愛する夫にもう一つの家庭があったことを知ったのは、結婚して10年目のことでした

ましゅぺちーの

文字の大きさ
53 / 115

53 成長

「ルーク!好きなだけ食べていいからね!」
「……あぁ」


待ち合わせ場所である王都の広場から十分ほど歩いた私たちは、既にお店へと到着していた。
私とルークが今いるのは特別に用意された個室だ。


(少なくとも、社交界で噂になることは無さそうね)


店主が気を遣ってくれたようだ。
ふぅと一息ついたとき、向かいに座っていたルークが話しかけてきた。


「――お前」
「うん?」
「王都にはよく来るのか?」


彼は頬杖をついてこちらをじっと見つめていた。


(……ルークが私に質問するだなんて)


もしかして、興味を持ってもらえたのだろうか。
確信は無かったけど、何だか嬉しい。


「それがね、全ッ然なのよ!」
「……」


ハァとため息をついてそう言った私に、彼はポカンとした顔になった。


「私ね、元々公爵夫人だったんだけど……夫は本当に厳しい人でなかなか外出出来なかったのよね」
「ずっと公爵邸にいたってことか?」
「うん、舞踏会とかお茶会に行くとき以外はほとんどの時間を公爵邸で過ごしてたなぁ」
「そう、か……」


十八歳からの十年間を私はそうやって過ごしてきた。
今思えば本当につまらない日々だったなと思う。


(もっと早く離婚しておくべきだったわね……今さらそんなこと言っても遅いけど……)


こうなったのは全て愚かだった私のせいである。


「よく十年間耐えてたな、お前。俺だったら三日で逃げてる」


そんなことを口にした彼に、私は思わず声を出して笑ってしまった。


「本当にね!自分を褒めてあげたいくらいだわ!でも、デメリットばかりじゃなかったのよ?」
「……それはどういう意味だ?」
「たしかに辛い日々だったけれど、そのおかげで成長出来たなって感じることもあってさ……」
「成長出来ただと……?」


ルークが驚いたように目を見張った。


「うん!公爵夫人としての仕事をこなすためのスキルとか、どんなことにも耐えられる強い心力とか……色々!」
「……」


そう、オリバー様との結婚生活は本当に辛い日々だったが結果的には悪いことばかりではなかった。
それだけが唯一の救いだった。
そんな風に考えることであの十年間は無駄じゃなかったのだと、そう思えるから。


「ルークは普段何をして過ごしているの?」
「俺は……ただの旅人だよ」


彼をずっと王家の諜報員だと思っていた私は、少しだけ驚いた。


「あら、じゃあ世界各地を旅してて今回はたまたまこの国に来てたってこと?」
「いや……俺、元々ここの出身なんだ」


(この国の出身……)


それを聞いた私は妙に納得した。


もしかすると、以前から感じている既視感はそのせいだったのかもしれない。
街を歩いているときにたまたま見かけたとか。
これほどの美男子なら、顔を凝視してしまっていてもおかしくはない。


「この国に知り合いがいてさ……顔見せに行ってたっていうか……」
「なるほど、そういうことだったのね!」
「……あぁ」


納得がいくと同時に、もう一つ別の疑問が浮かび上がってきた。


(……なら、どうしてルークは王宮にいたのかしら?)


ただの旅人が王宮に入る権限を持っているだなんて。
少なくとも、彼の身分は平民なはずだ。


しばらくじっと考え込んでいた私だったが、そこでちょうど料理が運ばれてきた。


「お待たせいたしました」
「うわぁ……とっても美味しそう……!」


ここは一ヶ月ほど前にお義姉様とエドモンドの三人で行ったお店だった。
そこで食べた味がずっと忘れられなかったのだ。


「ルーク、早く食べましょう!お腹空いてるでしょう?」
「あ、あぁ……」


ちょうどお腹が空いていた私は、すぐに目の前の料理に手を付けた。
先ほど抱いていた疑問などすっかり忘れていた。


あなたにおすすめの小説

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

【本編完結】初恋のその先で、私は母になる

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
第19回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました。読者の皆様のおかげです!本当ありがとうございます。 王宮で12年働き、気づけば28歳。 恋も結婚も遠いものだと思っていたオリビアの人生は、憧れの年下公爵と一夜を共にしたことで大きく動き出す。 優しく守ろうとする彼。 けれどオリビアは、誰かに選ばれるだけの人生を終わらせたいと思っていた。 揺れる想いの中で、彼女が選んだのは―― 自分の足で立ち、自分の未来を選ぶこと。 これは、一人の女性が恋を通して自分を取り戻し、母として、そして一人の人間として強くなっていく物語。 ※表紙画像はAI生成イラストをつかっています。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

八年間の恋を捨てて結婚します

abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。 無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。 そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。 彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。 八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。 なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。 正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。 「今度はそうやって気を引くつもりか!?」

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
【第19回恋愛小説大賞】で奨励賞を頂きました。投票して下さった皆様、読んで下さった皆様、本当にありがとうございました(^^) 「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。