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本編
20.仕掛けてきました。傍観です。
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さて、ここで少し話は変わるが、国王陛下の妻である王妃には、結局、拝顔することは叶わなかった。
なぜならば、病で臥している、というのが表の理由である。半年くらい前から徐々に弱り、今ではほとんどをベッドの上で過ごしているという。ちなみに、王の寵愛を受けているのはただ一人で、側室はいない。
王の場合、多くの側室を持つべきだという声はあったが、王は頑なに頷かず、彼女ただ一人を妻として愛しているそうだ。現に、本来ならこの場で隣に座っているはずの王妃の席を、ちら、と一瞬だが見ている。そして、少し寂しそうな色を瞳に宿していたのも目撃した。一瞬でその色は掻き消えてしまったが。
殺意や敵意は、今も断続的に続いているが、中々顔を見せてはくれないらしい。もやっとしたものを抱えながらも、彼女は先ほどいた場所から、シリウスの元に戻ってきていた。というのも、表の理由は、保守派のところに居過ぎ!である。裏の理由は言われてないが、ネズミがいるから守る人はある程度固まっておきましょう!と言った感じだ、恐らく。
現に、男を侍らしていたゆりあは、(仮)逆ハーレムを解散させられ、リカルドの傍にいる。
ちなみに、彼女のいるこのテーブルは、シリウスを筆頭に王弟殿下シュバルツ、騎士団総長レイトラル、宰相レスニアである。その周りに、正装をした騎士たちが貴族たちに紛れ込んでいた。ちょっとそうそうたるメンバーが固まりすぎではなかろうか、と思ったものの、敵がどう来るかわからないための布陣だろう、と無理やり納得させた。
「ミズキ、チェリン侯爵子息のことは、手を煩わせたようですまなかったね」
「あぁ、いえ。どう聞いたかはわからないけど、かちん、ときたので、顔も見ずに追っ払っただけだよ」
「あぁ。白蛇族のことを貶されたんだろう?」
「ほんと、全くもって不快。バーリン伯爵子息も巻き込んじゃったから、もし抗議か何かあれば私にいうようにいってあるよ」
「……フォリア、訳して」
フォリアは某検索サイトか。シリウスは、なぜ本人に聞かずフォリアに聞いたのか。
「やり返し足りないので、やり返す大義名分がほしい、です」
そして、それに普通に答えるフォリア。なぜだ。
「ありがとう。なるほど、そうか。かなり辛辣に追い払ったと聞いたが」
「一回痛い目見せてあげないと、馬鹿は治らないでしょ?……治るかな」
「ふはっ……ははっ、まあ、確かにね」
まあ、公爵が何もしなければ、こちらも何もできないし、しないのだが。どうしたらあのように育つのか。子育てするときの環境は、本当に大事にしなければいけない。
他にも、女神が同性婚可能な世界だったとか、同性の婚約を祝福しただとか、情報の巡りが早すぎる。さすが、社交の場。そのあとの物騒な会話は流れていなかったので、ほっとしたが。終始和やかな感じでしたねぇ、とはシュバルツの言葉である。
「和やかな感じに見えたのなら、よかったです。……まあ、最後の方の会話の内容など、今の一瞬の出来事ですけれど」
さて、どう伝えようか、と考えていたら、ナイスタイミングとばかりにまた一瞬したので、苦笑いで伝える。
「今の一瞬?……!なるほど、気づいておられたか。さすがだな」
「当然です。だからあの場にいたのですよ。まあ、様子見、ということで話は落ち着いたのですけれど」
気づいていない、と思われていたことにひょい、と肩をすくめる。まあ、自分の容姿は理解している。いくら本人が戦えるといっても、容姿からは全く想像できないので、皆してそれほど強くない、と決めつけてしまうのだ。それはそれで、敵も油断してくれるのでありがたいことではある。
「ただ……、シリウス、背後ががら空きだけど、誘い込んでるの?囮?」
「いや、そういうつもりでは……。護衛がいるだろう?」
「うーん、けどねえ……。一瞬のあれに気をとられているその瞬間が……」
