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本編
14.護衛をゲットしました。
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次期副団長?これが?え?と思いフォリアを見上げれば、間違ってはいません、と曖昧な返答。精霊たちは、こいつやだ~、と言っている。正直、瑞姫も嫌だ。
「――――話にならないな。貴方の言いたいことはわかりました」
「なら――――」
「安心してください。私は、貴方を護衛になど絶対に選びはしません」
シリウスが選んだのであれば、彼は優秀な部類に入るのだろう。だが、性格がこれではだめだ。それに、シェリタは瑞姫のことを飾りか何かだと思っているのか。確かに、女神の護衛という肩書きは、誇れるものになるだろう。しかし、この手の人間は、その肩書きにあぐらをかき間違った道に走りそうで怖い。女神様のためといい、無関係の人間を傷つけることを厭わなくなったら怖い。女神様のためを免罪符にしてもらっては困る。彼のことはよく知らないからそうだとは限らないが、不安要素がある人間を護衛には選べないし、もし本当にそうなら、それはだめなのだ。
「なぜです!?そいつは女神様にとって害にしかなりませんよ!?」
害とは。フォリアが瑞姫に仕えたいと言った言葉は嘘ではなく、本心だ。まさか、毒で殺すとか?寝首をかくとか?想像して、それはないな、と確信があり、ふん、と鼻で笑ってしまう。
「フォリアさん、貴方の血をくださいな」
「は……、は!?え、いえ、それは……!毒を飲むと言うことですか!?って、ちょ……っ」
がしり、とフォリアの手を握り、ぴっ、と手の甲の肌を切った。それに慌てたのはフォリアで、手を引っこ抜こうと動くが瑞姫が水の異能で腕を動かさないように固定してしまい、体は動くものの無体なまねはできず、結局言葉のみで瑞姫を止めようとする。
「こら動かない」
「っ!?」
まるで、言うことを聞かない子供に言い聞かせるような柔らかさを持った言葉に、上目遣いに見られればフォリアは動きを停止せざるを得なかった。黙ってみていろ、と目で黙らされ、そのまま伏せられた瞳に息をのむ。フォリアにとってそれは、とても扇情的に映る光景だった。傷口に瑞姫の唇が触れた瞬間、ゾクリとフォリアは震える。ぺろり、となめられた感覚はたまったものではなかった。赤く染まる顔を隠すように逆の手で覆う。しかし、そこから目が離せない。
――――ぎゃー!?何してんの女神様ぁ!?
とは、見守っていた団員たちの心の叫びだ。何人かは、某絵画の叫びを体現している。
そんなフォリアや周囲に気づかず、瑞姫はマイペースにむぐむぐ、と口の中で血を転がした。最初だけピリッとするものの、毒は回らない。
「女神様!そいつの血は毒が含まれているのですよ!?何をなさっているのです!」
シェリタの叫びに、はっ、とフォリアは正気に戻った。瑞姫を見れば、手は握っているものの、唇は離れているし、いつのまにか水の拘束も解けていた。
「何って。毒が効かないことを証明して差し上げたんですけど?」
「え、毒が、効かない……?ほ、本当、に?」
「具合が悪いように見えます?私が、嘘をついているとでも?」
瑞姫はいたずらが成功したような笑みを浮かべ、フォリアを見ている。顔色は悪くないし、無理しているようにも見えず、フォリアは呆然としながら力なく首を横に振った。よろしい、と頷いた瑞姫は、シェリタを見やる。
「害とは、毒ですか?なら、問題ないですね。私は毒が効かない体質でして、彼の血を致死量飲んだからと言って、死ぬことはまず、絶対に、ぜーったいに、ありえない。トリカブトですら効かないのですよ?それより弱い毒など、ジュースのようなものです」
「毒はジュースと言いません」
だからこそ、瑞姫は彼の血を口に含んだ。絶対に大丈夫だという確信があったからこそ、やったのだ。瑞姫は、毒を含む薬や麻薬類も効かない。そういう体質なのだ。この世界風で言えば、状態異常無効、だろう。
