頑張った二人に声を掛ける。
「うわっ! 南!」
「南兄おはよう」
 いつもの反応にうんうんと頷きながら、それぞれの頭を撫でる。
「気軽に触らないでよ!」
 双子の妹、九奈きゅなに頭を撫でていた手を弾かれる。それ、結構傷付くぞ。
「南兄ありがとう」
 双子の弟、九凱くがいはそれとは真逆にニコニコと嬉しそうに俺に頭を撫でられている。
「この差は何だ……?」
 俺たちの母親同士が仲が良いのもあって、九無ともども、昔からこの双子たちとも家族ぐるみで長い付き合いなのだが、最近九奈の方が明らかに冷たい。
「うるさいわね! あんたまたにぃを口説きに来たの?」
「口説いてないわ!」
 九無は確かに男の俺から見てもカッコいいが、そう言った感情は断じてない。
「はっ!! じゃあ本当の狙いはもしかして…………あたし?」
「何でそうなる!!」
 九奈は自らの身を守るように、両手で自分を抱き締める。
「貴様、我が愛する妹を……」
「お前はややこしいから出てくるな! あと、俺の肩に今まさにくい込んでるその手を離せ!」
 妹や弟の事になると本当に躊躇ないな、こいつ……。
「あたしにとっちゃ、にぃに近付くのは男だろうが、女だろうがライバルよ」
「九奈は本当に可愛いなぁ……!」
「お前、最近可愛いのハードル下がりすぎてないか?」
 デレデレしながら、俺に代わって九奈の頭を撫でている親友は幸せそうだ。いや、というか顔緩みすぎだろ。デレデレを通り越して、もはや鼻の下を伸ばしているようにも見える。俺が何も知らない第三者なら、まず間違いなく警察に通報するだろう。
「お兄たち見て! カブトムシ捕まえた!」
 いつの間にか俺たちの視界から消えていた九凱が、嬉しそうに何かを抱えて戻ってくる。
「おぉ! 凄いじゃん…………」
 九凱が連れてきたのは、三角の耳に、眠たそうな顔、口まわりに長いひげ、足裏に肉球があり、全身フワフワの毛で覆われ、にゃーと鳴く……。
「猫じゃねぇか!!」
 どの角度から見ても完全に猫だった。
「えっ? ちがうの?」
「流石、九凱。可愛いカブトムシだなぁ……!」
「お前はちゃんとツッコめ! あと、九凱は可哀想だから早くその猫、元いた場所に戻して来なさい」
「うん、わかった!」
 素直に頷いて、走っていく。色合いも大きさも、どう見ても違ったが、一体、九凱にはあの猫がどう見えているんだろう? まぁ、昔からあんな感じだったし、何ということもないが。



「じゃあ、あたしたちは二人で遊んでくるから! その間にしたい話があるならしなさい? 行くわよ九凱!」
「待ってよお姉~」
 皆で少し遊んだ後、九奈がそう言って、九凱を引き連れて遊具の方に向かっていった。彼女なりの俺や九無に対する気遣いなんだろう。普段はツンケンしているが、あの子も九凱と同じで優しい子だ。
 まぁ、実際の所、じいちゃんについて話せる事は殆どなかったから、二人がラジオ体操をしている間に話は大体終わってしまった。後は、怪奇図書の話くらいだが、俺ですら混乱している話を、今大変な九無や双子たちの前で言うのも、気が引けた。
 いずれする事になるとは思うが、今はいいだろう。
 それから公園で遊ぶ双子を、二人並んで無言のままじっと見ていたが、ふと時間を確認すると、もう昼前だった。
「そろそろ行かないと……」
「もう行くのか?」
「あぁ、昨日は屋敷内を一通り見ただけだったし、もっとちゃんと調べたくて」
「なるほど。気を付けて行くがいい!」
「あぁ、ありがとう」
 ベンチから立ち上がり、公園の出口に向かう。
「…………待て! 我が従者よ」
「従者じゃないわ!」
 後ろからの声に振り返りながらツッコむ。公園で遊ぶ双子を楽しそうに見ていた九無が、こちらに向き直る。
「また何か話したい事があるなら、何時でも我の所に来い」
「…………」
 こいつ、昔からこの口調と、とてつもないシスコンとブラコンのハイブリッド――――シスブラコンじゃなければ、もの凄くいい奴なんだよな。
「ありがとう。というか……」
「……何だ?」
「お前こそ、父親が亡くなって今大変なんだから、話したければ何時でも連絡しろよ?」
 そうだ。こうやって明るく振る舞ってはいるが、九無や双子たちの父親は一月前ぐらいに亡くなっていた。俺も何度か会ったことがある、とても面白い人だった。
 存在すら知らなかったじいちゃんが亡くなった俺と、身近な父親がなくなった九無と双子とでは、それぞれまた違った大変さがあるだろう。
 九無や双子たちの気持ちが分かるなんて、絶対に口が裂けても言えないが、だからって、こいつらがどう思ってるか知ろうとする努力を放棄したくはない。
「我の事は構わん。貴様は、自分の事だけ考えていろ」
「構わないわけあるか! 俺にとったら、あそこの双子も、お前も、どっちも大事なんだよ」
 こいつらとは、とても長い付き合いだ。俺は九無も双子も、もう家族と呼んでもいいとすら思っている。
 だから、お節介と言われようが、九無や双子に何かあれば絶対に助けたいし、辛いなら、何も出来なかったとしても傍に居たい。

「………………ははっ!」

 急に笑い出す九無。
「何だよ?」
「やはり、貴様は面白い! 流石は我が従者よ!」
「誰が従者だ!!」
 それから、少し安堵したような表情をする九無と、笑顔でこちらを見る双子たちに手を振り、俺は公園を後にした。
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