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89 言い争い
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「何を……言っているんですか?正気なんですか?」
「正常だ」
驚いてオリバー様を見るも、彼はいたって真剣だった。
(冗談でしょう!?この人自分が何を言ってるか分かっているの!?)
公爵家に戻って来いだなんてどの面下げて言っているのか。
十年もの結婚生活の間、私が貴方にどれだけ傷付けられたか。
それを全て無かったことにして戻れとは、自分勝手にも程がある。
今にも爆発しそうなほどの怒りをかろうじて抑えた私は、決して揺るぐことの無い自分の意思を伝えた。
「私は誰に何と言われようと戻るつもりはありません。ですからお帰りください」
「私は公爵だぞ?分かっているのか?」
この期に及んで身分を盾にしてくるとは。
何てずる賢い男なのだろう。
(彼はたしかに王族の次に身分の高い公爵閣下だわ……でもここはログワーツ伯爵邸よ……だから貴方は敵の本陣に乗り込んだも同然なのよ)
正直に言えば、あのときと違って彼に逆らうことは別に怖くない。
ここには私の味方がたくさんいるから。
何かあれば皆が助けてくれるはずだ。
「私を不敬罪で罰するつもりですか?」
「まさか。私は君をもう一度妻にと望んでいるんだ。これほど名誉なことは無いだろう?」
「……」
私が未だにオリバー様に未練があるかのような言い方だ。
一体今の私のどこら辺を見てそう思うのだろうか。
(もう一度あそこで暮らすだなんて、死んだ方がマシね……)
私と離婚して半年が経過している。
もうローザ様を正式に公爵夫人として迎えてもいいはずなのに、そんな話はまだ聞かない。
(……どうして?何故彼は……)
私という邪魔者がいなくなって、彼は今自由の身だ。
それに私たちの婚約を取り決めたオリバー様の父君もだいぶ前に亡くなっている。
彼を縛り付けるものはもう何も無いはずなのに。
「何故、公爵様が今になってそのようなことをおっしゃるのかが私には分かりません。大体貴方にはローザ様が――」
「私の前でその汚らわしい名前を呼ぶなッ!!!」
その瞬間、オリバー様が机とドンッと叩いて声を荒らげた。
(え……?)
テーブルの上に置かれていた紅茶の入ったカップがガシャンと音を立てて揺れた。
驚いて彼を見ると、目をカッと見開いて怒りを露わにしている。
(何……?私、何かいけないこと言ったかしら……?)
オリバー様が突然理性を失った理由がどうしても分からず、私は困惑した。
そんな私に気付いたのか、ハッとなった彼が冷静に椅子に座り直した。
「……失礼。驚かせてしまったな」
「……」
彼はコホンと咳払いをすると、再び話し始めた。
「君の考えは分かっている。また前のようになるのではないか。それが怖いんだろう?」
「え、いや……」
「それに関しては心配いらない。君に無礼な態度を取っていた使用人たちは全員解雇するつもりだし、金でも銀でも望む物は何だって与えよう」
「……」
正直、全く魅力を感じられなかった。
(一番の問題は貴方よ。貴方が私にしてきたこと、全部忘れてないんだから)
元はと言えば、使用人たちが私を冷遇していたのはオリバー様のせいなのだ。
「いいえ、結構ですわ」
「……他に何か望む物でもあるのか?」
「ありません、強いて言うなら公爵様と二度とお会いしたくないですね」
「……」
それを聞いたオリバー様の紫色の瞳が、鋭い眼光を放った。
しばらくして、悔しそうに顔を歪ませた彼が低い声でボソリと呟いた。
「……あの男のせいか?」
「何でしょうか?」
「君は、ルークとかいうあの男と付き合っているのか?」
「何故貴方がその名前を……」
たった一度舞踏会で会っただけだというのに既に素性が知られていることにも驚いたが、ひとまず誤解を解かなければならない。
「公爵様が彼のことをご存知だとは思いませんでした。何かを勘違いをなさっているようですが、私と彼はそういう関係ではありません」
しかしそれでも、オリバー様は私の言葉を信じていないようだった。
「お前はあの男の正体を知っているのか?」
「何のことでしょう?」
「アイツが元第二王子であり、先王の私生児だということだ」
「……」
既にそこまで分かっているとは。
どうやら私はレビンストン公爵家を甘く見ていたようだ。
(まさかとは思うけど、周囲にルークの正体をバラしたりしないわよね?まぁ、そんなことをしたら国王陛下が黙っていないはずだから……)
いくらオリバー様でも国王陛下を敵に回そうとはしないだろう。
黙り込んだ私に不信感を抱いたのか、彼が私を怒鳴り付けた。
「まさか、アイツと結婚する予定でもあるのか!?だから私を……」
「それは貴方が気にすることではありません!今日のところはもうお帰りください!」
腹が立った私は、怒鳴り返して席から立ち上がった。
後ろからオリバー様の声が聞こえてくる。
「元王子とはいえ、今はただの平民の男だぞ!お前と釣り合うような身分の男ではない!それならいっそ、私の方が――」
「ルークと貴方を一緒にしないでください!!!貴方のような嫁いできた正妻を冷遇して愛人に現を抜かす男よりかは百倍マシです!!!」
「何だと……?」
その言葉にプライドを傷つけられたようで、オリバー様は顔を真っ赤にした。
激しい怒りを抱いているのだろうか、彼はフルフルと震えて何も言わなくなった。
「――今日はお引き取りください。貴方の要望は受け入れられません」
「……」
私はそんなオリバー様を一人残して応接間を出た。
「正常だ」
驚いてオリバー様を見るも、彼はいたって真剣だった。
(冗談でしょう!?この人自分が何を言ってるか分かっているの!?)