「……空いているわけか……」
どうやら、囮というわけではなかったらしい。深読みをし過ぎただけのようだ。ただ、それならそれで、護衛があの一瞬に気取られていることが危ぶまれる。しかし、護衛がそれに気づいていて一瞬のあれに気をとられているふりをしているのなら、話は変わってくる。背後に誘い込んだところを阻止。簡単な話ではないが、できる腕を持っているのならば、全然ありな戦略である。まあ、これも彼女の憶測なので、やはり様子見だ。
事態が動いたのは、それからまたしばらくたった頃だった。
何かあったのか、ざわり、と空気が揺れた。当然、誰もがそちらへ意識を向けるだろう。何かと思えば、給仕が誰かと接触し、持っていたグラスか何かを落としたようだった。
「……あの給仕……!」
瑞姫が手練れであり、味方かどうかわからないと思っていた給仕である。手練れそうに見えて実際そうじゃなかったのか?と思ったが、違うと考え直す。気配の消し方、足さばき、素人ではなかった。そんな人間が、誰かと接触する?何かに気をとられた?一瞬のあれは、感じなかった。であれば、彼女は素早く周りを見回し、
「王様、後ろ!」
そう叫んだ。王の後ろより、黒い影が銀のきらめきを伴って迫っている。ここからでは、いくら彼女でも間に合わない。だが、横から誰かが飛び出してそれを阻止した。そのまま戦闘開始される。
そして、それを合図に次々と侵入者たちが飛び出してきて、あっという間に会場内は大混乱に陥った。どうやら、狙いは王族らしい。
「ミズキ様、どうされます」
「……、弱いし、傍観」
「かしこまりました」
フォリアとともに、敵の攻撃を受け流しつつさがる。気配を消し、バックステップで下がった場所は、先ほどまで瑞姫たちが陣取っていた保守派が多くいて、セレネイズたちがいたテーブルの傍である。セレネイズたちはすでに会場内に散り、騎士たちをまとめながら動いているのだろう。姿が見えなかった。
「……、いや、本当に弱いね?よく、この程度で仕掛けてきたね?」
「おかしいですね。恐らく、相手は暗殺者ギルドだと思うのですが……。こんなところに下っ端を送り込んでくるとは……」
「下っ端なのか、暗殺者ギルド自体弱いのか。……焦ってる感じするね。黒幕からせっつかれてるのか、もしかしたら後がないのか」
「でしたら、雇い主は馬鹿ですね」
「確かにね~」
相手からは、焦りを感じさせる。王族狙いなのだろうが、流れ弾がすごいのだ。手当たり次第なのか、周囲も気にせず馬鹿みたいに暗器や魔法を放つので、貴族たちの避難誘導と護衛に、結構な人手がとられている。
しかし、瑞姫が傍観に回るのは、それでも相手の方が弱いと見切れたからだ。騎士団も集まってきているし、戦えるものが多くいる場に、瑞姫とフォリアが入れば戦力過多になる。自分たちでなんとかできる範囲ならば、彼女がわざわざ出張ることではない。自分はただ、邪魔にならないよう防御に徹していればすぐ終わるだろう。
ただ、これは建前である。本音を言えば、ちょっと敵が弱すぎて自分が出る幕じゃないし、面倒くさい、である。彼女の面倒くさがり屋の面が、こういう場面でも発揮されるのは場慣れしている証拠、といえばいいのか……。元の世界でもあったことなので、今更ではあるものの。
周りをずっと警戒していたが、こちらに敵が来ない。ゆりあはリカルドの傍にいたので巻き込まれたようだが、敵は王族狙いなのは間違いない。間違いないのだが、相手がどうも弱すぎるのだ。最初の、給仕を使った視線誘導は間違いなく成功していた。彼女が給仕のことに気づかずにいれば、王に視線を向けることなく、声も掛けなかっただろう。相手はそれが誤算だったはずだ。
護衛が間に合い、王は無傷。襲った相手は、既に取り押さえられている。シリウス達も、護衛に守り通されたようで無傷。大半は取り押さえられ、残りの敵は分が悪いと悟ったのか捨て台詞をまき散らしている。
(うわー、ド三流……。何、今時ないでしょ。“覚えてろよ”とか、“これで終わりと思うなよ”とか。古すぎて逆に笑える。お前らどこのヤンキー漫画から出てきたの?やられ役お疲れ様です?)
