33 / 63
本編
21.解呪と呪い返し
しおりを挟む
フォリアに召喚者の方を抑えるよういい、瑞姫は騎士たちの合間を縫って素早く魔族の前に踊りでる。
「め、女神様?!」
「お、お下がりください!」
騎士たちから少し離れた、魔族のほうへ近づいた瑞姫は、後ろから投げかけられる言葉をすべて無視し、手で制した。
「聞きます。貴方の主人はあれではないですね?」
「いや?主人だが?……そうか、お前からやられに来たのか」
召喚者は主人ではないらしい。ということは、首輪を付けた主人とやらは高みの見物か。そも、この場にいるかどうかも怪しいが。魔族が魔力を練り上げたかと思えば、水を錬成している。これは好都合、と彼女はにやりと笑った。
「安心してください。貴方は誰も傷つけないし、誰も傷つけさせません」
「ふん、戯言を……!」
ちら、と横目で召喚者の男を見れば、きちんとフォリアに拘束されている。それを視界の端でとらえ、満足げに笑うと、瑞姫は集まってきた今にも攻撃として発射されそうな水に目を向ける。
「……ずいぶんと、耐えられる方なんですね……」
「なんの、ことだ……。っ、喰らって見ろ……っ」
いや、耐えるというより、抵抗しているといったほうが正しいか。魔族の顔には、人を蔑むような表情が浮かんでいるが、目だけは違うように見えた。命令に抵抗しつつ、発動してしまう魔法を少しでも軽減しようと制御しているような必死さが垣間見える。喰らって見ろと言いつつも、喰らわないでくれと言っているような。今にもやめろと言いそうな、悲痛な叫びを押し殺しているような声音。放たれる水の攻撃魔法も、大きさだけでそう大したことではない、と勘が言っている。が、それ以前に――――
「これ、もーらい」
放たれた水魔法は、あっという間に瑞姫にたどり着くものの、簡単に受け流され、そのまま彼女のもとに留まってしまった。これには、魔族も、周囲も、驚愕の出来事である。普通、魔法は詠唱時点、又は、発動前なら止められるが、発動したら止められない。止めるとすれば、シールドか、相殺するくらいだ。
「精霊さんたちと試した甲斐があったな~。うんうん、やっぱりこういうのは実戦してなんぼだね」
しかし、瑞姫は違う。彼女は、元々空気中の水分を操るのだ。元の世界でも、相手の水関係の異能者の攻撃をいとも簡単に絡めとり、自分の力に転換。そっくりそのまま、いや、倍にして返すことをしていたのである。水オンリーだが、相手の攻撃すら自分のものにしてしまう。だから、元の世界の者達は、こう呼んだ。
――――“水の精霊”または、“水の怪物”
他にも二つ名(厨二病くさいやつ)はいくつかあるが、これが一番世間に知られている物である。
そして、ここに来てからというもの、簡単な力の確認はちゃんとしていた。精霊が見えてからは尚更、周囲にバレないよう、本当に小さなものではあるが、水の精霊の力を借りて魔力制御や、異能に魔力を纏わせて遊んだりして、実験という名の実戦をしていたのだ。その中で気づいたことと言えば、水の魔法は、彼女を傷つけないこと。逆に吸収して自分の力にしてしまうこと。である。
精霊たちが言うには、女神の加護があるから、水は絶対に味方で傷をつけないよ、ということだった。
そう。こちらの世界でも、サラスヴァティーは水を持つ者の意味。水関係の魔法全般が、全くもって効かない体質になっていた。
「ちょーっと、大人しくしててください、ね!」
魔族から放たれた攻撃を自分の攻撃に転換。彼らが驚いているうちに仕掛けた、完全なる不意打ち。瑞姫のそれは攻撃なんかではなく、魔族の体を拘束するために放たれたもので。それと同時に魔族にとびかかった彼女は、彼の上半身を思いっきり押して床に倒す。
