51 / 115
51 お礼
私に気が付くと、彼は木の上から私の立っていたバルコニーに着地した。
随分と動きが軽やかだ。
「ちょ、ちょっと!」
何故彼がここにいるのか。
まずはそれから説明してもらわないと理解が追い付かなさそうだ。
(ま、まさか王家の命令で私のことを調べてるの!?)
「ルーク、どうしてここに……」
「――忘れ物だ」
私が言い終わる前に、彼はローブの中から出した白いハンカチを私に手渡した。
「あ……」
それは私が幼い頃から大事にしている伯爵家の紋章の入ったハンカチだった。
(まさか私……あのとき落として……)
どうやらルークはそのハンカチを届けにわざわざここまで来てくれたようだった。
「あ、ありがとう……」
彼からハンカチを受け取った私は、そのことに驚きながらも礼を言った。
ルークは私が受け取るのを確認すると、返事をすることなくすぐにでもここを立ち去ろうとした。
「ちょ、ちょっと待って……!」
「……何だ?」
私はバルコニーから飛び降りようとしたルークを慌てて止めた。
「ここ、二階だけど……」
私の部屋は二階に位置している。
地面までの距離は六、七メートルはあるだろう。
(そんなところから飛び降りるだなんて、危なくないの……?)
それを不安に思った私は、咄嗟に彼を制止した。
彼の立場を考えると、たしかに正面からの出入りは難しいだろう。
しかしここまでしてもらったのに、怪我を負わせるわけにはいかない。
「問題ない。こういうのは慣れているからな」
「ほ、本当に……?」
それでもまだ不安げな表情をする私に、ルークは言った。
「平気だ。見てろよ」
「……?」
彼はそれだけ言うと、バルコニーから飛び降りた。
そして有言実行、上手に地面に着地してみせた。
「お、おぉ……!」
その光景を見ていた私は、つい感嘆の声を上げてしまった。
それから私は少しの間去って行く彼の後ろ姿を見ていた。
(私、ルークにしてもらってばっかりね……)
助けてもらった上に大事なものまで届けてくれて。
何だか彼に申し訳ない。
そんな思いを抱いていた私は、このときあることを思い付いた。
(そうだわ!)
私はバルコニーの手すりに乗り、傍に生えていた木に足を掛けた。
ドレスを着ていたため、多少は動きづらかったが出来ないほどではない。
そしてするすると木を伝って降り始めた。
私にとってこれくらいは朝飯前だ。
幼い頃からやってきたことだったから。
「ルーク!」
「……!?お前、何でここに」
庭を歩いていたルークは、すぐ後ろに立っていた私を見て目を見開いた。
(……正面の入り口から出て来たのかと思っているようね)
しかしそれは時間的に不可能なことだ。
「あそこの木を伝って下りて来たのよ」
「……」
ルークは驚きすぎて石のように固まっていた。
私は彼に話しかけた。
「ねぇルーク、いや、ルークさんって呼ぶべきかな……?」
「別に何だって良い」
「じゃあ、ルークで!ねぇルーク、私あなたに是非お礼がしたいの!」
「……お礼?」
”お礼”という言葉に彼は眉をひそめた。
「だから、今度一緒に食事にでも行きましょう!」
「……」
「私、美味しいお店を知っているのよ!もちろん私のおごりで」
「……冗談だろ?」
彼は信じられないものを見るかのような目で私を見た。
「もう!冗談なんて言うわけないでしょ!私は本気なんだから!」
「……」
いたって真剣であることを伝えると、彼は固まった。
(……もしかして、不快だったかしら?)
良かれと思って言ったことだったが、こういうのを嫌だと感じる人間も当然いるだろう。
慌てた私はすぐに付け加えた。
「あ、でも嫌なら無理にとは言わないわ!強要するつもりは無いから!私としては来てくれたらそれで嬉しいけど……」
「……」
ルークは黙ったままだった。
じっと何かを考え込んでいるように見える。
悩んでいるのだろうか。
「もし来てくれるなら、一週間後の十一時に王都の広場で落ち合いましょう!」
「お、おい……」
私は彼にそれだけ伝えて、正面の出入り口から伯爵邸へと入って行った。
随分と動きが軽やかだ。
「ちょ、ちょっと!」
何故彼がここにいるのか。
まずはそれから説明してもらわないと理解が追い付かなさそうだ。
(ま、まさか王家の命令で私のことを調べてるの!?)
