自由な女神様!~種族人族、職業女神が首を突っ込んだり巻き込まれたりの物語。脇に聖女を添えて~

時雨

文字の大きさ
36 / 63
本編

24.暗躍は迅速にっ

しおりを挟む
―――そして、深夜。

 寝巻から簡易な服に着替えた瑞姫は、“女神はぐっすりです”という独り言を天井に向かってつぶやいた。

「行くのですね」
「つれてかないからね」
「うぐ……、はい」

 フォリアは当然ながら来たがったが、今回は連れて行けないと言ってある。
 夕方頃にフォリアにそう言ったら、がびーん、と背後に雷が落ちたようなエフェクトが見えたのは、全力で見なかったことにした。なにせ、移動手段が特殊である。歩いて行くのではないのだ。それではどうやって行くのかと言えば、空を駆ける。水の異能を使い、足場に作った水の質をゴムのようにさせ、トランポリンを踏んでいるような感じで飛び跳ねるように進む。深く踏み込むほど、遠く速く進んでいける。これは、馬と並走できるくらい速いのだ。レイノートとの手合わせで見せた素早い動きも、これを使っていた(他者は動体視力がよくないと、一瞬で移動しているように見える)。
 フォリアと一緒に行くとなると、瑞姫がフォリアを担いでいくことになるからいやだった。
 せめて見送りはしたいというので許可したが、念押しをしておく。しゅん、とした表情に後ろ髪引かれるが、迅速に事を終わらせたいので、一人の方がいいのだ。
 そ、と夜空に躍り出る。昼間に精霊達に王妃の場所を聞き、案内してもらうようお願いしていたので、迷う心配はない。深夜でも巡回している騎士達の目を掻い潜り、空を素早く駆けた。
 王妃が匿われている離宮は、王宮から少し離れた場所に位置する。王妃がいるであろう部屋からは、とても濃い呪いの気配がした。思わず顔がひきつってしまう。よくこれだけの呪いに、半年間も耐えたなと思わずにはいられない。ここからは、精霊達も呪いを恐れて近寄れないので、彼女一人でこっそり(窓はちゃんと開いていた)侵入した。護衛である影の気配がしたので、こいこい、と手招き。

「……女神様、ですか……?」
「そうです。なんとかしにきました」
「!……本当に……」

 影は、王にも知らせていない、と言った。ちゃんと伝わっていて安心する。

「女神は、王妃様が病で倒れ臥していることしか知らないです。何も、誰にも、言われてません。女神は今夜も部屋でぐっすり眠っている、ことになってます。今夜ここで何が起ころうとも、誰も何も知らないです。いいですね」
「……はっ。承知いたしました」

 実際、誰も彼女に呪いだなんだと言わなかった。から、聞かれたところで何も聞いてない、と堂々と言える。女神はここに来ていない。ぐっすり眠っている。それは、女神の護衛である影もそう証明するだろう。

「……さて……。あー、これは……、徐々に蝕んでいく感じですか……。蟲毒ではなさそうだな……」

 暗くてよく見えないが、恐らく銀髪だ。衰弱しているのか顔色も相当悪く、呼吸も乱れている。命は風前の灯火。もっと遅ければ、恐らく間に合わなかった。さて、と彼女は王妃の体に手を向ける。ロキの時にはやらなかったが、かかっている呪いに探りを入れた。

(うーん、一人だな、うん。それと……、呪い自体は弱いけど、塵も積もればってやつか)