「そうさ!これで終わりと思うなよ!?」
笑いを耐えながら成り行きを見守っていれば、そう、侵入者の男が吠えた。その男が手をかざせば、目の前に魔法陣が現れる。どこからか、召喚魔法陣だ!と声が聞こえた。
「はははは!俺を今殺したところでッ!この魔法はもう止められまいよ!発動したが最後だっ!」
「なんだと!?」
男の言っていることは嘘ではない。召喚者本人を殺したところで止められないようだ。いったい何を召喚したというのか。誰もが緊張感を漂わせる中、召喚の光は大きくなり、やがて一人の男がそこに立っていた。顔を伏せていて見えないが、漂う魔力量、威圧感は相当重い。今までとは段違いの、ビリビリとした空気が肌を撫でる。
「魔族です、ミズキ様。愚かなことを……!」
「あれが魔族……」
人間の肌よりも白い、を通り越して青白い。ワインレッドの髪が特徴の、恐らく二メートル近くある高身長だ。
「この魔族は人間嫌いでな!今回協力してもらったのだ!さあ、人間だぞ!?殺ってしまえ!」
瑞姫ははて?と首をかしげる。男の言っていることは嘘だったからだ。しかし、魔族はその言葉通りに顔を上げ、真っ黒い眼球に赤い瞳で憎々しいとばかりに周りを睨む。
「あぁ、あぁ。――――人間は……、嫌いだ。従うさ、お前に」
はて?と今度は反対側に首を倒す。この言葉も、嘘である。嘘だらけ。を考えると、この魔族は人間嫌いではなく、協力しているのではなく、従わない。
「ミズキ様、すべて……、嘘、ですね?」
「そうだね。……フォリア、首」
「えぇ。あれは恐らく、旧式の隷属の首輪です。とても、禍々しい。私の目に映るほどのものです……」
「うん。禍々しいのは、あれ、呪詛に近いね」
「呪詛……、あぁ、なるほど」
魔族の首についている禍々しい気を放つ、首輪のようなものは何なのか。フォリア曰く、旧式の隷属の首輪だ、という。前に見たことがあるらしい。
隷属の首輪とは。奴隷にはめるための首輪である。フォリアが旧式だと思ったのは、現在の隷属の首輪は、禍々しいものではない。隷属の首輪は、確かに使用するのは呪術なのだが、呪いではないからだ。故に、首輪の周りを黒い靄がかかっているように見えることも、普通はないのである。歴代の聖女が奴隷の扱い改革を行う以前は、隷属の首輪も呪い……それより強い呪詛に近い代物だったらしい。何重にも制約魔法がかけられる代物で、酷いものは声も、思考さえも奪うものがあったと。
「魔族を隷属させるなら、あのくらいやらねば成功しないでしょうね……。なんということを」
ふーん、と瑞姫は冷めた目で魔族を見る。じ、と首輪を見て、あれくらいならなんとかなるな、と確信した。
「解呪しようか。あれならなんとかなるよ」
「……できる、のですか……?」
「うん。解呪は専門分野だしね。近づこう」
「……御意に」
一体瑞姫は何ができるのか。フォリアは聞いてない、と思いつつも今は口をつぐむ。
今、魔族は誰を殺そうか吟味しているのか、それとも己の中で己の行動を止めるためなのか、動作が非常にゆったりである。召喚者の男は早く殺せと喚いているようだが、それを気にもしていないところを見るに、召喚者であって魔族のご主人ではないようだった。
なぜならば、病で臥している、というのが表の理由である。半年くらい前から徐々に弱り、今ではほとんどをベッドの上で過ごしているという。ちなみに、王の寵愛を受けているのはただ一人で、側室はいない。
王の場合、多くの側室を持つべきだという声はあったが、王は頑なに頷かず、彼女ただ一人を妻として愛しているそうだ。現に、本来ならこの場で隣に座っているはずの王妃の席を、ちら、と一瞬だが見ている。そして、少し寂しそうな色を瞳に宿していたのも目撃した。一瞬でその色は掻き消えてしまったが。