「一分時間をください。首輪をどうにかします」
「!」
「誰も邪魔しないでね!」
そのまま馬乗りになった瑞姫は、後ろで動こうとしている騎士たちを止めるため、邪魔するな、と命令を飛ばした。魔族の首に手をかけながら、周囲に見えないよう水で自分たちを覆う。と言っても、手元が見えないようにすればいいので、彼女の腰辺りまでの水壁しか作ってないが。
(さてさて……、引き出すのは……水晶より、ブラックトルマリンかな)
水晶もブラックトルマリンも、浄化作用のある宝石である。ただ、今回、魔族を巻き込んだので、巻き込まれた本人に制裁の機会を与えたほうがいいのでは?と考えた。ブラックトルマリンは、邪気を強力に吸い取る。だから、呪いを首輪から吸わせ、宝石に閉じ込めて、呪い返しをするか否かの選択をしてもらおうと思った。返さないならばそのまま浄化、返すなら、そう願いながら割れば呪い返しする。
水晶は浄化作用が強いので、閉じ込めると直ぐに浄化が始まってしまうためだ。
直径10センチほどのブラックトルマリンを創造。かちん、と首輪にあてれば、黒い靄のようなものがぐんぐんと吸い込まれていく。隷属の首輪に刻まれた魔法陣までも吸い込まれているように見えたのは、見ないことにした。
恐らく一分も経ってないだろう。魔族の首の後ろから、ばきん、という重い感じの割れた音がして、首輪が勝手に外れた。
「あ、呪いなくせば、首輪も外れるんだ。よかったー」
「外れ……はずれ、た?」
「はい、体は自由ではありませんか?」
あ、拘束してたんだ、と思い出し、水の拘束と水の壁を解く。外れた首輪を持ち上げ、魔族の目の前で振ってみた。恐る恐る、という風に彼は自分の意志で動く体を確かめ、自分の首元をさすって確かめた。
「おぉ……、おぉ……!動く、動くぞ!」
そ、と魔族の上からどいて傍に膝をつき、嬉しそうに体を動かす彼をにこにこと見つめる。
「な、なぜだ……っ!なぜ、それが分かった……!?隠蔽されていたはずだ!隠されていたはずだ!なぜわかった!?」
召喚主である男はどうやら、フォリアにきつく拘束されていても、元気に吠える力があるようだった。首輪は隠蔽されていたらしい。それは知らなかったな、とつぶやいた。
「なぜって……。首輪、見えてましたから」
「なんだと……!?だ、だとしても!なぜ外れた!?それはつけた本人か商人しか外せない代物で……!ま、魔法はどうした!?制約魔法がかけられていただろう!?強引に外せばっ、その魔族とて無事ではいられない!それに、先ほどの魔法はなんだ?いや、魔法か!?魔族が繰り出した攻撃魔法だぞ!?それを簡単に自分のものにするなど……!」
男が混乱しているおかげで、色々とぼろが出ているのは追い詰められている証拠だ。だが、ぎゃんぎゃんとうるさく喚き散らすのはやめてほしい。そんな瑞姫の心を読んだかのように、男は、ぎゅ、とフォリアに締められ静かになった。一応、意識はあるよう。よくやったとフォリアを見たが、伝わっただろうか。まあいい。こんなに人が多い場所で言えることでもない。なので、彼女は強引に話題を変えることにした。
「これは何でしょう」
「は?……はぁ!?そんなもん分かるわけないだろ!?馬鹿にしてんのか!」
さ、と取り出したるは、先ほどのブラックトルマリン。ブラックトルマリンは、名の通り黒いトルマリンだ。元々外見も黒いが、呪いで一層黒く、どこか禍々しい。絶対に触りたくないと思える逸品である。これの禍々しいオーラが見えた者が共通する思いは一つ。
――――なんかヤバい代物出てきたァ!?
