愛する夫にもう一つの家庭があったことを知ったのは、結婚して10年目のことでした

ましゅぺちーの

文字の大きさ
45 / 113

45 変わった女 ?視点

しおりを挟む
深い夜。
冷たい夜の風が勢い良く吹き抜けた。


「……」


俺は今とある場所にいた。


ここへ来るのは本当に久しぶりだった。
今や誰も使っていない、古びた宮殿。
昔、実の父がお前たち卑しい血筋の母子にはここがお似合いだと言って俺と母に与えた場所だった。
その父はもう九年前に死んでいるが。


(……嫌なことを思い出してしまったな)


頭の中から記憶をかき消すように首をブンブンと横に振った。
そんな俺の目の前には一つの墓石が立っている。


「……母上」


俺は今日、亡き母の墓参りに来ていた。
ここは母との思い出が詰まった場所だったから、あえてここに墓を建てたのだ。


「……元気でしたか」


――ずっと一人ぼっちで寂しくなかったですか。


「……」


当然、答えは返って来ない。
ここにいると、幼い頃に亡くなった母との思い出が蘇ってくる。


誰よりも優しかった母。
父が気まぐれで手を出さなければ、もっと長生き出来たはずなのに。


(……貴方は、俺のことを恨んでいないんですか)


久々に会いに来たというのに、こんな捻くれたことしか言えない自分が嫌になる。


この場所には母の全てが詰まっている。
自由に外へ出ることも許されず、目立たずにひっそりと生きるしかなかった俺と母。
そんな生活が嫌で全てを捨てた。


しかし、念願叶ってようやく自由を手に入れたというのに、何故だか気持ちは沈んだままだ。
自分は一体何がしたいんだろうか。
ふとしたときにそう考えることもしばしばあった。


密かに胸に抱いていた疑問。
この答えを見つけられる日は、いつか来るのだろうか。


墓に花を供えてそっと手を合わせた俺は、母が眠っているこの地から背を向けて歩き出した。


それからしばらく歩き続けて、近くにある宿屋へと到着した。


「あら、お帰りなさい。今回は長く滞在するのかしら?」
「ああ、一応そのつもりだ」


宿の女主人が気さくに話しかけてきた。
俺は軽く返事をしてそのまま自分の部屋へと入った。
着ていたローブを脱ぎ捨て、ベッドに寝転がる。


「……」


何もすることが無い。
暇で仕方が無いからとりあえず今日あったことを振り返ってみる。
変わり映えしない日々だろうと思っていたが、一つだけいつもと違うことがあった。


(そういえば……)


今日、俺は面白い女に出会った。
複数人の男を相手に、立ち向かっていく強気な女。
元々他人に興味の無い自分だが、あの女には何故だか強く関心を抱いたのを覚えている。


そして気付けば間に入っていた。
助けるつもりなど無かったのに。


何故赤の他人のためにあそこまで出来るのか、興味が湧いた。
下手すれば男たちによって酷い目に遭わされていたかもしれないだろう。


あの力強い茶色い瞳は今でも鮮明に思い出せる。
あのような目が出来る人間はそうはいない。
思い出せば出すほど興味が湧いてくる。


(…………まぁ、どうせもう二度と会うことは無い)


そうだ、俺が彼女に関心を抱いたところで俺と彼女は赤の他人でしかない。
考えているだけ無駄だ。


俺はさっきから自身の頭を占めているその女のことを早く忘れようと、ゆっくりと目を閉じて眠りに就いた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

八年間の恋を捨てて結婚します

abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。 無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。 そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。 彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。 八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。 なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。 正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。 「今度はそうやって気を引くつもりか!?」

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...