「ふふっ、そうですね。それで?白蛇族、でしたか?それこそ何の問題もありません。私蛇好きなので、むしろどうぞ私のそばにという感じですが、何か?」
「な……。そ、しかし!不吉の象徴でして!」
それこそ何か?という感じである。不吉の象徴と言うが、人族が不気味だと言うだけで忌避しただけだ。実際、白蛇族は何もしていない。今は受け入れられているから、こうしてフォリアのような混じったハーフが生まれたというのに、なんだというのか。ちなみに、瑞姫は蛇好きというか、爬虫類全般好きだったりする。
「私の世界のお話をしましょう。白蛇。確かにいます。ただし、その身は古今東西を問わず、神聖視されていますが」
「え?」
「特に、私の住む日本では、水神として祀られ、尊ばれることが非常に多い。サラスヴァティーは、日本ではとても有名な弁財天として知られています。そしてその弁財天の使いとして、白蛇も知られています。他の神の使いとしても珍重されています。更に言えば、サラスヴァティーは蛇神という説もある。言っている意味がわかりますか。白蛇は、縁起のいい生き物なのです。それを……」
にこやかに話していたが、一度言葉を切ると、目を細め、シェリタを睨むように見る。
「一度目は知らなかったから、と言うことで場を納めます。しかし、二度目はありません。次、私の前で白蛇を侮辱、もしくはそれが耳に入れば、ぶっ飛ばしに行きますので間違いのないよう」
「ひっ」
少し、殺気を出し過ぎたらしい。シェリタは恐れを抱いたのか、腰が引けていた。
「オヴェラルトさん、フォリアさん借ります」
「はっ、かしこまりました」
瑞姫はそのままフォリアの手を引き、その場を後にする。向かった先は、レイノートの執務室だ。扉の前にいる護衛に取り次ぎを願い、部屋に入れてもらう。
「女神様。フォリアまで。……というか、その、手は?」
レイノートは入ってきた二人を見るなり、手がつながれているところを指摘した。きょとん、としていた瑞姫とフォリアだが、はっ、と気づいたように手を離す。
「うわ、ごめんなさい。つい!ていうか、手、傷付けてすみませ……、あれ?傷がない」
「い、いえ、こちらこそ……。あ、いえ、傷は、あの程度ならすぐ塞がりますので……」
亜人族は、総じて傷の治りが早い。フォリアの手の甲につけた傷も、かすり傷程度のものだったので、もう塞がり傷跡すらなかった。
「傷?血を流したのか!」
「えぇ、そう、なのですが……。その」
「あ、私がやりました。ちょっと頭にきたので、毒は効かないんだよ、って証明するために血をいただきました」
「……何がどうして、そうなったのです」
瑞姫が先ほど起こったことを極めて簡潔に伝えれば、レイノートは頭を抱えてシェリタのことに対して謝罪する。それは本人に謝ってもらわねば意味がないものだが、部下のしでかしたことを謝るのも上司の仕事なので、受け取っておいた。詳細はオヴェラルトにバトンタッチしておく。
「シェリタ・ロイエンさんは、……あー、優秀、なんですよね?」
「えぇ、仕事はできる男です」
レイノート曰く、実力もある。優柔不断なところはあるが、答えを出すのに少し時間がかかるだけで判断は間違ってないし、仕事も真摯にこなせる。ただ、自分が好きすぎるのが玉に瑕らしい。容姿で人を見下したり判断したりすることはないものの、自分が一番だと思っていることは会話から読み取れるそうだ。今まで暴力沙汰にもならなかったから、放置していたら今回の件。非常に残念である。
「まあ、私は彼を選ぶことはないので、もうどうでもいいですけど」
「手厳しいですな」
「当たり前です。私の前で蛇を侮辱するなんて、殴り飛ばさなかっただけありがたいと思ってもらわなければ」
レイノートは王との謁見の際に、瑞姫が“敵は容赦なく潰す”と言っていたことを思い出した。ぷぅ、とふくれっ面で言う瑞姫の様子に、殴られたらただじゃすまないだろうな、とレイノートは思ったとか。そんな瑞姫を、フォリアはどこか恍惚とした眼差しで見ていた。
「……フォリア、お前、女神様を主君と決めたのか」