「さて、魔族さん」
「は……、え、あぁ、なんだ?というか……、その禍々しいものは……」
魔族でさえ、そのヤバい代物にぎょっとした顔をしていたが、瑞姫に声をかけられて意識を戻した。
「簡単に言えば、呪いの塊です」
「は?」
「この首輪が呪いとなってたので、解きました。そのまま浄化してもよかったんですけど、呪い返しもできるので、選択を魔族さんに任せようかな、と」
「……なるほど、それでその禍々しさ。疑問は尽きないが、今は置いておこう」
結構重要なことをさらりと言うので、話の内容をかみ砕くのに数秒要したが、魔族は納得したそぶりを見せた。疑問は増える一方だが、その代物が首輪から吸いだした呪いの塊で、浄化か呪い返しかを選択させてくれると理解する。ニヤァ、とあくどい笑みを浮かべた。
「それを返したら、死ぬか?」
「これはそこまで強くないので、……まあ、最悪、辛うじて生きている程度、かな、と」
呪詛に近いが、呪詛ではない。瑞姫の中では、強いか弱いかで言えば、ギリ弱い方に入ると思っている。ただ、一つ懸念していることがある。もし、魔法陣を刻んだ者が強制的(人質を取られたなど)にやらされていたなら、呪い返しをしたらかわいそうだ。何の罪もない人を巻き込むのは、本意ではないのだ。
「魔法陣を刻んだ者なら、非合法の奴隷商人だ。俺の主人は別の奴で、そいつは主人から俺を借り受けた」
そういう想いがある事を言えば、魔族はあっさりと答えを口にした。刻んだ魔法陣と契約書の中に、その男の名前と主人の名前もあるようなことを、この魔族の前でぺらぺらとしゃべっていたらしい。迂闊すぎる。まあしかし、それなら何も問題ない。
「なら、返してくれ」
「はい。じゃあ、遠慮なく」
「ちょ、ま、待て待て待て!?あ、あんた、女神だろ!?な、ならっ、簡単に呪い返しなんか……!」
まるで、ちょっとそこまで行ってきます、くらいの軽いノリのやり取りに、慌てたのは男だった。
「女神と言えど、私自身は人ですし、聖人君子じゃありません。それに、呪いというのは、呪う覚悟と呪われる覚悟、両方持ってやるものです。人を呪わば穴二つ。覚悟もないくせに、手を出すからそうなるんです。愚か者」
人を呪い殺そうとするなら、呪い殺そうとしたほうも相応の報いを受けることになる。呪いとはそういう代物だ。
――――がしゃん!
ブラックトルマリンを床にたたきつけた。瞬間、フォリアが男から離れる。黒い靄が浮かび上がり、三つに分かれ各々に飛び散った。二つは会場外へ、一つは転がっている男へ。す、と男の体に入って行った瞬間、男はビクン!と体を震わせ、狂ったように叫び出した。頭や胸をかきむしり、尋常ではない様子だったが、突然電池が切れたようにぱたり、と倒れ、動かなくなる。
「死んだか?」
「気絶、ですね。まあ、呪った割にはあっけない感じですが。……ほかの二人も同じような感じでしょう」
「そうか」
人が苦しむさまは、やはり見ていて気のいいものではない。だが、目をそらすことはできない、しない。いくら相手から手を出してきたからとて、自分も同じことを相手に返し、傷つけたのは同じなので、どうなるか最後まで見届けなければと思っている。
「すまなんだな、女神。返せと言ったのは俺だが」
「あ、いえ。呪い返しは初めてじゃないので……。人が苦しむさまを見るのは、いつまでも慣れないな、と」
「慣れていいものではないのだから、慣れずともよい」
これで、一応事態は収拾したのだろう。捕らえられた者達は、騎士たちによって連れていかれた。王より、この場は解散するよう伝えられ、詳細は後日通達されることになった。
