自由な女神様!~種族人族、職業女神が首を突っ込んだり巻き込まれたりの物語。脇に聖女を添えて~

時雨

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本編

01.異世界転移!

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 目を閉じているので感覚だが、ふ、と一瞬で空気が変わったような気がした。そして、肌で感じる大勢の人の気配と息づかい。

「成功、した……のか」
「その……よう、ですね」

 そこにいた人々は、わぁ、と歓喜の声を上げた。その声と、瞼越しに明るさを感じ、そ、と目を開ける。と、驚く光景が目に入った。

(え、いや……、え?なにここ、え、どこ?)

 一体どこに移動したのか。先ほどまでいたところとは、全く別のところにいるではないか。瑞姫の目の前に広がるのは、見たこともない、異国情緒あふれる場所。人々の服装も見慣れない、所謂ゲームや小説などに出て来そうな、そんな格好をしている。当然、瑞姫は警戒したが、周りの人間に殺気、敵意を向けなかったのは、相手がそれを向けて来なかったからで。敵の異能かと思ったのだが、どうも、違うような気がする。さっ、と目を周囲に走らせた。瑞姫の立っているところがスポットライトを浴びているかのように明るく、その周りは少しだけ暗い。足元をみれば、魔方陣のような模様が大きく描かれている。
 そして、そこに立っているのは瑞姫だけではなかった。瑞姫のすぐ近くには、瑞姫と同じような格好をした少女が、きょとんとして立っている。

「……え、えっ」

 そう声をあげ、きょろきょろとあたりを見回しているのは、もう一人の少女である。ふんわりとしたダークブラウンの髪に、黒目。顔立ちも整っており、美人、というよりは愛らしいものであった。

「申し訳ございません。突然、こちらの世界に引き込んでしまい」
「っ、へ……!?」

 こちらに近寄ってきた、男性四人。うち手前にいる二人は煌びやかな服装だ。どこぞの王子です、と言われても不思議ではない格好だった。その二人の、それぞれ斜め後ろに控えるよう佇むのは、騎士と思われる格好をしている。四人とも、顔立ちは恐ろしく奇麗だ。
 彼らの行動を観察しつつ、彼女は上へと視線を向ける。

(うわあ、奇麗な大きいお月様……。明かりはこれだったのか……)

 瑞姫たちが立っている場は、ぽっかりと天井が開いておりそこから空と月が見えた。とても奇麗な満月であり、視線だけではなく顔を上に向ける。スポットライトのような明かりの正体は、この満月の光だった。
 そんな瑞姫は、周りから見ればとても美しく儚げで。月を見て表情を和らげているその様子は、一枚の絵画のようだった。そして、精霊が見える者たちは、驚愕した。瑞姫たちの周りに、ふわりふわり、と精霊たちの姿が浮かぶ。それらは皆、歓迎しているらしかった。近くにいる少女にも精霊たちはいるが、瑞姫のほうが多い。

「……これは……」
「いやはや、我々はとんでもない方をお喚びしてしまったかもしれないね」
「美しい方ですね」

 月に見惚れていた瑞姫は彼らの声に、はっ、として顔を元の位置に戻す。

「す、すみません、つい」
「いやいや。とても美しいものを見させていただきました」
「は、はあ……」

 美しいもの?と、瑞姫は首をかしげた。彼らは状況の説明をしたい、と瑞姫たちに降りてくるように頼む。彼らは、この魔方陣が描かれた壇上に上れないどころか、拒まれてしまうようだ。後ろに控えていた騎士が一歩前に出て手を伸ばし、パチリ、と見えない何かに小さくはじかれるところを見せてくれた。

「なるほど、結界……」
「わかりました!おりますねっ」

 ぼそり、と呟いたその声は、元気に返事をした少女の声によって消された。驚いてそちらを見れば、困惑はあるようだが、その瞳に映るのは好奇心。そして、どこか浮かれた様子だった。その様子に眉を寄せたのは、瑞姫だけではなく向こうもで。だが、確かにここから動かなければ話も進まないので、素直に従った。降りるとは言っても、階段五段分である。少女は元気に降りたようだが、瑞姫はロングスカートのすそを持ち、降りる。過去、二度ほどスカートにつまずいた経験があるので慎重にならざるを得ない。
 本当なら、ここで手を差し伸べたい騎士たちだったが、結界に拒まれるためにその様子を見ているだけしかできず、がっかりしたそうな。