「!……、はい。この方にお仕えしたい。強く、惹かれるのです」
一部の亜人族は、主君を定めると一生側に仕え、その主君以外の命令は全く聞かない性質を持っている。フォリアはハーフだから、そういう面は薄いと思っていたが、違ったようだ、とレイノートは考えを改めた。
「女神様、亜人族の……まあ、一部ですが、主君を定める性質は理解しておられますか」
「あ、はい。一生側に仕え、主君以外の命令は全く、きかな……、あー!フォリアさんの仕えたい云々はそういうこと……!」
「ご理解いただけて何よりです。白蛇族の私ですが、どうか仕えさせていただきたく」
通りで重いと思ったのだ。彼の想いは、主君を定めたからこその言葉で。生半可な気持ちで言っているわけではないんだろう。彼は騎士団を辞すると言った。心身ともに瑞姫のものになり捧げたい、と言うことである。うーん、重い。重いのだが……。
まあ、フォリアを護衛にするつもりではあったので別にいいか、と彼女の楽天的な部分が顔を覗かせた。
「……まあ、いいですよ。えっと、許します」
「!はい!ありがとうございます、女神様!」
「そのまま主従契約を結んでしまえばよいのでは?」
「だ、団長!?それは……っ」
主従契約を結ぶ?と瑞姫は首をかしげた。
「基本的に、フォリアが女神様に仕えることに変わりありません。ただ、主従契約を結ぶとそれを示す印が体のどこかに現れます。それは、手っ取り早く貴女のものだと証明できます。それと、従者は主君の力の恩恵を受けることができるのです」
「へえ。やり方は?」
「血を交換すればよろしいのです。フォリアの血をお飲みになったのなら、後はフォリアが女神様の血を飲み、誓いの言葉を交わせば契約は成り立ちます」
誓いの言葉は何でもいいらしい。瑞姫がそれに乗り気なのにフォリアも気づき、期待の眼差しがざくざくと瑞姫を刺してくる。
「め、がみさま、もしや、むすんで、いただける、のですか?」
「うーん……、結んでもいいとは思いますけど……」
「けど?」
ずずい、とお綺麗な顔が迫ってくるので、瑞姫は少し仰け反りながら、どうどう、とフォリアを落ち着けさせる。はっ、と照れながら姿勢を正すフォリアに、そっとため息を吐いた。
「一応、結ぶ前に、ご両親に報告をした方がいいんじゃないかなと。こっちも一応、シリウスには事前報告しといた方が良さそうですし。私はいいんですけど、しかるべき手続き、というか順を踏むべきじゃないかな、って思うんですけど」
「女神様の仰るとおりですな。フォリア、退団手続きは私がしておこう。エヴィル伯爵夫妻には、報告しておいたほうがいい」
「そう、ですね」
「ふっ、お預けされた気持ちはわからないでもないがな」
「うぐ……」
そうか、お預けになるのか。しゅん、としているフォリアに、瑞姫は罪悪感がつのる。何かしてあげたいと思ってしまう。これだからイケメンは!などという文句は心の内にこぼし、瑞姫は考えた。考えに考えた末、ぽん、と手を打つ。手のひら同士を合わせ、間に空間を作る。少し目を伏せ、自分の中にある構想を宝石に具現化し、創造。
中央に桜の花をローズクォーツで、三日月を黄色に近いアンバーで作り桜の斜め下へ配置。ホワイトサファイアを小さくしてちりばめ、全体をアクアマリンでつないで固める。更に、ダイヤモンドで周りを包むように固めれば完成である。靱性、硬度をかなり高め、滅多なことでは割れない様にしておいた。丸形で、直径五センチ。ひもを通せるように穴を開けてあるので、いつも髪を結うときに使う青いリボンを通して完成である。
「はい。これ、私のっていう仮の証拠ね。桜と全体的に水色は私、三日月の色はフォリアさんの瞳で、雪の白はフォリアさんの髪色ね」
「い、え……!?こ、れは、なに、で……」
「まさか、女神様、もう一つの異能の方を使われたのですか……!」
「きぎょーひみつでーす。とりあえず、これが仮、っていうことで。あげる」
企業秘密とは言ったが、それはフォリアに対してで、レイノートは確信しているので口外禁止という意味での企業秘密である。仮であげられるほど、安いものではない。レイノートはそれの価値に気づき、盛大に顔を引きつらせた。