瑞姫たちも、話は明日聞く、ということになり、部屋に戻される。魔族も被害者なので、一室与えられて体を休めるように言われていた。客人扱いとなり、丁重に持て成すように言われていたので、ゆっくり休めるだろう。
~~~*~~~
宝石の浄化云々は、パワーストーン辞典的な物を参考にして書いてます。こうじゃない!と思われても、魔法の言葉”ファンタジーだから!”なのでスルーしてください。<(_ _)>
「め、女神様?!」
「お、お下がりください!」
騎士たちから少し離れた、魔族のほうへ近づいた瑞姫は、後ろから投げかけられる言葉をすべて無視し、手で制した。
「聞きます。貴方の主人はあれではないですね?」
「いや?主人だが?……そうか、お前からやられに来たのか」
召喚者は主人ではないらしい。ということは、首輪を付けた主人とやらは高みの見物か。そも、この場にいるかどうかも怪しいが。魔族が魔力を練り上げたかと思えば、水を錬成している。これは好都合、と彼女はにやりと笑った。
「安心してください。貴方は誰も傷つけないし、誰も傷つけさせません」
「ふん、戯言を……!」
ちら、と横目で召喚者の男を見れば、きちんとフォリアに拘束されている。それを視界の端でとらえ、満足げに笑うと、瑞姫は集まってきた今にも攻撃として発射されそうな水に目を向ける。
「……ずいぶんと、耐えられる方なんですね……」
「なんの、ことだ……。っ、喰らって見ろ……っ」
いや、耐えるというより、抵抗しているといったほうが正しいか。魔族の顔には、人を蔑むような表情が浮かんでいるが、目だけは違うように見えた。命令に抵抗しつつ、発動してしまう魔法を少しでも軽減しようと制御しているような必死さが垣間見える。喰らって見ろと言いつつも、喰らわないでくれと言っているような。今にもやめろと言いそうな、悲痛な叫びを押し殺しているような声音。放たれる水の攻撃魔法も、大きさだけでそう大したことではない、と勘が言っている。が、それ以前に――――
「これ、もーらい」
放たれた水魔法は、あっという間に瑞姫にたどり着くものの、簡単に受け流され、そのまま彼女のもとに留まってしまった。これには、魔族も、周囲も、驚愕の出来事である。普通、魔法は詠唱時点、又は、発動前なら止められるが、発動したら止められない。止めるとすれば、シールドか、相殺するくらいだ。
「精霊さんたちと試した甲斐があったな~。うんうん、やっぱりこういうのは実戦してなんぼだね」
しかし、瑞姫は違う。彼女は、元々空気中の水分を操るのだ。元の世界でも、相手の水関係の異能者の攻撃をいとも簡単に絡めとり、自分の力に転換。そっくりそのまま、いや、倍にして返すことをしていたのである。水オンリーだが、相手の攻撃すら自分のものにしてしまう。だから、元の世界の者達は、こう呼んだ。
――――“水の精霊”または、“水の怪物”
他にも二つ名(厨二病くさいやつ)はいくつかあるが、これが一番世間に知られている物である。
そして、ここに来てからというもの、簡単な力の確認はちゃんとしていた。精霊が見えてからは尚更、周囲にバレないよう、本当に小さなものではあるが、水の精霊の力を借りて魔力制御や、異能に魔力を纏わせて遊んだりして、実験という名の実戦をしていたのだ。その中で気づいたことと言えば、水の魔法は、彼女を傷つけないこと。逆に吸収して自分の力にしてしまうこと。である。
精霊たちが言うには、女神の加護があるから、水は絶対に味方で傷をつけないよ、ということだった。
そう。こちらの世界でも、サラスヴァティーは水を持つ者の意味。水関係の魔法全般が、全くもって効かない体質になっていた。
「ちょーっと、大人しくしててください、ね!」
