愛する夫にもう一つの家庭があったことを知ったのは、結婚して10年目のことでした

ましゅぺちーの

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17 夫婦喧嘩

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侍女長との喧嘩から数日後。
今度はオリバー様が私の元へとやって来た。


「おい!」


彼は荒々しい様子で私の部屋の扉を開けた。


(あら、今まで一度も私の部屋に来てくれたことなんて無かったのに一体どうしたのかしら?)


明らかにいつもと違うオリバー様を見た私はクスクス笑った。


「おい、何を笑っている?」
「いえ、何でもありませんわ」


オリバー様は不機嫌な顔になったが、すぐに厳しい表情で私を問い詰めた。


「お前、近頃屋敷で好き勝手しているらしいな?」
「何のことでしょう?」


どうやらあの侍女長は本当にオリバー様に言いつけたようだ。
何を言ったのかは知らないが、卑怯である。
私がオリバー様を頼れないことを知っていてそのようなことをしているのだから。


(私が好き勝手しているって?)


むしろ今まで好き勝手していたのは使用人たちの方ではないか。
もしかすると彼はそれを知らないのかもしれないが、今となってはもうどうだって良い。
知ってほしいとも思わないから。


「しらばっくれるな!お前が最近邸で大暴れして使用人たちを困らせていると侍女長から報告があった!」
「……」


あの侍女長、いくら何でも誇張しすぎではないだろうか。


(いくら私に言い負かされたのが悔しいからって……)


私は別に間違ったことなど何一つ言っていない。
ただの侍女長の逆恨みである。


「旦那様、私は暴れてなどおりません」
「侍女長と複数の使用人たちの証言がある。言い逃れは出来まい」
「……」


オリバー様はよほど彼らを信用しているようだ。


(自分の目で確かめもしていないくせに勝手に決めつけて……)


視野が狭いとはまさにこの人のことを言うのではないだろうか。
本当に私は何故、こんな人に恋をしていたのか。


これはオリバー様と結婚してから分かったことだが、彼は決して優秀な公爵閣下というわけではなかった。
性格に難があり、聞くところによると仕事も普通に遅いらしい。
今までずっとそれをずば抜けた容姿でカバーしていたというわけだ。


「私はただ一人の侍女を叱っただけですわ」
「叱っただけだと?」
「はい、食事を部屋に持って来てくれないかと頼んだところ忙しいから自分でやってくれと言われたので」
「な、何……!?」


それを聞いたオリバー様は衝撃を受けたかのような顔をした。


(どうやら本当に何も知らなかったみたいね)


使用人たちの件に関しては彼はおそらく無関係だろう。
しかし、そんなオリバー様を見ても私の心が揺れることは無かった。
むしろ、私にとって一番の加害者は彼だ。
オリバー様が私を蔑ろにしなければ、少なくとも彼らも少しは私を公爵夫人として尊重してくれたはずだから。


「あ、アイツらがそんなことするわけがないだろ!お前が嘘を言っているんだ!」
「嘘などついておりません、旦那様」


別に一生知らなくてもいいことだったが、この状況を何とか乗り切るためには真実を言うほかなかった。


(……何でこんなに情けなく見えるのかしら)


オリバー様は俯きながら何かをボソボソと言っている。
社交界で見る完璧な貴公子の姿はどこに行ったんだろう。
使用人を盲信しすぎていて、事実確認をしようともしない彼に呆れて言葉が出ない。


「別に信じてくださらなくても結構です。そんなもの望んでいませんから」
「……何だと?」


訝し気な顔をする彼に、私はハッキリと告げた。


「――私は、旦那様からの信頼など望んでいないと言っているのです」
「……何?」


彼の瞳が大きく揺れた。
おそらく動揺しているのだろう。
今までずっと自分に従順だった妻が突然素っ気なくなって。


「貴方がいつまで経っても私を信用してくださらないので、私も貴方を信用しないことにしたんです。だからといって別に何ともないでしょう?私たちは元々そのような関係ではありませんから」
「どういう意味だ?」
「私たちは普通の夫婦ではないと、そう言っているのです。自覚ありませんか?」


そう、私たちは普通の夫婦では無かった。
今となっては褥を共にすることも無いのでもしかすると夫婦ですらないのかもしれない。
茫然とするオリバー様に、私は冷たい口調で言い放った。


「分かったなら早く出て行ってくれませんか?私もすることがあるので」
「お前……」


オリバー様は何か言いたそうな顔をしていたが、結局何も言うことなく部屋を出て行った。
彼がいなくなった部屋で私はふぅと一息ついた。


(何とか打破出来たようね……)


いつも通りに振る舞ってその場をやり過ごしても良かったが、それだけは今の私のプライドが許さなかった。
それに、あんなオリバー様の姿を見ることが出来たのだから後悔はない。


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