「ルーク、どうしてここに……」
「――忘れ物だ」
私が言い終わる前に、彼はローブの中から出した白いハンカチを私に手渡した。
「あ……」
それは私が幼い頃から大事にしている伯爵家の紋章の入ったハンカチだった。
(まさか私……あのとき落として……)
どうやらルークはそのハンカチを届けにわざわざここまで来てくれたようだった。
「あ、ありがとう……」
彼からハンカチを受け取った私は、そのことに驚きながらも礼を言った。
ルークは私が受け取るのを確認すると、返事をすることなくすぐにでもここを立ち去ろうとした。
「ちょ、ちょっと待って……!」
「……何だ?」
私はバルコニーから飛び降りようとしたルークを慌てて止めた。
「ここ、二階だけど……」
私の部屋は二階に位置している。
地面までの距離は六、七メートルはあるだろう。
(そんなところから飛び降りるだなんて、危なくないの……?)
それを不安に思った私は、咄嗟に彼を制止した。
彼の立場を考えると、たしかに正面からの出入りは難しいだろう。
しかしここまでしてもらったのに、怪我を負わせるわけにはいかない。
「問題ない。こういうのは慣れているからな」
「ほ、本当に……?」
それでもまだ不安げな表情をする私に、ルークは言った。
「平気だ。見てろよ」
「……?」
彼はそれだけ言うと、バルコニーから飛び降りた。
そして有言実行、上手に地面に着地してみせた。
「お、おぉ……!」
その光景を見ていた私は、つい感嘆の声を上げてしまった。
それから私は少しの間去って行く彼の後ろ姿を見ていた。
(私、ルークにしてもらってばっかりね……)
助けてもらった上に大事なものまで届けてくれて。
何だか彼に申し訳ない。
そんな思いを抱いていた私は、このときあることを思い付いた。
(そうだわ!)
私はバルコニーの手すりに乗り、傍に生えていた木に足を掛けた。
ドレスを着ていたため、多少は動きづらかったが出来ないほどではない。
そしてするすると木を伝って降り始めた。
私にとってこれくらいは朝飯前だ。
幼い頃からやってきたことだったから。
「ルーク!」
「……!?お前、何でここに」
庭を歩いていたルークは、すぐ後ろに立っていた私を見て目を見開いた。
(……正面の入り口から出て来たのかと思っているようね)
しかしそれは時間的に不可能なことだ。
「あそこの木を伝って下りて来たのよ」
「……」
ルークは驚きすぎて石のように固まっていた。
私は彼に話しかけた。
「ねぇルーク、いや、ルークさんって呼ぶべきかな……?」
「別に何だって良い」
「じゃあ、ルークで!ねぇルーク、私あなたに是非お礼がしたいの!」
「……お礼?」
”お礼”という言葉に彼は眉をひそめた。
「だから、今度一緒に食事にでも行きましょう!」
「……」
「私、美味しいお店を知っているのよ!もちろん私のおごりで」
「……冗談だろ?」
彼は信じられないものを見るかのような目で私を見た。
「もう!冗談なんて言うわけないでしょ!私は本気なんだから!」
「……」
いたって真剣であることを伝えると、彼は固まった。
(……もしかして、不快だったかしら?)
良かれと思って言ったことだったが、こういうのを嫌だと感じる人間も当然いるだろう。
慌てた私はすぐに付け加えた。
「あ、でも嫌なら無理にとは言わないわ!強要するつもりは無いから!私としては来てくれたらそれで嬉しいけど……」
「……」
ルークは黙ったままだった。
じっと何かを考え込んでいるように見える。
悩んでいるのだろうか。
「もし来てくれるなら、一週間後の十一時に王都の広場で落ち合いましょう!」
「お、おい……」
私は彼にそれだけ伝えて、正面の出入り口から伯爵邸へと入って行った。
あなたにおすすめの小説
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
【本編完結】初恋のその先で、私は母になる
妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
第19回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました。読者の皆様のおかげです!本当ありがとうございます。
王宮で12年働き、気づけば28歳。
恋も結婚も遠いものだと思っていたオリビアの人生は、憧れの年下公爵と一夜を共にしたことで大きく動き出す。
優しく守ろうとする彼。
けれどオリビアは、誰かに選ばれるだけの人生を終わらせたいと思っていた。
揺れる想いの中で、彼女が選んだのは――
自分の足で立ち、自分の未来を選ぶこと。
これは、一人の女性が恋を通して自分を取り戻し、母として、そして一人の人間として強くなっていく物語。
※表紙画像はAI生成イラストをつかっています。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
八年間の恋を捨てて結婚します
abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。
無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。
そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。
彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。
八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。
なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。
正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。
「今度はそうやって気を引くつもりか!?」
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
【第19回恋愛小説大賞】で奨励賞を頂きました。投票して下さった皆様、読んで下さった皆様、本当にありがとうございました(^^)
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
家出を決行した結果
棗
恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。
デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。
自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。
※なろうさんにも公開しています。