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49 面倒事 ルーク視点
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「……」
あの女が立ち去ってから一人、俺は未だに王宮の廊下に立ちすくんでいた。
俺は彼女が去って行った方向をじっと見つめた
その姿はもう見えない。
かなり急いでいるようだったからもう既に帰っているだろう。
(まさかあのときの女にもう一度会うとは……)
予期せぬ出会いだった。
もう二度と会うことは無いと、そう思っていたから。
(それにしても本当に不思議な女だな……)
知れば知るほど興味が湧いてくる。
母が亡くなって以来、誰かに心を開くことの無かった俺がだ。
そこで俺は、ついさっき見たばかりの女の姿を頭に思い浮かべた。
『もう既にご存知かもしれませんがエミリア・ログワーツと申します』
たしかに彼女はそう言っていた。
(エミリア……エミリア・ログワーツ……)
実は俺はその名前を知っていた。
当然だ、元レビンストン公爵夫人だった人なのだから。
この国にいる人間なら知らない方がおかしいだろう。
つい最近夫であったオリバー・レビンストン公爵と離婚したばかりの元公爵夫人。
その離婚劇は社交界ではかなり話題になったらしい。
俺は貴族たちの噂話に関心が無いからあまりよく知らないが。
――エミリア・レビンストン
彼女について、国民たちの間で囁かれている噂はそれほど良いものではなかった。
性格に問題があるだとか、夫に隠れて男漁りをしているだとか。
しかし、そんなのは所詮ただの噂に過ぎない。
公爵夫人を見たことも無い人間が憶測で語っているだけなのだから。
(……実にくだらない)
思い出すのは、初めてあの女を見たときのことだった。
襲われていた知らない女を逃がすために、複数の男に勇敢に立ち向かっていく姿。
(何だか……母上を見ているみたいだったな……)
俺の母もあの女のように人のために行動する人間だった。
寂れた離宮で幼い俺を生かすために必死だった母。
元々少ない自分の食事を食べさせてでも俺を長生きさせようとしていた。
そのせいで母は栄養失調で死ぬことになったが。
母親のことを考えて自然と暗い気持ちになっていたそのとき、俺はあることに気が付いた。
足を動かした拍子に床に落ちていた何かを踏んでしまったようだ。
(ん……?これは……)
床に落ちていたのは白いハンカチだった。
一体誰が落としたのだろうかと不思議に思い、手に取ってみる。
「……」
丁寧に折り畳まれていたハンカチを開くと、ログワーツ伯爵家の紋章の刺繍が見えた。
その紋章を見た俺は、思わず舌打ちしそうになった。
(……面倒なことになったな)
おそらくこれはあの女の落とし物だ。
ついさっきぶつかった拍子に落としていったのだろう。
(……どうするべきか)
本人に届けようにも、もうあの女はここにはいない。
伯爵邸に帰っている頃のはずだ。
俺は頭を抱えた。
(ログワーツ伯爵家か……)
もちろん行ったことは無い。
名前を知っているくらいで、あの女以外の伯爵家の人間とも関わったことが無い。
しかし、首都にある邸宅はここからそれほど遠くはないと聞く。
何より、他人の私物を持ったままというのは気分が悪かった。
「……」
俺は遠くに見えるログワーツ伯爵家の邸宅に視線をやってハァとため息をついた。
あの女が立ち去ってから一人、俺は未だに王宮の廊下に立ちすくんでいた。
俺は彼女が去って行った方向をじっと見つめた
その姿はもう見えない。
かなり急いでいるようだったからもう既に帰っているだろう。
(まさかあのときの女にもう一度会うとは……)
予期せぬ出会いだった。
もう二度と会うことは無いと、そう思っていたから。
(それにしても本当に不思議な女だな……)
知れば知るほど興味が湧いてくる。
母が亡くなって以来、誰かに心を開くことの無かった俺がだ。
そこで俺は、ついさっき見たばかりの女の姿を頭に思い浮かべた。
『もう既にご存知かもしれませんがエミリア・ログワーツと申します』
たしかに彼女はそう言っていた。
(エミリア……エミリア・ログワーツ……)
実は俺はその名前を知っていた。
当然だ、元レビンストン公爵夫人だった人なのだから。
この国にいる人間なら知らない方がおかしいだろう。
つい最近夫であったオリバー・レビンストン公爵と離婚したばかりの元公爵夫人。
その離婚劇は社交界ではかなり話題になったらしい。
俺は貴族たちの噂話に関心が無いからあまりよく知らないが。
――エミリア・レビンストン
彼女について、国民たちの間で囁かれている噂はそれほど良いものではなかった。
性格に問題があるだとか、夫に隠れて男漁りをしているだとか。
しかし、そんなのは所詮ただの噂に過ぎない。
公爵夫人を見たことも無い人間が憶測で語っているだけなのだから。
(……実にくだらない)
思い出すのは、初めてあの女を見たときのことだった。
襲われていた知らない女を逃がすために、複数の男に勇敢に立ち向かっていく姿。
(何だか……母上を見ているみたいだったな……)
俺の母もあの女のように人のために行動する人間だった。
寂れた離宮で幼い俺を生かすために必死だった母。
元々少ない自分の食事を食べさせてでも俺を長生きさせようとしていた。
そのせいで母は栄養失調で死ぬことになったが。
母親のことを考えて自然と暗い気持ちになっていたそのとき、俺はあることに気が付いた。
足を動かした拍子に床に落ちていた何かを踏んでしまったようだ。
(ん……?これは……)
床に落ちていたのは白いハンカチだった。
一体誰が落としたのだろうかと不思議に思い、手に取ってみる。
「……」
丁寧に折り畳まれていたハンカチを開くと、ログワーツ伯爵家の紋章の刺繍が見えた。
その紋章を見た俺は、思わず舌打ちしそうになった。
(……面倒なことになったな)
おそらくこれはあの女の落とし物だ。
ついさっきぶつかった拍子に落としていったのだろう。
(……どうするべきか)
本人に届けようにも、もうあの女はここにはいない。
伯爵邸に帰っている頃のはずだ。
俺は頭を抱えた。
(ログワーツ伯爵家か……)
もちろん行ったことは無い。
名前を知っているくらいで、あの女以外の伯爵家の人間とも関わったことが無い。
しかし、首都にある邸宅はここからそれほど遠くはないと聞く。
何より、他人の私物を持ったままというのは気分が悪かった。
「……」
俺は遠くに見えるログワーツ伯爵家の邸宅に視線をやってハァとため息をついた。
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