殺意や敵意は、今も断続的に続いているが、中々顔を見せてはくれないらしい。もやっとしたものを抱えながらも、彼女は先ほどいた場所から、シリウスの元に戻ってきていた。というのも、表の理由は、保守派のところに居過ぎ!である。裏の理由は言われてないが、ネズミがいるから守る人はある程度固まっておきましょう!と言った感じだ、恐らく。
現に、男を侍らしていたゆりあは、(仮)逆ハーレムを解散させられ、リカルドの傍にいる。
ちなみに、彼女のいるこのテーブルは、シリウスを筆頭に王弟殿下シュバルツ、騎士団総長レイトラル、宰相レスニアである。その周りに、正装をした騎士たちが貴族たちに紛れ込んでいた。ちょっとそうそうたるメンバーが固まりすぎではなかろうか、と思ったものの、敵がどう来るかわからないための布陣だろう、と無理やり納得させた。
「ミズキ、チェリン侯爵子息のことは、手を煩わせたようですまなかったね」
「あぁ、いえ。どう聞いたかはわからないけど、かちん、ときたので、顔も見ずに追っ払っただけだよ」
「あぁ。白蛇族のことを貶されたんだろう?」
「ほんと、全くもって不快。バーリン伯爵子息も巻き込んじゃったから、もし抗議か何かあれば私にいうようにいってあるよ」
「……フォリア、訳して」
フォリアは某検索サイトか。シリウスは、なぜ本人に聞かずフォリアに聞いたのか。
「やり返し足りないので、やり返す大義名分がほしい、です」
そして、それに普通に答えるフォリア。なぜだ。
「ありがとう。なるほど、そうか。かなり辛辣に追い払ったと聞いたが」
「一回痛い目見せてあげないと、馬鹿は治らないでしょ?……治るかな」
「ふはっ……ははっ、まあ、確かにね」
まあ、公爵が何もしなければ、こちらも何もできないし、しないのだが。どうしたらあのように育つのか。子育てするときの環境は、本当に大事にしなければいけない。
他にも、女神が同性婚可能な世界だったとか、同性の婚約を祝福しただとか、情報の巡りが早すぎる。さすが、社交の場。そのあとの物騒な会話は流れていなかったので、ほっとしたが。終始和やかな感じでしたねぇ、とはシュバルツの言葉である。
「和やかな感じに見えたのなら、よかったです。……まあ、最後の方の会話の内容など、今の一瞬の出来事ですけれど」
さて、どう伝えようか、と考えていたら、ナイスタイミングとばかりにまた一瞬したので、苦笑いで伝える。
「今の一瞬?……!なるほど、気づいておられたか。さすがだな」
「当然です。だからあの場にいたのですよ。まあ、様子見、ということで話は落ち着いたのですけれど」
気づいていない、と思われていたことにひょい、と肩をすくめる。まあ、自分の容姿は理解している。いくら本人が戦えるといっても、容姿からは全く想像できないので、皆してそれほど強くない、と決めつけてしまうのだ。それはそれで、敵も油断してくれるのでありがたいことではある。
「ただ……、シリウス、背後ががら空きだけど、誘い込んでるの?囮?」
「いや、そういうつもりでは……。護衛がいるだろう?」
「うーん、けどねえ……。一瞬のあれに気をとられているその瞬間が……」
「……空いているわけか……」
どうやら、囮というわけではなかったらしい。深読みをし過ぎただけのようだ。ただ、それならそれで、護衛があの一瞬に気取られていることが危ぶまれる。しかし、護衛がそれに気づいていて一瞬のあれに気をとられているふりをしているのなら、話は変わってくる。背後に誘い込んだところを阻止。簡単な話ではないが、できる腕を持っているのならば、全然ありな戦略である。まあ、これも彼女の憶測なので、やはり様子見だ。