「お、お待たせ、しました」
「いえ、こちらこそ、手を差し伸べられず、申し訳ございません」
「そ、そんな、階段如きに手なんて……」
「次こそは、必ず」

 次?次ってなんだ?必ずって?と、瑞姫は若干、混乱した。
 場所を移し。ここは王宮の一廓にある、客室。二人掛けのソファに少女―東雲ゆりあ―。その隣に、少し距離を置いて瑞姫は座った。
 そして、その向かいに二人、右側がこのユーリシアン王国第一王子シリウス・ユーリシアンで、左側が第二王子リカルド・ユーリシアンが座る。シリウスは柔らかな雰囲気の青年、リカルドはどこか野性味を感じられる雰囲気の青年である。
 そして、二人の後ろに控えるように佇む二人の騎士は、第一王子の護衛でセイラン・ライフォエン。ここに来るまで、しばしば瑞姫の方へ気遣うような視線を向けていたのを彼女はすぐに気が付いた。鋭い目は、彼女と合うと少しだけ柔らかくなる。
 第二王子の護衛でシゼル・ローラン。こちらは、ずっと柔らかい笑みを浮かべていて、本心は見えなかった。

「よろしくお願いしますっ」

 にっこりと、少女はそう言って笑った。それに対して、よろしく、と雰囲気を崩さずに返す彼ら二人だったが、瑞姫はしっかりと彼らの瞳の中に見えた感情を読み取ってしまった。それは、疑惑。それを見てしまったために、よろしくお願いします、という言葉は出たものの、顔はひきつってしまったに違いない。
 東雲ゆりあは可憐な少女だった。ここの客室に来るまでにも、あたりをきょろきょろと見回し目を輝かせたりしていたのだ。まあ、場の雰囲気を読んだのか質問することはしなかったが。

「さて、夜ですし、あなた方をお喚びしたことのみを、今はお話しさせていただきたいのですが、よろしいですか?」
「お願いしますっ」

 瑞姫は、こくりと頷くだけにとどめた。……ゆりあと距離を取るために、もう少し端に寄ったが。

 この世界は、人族、魔族、亜人族のそれぞれ大陸があり、国がある。更には、精霊・妖精もいるのだが、姿を見られる者しか見られないのだとか。
 二百年に一度、この世界に瘴気が溢れる。瘴気というのは、日本でも言われる穢れの事。もともと、瘴気は日常に潜んでいるのだが、そういうのはごくごく薄く、世界そのものによって浄化が成される。だが、世界でも浄化が成せないほど大きくなってしまう時期がある。それが、二百年ごとにくるのだ。この世界の者だけでは対処できず、また、瘴気に触れると種族関係なく理性を失い狂暴になる。抑え込む術はあるのだが、一時的なものでまた再発する。早く瘴気を浄化してやらないと元に戻らなくなり、殺すしかない。
 そこで、女神からのお告げがあった。“異世界より浄化の力を持つを喚び寄せよ”と。そこから、二百年に一度、聖人を喚び瘴気の浄化を行ってきた。女神の慈悲により、こちらの世界に喚ばれるのは魂の半分らしい。要は、分身コピーだと思ってくれればいい。ちなみに、聖人とは総称で、聖女が女、聖者が男になる。どちらが来るかはその時々で、わからないらしい。

「なるほど……。要は、元の世界には元々いた自分が通常の生活を送っている、という考えでよろしいですか?」
「えぇ、その通りです」

 瑞姫がそう言えば、シリウスが頷く。体は女神が元の世界と同じような形で作ったものだそうだ。そこに、喚ばれた者の魂が入る形になる。この形であれば、喚ばれた者たちは帰還方法を考えずに、この世界に尽くすことができる、と。

「先代の子供……子孫では……。あぁ、力が受け継がれないのですね?」
「そうなのです。試した方がいらっしゃったそうなのですが、力の発現はなし、と伝えられております」

 ここに来た直後に、シリウスからこちらに引き込んで申し訳ない、という謝罪はあった。が、女神とやらには不信感を覚える。こちらからすれば、女神がどうにかすればいいのに、とも。しかし、どの世界においても、神というのは世界の理に反することが難しいとも理解している。元の世界の事を気にしなくてもいいのはありがたいが、行き成り引っ張り込まれ、この世界のために尽くせとは、これいかに。どうも、釈然としないのだ。