公爵家に戻って来いだなんてどの面下げて言っているのか。
十年もの結婚生活の間、私が貴方にどれだけ傷付けられたか。
それを全て無かったことにして戻れとは、自分勝手にも程がある。
今にも爆発しそうなほどの怒りをかろうじて抑えた私は、決して揺るぐことの無い自分の意思を伝えた。
「私は誰に何と言われようと戻るつもりはありません。ですからお帰りください」
「私は公爵だぞ?分かっているのか?」
この期に及んで身分を盾にしてくるとは。
何てずる賢い男なのだろう。
(彼はたしかに王族の次に身分の高い公爵閣下だわ……でもここはログワーツ伯爵邸よ……だから貴方は敵の本陣に乗り込んだも同然なのよ)
正直に言えば、あのときと違って彼に逆らうことは別に怖くない。
ここには私の味方がたくさんいるから。
何かあれば皆が助けてくれるはずだ。
「私を不敬罪で罰するつもりですか?」
「まさか。私は君をもう一度妻にと望んでいるんだ。これほど名誉なことは無いだろう?」
「……」
私が未だにオリバー様に未練があるかのような言い方だ。
一体今の私のどこら辺を見てそう思うのだろうか。
(もう一度あそこで暮らすだなんて、死んだ方がマシね……)
私と離婚して半年が経過している。
もうローザ様を正式に公爵夫人として迎えてもいいはずなのに、そんな話はまだ聞かない。
(……どうして?何故彼は……)
私という邪魔者がいなくなって、彼は今自由の身だ。
それに私たちの婚約を取り決めたオリバー様の父君もだいぶ前に亡くなっている。
彼を縛り付けるものはもう何も無いはずなのに。
「何故、公爵様が今になってそのようなことをおっしゃるのかが私には分かりません。大体貴方にはローザ様が――」
「私の前でその汚らわしい名前を呼ぶなッ!!!」
その瞬間、オリバー様が机とドンッと叩いて声を荒らげた。
(え……?)
テーブルの上に置かれていた紅茶の入ったカップがガシャンと音を立てて揺れた。
驚いて彼を見ると、目をカッと見開いて怒りを露わにしている。
(何……?私、何かいけないこと言ったかしら……?)
オリバー様が突然理性を失った理由がどうしても分からず、私は困惑した。
そんな私に気付いたのか、ハッとなった彼が冷静に椅子に座り直した。
「……失礼。驚かせてしまったな」
「……」
彼はコホンと咳払いをすると、再び話し始めた。
「君の考えは分かっている。また前のようになるのではないか。それが怖いんだろう?」
「え、いや……」
「それに関しては心配いらない。君に無礼な態度を取っていた使用人たちは全員解雇するつもりだし、金でも銀でも望む物は何だって与えよう」
「……」
正直、全く魅力を感じられなかった。
(一番の問題は貴方よ。貴方が私にしてきたこと、全部忘れてないんだから)
元はと言えば、使用人たちが私を冷遇していたのはオリバー様のせいなのだ。
「いいえ、結構ですわ」
「……他に何か望む物でもあるのか?」
「ありません、強いて言うなら公爵様と二度とお会いしたくないですね」
「……」
それを聞いたオリバー様の紫色の瞳が、鋭い眼光を放った。
しばらくして、悔しそうに顔を歪ませた彼が低い声でボソリと呟いた。
「……あの男のせいか?」
「何でしょうか?」
「君は、ルークとかいうあの男と付き合っているのか?」
「何故貴方がその名前を……」
たった一度舞踏会で会っただけだというのに既に素性が知られていることにも驚いたが、ひとまず誤解を解かなければならない。
「公爵様が彼のことをご存知だとは思いませんでした。何かを勘違いをなさっているようですが、私と彼はそういう関係ではありません」
しかしそれでも、オリバー様は私の言葉を信じていないようだった。
「お前はあの男の正体を知っているのか?」
「何のことでしょう?」
「アイツが元第二王子であり、先王の私生児だということだ」
「……」
既にそこまで分かっているとは。
どうやら私はレビンストン公爵家を甘く見ていたようだ。
(まさかとは思うけど、周囲にルークの正体をバラしたりしないわよね?まぁ、そんなことをしたら国王陛下が黙っていないはずだから……)
いくらオリバー様でも国王陛下を敵に回そうとはしないだろう。
黙り込んだ私に不信感を抱いたのか、彼が私を怒鳴り付けた。
「まさか、アイツと結婚する予定でもあるのか!?だから私を……」
「それは貴方が気にすることではありません!今日のところはもうお帰りください!」
腹が立った私は、怒鳴り返して席から立ち上がった。
後ろからオリバー様の声が聞こえてくる。
「元王子とはいえ、今はただの平民の男だぞ!お前と釣り合うような身分の男ではない!それならいっそ、私の方が――」
「ルークと貴方を一緒にしないでください!!!貴方のような嫁いできた正妻を冷遇して愛人に現を抜かす男よりかは百倍マシです!!!」
「何だと……?」
その言葉にプライドを傷つけられたようで、オリバー様は顔を真っ赤にした。
激しい怒りを抱いているのだろうか、彼はフルフルと震えて何も言わなくなった。
「――今日はお引き取りください。貴方の要望は受け入れられません」
「……」
私はそんなオリバー様を一人残して応接間を出た。
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