瑞姫から差し出されたそれに、フォリアは感極まったらしい。仰々しく跪き、両手で恭しく受け取ったのだった。
「――――話にならないな。貴方の言いたいことはわかりました」
「なら――――」
「安心してください。私は、貴方を護衛になど絶対に選びはしません」
シリウスが選んだのであれば、彼は優秀な部類に入るのだろう。だが、性格がこれではだめだ。それに、シェリタは瑞姫のことを飾りか何かだと思っているのか。確かに、女神の護衛という肩書きは、誇れるものになるだろう。しかし、この手の人間は、その肩書きにあぐらをかき間違った道に走りそうで怖い。女神様のためといい、無関係の人間を傷つけることを厭わなくなったら怖い。女神様のためを免罪符にしてもらっては困る。彼のことはよく知らないからそうだとは限らないが、不安要素がある人間を護衛には選べないし、もし本当にそうなら、それはだめなのだ。
「なぜです!?そいつは女神様にとって害にしかなりませんよ!?」
害とは。フォリアが瑞姫に仕えたいと言った言葉は嘘ではなく、本心だ。まさか、毒で殺すとか?寝首をかくとか?想像して、それはないな、と確信があり、ふん、と鼻で笑ってしまう。
「フォリアさん、貴方の血をくださいな」
「は……、は!?え、いえ、それは……!毒を飲むと言うことですか!?って、ちょ……っ」
がしり、とフォリアの手を握り、ぴっ、と手の甲の肌を切った。それに慌てたのはフォリアで、手を引っこ抜こうと動くが瑞姫が水の異能で腕を動かさないように固定してしまい、体は動くものの無体なまねはできず、結局言葉のみで瑞姫を止めようとする。
「こら動かない」
「っ!?」
まるで、言うことを聞かない子供に言い聞かせるような柔らかさを持った言葉に、上目遣いに見られればフォリアは動きを停止せざるを得なかった。黙ってみていろ、と目で黙らされ、そのまま伏せられた瞳に息をのむ。フォリアにとってそれは、とても扇情的に映る光景だった。傷口に瑞姫の唇が触れた瞬間、ゾクリとフォリアは震える。ぺろり、となめられた感覚はたまったものではなかった。赤く染まる顔を隠すように逆の手で覆う。しかし、そこから目が離せない。
――――ぎゃー!?何してんの女神様ぁ!?
とは、見守っていた団員たちの心の叫びだ。何人かは、某絵画の叫びを体現している。
そんなフォリアや周囲に気づかず、瑞姫はマイペースにむぐむぐ、と口の中で血を転がした。最初だけピリッとするものの、毒は回らない。
「女神様!そいつの血は毒が含まれているのですよ!?何をなさっているのです!」
シェリタの叫びに、はっ、とフォリアは正気に戻った。瑞姫を見れば、手は握っているものの、唇は離れているし、いつのまにか水の拘束も解けていた。
「何って。毒が効かないことを証明して差し上げたんですけど?」
「え、毒が、効かない……?ほ、本当、に?」
「具合が悪いように見えます?私が、嘘をついているとでも?」
瑞姫はいたずらが成功したような笑みを浮かべ、フォリアを見ている。顔色は悪くないし、無理しているようにも見えず、フォリアは呆然としながら力なく首を横に振った。よろしい、と頷いた瑞姫は、シェリタを見やる。
「害とは、毒ですか?なら、問題ないですね。私は毒が効かない体質でして、彼の血を致死量飲んだからと言って、死ぬことはまず、絶対に、ぜーったいに、ありえない。トリカブトですら効かないのですよ?それより弱い毒など、ジュースのようなものです」
「毒はジュースと言いません」
だからこそ、瑞姫は彼の血を口に含んだ。絶対に大丈夫だという確信があったからこそ、やったのだ。瑞姫は、毒を含む薬や麻薬類も効かない。そういう体質なのだ。この世界風で言えば、状態異常無効、だろう。
「ふふっ、そうですね。それで?白蛇族、でしたか?それこそ何の問題もありません。私蛇好きなので、むしろどうぞ私のそばにという感じですが、何か?」
「な……。そ、しかし!不吉の象徴でして!」
