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本編
2 王と寵姫
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~マルガレーテ視点~
「陛下、失礼します」
ある日の朝。
私はノックをして陛下の部屋へと入った。
ここへ来るのは随分と久しぶりだった。
結婚してからというもの、陛下が私の元へ来たことは一度も無い。
彼は仕事をしないため、公務で顔を合わせることも無く、もう何週間も会っていなかった。
そのせいか、何だか妙に緊張してしまう。
「――陛下」
中にいたのは陛下だけではなく、寵姫であるリリーも一緒だった。
陛下は部屋へ入ってきた私を見て不愉快だとでも言わんばかりに眉をひそめた。
「一体何だ?せっかく愛するリリーと一緒にいたのにお前が来たせいで雰囲気が壊れたではないか」
「……」
こんな暴言を吐かれるのはいつものことだった。
陛下は寵姫であるリリーだけを愛し、私を蔑ろにする。
そんな人の寵愛など欲しいとも思わないから別にかまわないが。
(……言いたいことをハッキリと言うのよ。このままでは国が滅茶苦茶になるわ)
陛下の侮蔑の視線と、リリーの馬鹿にするような眼差しに何とか耐えた私は口を開いた。
「……陛下、もうドレスや宝石を手当たり次第に買うのはおやめになってください」
私は陛下を真っ直ぐに見つめてそう言った。
(貴方も一国の王なら分かるでしょう?どうか考え直して!)
しかし、そんな私の切実な願いは彼には届かなかったようだ。
「何故だ?」
嫌いな私に注意されたのが気に障ったのか、陛下の顔はさらに険しくなった。
先ほどよりもずっと不機嫌そうだ。
(どうして分からないのかしら……)
これが王とは何と情けない。
今すぐにでも彼を王座から引きずり下ろしてやりたいという気持ちを必死で抑え、何とか冷静になった。
ここで引くわけにはいかない。
何としてでも理解してもらわなければいけなかった。
「陛下、もう王家には高価なドレスや宝石を買えるだけのお金が無いのです」
「何だと!?前に確認したときはあんなにあったではないか!」
陛下は私の言葉に狼狽えた。
彼の反応は当然だろう。
お金が無ければ愛する寵姫に贈り物も出来ないし、今の悠々自適な暮らしも崩壊してしまう可能性があるからだ。
(……こんなときでも自分たちの心配しかしないのね)
国民や臣下たちのことなど全く気にも留めないこの男に嫌気が差す。
彼にとって愛する人はリリーただ一人。
それ以外の人間はどうなろうとかまわないのだろう。
(先王陛下はあれほど素晴らしい方だったのにどうして……)
何故このような愚かな男を国王にしてしまったのだろうか。
いくら他に後継者がいなかったとはいえ他の選択肢もあったのではないか。
そうすれば私がこんなに辛い思いをすることも無かったのに。
今になってそんなことを考えるだけ無駄だが。
「それももう全て使ってしまったのです!お金は全てそこにいるリリー様のドレスや宝石に消えました!」
私は陛下に対して力強い声でハッキリとそう言った。
「な、何だって……!?金が……無い……だと!?」
その言葉に彼はかなりショックを受けたようで、椅子に座ったまま俯いた。
どうやら事の深刻さが伝わったようだ。
(……やっと分かってくれたのね)
このとき、少しだけ陛下に対する希望が私の中で芽生えた。
もしかしたら彼が変わってくれるのではないかと。
仕事はしてくれなくとも、散財はやめてくれるのではないか。
――ほんの少しでも国民に目を向けてくれるのではないか。
しかし、そんな私の希望は粉々に打ち砕かれた。
「陛下、失礼します」
ある日の朝。
私はノックをして陛下の部屋へと入った。
ここへ来るのは随分と久しぶりだった。
結婚してからというもの、陛下が私の元へ来たことは一度も無い。
彼は仕事をしないため、公務で顔を合わせることも無く、もう何週間も会っていなかった。
そのせいか、何だか妙に緊張してしまう。
「――陛下」
中にいたのは陛下だけではなく、寵姫であるリリーも一緒だった。
陛下は部屋へ入ってきた私を見て不愉快だとでも言わんばかりに眉をひそめた。
「一体何だ?せっかく愛するリリーと一緒にいたのにお前が来たせいで雰囲気が壊れたではないか」
「……」
こんな暴言を吐かれるのはいつものことだった。
陛下は寵姫であるリリーだけを愛し、私を蔑ろにする。
そんな人の寵愛など欲しいとも思わないから別にかまわないが。
(……言いたいことをハッキリと言うのよ。このままでは国が滅茶苦茶になるわ)
陛下の侮蔑の視線と、リリーの馬鹿にするような眼差しに何とか耐えた私は口を開いた。
「……陛下、もうドレスや宝石を手当たり次第に買うのはおやめになってください」
私は陛下を真っ直ぐに見つめてそう言った。
(貴方も一国の王なら分かるでしょう?どうか考え直して!)
しかし、そんな私の切実な願いは彼には届かなかったようだ。
「何故だ?」
嫌いな私に注意されたのが気に障ったのか、陛下の顔はさらに険しくなった。
先ほどよりもずっと不機嫌そうだ。
(どうして分からないのかしら……)
これが王とは何と情けない。
今すぐにでも彼を王座から引きずり下ろしてやりたいという気持ちを必死で抑え、何とか冷静になった。
ここで引くわけにはいかない。
何としてでも理解してもらわなければいけなかった。
「陛下、もう王家には高価なドレスや宝石を買えるだけのお金が無いのです」
「何だと!?前に確認したときはあんなにあったではないか!」
陛下は私の言葉に狼狽えた。
彼の反応は当然だろう。
お金が無ければ愛する寵姫に贈り物も出来ないし、今の悠々自適な暮らしも崩壊してしまう可能性があるからだ。
(……こんなときでも自分たちの心配しかしないのね)
国民や臣下たちのことなど全く気にも留めないこの男に嫌気が差す。
彼にとって愛する人はリリーただ一人。
それ以外の人間はどうなろうとかまわないのだろう。
(先王陛下はあれほど素晴らしい方だったのにどうして……)
何故このような愚かな男を国王にしてしまったのだろうか。
いくら他に後継者がいなかったとはいえ他の選択肢もあったのではないか。
そうすれば私がこんなに辛い思いをすることも無かったのに。
今になってそんなことを考えるだけ無駄だが。
「それももう全て使ってしまったのです!お金は全てそこにいるリリー様のドレスや宝石に消えました!」
私は陛下に対して力強い声でハッキリとそう言った。
「な、何だって……!?金が……無い……だと!?」
その言葉に彼はかなりショックを受けたようで、椅子に座ったまま俯いた。
どうやら事の深刻さが伝わったようだ。
(……やっと分かってくれたのね)
このとき、少しだけ陛下に対する希望が私の中で芽生えた。
もしかしたら彼が変わってくれるのではないかと。
仕事はしてくれなくとも、散財はやめてくれるのではないか。
――ほんの少しでも国民に目を向けてくれるのではないか。
しかし、そんな私の希望は粉々に打ち砕かれた。
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