王妃を蔑ろにし、愛妾を寵愛していた王が冷遇していた王妃と入れ替わるお話。

ましゅぺちーの

文字の大きさ
7 / 18

7 ブローチ

しおりを挟む
あの後、私はずっと自室で呆然としていた。


気付けばもう夜だった。レアも王妃も既に寝ている頃だろう。


(・・・信じられない。いや、信じたくない。)


あの侍女の話を聞いて私はずっと考え込んでいた。あの侍女の様子からして嘘をついているとは思えなかった。だけど、レアがそのようなことをするというのも私からしたらまた信じられないことだった。


(私は・・・どちらを信じればいい・・・?)


私はそればかりを考えていた。本当なら愛する女の方を信じたかった。しかし、あんな姿を見たあとではよく分からなかった。


(・・・今日は疲れた、もう寝よう。また明日考えればいいことだ。)


私はそう思ってベッドに横になった。


王族の部屋に備え付けられているベッドというのは無駄に広い。王妃は華奢な体をしているから余計に広く感じた。それと同時に、どこか寂しさを感じている自分もいた。


(王妃は・・・結婚してからずっとこんな思いをしていたのか・・・?)


私はあの女の部屋に訪れたことはない。行きたくもなかった。夜はいつも愛しいレアと過ごしていた。


あの女の気持ちなど考えたこともなかった。


(・・・もしかしたら、私は随分前から間違えていたのかもしれないな。)


そう思いながらも、私は目を閉じて眠りについた。




◇◆◇◆◇◆




朝になった。


(体が戻るまであと二日か・・・。)


あと二日もすれば元の体に戻れるというのに、何故だか私の気持ちは沈んだままだった。自分でもよく分からない。レアに会いたいという気持ちもいつの間にかなくなっていた。


私はそんな気持ちのままベッドから起き上がった。


「ん・・・?あれは・・・」


そのとき、私は王妃の机の上にあった”ある物”に目を奪われた。


それにはどこか見覚えがあった。懐かしい感じがする。


(間違いない。あれは―)


私が昔、王妃の誕生日に贈ったブローチだ。


(何故あれがあんなところにあるんだ?私があれを贈ったのは・・・)


もう、十年以上も前の話だ。


そんな昔の物を何故今も持っているのか。あのブローチに特別な思い入れがあるわけでもない。私はそのことが不思議でたまらなかった。


そんな私に気付いたのか、部屋にいた侍女が声をかけた。昨日声を荒げていた侍女とは別の侍女だ。


「王妃陛下、陛下から頂いたあのブローチを本当に大切にされていますよね。」


「え?あ、あぁ・・・」


私はわけも分からず、ただ頷くことしか出来なかった。


「王妃陛下は、本当に陛下のことが大好きなのですね。」


「・・・」


(好き・・・だと?あの女が、私のことをか?)


この侍女は一体何を言っているんだ。あの女が私を好きだなんてそんなことあるはずがない。現に、十年以上も婚約していながら一度もそんなことは言ってこなかった。


私は侍女のその言葉の意味が理解出来なかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなっても構わないと言ったのは、あなたの方ですよ?

睡蓮
恋愛
セレスとクレイは婚約関係にあった。しかし、セレスよりも他の女性に目移りしてしまったクレイは、ためらうこともなくセレスの事を婚約破棄の上で追放してしまう。お前などいてもいなくても構わないと別れの言葉を告げたクレイであったものの、後に全く同じ言葉をセレスから返されることとなることを、彼は知らないままであった…。 ※全6話完結です。

危ない愛人を持つあなたが王太子でいられるのは、私のおかげです。裏切るのなら容赦しません。

Hibah
恋愛
エリザベスは王妃教育を経て、正式に王太子妃となった。夫である第一王子クリフォードと初めて対面したとき「僕には好きな人がいる。君を王太子妃として迎えるが、僕の生活には極力関わらないでくれ」と告げられる。しかしクリフォードが好きな人というのは、平民だった。もしこの事実が公になれば、クリフォードは廃太子となり、エリザベスは王太子妃でいられなくなってしまう。エリザベスは自分の立場を守るため、平民の愛人を持つ夫の密会を見守るようになる……。

