冷甘メイドの怪奇図書

要 九十九

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第一章「最初の一冊」

第7話「疑惑と確信」

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 玄関を出て、門扉まで向かう。ドアが完全に閉めるまで、あのメイドは頭を下げていた。
 少年が話していた、真道北斎についての話は本当だろう。
 事故で亡くなったという話を聞いて、直ぐに二和に確認を取らせた。警察の死亡者データベース――――事件や事故で亡くなったのなら、間違いなくそこに、名前が登録される。それこそ、警察の人間でもなければ、改竄など出来ない代物だ。あの少年に、そんな力があるとは到底思えない。
 だが、話したい事はあるか? と聞いた時のあの反応……別の何か隠しているのは明らかだ。
 何より、初対面だった筈の、わたしの名前を少年は知っていた。
 今後、適切なタイミングで、少年に揺さぶりをかける為に、あの場では問い質さなかったが……。
 わたしを見た時の、彼の驚いた顔…………何処かで、わたしの情報を得ていたのは確かだ。
 まぁ、問題は、……。
 門扉を開けて、屋敷の敷地から出る。そこから、少し離れてもう一度、スマホで電話を掛ける。
「鷹見警部お疲れ様です! 昼も変わらず、お綺麗で……」
「お前の目はいつから千里眼になったんだ?」
「鷹見警部の事なら、例え10キロ先にいても見えますよ!」
「その発言は普通にこえぇよ! 馬鹿な冗談はいいから事件の進展は?」
「何個か、分かった事があります。まずは、被害者の身元ですが、顔の損傷が激しく、外見での判断が困難だった為、歯の治療痕、財布の中に入っていた保険証などの名前、被害者の持ち物に付着していた毛髪と遺体のDNA鑑定から、相田利奈26歳と特定しました」
「おっ、珍しく早いな」
「どうやら、担当の刑事が今朝通報を受けた時点で、前回の事件と同一犯の可能性を疑って、先に手続きをしてたみたいです」
 なるほど。今回のような手口は、全国を探してもそうはないだろうから、的確な判断ではある。
「まぁ、その手続きに、手間取ってくれたお陰で、僕らが滑り込みで現場に行けた訳ですけど……」
 関わる事すら出来なかった可能性を考えると、担当の刑事様々だ。
「でも、大丈夫ですか?」
「何がだ?」
「現場から、証拠品を持ち出して来ちゃって」
「良くはないが、持ち出さなけりゃこっちが何か調べる前に、捜査が進んじまうからな」
 特に前回と今回、両方の被害者が共通して持っていた物なんて、今すぐ調べてくれと言っているような物だ。
 真道北斎の名刺と、美容クリニックの診察券をポケットから出して確認する。あの態度を見るに、名刺に関しては、ただ質問するだけでは、これ以上の情報は得られないだろう。気になるのは……。
 美容クリニックの診察券を取り出す。紙で作られた住所や、電話番号などが書かれた簡素な物だが、そこには本来ある筈の物がない。だ。単なる記入漏れか、それとも……?
「まぁ、そんな話はいいから、他に分かった事はなんだ?」
「死因と殺害方法です」
「やはり、前回と同じか?」
「はい。ほぼ……ですが。死因は、生きたまま首を絞められた事による窒息死。前回は、顔を切り刻まれた事による出血死だったんですが、これについては首を絞めると、顔を切り刻む行為が同時に行われていた為、大きな違いにはならないと思います」
 絞殺と、顔をズタズタにされながら徐々に弱っていく2つの苦しみ……。聞いているだけで、胸糞悪い話だ。
 例え、被害者が恨まれるような事をしていたとしても、ここまでの痛みを与えられていい道理はない。
「それで、殺害方法ですが、今回も背中に汚れや、押し倒されたような形跡はありませんでした」
「…………」
 押し倒して、首を絞めながら犯行を行ったのなら、背中に跡が残る。ましてや、被害者は必死に抵抗した筈だ。寝たままの状態であったのなら、からだの何処かにその跡が残っていただろう。
「首に残った手の跡も、前回と大きさは同じ。女性の平均的な左手のサイズとの事……」
「それは、担当刑事も頭を抱えてそうだな」
 ただでさえ、担当刑事は、何かしら別の方法で持ち上げながら殺した、と考えようとしているみたいだが、この結果では混乱しかないだろう。
「刃物で出来た、傷口の型も同じでした。前回にも使われた刃渡り15センチくらいの包丁です。今回も傷口の角度や、深さなどから、1人の人間が、持ち上げた状態のまま、何度も切りつけた物で間違いないと」
 人間業ではない連続殺人。もしかしたら、この犯人がを……。
「今回の事件と前回の事件、これは同一犯で間違いないかもな」
「はい。ですが、今回の事件にだけあった、腹の傷についてはまだ調べている途中だそうです」
 顔や、首と違い、1つだけ違和感のあった場所だ。気にはなるが、とりあえずは後回しでも問題ないだろう。
「なるほど。引き続き、何かあったらまた教えてくれ」
「あっ、最後にもう1つ分かった事が」
「何だ?」
「2人の被害者の足裏や、足の指先の擦れ具合から、被害者を持ち上げていた犯人の、大体の身長が分かりました」
 生きたまま首を絞められた状態で、じっとしていられる人間はそうはいない。持ち上げられている時に、じたばたともがいた末に、足が擦れたのだ。
「どれくらいだ?」
前後らしいです」
「ふーん。なるほどねぇ……」
 最近ちょうど、同じくらいの身長の女性を見たなぁ。いやが上にも、やる気が出てきた。
「チキン……」
「誰がチキンですか! どうされました?」
「2つ調べて置いて欲しい事がある。詳しい話はまた話す」
「分かりました」
「あと、今から帰るから張り込みの準備も頼む」
「こちらから、お迎えに上がりましょうか?」
「いや、大丈夫だ。ちょうど署に、もあるしな」
 普段は持ち歩かないが、今回は間違いなく必要になる。
 遠くの屋敷を見て、じっくりと思考を巡らす。今日の夜は間違いなく、長くなるだろう。
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