愛する夫にもう一つの家庭があったことを知ったのは、結婚して10年目のことでした

ましゅぺちーの

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11 朝

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部屋に戻った私は、久しぶりに泣いた。
私だって全く辛くなかったというわけではない。
彼の前では明るく振る舞っていたが、本当は辛かった。苦しかった。


この十年間、オリバー様との結婚生活で心の底から幸せだと感じたことは一度も無かった。
むしろ、いつまで経っても私を見てはくれない彼に私の心は枯れ果てていくばかりだ。
何故私を愛してはくれないのか、何故そんなにも無関心なのか。


何度も何度も彼を呪い、自分の愚かさを嘲笑った。


レイラが定期的にここへ来てくれなかったら、きっと私は精神を病んでしまっていただろう。
それほどに毎日が辛い日々だった。


(こんなはずじゃなかったのに……)


私は弱い。
愛も得られなければ、オリバー様から離れることも出来ないのだ。
無様で惨めで、本当にどうしようもない女だと自分でも思う。


「……」


ひとしきり泣いた後、今度は唐突に眠気がやってきた。


(何だか眠いな……)


時刻はまだ夜の十時だ。
いつもなら部屋でゆっくりしている時間だ。
しかし私は猛烈に襲ってくる眠気に勝つことが出来ず、ゆっくりと瞳を閉じた。


――ああ、いっそこのまま永遠の眠りに就けたらいいのに。
そんなことを、心のどこかで思いながら。




***




そしていつものように普段と全く変わらない朝がやって来た。
窓からは日の光が差し込んでいて、部屋にある寝台を照らしている。
そんな気持ちの良い朝にもかかわらず、私の心は昨夜から沈んだままだった。
こんな気分になるのは初めてではない。
十年前のあの日からずっと同じだ。


(……起きよう)


どうやら昨日は布団もかけずにそのまま寝てしまっていたようだ。
私はゆっくりと寝台から上半身だけを起こした。


この広いベッドを一人で使ってもう十年目になる。
オリバー様がここで寝たことは一度も無い。
普通なら夫が妻の部屋へ行くものだが、彼はいつも私を自室に呼びつけては強引に事に及んでいた。
そして目覚めたら既に彼はいない。
そんな日々の繰り返しだった。


起き上がった私は、一人で着替えを始めた。
手伝ってくれる侍女はもちろんいない。
私は公爵夫人としての扱いを受けるに値しない人間なのだから当然のことだった。


(そうよ……私は旦那様からの愛も得られない惨めな公爵夫人なのだから……)


むしろ明らかに自分を疎ましく思っている人がずっと傍にいるなど、私からしても御免である。
そう考えると、どうも彼女たちを叱る気にはなれなかった。
このままの方が良いのではないかと、心のどこかで思っている自分がいるから。


一人での着替えを終えた私は、部屋を出た。
それから廊下を歩いていた一人の侍女を捕まえてオリバー様のことを尋ねた。


「旦那様はどちらへ?」
「仕事へ向かわれました」
「そう……」


侍女は素っ気なくそれだけ言うと、挨拶も無しに去って行く。


久しぶりに帰って来たのだから朝食を共にと思ったが、そうもいかないようだ。
オリバー様がいないということは、今日も私はあの広い食堂を一人で使わなければいけないということである。


(寂しい……)


伯爵邸にいた頃とはあまりに違うせいか、ついついそんなことを思ってしまった。


私の想像していた結婚生活はこんなのではなかった。
どうしてこうなったのか自分でも分からない。
少なくとも、私に何か原因があることは間違いなさそうだが。


そう思いながらも、私は近くにあった窓から外の景色を眺めた。
そこからはちょうど王都の街並みが見えた。


(王都……)


昔はよく家族や友人と出掛けたものだ。
今思うと懐かしい。
公爵邸へ来てからあの頃に戻りたいと何度か思ったことがあった。
そんな願いが叶うはずもないので、口に出したことは一度も無かったが。


久しぶりに見る王都は、ここからでも人で賑わっていることが伝わってきた。
そんな活気に溢れた街を見ていると、私の中でとある考えが浮かんでくる。


(………………そうだ)


あることを思い付いた私は、誰にも気付かれないように口元に笑みを浮かべて再び自室へと戻った。


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