事態が動いたのは、それからまたしばらくたった頃だった。
何かあったのか、ざわり、と空気が揺れた。当然、誰もがそちらへ意識を向けるだろう。何かと思えば、給仕が誰かと接触し、持っていたグラスか何かを落としたようだった。
「……あの給仕……!」
瑞姫が手練れであり、味方かどうかわからないと思っていた給仕である。手練れそうに見えて実際そうじゃなかったのか?と思ったが、違うと考え直す。気配の消し方、足さばき、素人ではなかった。そんな人間が、誰かと接触する?何かに気をとられた?一瞬のあれは、感じなかった。であれば、彼女は素早く周りを見回し、
「王様、後ろ!」
そう叫んだ。王の後ろより、黒い影が銀のきらめきを伴って迫っている。ここからでは、いくら彼女でも間に合わない。だが、横から誰かが飛び出してそれを阻止した。そのまま戦闘開始される。
そして、それを合図に次々と侵入者たちが飛び出してきて、あっという間に会場内は大混乱に陥った。どうやら、狙いは王族らしい。
「ミズキ様、どうされます」
「……、弱いし、傍観」
「かしこまりました」
フォリアとともに、敵の攻撃を受け流しつつさがる。気配を消し、バックステップで下がった場所は、先ほどまで瑞姫たちが陣取っていた保守派が多くいて、セレネイズたちがいたテーブルの傍である。セレネイズたちはすでに会場内に散り、騎士たちをまとめながら動いているのだろう。姿が見えなかった。
「……、いや、本当に弱いね?よく、この程度で仕掛けてきたね?」
「おかしいですね。恐らく、相手は暗殺者ギルドだと思うのですが……。こんなところに下っ端を送り込んでくるとは……」
「下っ端なのか、暗殺者ギルド自体弱いのか。……焦ってる感じするね。黒幕からせっつかれてるのか、もしかしたら後がないのか」
「でしたら、雇い主は馬鹿ですね」
「確かにね~」
相手からは、焦りを感じさせる。王族狙いなのだろうが、流れ弾がすごいのだ。手当たり次第なのか、周囲も気にせず馬鹿みたいに暗器や魔法を放つので、貴族たちの避難誘導と護衛に、結構な人手がとられている。
しかし、瑞姫が傍観に回るのは、それでも相手の方が弱いと見切れたからだ。騎士団も集まってきているし、戦えるものが多くいる場に、瑞姫とフォリアが入れば戦力過多になる。自分たちでなんとかできる範囲ならば、彼女がわざわざ出張ることではない。自分はただ、邪魔にならないよう防御に徹していればすぐ終わるだろう。
ただ、これは建前である。本音を言えば、ちょっと敵が弱すぎて自分が出る幕じゃないし、面倒くさい、である。彼女の面倒くさがり屋の面が、こういう場面でも発揮されるのは場慣れしている証拠、といえばいいのか……。元の世界でもあったことなので、今更ではあるものの。
周りをずっと警戒していたが、こちらに敵が来ない。ゆりあはリカルドの傍にいたので巻き込まれたようだが、敵は王族狙いなのは間違いない。間違いないのだが、相手がどうも弱すぎるのだ。最初の、給仕を使った視線誘導は間違いなく成功していた。彼女が給仕のことに気づかずにいれば、王に視線を向けることなく、声も掛けなかっただろう。相手はそれが誤算だったはずだ。
護衛が間に合い、王は無傷。襲った相手は、既に取り押さえられている。シリウス達も、護衛に守り通されたようで無傷。大半は取り押さえられ、残りの敵は分が悪いと悟ったのか捨て台詞をまき散らしている。
(うわー、ド三流……。何、今時ないでしょ。“覚えてろよ”とか、“これで終わりと思うなよ”とか。古すぎて逆に笑える。お前らどこのヤンキー漫画から出てきたの?やられ役お疲れ様です?)