 半年ほど前から徐々に弱っていったということは、その頃から呪いをかけている。術者は一人。小さい呪いを少しずつ長期間に渡ってかけているので、術者の負担は少ないにしても、代償はあるだろう。成功しても失敗しても、代償は払わなければならない。失敗のほうが負担は大きくなるのは常だ。この場合、浄化すれば呪い失敗となり、術者が払う代償は大きくなるだろうが、恐らく死にはしない。呪い返しをすれば、この積もった呪いそっくりそのまま返されはするものの、辛うじて死は免れる、と思う。王妃が死んでないので、恐らく。
 隷属の首輪の件は弱かったが、これは違う。もともと弱い呪いだが、つもりに積もって大きく強くなっている。
 まあ、なんにせよ、瑞姫ができるのは呪いを浄化するか返すかのみ。最後の審判は王だ。王族に呪いを行ったのだから、大罪人。死は免れないだろう。こんなことに力を使うのではなく、別の、もっといいことに使えばいいのに、と思いつつ、呪い返しを行った。
 真っ暗の中で行うので、キラキラと彼女を取り巻く空気が強く煌めく。ロキの時に行ったのは、浄化か呪い返しかを選択してもらうためと、呪い返しができると周知させるパフォーマンスするために宝石を作り出し(他の人はそれが宝石だとは知らない)、可視化しただけだ。本来は、自分自身を宝石に見立て、対象に触れて祈るだけである。
 王妃の手を取り、強く祈った。

――術者に返れ!

 パッ、と一瞬の強く輝く煌めき。王妃の体を覆う黒い靄が、瑞姫の力に押し出されるように離れた。それは数秒浮かんでいたが、やがて行き場を定めたのか、この部屋から飛び出して行く。

「……ふぅ、これで、なんとか」
「お、王妃、さまは……」
「術者に返しました。ですが、衰弱が激しいです。……毒は、まさか盛られたりは……?」
「それは、もしあっても、王妃様には効きません。王妃様は、毒耐性をお持ちですので、たとえ致死量を盛られたとしても、少し体調を崩すだけなのです」

 少しとはどれほどか。まあ、あまり心配していないようなので、本当に少ししか効かないのだろう。呼吸は安定しているし、あとは栄養のある食事をして、ゆっくり休めばいいはずだ。呪い返しを返してくる気配もないので、恐らく呪いに関してはもう大丈夫だろう。

「女神様、本当に、本当に、ありがとうございます……!」
「いえいえ。頭を上げてくださいな……、あれ、いつの間に……」

 王妃を見ながら話していたので気づかなかったが、涙ぐんだような震えた声に振り向けば、いつの間にか影が一人増えていた。それには結構驚いた。気配がしなかったから。

「えっと、しー、ですよ。王様に聞かれたら話して構いませんが、それまでは内緒にしといてくださいね」
「それでは、貴女様の功績が表に出ませんが」
「それでいいんです。私としては、王妃様ではなく、一女性を助けただけ。私の個人的な感情で動きましたが、周囲はそう思わないでしょう」
「王家が、女神に依頼した、ととられるからですね」
「権力やお金で動く女だと思われるのは面倒です。それに、それが分かっているから、王家は私に依頼しない。教えもしなかった。だけど、私が気付いてしまった。気づいちゃったらねえ?見て見ぬふり、人を見殺しにするなんて、私にはとてもじゃないけどできません」

 人を守ることに誇りを持っている。見返りが欲しくてやっているわけじゃない。それを偽善だなんだというものもいるが、そう思いたければ思えばいい。そう思っている。

「いいですか。女神は今夜、ぐっすり部屋でお休み中でした」
「……、はい。承知いたしました」
「声に不満が乗ってますよ。表に出すと、他の貴族が煩いですからね。何のために誰にも聞かずに秘密裏で動いたか」
「御意に」

 それでは、と彼女は、来た時と同様、窓から外に出た。部屋に戻ろうとして、方向転換。呪いが飛んでいった方向がわかるんだから、今なら犯人逮捕出来るんじゃないか、と思ったのだ。捕まえられるときに捕まえておかないと、共犯者がいて逃亡を手伝われたらたまったものではない。犯人を追わなければ、と使命感に駆られた瞬間だった。……完全なる職業病である。

「精霊さん、呪い返しどっち飛んでった?」
〔あっちー〕

 それからまた、呪い返しが飛んでいった方向へ精霊達に案内を頼んでついて行く。そこは、郊外にあるそこまで広くない一軒家。手入れされていない、恐らく空き家だろう。家の中に人の気配はしなかった。
 二階から侵入し、次々と部屋の扉を開けて確認していく。どの部屋も、開けた瞬間埃が舞ってせき込みそうになった。長い間使われてないらしい。二階も一階にも誰もいない。となれば、地下である。慎重に床を注視すれば、他の部屋はすごかったのに、居間だけ埃がないことに気づいた。そこから地下に向かって気配を探れば、一つ。思わず、にやり、と笑ってしまう。それから、地下への扉だが、あっさり見つかった。真ん中にあると思えば隅にあり、開けるのも手動である。