それこそ何か?という感じである。不吉の象徴と言うが、人族が不気味だと言うだけで忌避しただけだ。実際、白蛇族は何もしていない。今は受け入れられているから、こうしてフォリアのような混じったハーフが生まれたというのに、なんだというのか。ちなみに、瑞姫は蛇好きというか、爬虫類全般好きだったりする。
「私の世界のお話をしましょう。白蛇。確かにいます。ただし、その身は古今東西を問わず、神聖視されていますが」
「え?」
「特に、私の住む日本では、水神として祀られ、尊ばれることが非常に多い。サラスヴァティーは、日本ではとても有名な弁財天として知られています。そしてその弁財天の使いとして、白蛇も知られています。他の神の使いとしても珍重されています。更に言えば、サラスヴァティーは蛇神という説もある。言っている意味がわかりますか。白蛇は、縁起のいい生き物なのです。それを……」
にこやかに話していたが、一度言葉を切ると、目を細め、シェリタを睨むように見る。
「一度目は知らなかったから、と言うことで場を納めます。しかし、二度目はありません。次、私の前で白蛇を侮辱、もしくはそれが耳に入れば、ぶっ飛ばしに行きますので間違いのないよう」
「ひっ」
少し、殺気を出し過ぎたらしい。シェリタは恐れを抱いたのか、腰が引けていた。
「オヴェラルトさん、フォリアさん借ります」
「はっ、かしこまりました」
瑞姫はそのままフォリアの手を引き、その場を後にする。向かった先は、レイノートの執務室だ。扉の前にいる護衛に取り次ぎを願い、部屋に入れてもらう。
「女神様。フォリアまで。……というか、その、手は?」
レイノートは入ってきた二人を見るなり、手がつながれているところを指摘した。きょとん、としていた瑞姫とフォリアだが、はっ、と気づいたように手を離す。
「うわ、ごめんなさい。つい!ていうか、手、傷付けてすみませ……、あれ?傷がない」
「い、いえ、こちらこそ……。あ、いえ、傷は、あの程度ならすぐ塞がりますので……」
亜人族は、総じて傷の治りが早い。フォリアの手の甲につけた傷も、かすり傷程度のものだったので、もう塞がり傷跡すらなかった。
「傷?血を流したのか!」
「えぇ、そう、なのですが……。その」
「あ、私がやりました。ちょっと頭にきたので、毒は効かないんだよ、って証明するために血をいただきました」
「……何がどうして、そうなったのです」
瑞姫が先ほど起こったことを極めて簡潔に伝えれば、レイノートは頭を抱えてシェリタのことに対して謝罪する。それは本人に謝ってもらわねば意味がないものだが、部下のしでかしたことを謝るのも上司の仕事なので、受け取っておいた。詳細はオヴェラルトにバトンタッチしておく。
「シェリタ・ロイエンさんは、……あー、優秀、なんですよね?」
「えぇ、仕事はできる男です」
レイノート曰く、実力もある。優柔不断なところはあるが、答えを出すのに少し時間がかかるだけで判断は間違ってないし、仕事も真摯にこなせる。ただ、自分が好きすぎるのが玉に瑕らしい。容姿で人を見下したり判断したりすることはないものの、自分が一番だと思っていることは会話から読み取れるそうだ。今まで暴力沙汰にもならなかったから、放置していたら今回の件。非常に残念である。
「まあ、私は彼を選ぶことはないので、もうどうでもいいですけど」
「手厳しいですな」
「当たり前です。私の前で蛇を侮辱するなんて、殴り飛ばさなかっただけありがたいと思ってもらわなければ」
レイノートは王との謁見の際に、瑞姫が“敵は容赦なく潰す”と言っていたことを思い出した。ぷぅ、とふくれっ面で言う瑞姫の様子に、殴られたらただじゃすまないだろうな、とレイノートは思ったとか。そんな瑞姫を、フォリアはどこか恍惚とした眼差しで見ていた。
「……フォリア、お前、女神様を主君と決めたのか」
「!……、はい。この方にお仕えしたい。強く、惹かれるのです」
一部の亜人族は、主君を定めると一生側に仕え、その主君以外の命令は全く聞かない性質を持っている。フォリアはハーフだから、そういう面は薄いと思っていたが、違ったようだ、とレイノートは考えを改めた。