魔族から放たれた攻撃を自分の攻撃に転換。彼らが驚いているうちに仕掛けた、完全なる不意打ち。瑞姫のそれは攻撃なんかではなく、魔族の体を拘束するために放たれたもので。それと同時に魔族にとびかかった彼女は、彼の上半身を思いっきり押して床に倒す。
「一分時間をください。首輪をどうにかします」
「!」
「誰も邪魔しないでね!」
そのまま馬乗りになった瑞姫は、後ろで動こうとしている騎士たちを止めるため、邪魔するな、と命令を飛ばした。魔族の首に手をかけながら、周囲に見えないよう水で自分たちを覆う。と言っても、手元が見えないようにすればいいので、彼女の腰辺りまでの水壁しか作ってないが。
(さてさて……、引き出すのは……水晶より、ブラックトルマリンかな)
水晶もブラックトルマリンも、浄化作用のある宝石である。ただ、今回、魔族を巻き込んだので、巻き込まれた本人に制裁の機会を与えたほうがいいのでは?と考えた。ブラックトルマリンは、邪気を強力に吸い取る。だから、呪いを首輪から吸わせ、宝石に閉じ込めて、呪い返しをするか否かの選択をしてもらおうと思った。返さないならばそのまま浄化、返すなら、そう願いながら割れば呪い返しする。
水晶は浄化作用が強いので、閉じ込めると直ぐに浄化が始まってしまうためだ。
直径10センチほどのブラックトルマリンを創造。かちん、と首輪にあてれば、黒い靄のようなものがぐんぐんと吸い込まれていく。隷属の首輪に刻まれた魔法陣までも吸い込まれているように見えたのは、見ないことにした。
恐らく一分も経ってないだろう。魔族の首の後ろから、ばきん、という重い感じの割れた音がして、首輪が勝手に外れた。
「あ、呪いなくせば、首輪も外れるんだ。よかったー」
「外れ……はずれ、た?」
「はい、体は自由ではありませんか?」
あ、拘束してたんだ、と思い出し、水の拘束と水の壁を解く。外れた首輪を持ち上げ、魔族の目の前で振ってみた。恐る恐る、という風に彼は自分の意志で動く体を確かめ、自分の首元をさすって確かめた。
「おぉ……、おぉ……!動く、動くぞ!」
そ、と魔族の上からどいて傍に膝をつき、嬉しそうに体を動かす彼をにこにこと見つめる。
「な、なぜだ……っ!なぜ、それが分かった……!?隠蔽されていたはずだ!隠されていたはずだ!なぜわかった!?」
召喚主である男はどうやら、フォリアにきつく拘束されていても、元気に吠える力があるようだった。首輪は隠蔽されていたらしい。それは知らなかったな、とつぶやいた。
「なぜって……。首輪、見えてましたから」
「なんだと……!?だ、だとしても!なぜ外れた!?それはつけた本人か商人しか外せない代物で……!ま、魔法はどうした!?制約魔法がかけられていただろう!?強引に外せばっ、その魔族とて無事ではいられない!それに、先ほどの魔法はなんだ?いや、魔法か!?魔族が繰り出した攻撃魔法だぞ!?それを簡単に自分のものにするなど……!」
男が混乱しているおかげで、色々とぼろが出ているのは追い詰められている証拠だ。だが、ぎゃんぎゃんとうるさく喚き散らすのはやめてほしい。そんな瑞姫の心を読んだかのように、男は、ぎゅ、とフォリアに締められ静かになった。一応、意識はあるよう。よくやったとフォリアを見たが、伝わっただろうか。まあいい。こんなに人が多い場所で言えることでもない。なので、彼女は強引に話題を変えることにした。
「これは何でしょう」
「は?……はぁ!?そんなもん分かるわけないだろ!?馬鹿にしてんのか!」
さ、と取り出したるは、先ほどのブラックトルマリン。ブラックトルマリンは、名の通り黒いトルマリンだ。元々外見も黒いが、呪いで一層黒く、どこか禍々しい。絶対に触りたくないと思える逸品である。これの禍々しいオーラが見えた者が共通する思いは一つ。
――――なんかヤバい代物出てきたァ!?
