愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの

文字の大きさ
90 / 127
三章

突然

しおりを挟む
事件が起きたのは、それからすぐのことだった。


「……?」


自室で本を読んでいた私は、何だか屋敷が騒がしくなっていることに気が付いた。
部屋の外ではドタドタと使用人たちの足音が響き、集中して本を読むことも出来ない。
こんなのはハッキリ言って異常だ。


(何かあったのかしら……?)


気になった私は席を立ち、部屋の外へと出た。


扉を開けると、深刻な顔で話し込んでいる数人の使用人の姿が目に入った。
私は彼らに近付いて声をかけた。


「ねぇ、何かあったの?」
「お、お嬢様……!」


私の声に使用人たちが振り返った。


「何だか邸が騒がしいわね、何かあったのかしら?」
「……」


優しい口調で尋ねてみるも、言いづらいことなのかなかなか話そうとしない。


(そんなに重大なことなの?私に言えないほど……)


「何かトラブルがあったのなら隠さず言ってほしいの。私はこの公爵家の一人娘なんだから」
「セシリア様……」


真剣な眼差しで彼らをじっと見つめると、ようやく一人の使用人が重い口を開いた。


「実は…………旦那様がお倒れになったのです」
「……お父様が?」


父親が倒れたと聞いて、私の思考は停止した。


(倒れたですって?あのお父様が?)


頭がまるで追い付かない。
だってお父様は若い頃それはそれは立派な騎士だったし、前世を含めて倒れたことなんて一度も……。


「……今すぐ、お父様の部屋へ様子を見に行くわ」
「はい、お嬢様」


私は数人の侍女を引き連れて父親が眠っている部屋へと向かった。




***



「……お父様」


ベッドの上に横たわる父親は、普段の姿からは想像もつかないくらい弱って見えた。
眠っているのか、呼んでも返事は返ってこない。
そんな父親を見ていると、何だか急に心臓がギュッと締め付けられた。


(どうしてこんなことに……)


執務室の前を後にしてからの数時間に一体何があったのか。
思い当たる節が無いこと無いが……。


「……お父様は、普段から体調をよく崩していたのかしら?」
「い、いえ……時々頭痛を催されることはありましたが、こんな風に倒れられたのは初めてで……」
「そう……」


その後、すぐに主治医がお父様の診察をした。
しかし、結局お父様がこうなった原因は分からないとのことだった。


(お父様……)


医者にも原因が分からないだなんて。
よっぽど深刻な病気なのかもしれない。


(…………私がお父様のことを心配する日が来るなんてね)


ふとそんなことを思った。
そのことに対して驚いている自分がいる。


お父様は私にとって、決して良い父親とは言えない人だったからだ。
いつだって私に無関心で、お飾りの妻になったときだって特に何もしてくれなかった。
だからこそ、あの人がどうなろうとかまわないとこれまでずっと思っていた。
しかし、いざこんな風になると全く別のことを考えていたことに驚きを隠せない。


(……やっぱり、血の繋がった父親が死ぬのは放っておけないのね)


もうこうなったら何が何でも父親を助けてやろう。
それで無事に回復したら高価な宝石でもねだってやろう。


(一生私に頭が上がらないようにさせてやるわ)



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

私を見ないあなたに大嫌いを告げるまで

木蓮
恋愛
ミリアベルの婚約者カシアスは初恋の令嬢を想い続けている。 彼女を愛しながらも自分も言うことを聞く都合の良い相手として扱うカシアスに心折れたミリアベルは自分を見ない彼に別れを告げた。 「今さらあなたが私をどう思っているかなんて知りたくもない」 婚約者を信じられなかった令嬢と大切な人を失ってやっと現実が見えた令息のお話。

本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~

なか
恋愛
 私は本日、貴方と離婚します。  愛するのは、終わりだ。    ◇◇◇  アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。  初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。  しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。  それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。  この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。   レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。    全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。  彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……  この物語は、彼女の決意から三年が経ち。  離婚する日から始まっていく  戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。  ◇◇◇  設定は甘めです。  読んでくださると嬉しいです。

【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

【完結】愛してました、たぶん   

たろ
恋愛
「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。 「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。

【完結】さよならのかわりに

たろ
恋愛
大好きな婚約者に最後のプレゼントを用意した。それは婚約解消すること。 だからわたしは悪女になります。 彼を自由にさせてあげたかった。 彼には愛する人と幸せになって欲しかった。 わたくしのことなど忘れて欲しかった。 だってわたくしはもうすぐ死ぬのだから。 さよならのかわりに……

処理中です...