なんだかんだで妖怪相談所はじめました(仮)

杵島玄明

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9喋るニャンコと心配性

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泣き女が最初の葬儀に行く日・・・つまり今日。
俺は朝から得体の知れない不安に駆られていた。

「なぁ、ルド。お前さぁ、ちょっと行って、ちゃんとやれてるか見て来いよ。
妖怪なんだから、それくらいできんだろ?」
「やだよっ!志童こそ、自分で行って来ればいいじゃないかっ。志童の仕事でしょっ」
「お前、泣き女と面識なかったわけ?」
「ないよ!妖怪ってったって沢山いるんだぞ!会ったことのない奴の方が寧ろ多いよ!」

張り切る泣き女を送り出したはいいものの、果たして本当に大丈夫なのかが心配でならない。泣き女のビジュアルに苦情が来てもおかしくない。考えれば考える程、不安になる一方で、ルドとこのやり取りを朝からもう100回は繰り返している。と、その時出入り口の扉が開いた。

「ようっ・・・って、志童お前、なにニャンコと戯れてんだ?」
「あ・・・善・・・」

俺は慌ててルドの口を塞ぎ、背中の方へと押しやる。

「あーははははは。ちょっと最近買飼うことにしたんだよね」
「ふぅ~ん・・・」
「あ、珈琲でいいか?って、他にねぇけど」
「あぁ、頼む」

善は向かいのソファーに腰を下ろすと、持ってきた雑誌をぱらぱらとめくり始めた。俺はルドを抱えて、パーテーション裏のプライベートスペースにするりと体を滑り込ませると、ルドを目線まで持ち上げた。

「いいか、絶対絶対!善の前で話すなよ!」
「なんで?」
「なんでって、面倒くせぇからだよっ、色々っ、あっ、おい、暴れるなって、ルドッ」

ルドは体を左右に揺らし、俺の手からすり抜けるとパーテーションの向こう、つまり善のいる方へと駆けて行ってしまった。

「はぁ・・・大丈夫かなぁ・・・」

ため息をつきつつ、俺は冷蔵庫を開けた丁度その時、パーテーションの向こうでは、好奇心旺盛なルドが善の足にゴロゴロと喉を鳴らしまとわりついていることに、俺が知る由もない。

「おっ、お前かぁ。志童が飼い始めたニャンコってのは。どうだ?志童は?あいつ、ちゃんとメシとかくれてっか?」
「うん」
「あはは、なんだ可愛いじゃねぇか。お前、ちゃんと名前とかつけてもらったか?あいつ、面倒くさがりやだからなぁ・・・・」
「うん。ルドって名前をもらったよ」
「そうかぁ、ルドかぁ!いい名前・・・・・え?」
「お前は善っていうのか?お前もいい名前だな」
「え、え、ええぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「善っ、なんだ? どうしたっ」

善の叫び声に俺は慌てて缶コーヒーを手に駆け付けると、そこには茫然自失の善と、すまし顔のルドがいた。

「にゃ・・・にゃ・・・」
「にゃ?」
「にゃんこが・・・喋った‥‥」

その言葉に全てを理解した。

「やっぱ、だめだったかぁ・・・・」

あちゃーと、俺は掌を額に当てた。
一応念はおしたものの、こうなる予感は大いにあったのだ。俺はルドを抱き上げると、善の向かい側に腰を下ろした。

「えーっと、実は・・・だなぁ」

 眉間に皺を寄せた善が、俺の膝にすまして座るルドを凝視している。

「志童・・それ・・・・、なんだ?どっかのメーカーの新商品ロボットか何か?」
「おいらは、ロボットなんかじゃないぞ。すねこすりだ。 でも、ルドだぞ」
「ルド、お前は少し黙ってろって」
「なんでだよ!おいらのことを、おいらが説明してるだけだ」
「そうだけど!今、お前がこれ以上喋ると、ややこしくなるだろ」
「ややこしくなんか、ならないよ。挨拶は大事だろ」
「そうだけど、いいからルドは少し黙ってくれ」
「ちぇ・・・わかったよ」

ルドは拗ねたように、口を尖らせてぷいっと横を向いた。とにかく善に説明しなければならない。

「えーと、善。これはだなぁ・・・・・」
「志童っ!!!!」
「はっはいぃ」
「それ、ロボットじゃないのか?」
「まぁ、違う・・・かな。どっちかっていると、よう・・かい? あ、ほら。ここって、泣き女とかも来ちゃうわけで・・・それで、こういう妖怪なんかもさ・・・」
「じゃぁ、あの泣き女っての・・・。まじだったのか・・・」
「は?・・・え?なに?・・・善、お前っ・・・俺の言ったこと信じてなかったわけ?信じないのにあんなサイトまで作ったってのか?」

思わずテーブル越しに善に詰め寄ると、善は後ろに体を引き両手で、詰め寄る俺を抑えながらへらっと笑った。

「いや、あの時はCA合コンがかかってたしさぁ。妖怪の女ってのはさぁ・・・まぁお前のことだから、どうぜ変な女にひっかかったんだろう・・・と・・・」
「はぁぁぁぁ?善っ、てめぇふざけんなよなぁ! 人が大変なときにっ!!!!」
「あ~、ごめんごめん。大丈夫、今度は信じたから!うん、信じた!」