融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。 格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。 正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。 だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。 「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。

元婚約者様へ――あなたは泣き叫んでいるようですが、私はとても幸せです。

有賀冬馬
恋愛
侯爵令嬢の私は、婚約者である騎士アラン様との結婚を夢見ていた。 けれど彼は、「平凡な令嬢は団長の妻にふさわしくない」と、私を捨ててより高位の令嬢を選ぶ。 ​絶望に暮れた私が、旅の道中で出会ったのは、国中から恐れられる魔導王様だった。 「君は決して平凡なんかじゃない」 誰も知らない優しい笑顔で、私を大切に扱ってくれる彼。やがて私たちは夫婦になり、数年後。 ​政争で窮地に陥ったアラン様が、助けを求めて城にやってくる。 玉座の横で微笑む私を見て愕然とする彼に、魔導王様は冷たく一言。 「我が妃を泣かせた罪、覚悟はあるな」 ――ああ、アラン様。あなたに捨てられたおかげで、私はこんなに幸せになりました。心から、どうぞお幸せに。

完結 愛される自信を失ったのは私の罪

音爽(ネソウ)
恋愛
顔も知らないまま婚約した二人。貴族では当たり前の出会いだった。 それでも互いを尊重して歩み寄るのである。幸いにも両人とも一目で気に入ってしまう。 ところが「従妹」称する少女が現れて「私が婚約するはずだった返せ」と宣戦布告してきた。

家も婚約者も、もう要りません。今の私には、すべてがありますから

有賀冬馬
恋愛
「嫉妬深い女」と濡れ衣を着せられ、家も婚約者も妹に奪われた侯爵令嬢エレナ。 雨の中、たった一人で放り出された私を拾ってくれたのは、身分を隠した第二王子でした。 彼に求婚され、王宮で輝きを取り戻した私が舞踏会に現れると、そこには没落した元家族の姿が……。 ねぇ、今さら私にすり寄ってきたって遅いのです。だって、私にはもう、すべてがあるのですから。

後悔などありません。あなたのことは愛していないので。

あかぎ
恋愛
「お前とは婚約破棄する」 婚約者の突然の宣言に、レイラは言葉を失った。 理由は見知らぬ女ジェシカへのいじめ。 証拠と称される手紙も差し出されたが、筆跡は明らかに自分のものではない。 初対面の相手に嫉妬して傷つけただなど、理不尽にもほどがある。 だが、トールは疑いを信じ込み、ジェシカと共にレイラを糾弾する。 静かに溜息をついたレイラは、彼の目を見据えて言った。 「私、あなたのことなんて全然好きじゃないの」

あなたの言うことが、すべて正しかったです

Mag_Mel
恋愛
「私に愛されるなどと勘違いしないでもらいたい。なにせ君は……そうだな。在庫処分間近の見切り品、というやつなのだから」  名ばかりの政略結婚の初夜、リディアは夫ナーシェン・トラヴィスにそう言い放たれた。しかも彼が愛しているのは、まだ十一歳の少女。彼女が成人する五年後には離縁するつもりだと、当然のように言い放たれる。  絶望と屈辱の中、病に倒れたことをきっかけにリディアは目を覚ます。放漫経営で傾いたトラヴィス商会の惨状を知り、持ち前の商才で立て直しに挑んだのだ。執事長ベネディクトの力を借りた彼女はやがて商会を支える柱となる。  そして、運命の五年後。  リディアに離縁を突きつけられたナーシェンは――かつて自らが吐いた「見切り品」という言葉に相応しい、哀れな姿となっていた。 *小説家になろうでも投稿中です

処理中です...