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「ルーク!好きなだけ食べていいからね!」
「……あぁ」
待ち合わせ場所である王都の広場から十分ほど歩いた私たちは、既にお店へと到着していた。
私とルークが今いるのは特別に用意された個室だ。
(少なくとも、社交界で噂になることは無さそうね)
店主が気を遣ってくれたようだ。
ふぅと一息ついたとき、向かいに座っていたルークが話しかけてきた。
「――お前」
「うん?」
「王都にはよく来るのか?」
彼は頬杖をついてこちらをじっと見つめていた。
(……ルークが私に質問するだなんて)
もしかして、興味を持ってもらえたのだろうか。
確信は無かったけど、何だか嬉しい。
「それがね、全ッ然なのよ!」
「……」
ハァとため息をついてそう言った私に、彼はポカンとした顔になった。
「私ね、元々公爵夫人だったんだけど……夫は本当に厳しい人でなかなか外出出来なかったのよね」
「ずっと公爵邸にいたってことか?」
「うん、舞踏会とかお茶会に行くとき以外はほとんどの時間を公爵邸で過ごしてたなぁ」
「そう、か……」
十八歳からの十年間を私はそうやって過ごしてきた。
今思えば本当につまらない日々だったなと思う。
(もっと早く離婚しておくべきだったわね……今さらそんなこと言っても遅いけど……)
こうなったのは全て愚かだった私のせいである。
「よく十年間耐えてたな、お前。俺だったら三日で逃げてる」
そんなことを口にした彼に、私は思わず声を出して笑ってしまった。
「本当にね!自分を褒めてあげたいくらいだわ!でも、デメリットばかりじゃなかったのよ?」
「……それはどういう意味だ?」
「たしかに辛い日々だったけれど、そのおかげで成長出来たなって感じることもあってさ……」
「成長出来ただと……?」
ルークが驚いたように目を見張った。
「うん!公爵夫人としての仕事をこなすためのスキルとか、どんなことにも耐えられる強い心力とか……色々!」
「……」
そう、オリバー様との結婚生活は本当に辛い日々だったが結果的には悪いことばかりではなかった。
それだけが唯一の救いだった。
そんな風に考えることであの十年間は無駄じゃなかったのだと、そう思えるから。
「ルークは普段何をして過ごしているの?」
「俺は……ただの旅人だよ」
彼をずっと王家の諜報員だと思っていた私は、少しだけ驚いた。
「あら、じゃあ世界各地を旅してて今回はたまたまこの国に来てたってこと?」
「いや……俺、元々ここの出身なんだ」
(この国の出身……)
それを聞いた私は妙に納得した。
もしかすると、以前から感じている既視感はそのせいだったのかもしれない。
街を歩いているときにたまたま見かけたとか。
これほどの美男子なら、顔を凝視してしまっていてもおかしくはない。
「この国に知り合いがいてさ……顔見せに行ってたっていうか……」
「なるほど、そういうことだったのね!」
「……あぁ」
納得がいくと同時に、もう一つ別の疑問が浮かび上がってきた。
(……なら、どうしてルークは王宮にいたのかしら?)
ただの旅人が王宮に入る権限を持っているだなんて。
少なくとも、彼の身分は平民なはずだ。
しばらくじっと考え込んでいた私だったが、そこでちょうど料理が運ばれてきた。
「お待たせいたしました」
「うわぁ……とっても美味しそう……!」
ここは一ヶ月ほど前にお義姉様とエドモンドの三人で行ったお店だった。
そこで食べた味がずっと忘れられなかったのだ。
「ルーク、早く食べましょう!お腹空いてるでしょう?」
「あ、あぁ……」
ちょうどお腹が空いていた私は、すぐに目の前の料理に手を付けた。
先ほど抱いていた疑問などすっかり忘れていた。
「……あぁ」
待ち合わせ場所である王都の広場から十分ほど歩いた私たちは、既にお店へと到着していた。
私とルークが今いるのは特別に用意された個室だ。
(少なくとも、社交界で噂になることは無さそうね)
店主が気を遣ってくれたようだ。
ふぅと一息ついたとき、向かいに座っていたルークが話しかけてきた。
「――お前」
「うん?」
「王都にはよく来るのか?」
彼は頬杖をついてこちらをじっと見つめていた。
(……ルークが私に質問するだなんて)
もしかして、興味を持ってもらえたのだろうか。
確信は無かったけど、何だか嬉しい。
「それがね、全ッ然なのよ!」
「……」
ハァとため息をついてそう言った私に、彼はポカンとした顔になった。
「私ね、元々公爵夫人だったんだけど……夫は本当に厳しい人でなかなか外出出来なかったのよね」
「ずっと公爵邸にいたってことか?」
「うん、舞踏会とかお茶会に行くとき以外はほとんどの時間を公爵邸で過ごしてたなぁ」
「そう、か……」
十八歳からの十年間を私はそうやって過ごしてきた。
今思えば本当につまらない日々だったなと思う。
(もっと早く離婚しておくべきだったわね……今さらそんなこと言っても遅いけど……)
こうなったのは全て愚かだった私のせいである。
「よく十年間耐えてたな、お前。俺だったら三日で逃げてる」
そんなことを口にした彼に、私は思わず声を出して笑ってしまった。
「本当にね!自分を褒めてあげたいくらいだわ!でも、デメリットばかりじゃなかったのよ?」
「……それはどういう意味だ?」
「たしかに辛い日々だったけれど、そのおかげで成長出来たなって感じることもあってさ……」
「成長出来ただと……?」
ルークが驚いたように目を見張った。
「うん!公爵夫人としての仕事をこなすためのスキルとか、どんなことにも耐えられる強い心力とか……色々!」
「……」
そう、オリバー様との結婚生活は本当に辛い日々だったが結果的には悪いことばかりではなかった。
それだけが唯一の救いだった。
そんな風に考えることであの十年間は無駄じゃなかったのだと、そう思えるから。
「ルークは普段何をして過ごしているの?」
「俺は……ただの旅人だよ」
彼をずっと王家の諜報員だと思っていた私は、少しだけ驚いた。
「あら、じゃあ世界各地を旅してて今回はたまたまこの国に来てたってこと?」
「いや……俺、元々ここの出身なんだ」
(この国の出身……)
それを聞いた私は妙に納得した。
もしかすると、以前から感じている既視感はそのせいだったのかもしれない。
街を歩いているときにたまたま見かけたとか。
これほどの美男子なら、顔を凝視してしまっていてもおかしくはない。
「この国に知り合いがいてさ……顔見せに行ってたっていうか……」
「なるほど、そういうことだったのね!」
「……あぁ」
納得がいくと同時に、もう一つ別の疑問が浮かび上がってきた。
(……なら、どうしてルークは王宮にいたのかしら?)
ただの旅人が王宮に入る権限を持っているだなんて。
少なくとも、彼の身分は平民なはずだ。
しばらくじっと考え込んでいた私だったが、そこでちょうど料理が運ばれてきた。
「お待たせいたしました」
「うわぁ……とっても美味しそう……!」
ここは一ヶ月ほど前にお義姉様とエドモンドの三人で行ったお店だった。
そこで食べた味がずっと忘れられなかったのだ。
「ルーク、早く食べましょう!お腹空いてるでしょう?」
「あ、あぁ……」
ちょうどお腹が空いていた私は、すぐに目の前の料理に手を付けた。
先ほど抱いていた疑問などすっかり忘れていた。
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