横目でルドをチラ見した善に、ルドは鼻筋に器用に皺をよせて最高の笑みを向ける。

「泣き女は今日、志童に言われて葬式に行ってんだぞ」

なぜかルドが自慢げに言う。

「え・・・、葬式って・・・・まじ?じゃぁ、本当に依頼きたのかっ?」
「あぁ、そうだ。来たんだよ。俺だって最初は悪戯かと思ったよ。だけど、ちゃんと入金もあったし・・・。だから、彼女に行ってもらうことにしたんだ」
「まじかぁ~」

善は驚きつつも、感心したように腕を組み何度も頷いている。

「それでだ。泣き女がちゃんとやれてるのか、俺の身の安全を確保しつつ様子を見る方法ねぇかなぁ~って、ルドと話してたところだ。」

俺は頭の後ろで腕を組んで、背もたれに体を預けた。

「志童・・・お前、随分堂々とヘタレ発言するんだな」
「うるせぇよ、ほっとけ」
「気になるなら行きゃぁ、いいじゃん。その葬儀にお前も」

簡単に言う善を、軽く睨む。

「それをしたくねぇから、悩んでるんだろっ!お前は泣き女に会ってねぇからそんなことが簡単に言えるんだっ!ほっんと、怖えぇんだぞ・・・」

半泣きで訴える俺の横で、ルドも短い腕を組んで「うんうん」と頷いている。

「確かに泣き女は・・・ちょっと怖かったな。さすがのおいらも、ちょっとだけビビっちまったぜ。特に・・・あの笑ったとこがね・・・」
「ルド、お前なぁ。少しどころか俺の背中から出てこなかったじゃねぇか」
「そんなことないよっ!志童はビビりすぎて、おいらのことなんか見てなかっただろ。おいらがビビったのは、ほんの少しだ!」
「そぉこまでっ!」
 
 善の張り上げた声に、俺もルドも口をつむんだ。

「ったく、なんだってお前はニャンコと口論してんだよ」
「善、おいらはニャンコじゃねぇ!すねこすりだ」
「はいはい、すねこすりのルドね」
「そうだ、わかればいい」

 善は小さくため息を漏らす。

「お前らさぁ、笑ったら怖いって仮にも女性だろ?そんなこと言うもんじゃないぜ?」
「善は見てないから、そんなこと言えるんだよ」
「はぁ・・・志童よぉ、だからお前はもてないんだよ~」

呆れ顔の善の脇で、ルドがクスクス笑っている。

「とにかく俺はっ!様子は見たいけど、陰からこっそり見たいんだっ」
「志童、お前って・・・・・ほんとヘタレだな。まぁさ、頼んだなら今は彼女を信じて待つより他ねぇんじゃねぇの?」

 確かに善の言う通りだった。泣き女の様子を見るなら、実際に俺がいくしかないし、それが嫌なら諦めるより他にない。

「・・・そうだな」
「社員を信じるのも、社長のしごとだろ?」
「いや・・・だから、社員じゃねぇし、社長って・・・」
「あ、そうか。妖怪相談所なら所長か」
「そう言う問題じゃねぇだろ」

俺と善がそんなやりとりをしている間中終始、隣で腕を組み難しい顔をしていたルドが唐突に叫んだ。

「あーーーーーーーっ」

俺と善はビクッと体を震わせてルドに注目した。

「もしかしたら、雲外鏡のばぁちゃんなら見せてくれるかもしれないぞ?」
「見せて・・・って何を?」
「だから、泣き女だよ!」

そこまで聞いて、俺はなるほどと頷いた。確かに、文献に載っていた雲外鏡の能力が本当なら、ルドの言う通り泣き女の状況が見られるかもしれない。

「えっ、なになに?雲外鏡ってなにさ?」

善が好奇心に満ちた目で、俺とルドを交互に見ている。

「雲外鏡かぁ・・・、ルドお前、知り合いなのか?」
「うん。前においら同じ家にいたんだよ」
「志童っ!ルドっ!お前ら、俺をスルーするなっ! 雲外鏡ってなんなんだよ!」

すっかり善を置いてけ堀にしてしまったことに苦笑いしながら、俺は大学時代の記憶を紐解きながら説明をする。

「雲外鏡ってのは・・・・・鏡の妖怪なんだよ」
「鏡?」
「そうだぞ!けど、ただの鏡じゃねぇぞ!雲外ばぁちゃんは、すっげぇばぁちゃんだ!」
「へぇ~、じゃ、早くそのすっげぇ婆さんっての呼ぼうぜ」
「ばっか!善っ、てめぇ簡単に言ってんじゃねぇよ!」

 パニックになる俺を見て、善はきょとんとしている。そう、善は知らないんだ。
その、呼び出すためのアレが、どれほどヤバいものなのかを・・・。

「なぁ志童。早く雲外ばぁちゃん呼ぼうよ」

俺の服の裾に爪を引っかけてルドは体を左右に揺らしている。

「ルドォ、お前まで・・・簡単にいうなよぉ~。呼ぶってことはアレを使うんだぞ!それに、またしても妖怪が増えるってことだろぉ」

俺は頭を抱えてしゃがみ込んだ。

「なんだよ、志童。呼べるなら早く呼べよ。で、アレってなんだ?」
「そうだぞ、志童。雲外婆ちゃんはいいばぁちゃんだぞ?」

――ったく、好き勝手言いやがって。また、あの垢人形つかうのかぁ・・・・

どういう訳かここ数日、ことごとく俺が望まぬ方へ、方へと何もかもが進んでいる。俺は、呪われているのかもしれない・・・・。
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