「無理矢理この世界に引き込んだ私たちがお願いするのは、おかしい事だとは分かっておりますが、どうか、力を貸していただけないでしょうか」
「お願いいたします」

 王族が二人、そろってきっちりと頭を下げる。更には、騎士二人や、この部屋にいる侍女たちまでも。目を瞠り、慌てたのは瑞姫たちだ。

「ま、待ってくださいっ、頭を、あげてくださいっ」

 ゆりあが慌てて声をかけ、全員に頭をあげてもらう。

「わ、私は、あの、力を貸してもいいです!元の世界に自分がいるなら、両親が悲しむこともないですしっ。断る理由が、ないので」

 またも、瑞姫は目を瞠った。どうしてそんな簡単に引き受けられるのか。どうして、そんなに顔が嬉しそうなのか。断る理由がないのはそうなのだが……。しかも、力を貸してもいい、とは、なんとも上から目線な言葉か。彼女が怪訝そうな顔をしているのは、ゆりあだけが気付いていない。そして、こちらに顔を向けるので慌てて取り繕う。

「……私は……断る理由は、ないのですが……」
「どうして!?だって、この人たちが、こんなにも困ってるのに!」

(いや、この子さっきから何?ちょっと、緊張感がないというか……。本当に理解してるの、かな……)

 なんだ、この子は、というのが正直な感想である。人の話を最後まで聞くということが出来ないのか?と。とりあえず、そんな少女を無視し、しっかりと彼らと目を合わせた。

「殿下が仰ったように、聖女が、どちらかであるか、または私たち二人なのか、も、分からないうちには……。それに、どうしたって、元の世界の事が頭にあります。やらねばならないことが、ありました。そう簡単に、切り替えることは難しい、です」

 瑞姫には、まだやるべきことが元の世界にあった。それが、突然やらなくても良い事、になってしまった。元の世界にいる“自分”が成し得てくれるだろうことを、信じるしかなくなってしまったのである。簡単に気持ちの切り替えはできない。

「少し、時間をいただけますか。気持ちの、整理をしたいです。この世界の事もちゃんと知りたいです。私が聖女でも聖女でなくても、何らかの形で協力できるように、整えたい、です。あなた方がこちらを試しているのは感じてましたが、嘘は感じませんでした。ですので、私が信用できると思った時に、ご返答させていただきたいと思います。それではいけませんか?」
「……、はははっ、なるほど。お嬢さんは、思慮深いようだ。こちらの事も見抜かれていたとは……。兄上」
「えぇ、身勝手なのはこちらです。カグラ殿、それで構いません。確かに、聖女だとわかるまでは、こちらも動けませんので」
「ありがとう、ございます」
「礼を言うのはこちらです。何らかの形で協力すると仰っていただけただけでも、十分です」

 瑞姫には、嘘だと見抜ける嘘発見器的な直感があった。ただ、言葉が嘘だとわかるだけで、ついた人の心意まではわからないが、これは結構重宝する。その直感に、引っかかることはなかった。
 話せることが、今はこれくらいらしい。夜も遅いのでそれぞれの部屋へ、瑞姫にはシリウスが、ゆりあにはリカルドがつき、案内してもらう。案内と言っても、ちゃんと侍女が先頭を歩いているが。

「カグラ殿、少しお聞きしてもよろしいでしょうか」
「あ、はい」
「あなたは、貴族の御令嬢でしたか?」
「……へ?」

 貴族のご令嬢、などと初めて言われたので、呆気にとられてしまった。そのせいで一瞬、返答に詰まったが、もちろん一般人である。

「一般人です。……ただ、社交の場にでる機会があったので、マナーはわかります。曖昧な感じになったのは、東雲さんがいたので、あまり格式張ると萎縮しちゃうのではないかと思って」
「なるほど」

 それだけではなく、突然ふっと湧いて出た、と言ったら失礼だが、王族に対してどのように接していいかわからなかったのも、もう一つの理由である。社交の場に出たと言っても片手で足りるほどで、また、マナーもそれ以降は使ってない。頭をフル回転させながら、昔の事を思い出しつつ、出来得る限りの最低限のマナーをしてみせただけだった。
 お互いの事を話しつつ、部屋に入るまでシリウスに見届けられ、瑞姫の初日は終わったのだった。
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