自由な女神様!~種族人族、職業女神が首を突っ込んだり巻き込まれたりの物語。脇に聖女を添えて~

時雨

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本編

25.証拠提出

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 午後から、瑞姫はまだバタバタと忙しない雰囲気の城に上がる。こう忙しない雰囲気だと、自分も動きたくなるのは職業病か。

「あぁ、女神様。伺っております。少々お待ちください」
「あ、はい」

 ここは、シリウスの執務室前。会いに行く、と先触れを出したので、部屋の前に立っている衛兵には伝わっているのだろう。一応、部屋の主であるシリウスに女神が来たと伝えれば、すんなり扉をくぐることができた。

「待っていたよ、ミズキ!」

 めっちゃテンションが高いシリウスに出迎えられた。疲労感は少し出ているものの、顔色はものすごくいい。少し驚きながらも、座って、と手で示されたソファに腰かけた。向かいに、シリウスが座る。と、初めまして……、いや、どこかで見た顔が目に入った。

「もしかして、シリウスの側近?」
「……、そうだった。そういえば、セイランしか知らないよね」
「え、殿下ひどくない?俺女神様にお会いできるってめっちゃ楽しみにしてたのに!」
「やはり、知らなくていいよ」
「お前は騒がしいんだ」
「それが俺のアイデンティティ!」
「うるさい」
「うぐぐ……」

 楽しい職場みたいだ。

「でも、挨拶の時見たよ。えっと、ライハルト・スモーニーさんと、ガラルド・レトナーさんだよね?」

 騒がしかったのが、ぴたり、とやんだ。間違えたか?と瑞姫が首をかしげると、シリウスが驚いた様子で聞いてきた。

「……、ミズキ、もしかして貴族の名前、頭に入っているのかい?」
「顔と家名だけね~。名前は最初の方しか覚えてないな。でもレイトラルさんの息子さんだし、第六騎士団長さんの弟さんだよね」
「えー!女神様すごっ!二度目まして、改めまして!ライハルト・スモーニーです。どうぞよろしく☆」
「ガラルド・レトナーです。よろしくお願いします」
「瑞姫・神楽です。どうぞ、こちらこそよろしくお願いします」

 ライハルト・スモーニーはレイトラルの息子で、ガラルド・レトナーは第六騎士団長フラン・レトナーの弟である。先日のパーティーで、それぞれ家族と一緒に挨拶に来たのを覚えていた。

「んでー、フォリア~、出世したねえ~」
「うるさいですよ、先輩」
「その髪色めっちゃうらやましい。欲しい」
「いやです」

 ライハルトに絡まれ、つん、とそっぽ向いて答えるフォリアに、瑞姫は苦笑いする。

「えぇっと、それで。ミズキは、昨夜はぐっすり部屋でお休みだったんだね」

 シリウスが本題に入ったからか、騒がしかった彼らも静かになる。
 あぁ、なるほど、と瑞姫は頷いた。どうやら、王妃の呪いが解呪されたのを、当然だがシリウスも知っているようだ。そして、それを女神がやったということも、勘づいているよう。

「風の噂で、また一人捕まって牢に入れられた、と聞き及んでおります」
「ふふ、風の噂ね。確かに。まあ、どこぞの奴らと同じく、起き上がってはいないけれど」
「そーなんだね~」

 あくまでも、知らないで通す。なので、シリウスからしてみれば、感謝の言葉すらいえないので歯がゆく思ってはいるが、それでも嬉しさが勝っているのだ。終始にこにこと上機嫌である。

「それで、ミズキ。緊急と人払い、とは?かなり重要案件だと思っているのだけど」
「おっと、時間は有限。うんとね」

 彼はかなり忙しいのだ。無駄話をすべきではないだろう。先ほどまでまとめていた書類を取り出した。

「スキアーヴォ子爵の罪状に、この件はあった?」
「え。……これは……!」

 貴族を一人呪うために作られた指示書、それについての書簡、そして、成功した暁に支払われた金額が示された書類。書簡に関しては、スキアーヴォ子爵を示す家紋が押された物である。

「わかっていても、証拠がなかったやつだよ。ありがとう、女神……!」

 呼び方が名前ではなく女神になった。

「あとは、こっちは、別の呪い案件ね。日付順に並べてあるよ」

 その書類に、さり気なく王妃案件のも紛れ込ませてある。

「魔法陣は地面ごと壊してきたから、使用できないはず。それでも良ければ、案内するよ?」
「……ミズキ?ちょーっと、ぐっすり寝ていたという言い訳は苦しくないかい?」
「寝てたよ」

 ふい、と視線をあさっての方向へ向ければ、その先にはセイランがいて、彼は彼女と目が合った瞬間、ふわり、と微笑んだ。常に無表情でたたずむ男が微笑んだ、その衝撃たるや。途端になんだか恥ずかしくなり、少し頬を赤くして視線をシリウスに戻した。シリウスも、セイランが微笑んだことにはかなり驚いている。だが、直ぐに表情を戻した。

「まあ、いい。一応、現場を見たいから、案内を頼むよ。この件は第三だったか」
「第三?じゃあ、シリウスが一筆書いてくれるなら、持ってくよ~」
「フットワークが軽いな。……まあ、言葉に甘えさせてもらうか」
「任せて~。騎士団にやることあるか聞いてみるし、あればそのまま協力してくる~」
「……止めはしないさ。まあ、ほどほどにね」
「はーい」

 返事はいいが、不安だな、とシリウスは内心独りごちた。

「ミズキ、どうしてここまでしてくれるんだい?」
「私は、私が後悔しない道を選んだ、それだけだよ」
「!」
「あと、女性を標的にするなど言語道断。許すまじ」
「……あー、そう」

 彼女が人助けする理由など、単純明快である。自分が助けたかったから助けた、それだけだ。助けなければ後悔するだろう、と思えば、時と場合による超激レアケースだが、敵にでも手を差し伸べることもある。瑞姫は敵に甘い物はふりかけない主義なので、めっったにないが。今回、王妃は毒や病ではなく、呪いで倒れた。自分の手で助けられる命がそこにあったから、動いただけだ。

「……そういえば、聖女でなければ何らかの形で協力するって、言ったね」
「あぁ、初日の事か。……元の世界のことは、整理がついたのか?」
「大丈夫~」

 こちらに来た当初、聖女でなくても、何らかの形で協力する体制を整える、と言った。まさか、聖女より上の女神とは思いもしなかったが。
 気持ちの整理はできたのか、と問われれば、うん、と答えられる。ここに至るまで忙しすぎたおかげか、元の世界のこともあまり思い出さず。初日こそ落ち込んだし、忘れたわけじゃないのだが。いつの間にかこの世界で生きていくと思えるようになっていた。というより、瑞姫の楽天的な部分が、ごちゃごちゃと考えたところで起きたことは仕方ない。元の世界のことは元の世界の私がなんとかするよね。ま、いっか。と言う結論を出したことが大きい。軽っ、と言われそうだが、これが瑞姫なのだ。悲観的思考にとらわれなかったのは、この楽天的思考かつ大雑把な性格だったからだろう。

「そうか……。だがそれは、女神は自由だ。私たちが貴女を使うことはまずない」
「うん、だからね。勝手に飛び回ろうと思うの」
「……、なるほど、そう来たか。ふっ……、ははっ」

 シリウスの言う通り、女神は自由だ。縛ることなどできるわけがない。王族ですら、女神を使うことはできない。いくら彼女が人であろうが、女神である。彼女もそれはわかっている。だからこそ、自分がしたいように、思ったように、勝手に動くことにした。

「自由な女神様だな」

 シリウスは笑いながらそう言った。その呼び方はちょっと。どこぞの女神像になってしまう。こちらにあるかどうかは知らないが、ちょっとやめて欲しい呼び方だなと思った。それが嫌いなわけじゃないのだが、それで呼ばれるたびに銅像姿が頭によぎる。

「あぁ、そうだ。セイランから受け取ったよ。それもお礼を言わなくちゃね」
「あー、あれ。なにかあった?」

 シリウスの言うセイランから受け取ったというのは、パーティー中に怪しいと思った家名を書き記したメモのことだろう。シリウスに渡すより、セイランの方が渡しやすかったため、フォリアに頼んだ。ちゃんと受け取ってくれたらしい。そして、礼を言うと言うことは、何かあったのだろう。

「あ、教えてくれるなら結果だけでいいよ」
「ふむ。……うち二家は、取り潰しが決定した。残りはまだ調べ中、というとこか」
「え、早くない?もしかして目星はついてたの?」
「そんなところだよ」
「ふーん」

 全くもって興味のなさそうな返事をする瑞姫に、シリウスたちは苦笑いした。
 取り潰しの二家は、今回の人身売買の件に関わっていたのがわかっていたためと、他にも余罪があったために、早くに処罰が決まっただけである。

「……ていうか、女神様と殿下、めっちゃ仲いいね?」

 ライハルトに、不思議そうに、ちょっと羨ましそうに言われ、きょとん、としながら瑞姫とシリウスは顔を見合わせた。

「王侯貴族とは別枠だからね。なんというか、自然体でいれるし、ミズキは私にあまり興味ないよね?」
「恋愛的な意味ではないな~」
「こうだもの」

 シリウスに興味がないわけじゃないが、恋愛的という意味ではないと言える。逆に、シリウスもそうであるので、二人は自然と友人という関係に収まっていた。

「さて……、と、じゃあ、これ、頼むよ」

 雑談中に、第三騎士団宛てに一筆をしたためたシリウスは、封筒に入れて瑞姫に渡す。

「はーい。よし、フォリア、行こうか」
「はい」
「また来てくださいね~、女神様!」

 社交辞令かと思ったが、そうでもないらしい。機会があれば、とライハルトに返し、執務室を後にした。
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