「魔法使えるんだから、こういうところ魔法使って隠せばいいのに……」

 少し拍子抜けしながらも、足早に階段を降りれば、空き家と同じくらいの広さの部屋についた。真ん中からやや右側に位置する場所に、小さめの魔法陣。その上に、人が倒れていた。

「……みーっけ」

 呪い返ししたときの呪いの名残がしっかりと残っている。近寄ってみれば、息はか細いが生きてるらしい。辛うじて、がつくが。その人はとりあえず放っておき、部屋の左側に置いてある机や書棚に近寄る。棚にはほとんど入ってないが、机の上には書類が散乱していた。
 証拠になりえそうなものを探していれば、出るわ出るわ。どうやら、この人は慎重派らしく、誰からの手紙やら指示書やらたくさん出てきた。過去、王妃以外にも呪いを行っていたらしく、その時の書類や書簡なども出てきた。一応、#魔法鞄__マジックバッグ_#も持ってきていてよかった。パパッ、と鞄に押し込めれば、なんと、引き出しの中にもあった書類までも全部入ってしまった。さすがである。ほくほく顔で倒れている人を担ぎ、床にある魔法陣を水で削って使えなくしておいた。
 外に出れば、夜が明けようとしている。これはやばい、時間がない。何せ、女神はぐっすりお休み中。朝までに戻らねばアリバイが崩れてしまう。とりあえず、担いだ人諸共自分の部屋に戻る為、猛スピードで空を滑った(空気中の水分を足下に集め、水の道を作りつつその上を滑るジェットスキーのような物)。

「た、っだいま~」
「ミズキ様っ」

 直ぐ帰ってくるつもりが、ちょっと寄り道したので時間がかかり、フォリアは雨に濡れた子犬のような表情で待っていた。とりあえず、罪悪感が半端なかった。

「影さん、仕事増やしてごめんなさい。これ、ちょっと牢屋に放り込んでくれます?呪術師なの」
「……罪状は、どうされますか」

 とりあえず、その(顔は見ていないが、体格的に)男を牢に放り込んでおくよう頼む。罪状は、回収してきた王妃呪い計画的な書類を見せれば納得してくれた。感謝を表しているのか、深々と瑞姫に礼をとり、呪術師を乱雑な手つきで抱え上げて退室していった。

「ミズキ様、埃まみれですよ。流した方がよろしいかと」
「あー……」

 間違いなく、二階から侵入したせいである。そのまま風呂場に直行し、水で服事体を丸洗いし、水を消し飛ばせばすっきり。寝巻に着替え、回収してきた書類をベッドの上に広げた。もうここまで来たら、起きていようと思ったのだ。元の世界でも、徹夜はざらだったので一夜くらいなんともない。フォリアに休んでいいよと言ったが、付き合ってくれるらしい。

「えぇっと……?こっちは王妃様、こっちは……、別件の貴族か……」
「ミズキ様、これ、スキアーヴォ子爵の名前がありますよ」
「フォリア偉い、よく見つけたね」

 王妃関係の書類、別件の貴族関係の書類、その他エトセトラ。なんと、現在牢にいるスキアーヴォ子爵が、別件だが呪いを依頼した書類も出てくる。そういう仕分けをしていれば、侍女が起こしに来る時間になっていた。慌ててまとめ、もう一度魔法鞄にしまい込む。瑞姫は侍女が来る頃には起きているので、怪しまれはしないだろう。フォリアも、いったん自室に戻った。こういうとき、続き部屋は便利である。
 そうしていつも通りに過ごしていれば、王妃が復活したという情報が流れてきた。といっても、影からもたらされたものだが。まだ極秘にするらしく、王妃の体がきちんと動かせるようになるのと、犯人が捕まるまでは、臥していることにするようだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜

犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。 これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

成瀬一
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

処理中です...