冷甘メイドの怪奇図書

要 九十九

文字の大きさ
7 / 32
第一章「最初の一冊」

とあるメイドの備忘録1

しおりを挟む

 屋敷の直ぐ外、暗い森の中でキラキラ光る星と大きな月を見ながら、今日の事を思い返す。

 最初は、本当に驚いた。屋敷内の掃除を終えて、魚を調理していたら、

 あの時は何の確証もなかったけど、まさかドアを開けた先に彼が立っているなんて……。

 凄く混乱したが、貰った10分を使って、メイド服や髪が乱れてないか、格好におかしな所はないか確認して、慣れない化粧なんかもしてみたけど、変には見えなかっただろうか?

 彼が絶対に屋敷に来ることは

 ただし、知っていたのはという事だけで、どういった経緯になるかは予想がつかなかった。

 それに、家族に挨拶へいった際の、鷲一しゅういち様の反応を見た限り、とても彼が屋敷に行くことを許してくれるようには見えなかった。
 どうやって説得したのかは分からないが、大したものだと思う。

 どういった形であれ、に会えて、本当に嬉しかったな。
 
 いやダメだ、ダメだ! こんな風に考えるのは良くない。頭を振りながら、こんな深夜に屋敷の外に出てきた本来の目的を思い起こす。

「……始めますか」

 瞳を閉じて、森の中へ意識を集中する。目的の物は直ぐに見つかった。私から見て、2時、10時、11時の方向。反応は3つだ。これぐらいなら手こずる事もないだろう。

「……ふっ!」

 軽く息を吐き、地面を蹴る。まずは2時の方向。木と木の間をするりと移動しながら、どんどんと奥に進んでいく。

 風を切る音が心地いい。横に伸びる枝や、木の幹を右に、左に走って避けながら、目的の場所まで一気に詰め寄る。

「……見つけた!」

 黒いもやもやとした人影。人によっては、見ただけで化け物と叫んで逃げるようなそれに、一瞬で近付く。そこまで来てようやく、もやは私に気付くが、もう遅い!

 拳を強く、硬く、木や岩ですら穿てるように

 走りの勢いそのままに、黒いもやの顔目掛けて、拳を突き出した。

 ――――パンッ!!!!

 と大きな音が森に響いた。もやはその場で辺りに弾け飛び、その場で少しの間蠢いた後、やがて霧散した。

「……次」

 それを確認する前に、既に体は動いている。残りは2つ。

(……場所は…………こちらに近付いて来ている?)

 枝に手を掛け、その勢いを利用して、次々と上の枝に登っていく。天辺に着く頃には、残りの2つが視界に入っていた。

「……さて……」

 目を細め、じっと観察する。憑かれているようだ。あれは、野犬か?

 先ほどは人型だったが、次の黒いもやは形を変え、犬の頭に兜のような形で纏わり付いていた。
 それはウーッ!と唸り声を上げながら、2体で辺りを見回している。私を探しているのだろう。

(……見付かる前に、さっさと終わらせましょう)

 3階ぐらいの高さの木の天辺から、犬に向けて飛び降りる。

 今度は踵を強く、硬く。踵落としの要領で、犬の頭に一撃を……。
 直撃の瞬間、足を後ろに引き、犬の頭にあった黒いもやだけを掠めるように引き剥がして、地面で叩き潰す。

「ガウッ!」

 着地した私目掛け、左からもう一体が飛び掛かってくる――――予想通りだ。

 身を屈め、まるで深くお辞儀をするような体勢で攻撃を躱す。私の背後を右から左に通り過ぎようとする犬の頭を、右足を軸に左へ回転しながら、右手で掴む。犬は尚もバタバタと暴れようとするが、そのまま黒いもやだけを握り潰して、地面に下ろす。

 念のため、犬が2匹とも息をしているのを確認する。よし、大丈夫そうだ。

 メイド服の汚れを叩いて、身なりを整える。

「……はぁ」

 思わずため息が漏れる。

「……北斎が居なくなったのに、何で私はこんなことを続けてるんでしょう?」

 自分の身を守るだけなら、あの屋敷にいるだけで問題ない。相当危険な何かでない限り、あそこが破られる事はないだろう。まず間違いなく、この辺りで一番安全な場所だ。

 今、倒したのだって、何か悪さが出来るレベルの物でもない。頑張れば、普通の人間だってどうにか出来るぐらいだ。

 なのに、どうしてこんなことをしているのか……。

「……私が一緒にいれば、死なせずに済んだのでしょうか?」

 月に向かって呟くが、答えは返ってこない。悩んだ所で、もうどうしようもない事は分かっている。だが、何度も考えてしまうのだ。

 北斎が居なければ、私は今この場にいる事はなかっただろう。

 そう思うと、胸がとても……とても苦しくなる。

 信じます――――彼はそう言ってくれた。

 私がどれだけ…………その言葉が、心の底から嬉しかったか。北斎にも聞かせてあげたかった。

 彼は明日また来ると笑顔で言って、家に帰っていった。本当は良くないと分かっているのに、来るなとは私にはとても言えなかった。

「……だからこそ……」

 私にはやる事がある。はしっかりと隠した。
 本当なら全部、何処か遠くにやるか、燃やしてしまいたいくらいだが、北斎が守ろうとした物を勝手に外に持ち出したり、処分するなんて、私には絶対に出来ない。

 後は私が何とかすれば……。拳を強く握り締め、決心を固める。

「……私が、南ぼっちゃまを守ります!」

 静かになった森の中で、その言葉だけが強く響いた……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

処理中です...