「さて、魔族さん」
「は……、え、あぁ、なんだ?というか……、その禍々しいものは……」
魔族でさえ、そのヤバい代物にぎょっとした顔をしていたが、瑞姫に声をかけられて意識を戻した。
「簡単に言えば、呪いの塊です」
「は?」
「この首輪が呪いとなってたので、解きました。そのまま浄化してもよかったんですけど、呪い返しもできるので、選択を魔族さんに任せようかな、と」
「……なるほど、それでその禍々しさ。疑問は尽きないが、今は置いておこう」
結構重要なことをさらりと言うので、話の内容をかみ砕くのに数秒要したが、魔族は納得したそぶりを見せた。疑問は増える一方だが、その代物が首輪から吸いだした呪いの塊で、浄化か呪い返しかを選択させてくれると理解する。ニヤァ、とあくどい笑みを浮かべた。
「それを返したら、死ぬか?」
「これはそこまで強くないので、……まあ、最悪、辛うじて生きている程度、かな、と」
呪詛に近いが、呪詛ではない。瑞姫の中では、強いか弱いかで言えば、ギリ弱い方に入ると思っている。ただ、一つ懸念していることがある。もし、魔法陣を刻んだ者が強制的(人質を取られたなど)にやらされていたなら、呪い返しをしたらかわいそうだ。何の罪もない人を巻き込むのは、本意ではないのだ。
「魔法陣を刻んだ者なら、非合法の奴隷商人だ。俺の主人は別の奴で、そいつは主人から俺を借り受けた」
そういう想いがある事を言えば、魔族はあっさりと答えを口にした。刻んだ魔法陣と契約書の中に、その男の名前と主人の名前もあるようなことを、この魔族の前でぺらぺらとしゃべっていたらしい。迂闊すぎる。まあしかし、それなら何も問題ない。
「なら、返してくれ」
「はい。じゃあ、遠慮なく」
「ちょ、ま、待て待て待て!?あ、あんた、女神だろ!?な、ならっ、簡単に呪い返しなんか……!」
まるで、ちょっとそこまで行ってきます、くらいの軽いノリのやり取りに、慌てたのは男だった。
「女神と言えど、私自身は人ですし、聖人君子じゃありません。それに、呪いというのは、呪う覚悟と呪われる覚悟、両方持ってやるものです。人を呪わば穴二つ。覚悟もないくせに、手を出すからそうなるんです。愚か者」
人を呪い殺そうとするなら、呪い殺そうとしたほうも相応の報いを受けることになる。呪いとはそういう代物だ。
――――がしゃん!
ブラックトルマリンを床にたたきつけた。瞬間、フォリアが男から離れる。黒い靄が浮かび上がり、三つに分かれ各々に飛び散った。二つは会場外へ、一つは転がっている男へ。す、と男の体に入って行った瞬間、男はビクン!と体を震わせ、狂ったように叫び出した。頭や胸をかきむしり、尋常ではない様子だったが、突然電池が切れたようにぱたり、と倒れ、動かなくなる。
「死んだか?」
「気絶、ですね。まあ、呪った割にはあっけない感じですが。……ほかの二人も同じような感じでしょう」
「そうか」
人が苦しむさまは、やはり見ていて気のいいものではない。だが、目をそらすことはできない、しない。いくら相手から手を出してきたからとて、自分も同じことを相手に返し、傷つけたのは同じなので、どうなるか最後まで見届けなければと思っている。
「すまなんだな、女神。返せと言ったのは俺だが」
「あ、いえ。呪い返しは初めてじゃないので……。人が苦しむさまを見るのは、いつまでも慣れないな、と」
「慣れていいものではないのだから、慣れずともよい」
これで、一応事態は収拾したのだろう。捕らえられた者達は、騎士たちによって連れていかれた。王より、この場は解散するよう伝えられ、詳細は後日通達されることになった。
瑞姫たちも、話は明日聞く、ということになり、部屋に戻される。魔族も被害者なので、一室与えられて体を休めるように言われていた。客人扱いとなり、丁重に持て成すように言われていたので、ゆっくり休めるだろう。
~~~*~~~
宝石の浄化云々は、パワーストーン辞典的な物を参考にして書いてます。こうじゃない!と思われても、魔法の言葉”ファンタジーだから!”なのでスルーしてください。<(_ _)>
0
あなたにおすすめの小説
幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜
犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。
これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
犬の散歩中に異世界召喚されました
おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。
何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。
カミサマの許可はもらいました。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない
成瀬一
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3)
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー)
ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。
神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。
そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。
ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。
早く穏やかに暮らしたい。
俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。
【毎日18:00更新】
※表紙画像はAIを使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる