冷甘メイドの怪奇図書

要 九十九

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第一章「最初の一冊」

第10話「強襲と破壊」

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 耳をつんざく銃声と同時……視界の端を何かが高速で通りすぎていく。火薬のような嗅ぎなれない臭いが辺りに広がる。
 目の前には、低く屈んだ体勢のまま鷹見警部に向かっていくカミラさんが見えた。その迷いのない動きから、銃弾は当たっていないようで安心する。
 一気に距離を詰めた彼女は、鷹見警部の右肩を掴み、手前に強く引く。バランスを崩し、前に倒れる鷹見警部の背中をかするように、何かが横に通り過ぎる。鷹見警部が持っていた懐中電灯が地面を転がる音が響く。
 カミラさんは流れるように鷹見警部を肩に担いで、後ろに飛び退き、俺の真横辺りに着地した。
「何だあれ……?」
 足元に落ちる懐中電灯の明かりに照らされて、暗闇の中から、赤黒く変色した双腕を持つ何かが現れた。それは顔の雰囲気から男だと分かるが、その両腕は丸太のような太さにも関わらず、体は枯れ木のような細さで、辛うじて人の形を保ってはいるが、化け物と呼んだ方がしっくり来るような見た目だった……。
「オレハワルクナイ」
 ぶつぶつとそう呟く男の右手には、布切れが握られている。カミラさんの肩から下ろされた鷹見警部を確認すると、スーツの上着、その背中部分が破けて千切れていた。これをアイツがやったのか?
「……っ! お前、何を?」
 右肩を痛そうに押さえながら、鷹見警部が立ち上がる。その目線はカミラさん、俺、双腕の男の順に移るが、男の異形な姿を見て困惑しているのが分かった。そりゃ、そうだろう。正直、俺も同じ気持ちだ。先ほど襲われた女は、立っている時の体勢こそ不自然だったが、あの男のように見て直ぐに分かる異常はなかった。
「……すみません。お話は後で」
 そう言ってカミラさんは双腕の男に向かっていく。鷹見警部は何かを伝えようとしていたみたいだったが、一足遅かった。
「オレハワルクナイ、オレハワルクナイ」
 先ほどと変わらずそう呟きながら、男はその大きな右腕を横に振るう。カミラさんはスライディングのように体勢を低くしたまま、勢いを殺さずに攻撃を避け、男の懐に入り込んだ。そのまま右手を軸に体を跳ね上げ、捻りを加えた左足で、男の右頬を蹴り付ける。
「オレハワルグ……!?」
 強烈な一撃に、男はバランスを崩してその場に倒れ込む。これなら、行ける! 見た目こそインパクトはあったが、その動きは緩慢でカミラさんを捉えられてはいない。
 よくは分からないが、男の言動から、先ほど襲ってきた女と同じような、話し合いの通じない存在なんだというのは今の俺でも理解出来た。鷹見警部も右手に拳銃は握ったままだが、構えようとはしていない。
 その間にも、カミラさんは攻撃を続けている。男の大振りの攻撃はどれも彼女には当たらず、避けては反撃の繰り返しになっていた。
「あれ……?」
 視界の中に、何か違和感がある。急いで鷹見警部が落とした懐中電灯を拾いに向かう。手元のそれは、スマホのライト機能よりも明るい光源で辺りを照らした。なくても視認出来る暗さではあるが、しっかりと確かめる為にはこっちの方がいい。
 工事現場の中は、鉄骨やブルーシートなど、来たときと何ら変わらなく見える。でも、何か…………。

「鷹見さん」
「…………何だ?」
 カミラさんと男の戦いを、じっと見ている鷹見警部がこちらを向いた。
「カミラさんに引っ張られた時、背中に何か感じましたか?」
「背中ぁ…………? うぉっ! 何だこりゃ? 何でこんなに破けてやがる」
 鷹見警部はスーツの上着の背中部分を見て驚いている。まるで、今気付いたみたいに……。
 改めて、カミラさんと男の方を見る。カミラさんが押しているからか、二人が元々戦っていた場所から、かなり離れた位置にいる。違和感の正体はそこに向かう途中にあった。
 建物内に均等に配置されている柱、男が後退しながら通った何本ものそれをよく見ると、柱の所々が
 早歩きでカミラさんと男に近付きながら、周りを懐中電灯で照らして確認する。
「おい? どうした?」
 後ろから着いてきた鷹見警部が声を掛けてくるが、返している余裕がない。
「ない、どこにもない……」
「ない? 何がだ?」
 工事現場の何処を探しても、柱の欠けた部分に合いそうなコンクリート片は見当たらない。最初からこうだった可能性も考えたが、俺がここに入った時に思った、ほぼ完成して見えた工事現場と今の状況は掛け離れていた。
 カミラさんと男をもう一度確認すると、攻撃を避けて、何度目かの蹴りが命中していた。男はよろけるが、気にした様子もなく、カミラさんに対して右腕を振るう。次も右腕、その次も右腕、そしてゆっくりと、拳を握ったままの左腕が動き始め……。
「カミラさん、伏せて!!」
 一つの可能性に思い当たり、咄嗟に叫ぶ。もう少し、早く気付けば良かった。カミラさんが鷹見警部を助けた時、後ろから男に服を掴まれたにも関わらず、鷹見警部が痛そうにしてたのはカミラさんに引っ張られた右肩だけだった。
 どういう原理かは分からないが、あの男は触った物を
 工事現場の何処にも見当たらない柱の欠けた一部、男が動かさない拳を握ったままの左腕、そして無駄に大振りな右腕の攻撃。
 俺の叫びに、男の攻撃を軽く避けようとしていたカミラさんが反応する。
「左手にコンクリート片が握ら…………」
 俺の二度目の叫びは、男が振るった左腕の音に掻き消された。その手に握られたコンクリート片が、男の凄まじい力で投擲され、まるでマシンガンでも撃ち込まれたように、辺りに轟音を響かせた。
「…………っ!? あれ?」
 その音に思わず目を閉じ、頭を守るように両腕を前に出したが、どれだけ待っても、覚悟していた痛みは襲ってこない。
 恐る恐る目を開ける。そこには……。
「なっ!」
 俺たちを庇うように、大きく両腕を広げた状態でこちらを向くカミラさんが目の前に立っていた。
「カミラさん!!!!」
「……………………」
 俺の呼び掛けに対して、カミラさんからは何の反応も返ってこない。

 やがて、動きを止めていた彼女はゆっくりと……。
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