自由な女神様!~種族人族、職業女神が首を突っ込んだり巻き込まれたりの物語。脇に聖女を添えて~

時雨

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本編

02.確認?

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 早起きが習慣と化している彼女は、侍女が起こしに来る前に起きてしまった。なので、明るい窓の外を見ながらぼーっと考え込む。起きた瞬間に思ったことは、夢だったらよかったのに、だ。昨日まで普通に過ごしていたのに。特能課の仲間たちと、それなりに忙しくやってきたのに。まだまだ、やることはあったし、やりたいことも、やらなきゃいけない、と自分に課したことだってあったのに。それが、一気に無くなってしまったのだ。

「……なんだか、なあ……」

 その喪失感は大きい。ぽっかりと、心に穴が開いたような、そんな気にさせられる。

「せめて、一言かわしたかったなあ……」

 最後の、別れぐらいは。唐突だったから仕方がない、とは、今はいえない。ぐ、と唇をかみしめた。泣いてはいけない。ここでは、まだ泣けない。今は、周りを信用するには足りないのだ。時間も、なにもかもが。
 時間になったのか、侍女が起こしに来た。起きていたことに驚いたようだが、考え事をしていたといえば、何も言わずに準備をし始めた。そこからは、あれよこれよという間に身支度を整えられ、朝食が運ばれてくる。侍女たちにここでの食事のマナーなどを教えてもらいながら、楽しく食事は終えられた。

「シリウス殿下がお見えになりました。お通ししてもよろしゅうございますか?」
「え、あ、はい」

(え、いきなり?昨日の今日で?いや、確かに、また明日会いましょうとは言われたけども……)

 このとき、瑞姫は迷った。ここは、貴族令嬢のように礼儀作法をしてみせるか、否か。が、体は素直に動いた。シリウスがこの部屋に踏入った瞬間を見て、す、と椅子から立ち上がり、カーテシーを。

「おはようございます、カグラ殿。よく眠れましたか」
「おはようございます」
「おはようございます、殿下、ライフォエン様。えぇ、おもったよりぐっすり」

 頭をあげて、そこに座ってくれ、と言われ、元の位置に座りなおした。そこで、じ、とシリウスにも、セイランにも見られていることに気付き、首をかしげる。

「……いや、やはり貴族の御令嬢に見えるのですが……。これで平民とは……、なあ、セイラン」
「……自分も、そう思います」
「そう見せてるだけですよ……」

 つい、動いただけであるので。気を取り直し、彼らが来たのは、この世界での後見は自分達になったと知らせに来たことと、国王陛下との謁見のことである。

「陛下は、息子の私が言うのもなんだけれど、公務以外はとても気さくな人ですよ。怖がらないであげてくださいね」
「は、はあ。……あの、どうしてそれを、殿下自ら?」
「ん?ふふ、貴女に早く、信用してほしいのですよ。この国の事と共に、私共の事も知っていただければ。そして、私も貴女の事を知りたいのですよ。ですから、空いた時間にこうして顔を出すようにしたいと思います」

 にっこり、とそれはそれは素晴らしい微笑を浮かべ、彼は恥ずかしげもなくそう言った。女が見れば、誰もがくらりとくるような。それがどのような思惑でも、彼女も例外ではなく、ぽん、と顔を赤く染め上げる。

「でしたら、その、私に敬語は、いりま、せんよ?その、聖女がどの立場かはわかりませんけど、それと決まったわけじゃないので」
「なるほど、それもそうだ」
「それに、あの、私に会いに来て、大丈夫、でしょうか」
「それは、どういう?」
「あの、殿下のお立場的には、婚約者なり、正妃、または側室が決まっていても、おかしくはな……」

 ない、と言おうとして、言葉を途中できった。シリウスの顔に、少し影が見えたのだ。そして、室内も気温が下がったような気さえする。

「カグラ殿……。私はそう言うのはいらないと思っているんだよ」
「……、申し訳ありません。余計なことを申し上げました」
「シリウス様、彼女を威圧してどうします」

(じ、地雷を……!地雷を踏みぬいちゃった……!?えぇ、女関係で何があったんだろ。つつくのはよそう。藪蛇はいやだな)

 こちらを見たシリウスは、目だけは全く笑っていなかったので、瑞姫はすぐさま謝る。女性関係で何かあったのだろう。それ以上は聞くまいと話題を慌てて変えた。

「あの、聖女じゃない、今の私たちは、どういった扱いですか?」
「今は、異界からの客人だと。差別の無いよう、平等に接するよう伝えてあるよ」

 なるほど、と彼女は頷いた。もう一つ、懸念すべきことがある。

「ここに、図書館というか、書物が多く置いてあるところってありますか?」
「あぁ、書物庫だね。ここではなく、城のほうだよ。ここは王宮で、居住区だからね」

 どうやら、この王宮は王族たちの居住区であり、城は仕事場らしい。書物関連は、すべて城で管理しているとか。

「でしたら、そこに出入りすることは可能でしょうか。色々と知りたいこともありますし」
「大丈夫だよ。閲覧禁止のものもあるけど」
「あ、いえ、そこまで深入りするつもりもないので……」