「女神様、亜人族の……まあ、一部ですが、主君を定める性質は理解しておられますか」
「あ、はい。一生側に仕え、主君以外の命令は全く、きかな……、あー!フォリアさんの仕えたい云々はそういうこと……!」
「ご理解いただけて何よりです。白蛇族の私ですが、どうか仕えさせていただきたく」
通りで重いと思ったのだ。彼の想いは、主君を定めたからこその言葉で。生半可な気持ちで言っているわけではないんだろう。彼は騎士団を辞すると言った。心身ともに瑞姫のものになり捧げたい、と言うことである。うーん、重い。重いのだが……。
まあ、フォリアを護衛にするつもりではあったので別にいいか、と彼女の楽天的な部分が顔を覗かせた。
「……まあ、いいですよ。えっと、許します」
「!はい!ありがとうございます、女神様!」
「そのまま主従契約を結んでしまえばよいのでは?」
「だ、団長!?それは……っ」
主従契約を結ぶ?と瑞姫は首をかしげた。
「基本的に、フォリアが女神様に仕えることに変わりありません。ただ、主従契約を結ぶとそれを示す印が体のどこかに現れます。それは、手っ取り早く貴女のものだと証明できます。それと、従者は主君の力の恩恵を受けることができるのです」
「へえ。やり方は?」
「血を交換すればよろしいのです。フォリアの血をお飲みになったのなら、後はフォリアが女神様の血を飲み、誓いの言葉を交わせば契約は成り立ちます」
誓いの言葉は何でもいいらしい。瑞姫がそれに乗り気なのにフォリアも気づき、期待の眼差しがざくざくと瑞姫を刺してくる。
「め、がみさま、もしや、むすんで、いただける、のですか?」
「うーん……、結んでもいいとは思いますけど……」
「けど?」
ずずい、とお綺麗な顔が迫ってくるので、瑞姫は少し仰け反りながら、どうどう、とフォリアを落ち着けさせる。はっ、と照れながら姿勢を正すフォリアに、そっとため息を吐いた。
「一応、結ぶ前に、ご両親に報告をした方がいいんじゃないかなと。こっちも一応、シリウスには事前報告しといた方が良さそうですし。私はいいんですけど、しかるべき手続き、というか順を踏むべきじゃないかな、って思うんですけど」
「女神様の仰るとおりですな。フォリア、退団手続きは私がしておこう。エヴィル伯爵夫妻には、報告しておいたほうがいい」
「そう、ですね」
「ふっ、お預けされた気持ちはわからないでもないがな」
「うぐ……」
そうか、お預けになるのか。しゅん、としているフォリアに、瑞姫は罪悪感がつのる。何かしてあげたいと思ってしまう。これだからイケメンは!などという文句は心の内にこぼし、瑞姫は考えた。考えに考えた末、ぽん、と手を打つ。手のひら同士を合わせ、間に空間を作る。少し目を伏せ、自分の中にある構想を宝石に具現化し、創造。
中央に桜の花をローズクォーツで、三日月を黄色に近いアンバーで作り桜の斜め下へ配置。ホワイトサファイアを小さくしてちりばめ、全体をアクアマリンでつないで固める。更に、ダイヤモンドで周りを包むように固めれば完成である。靱性、硬度をかなり高め、滅多なことでは割れない様にしておいた。丸形で、直径五センチ。ひもを通せるように穴を開けてあるので、いつも髪を結うときに使う青いリボンを通して完成である。
「はい。これ、私のっていう仮の証拠ね。桜と全体的に水色は私、三日月の色はフォリアさんの瞳で、雪の白はフォリアさんの髪色ね」
「い、え……!?こ、れは、なに、で……」
「まさか、女神様、もう一つの異能の方を使われたのですか……!」
「きぎょーひみつでーす。とりあえず、これが仮、っていうことで。あげる」
企業秘密とは言ったが、それはフォリアに対してで、レイノートは確信しているので口外禁止という意味での企業秘密である。仮であげられるほど、安いものではない。レイノートはそれの価値に気づき、盛大に顔を引きつらせた。
瑞姫から差し出されたそれに、フォリアは感極まったらしい。仰々しく跪き、両手で恭しく受け取ったのだった。
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