「そうさ!これで終わりと思うなよ!?」
笑いを耐えながら成り行きを見守っていれば、そう、侵入者の男が吠えた。その男が手をかざせば、目の前に魔法陣が現れる。どこからか、召喚魔法陣だ!と声が聞こえた。
「はははは!俺を今殺したところでッ!この魔法はもう止められまいよ!発動したが最後だっ!」
「なんだと!?」
男の言っていることは嘘ではない。召喚者本人を殺したところで止められないようだ。いったい何を召喚したというのか。誰もが緊張感を漂わせる中、召喚の光は大きくなり、やがて一人の男がそこに立っていた。顔を伏せていて見えないが、漂う魔力量、威圧感は相当重い。今までとは段違いの、ビリビリとした空気が肌を撫でる。
「魔族です、ミズキ様。愚かなことを……!」
「あれが魔族……」
人間の肌よりも白い、を通り越して青白い。ワインレッドの髪が特徴の、恐らく二メートル近くある高身長だ。
「この魔族は人間嫌いでな!今回協力してもらったのだ!さあ、人間だぞ!?殺ってしまえ!」
瑞姫ははて?と首をかしげる。男の言っていることは嘘だったからだ。しかし、魔族はその言葉通りに顔を上げ、真っ黒い眼球に赤い瞳で憎々しいとばかりに周りを睨む。
「あぁ、あぁ。――――人間は……、嫌いだ。従うさ、お前に」
はて?と今度は反対側に首を倒す。この言葉も、嘘である。嘘だらけ。を考えると、この魔族は人間嫌いではなく、協力しているのではなく、従わない。
「ミズキ様、すべて……、嘘、ですね?」
「そうだね。……フォリア、首」
「えぇ。あれは恐らく、旧式の隷属の首輪です。とても、禍々しい。私の目に映るほどのものです……」
「うん。禍々しいのは、あれ、呪詛に近いね」
「呪詛……、あぁ、なるほど」
魔族の首についている禍々しい気を放つ、首輪のようなものは何なのか。フォリア曰く、旧式の隷属の首輪だ、という。前に見たことがあるらしい。
隷属の首輪とは。奴隷にはめるための首輪である。フォリアが旧式だと思ったのは、現在の隷属の首輪は、禍々しいものではない。隷属の首輪は、確かに使用するのは呪術なのだが、呪いではないからだ。故に、首輪の周りを黒い靄がかかっているように見えることも、普通はないのである。歴代の聖女が奴隷の扱い改革を行う以前は、隷属の首輪も呪い……それより強い呪詛に近い代物だったらしい。何重にも制約魔法がかけられる代物で、酷いものは声も、思考さえも奪うものがあったと。
「魔族を隷属させるなら、あのくらいやらねば成功しないでしょうね……。なんということを」
ふーん、と瑞姫は冷めた目で魔族を見る。じ、と首輪を見て、あれくらいならなんとかなるな、と確信した。
「解呪しようか。あれならなんとかなるよ」
「……できる、のですか……?」
「うん。解呪は専門分野だしね。近づこう」
「……御意に」
一体瑞姫は何ができるのか。フォリアは聞いてない、と思いつつも今は口をつぐむ。
今、魔族は誰を殺そうか吟味しているのか、それとも己の中で己の行動を止めるためなのか、動作が非常にゆったりである。召喚者の男は早く殺せと喚いているようだが、それを気にもしていないところを見るに、召喚者であって魔族のご主人ではないようだった。
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