 瑞姫が知りたいのは、この国……この世界の常識である。元の世界と、こちらの世界では、常識が異なることがよくわかる。文化もそうだし、通貨だってそうだ。常識が違うと気づいたのは、侍女たちとの会話である。元の世界でやってもよかったことが、こちらでは駄目な事、ということも十分あり得る可能性に気付いた。

「法律も、違うはずです。私たちの世界では、銃刀法違反と言って、剣や銃を許可なく所持することは禁止されてまして……」
「ずいぶんと平和な国だね」
「……戦争はしませんと宣言していますから。でも、犯罪は起こりますから、取り締まる役人はちゃんといるんですけどね」

 瑞姫の住んでいた国では、戦争はしない、と他国に対して宣言している。犯罪に巻き込まれなければ平和といえるのだが、犯罪が多発しているので、シリウスの言葉には頷けない。銃刀法違反といっても、国が許可している人間には所持が認められているが、これは今話すことではないので黙っておく。
 常識云々のことは、最初は大目に見てくれるだろう。慣れてないから、と。だが、それでは駄目なのだ。社会人としてのプライドが許さない。聞かぬは一生の恥ともいう、この、最初が肝心だ。ここでの彼女の後見は第一王子である。彼の顔に泥を塗ることは、何としても避けたい。

「書物庫の管理は、私の叔父上がやっている。話しを通しておくよ」
「あ、ありがとうございますっ」

 読書が好きな瑞姫にとっては、とても嬉しい話である。この世界の事を学びつつ、色んな情報を手に入れるチャンスだ。教師をつけようか、という話もあったのだが、それは丁重にお断りしておいた。あまり動きを制限されたくない、というのと、自分の好きなように学びたいと思ったのである。
 それと、ゆりあの事だが、あの少女と瑞姫の部屋はかなり離れているらしい。

「君、あの子の事苦手だろう?」
「う……。あ、はは……、どうも、合わない様な気がして……。年齢の差、もあるかと思うのですが」
「年齢?……、女性に失礼だが、君の、その……」
「これでも成人しておりますよ。二一です」

(あはは……。まあ、元の世界でも年相応に見られたことないんだけど……。何が、足りないんだろうか……)

 待機している侍女含め、全員が驚いたような顔をした。まあ、元の世界であっても、年相応に見られたことがないのだ。どうせそうだろうと思っていたので、彼女自身は苦笑いである。ちなみに、シリウスとセイランは二六歳だ。

「ちなみに、元の世界では成人が二十歳です。あの子はまだ未成年でしょうね」
「……、ここは、成人が一五だよ」
「ここでも常識の差がありますねえ。……ちょっと、あの子危ないな……。自立できているようには見えないし」

 ぼそり、と呟いた声は、彼らにもきちんと耳に届いたらしい。昨夜の少女は、自分が家族から切り離されても、何ともない感じで振舞っていた。あれは、まぎれもなく本心だろう。それがとてもおかしく見えた。この状況を楽しんでいるかのような、そんな風に見えたのである。

「あの態度は、我々も少々不思議だったね」
「……私の世界には、娯楽がとても多いのですよ。彼女の世界や、ここではわかりませんが、恋愛の物語から、魔王になった少年の物語、愛と勇気と友情、努力で底辺から成り上がっていく物語、その他諸々、架空の出来事を、本や映像で楽しむことができました。その中には、こうやって異世界に召喚される少女の小説もありました。誰しもが考える事です」

 もし、彼の少女がこう言ったものを好んで読んでいれば、自分が主人公になった気になっても不思議ではない。不思議では、ないのだがそれにしても、と思う。現実が受け入れられてないような。それは、とても危うい。

「彼女の世界、といったが……。シノノメ殿と、カグラ殿の世界は違うのかい?」
「……えぇ、おそらくは。聞いてみない事にははっきりと言えませんし、憶測で物を言うのも、あまり好きではないので」
「そうか。……確かに、彼女はずいぶんと甘やかされて育ったように見える。危機感も、警戒心というのも、なさすぎるのは疑問だったんだ」

 それに同意するように、彼女は頷いた。憶測で、とは言ったが、瑞姫は絶対に住む世界が違うと確信している。
 何故か、と問われれば、犯罪が多発しているので、家庭で一番最初に教わることは、自分の身をある程度守れるようにするための護身術だ。なので、男女問わず、最低限身を守る術を身につける。それは義務でさえある。我が子を愛している家庭ならば、絶対に覚えさせるのだ。教育機関でも習わされる。危機感や警戒心の無さや、甘やかされて育ったであろう平和ボケした表情。筋肉のついてなさそうな体。ゆりあは、絶対に戦闘経験など皆無だ。もし、これが演技だというのなら、大した女優である。だが、それはない、と彼女の勘が言っていた。

「まあ、何日か経てば状況が把握できるだろう」
「……そう、ですね。今考えても仕方ないですね」

 自分の事もまだ余裕があるわけではない。なんとかするだろう、とこの話題はすぐに切り替えられた。
 そして、書物庫の出入りができるようになると、彼女は一日の半分以上はそこに籠り、紙とペンを武器に本と格闘しながら自分なりに解釈し、まとめ、分からないことは侍女たちに聞いたりして、着実に世界の事を学んでいった。それこそ、驚異的な速さで。
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