自由な女神様!~種族人族、職業女神が首を突っ込んだり巻き込まれたりの物語。脇に聖女を添えて~

時雨

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本編

26.女神はフットワークが軽いです。

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 瑞姫たちが去った後、執務室。

「……いや~、女神様って、女神様だったね」
「語彙力」
「死にました~」

 ケラケラと笑いながら、ライハルトはガラルドにそう言った。そんなライハルトを、セイランは呆れた目で見ている。

「すごいねえ、ミズキ。状況をひっくりかえ、す……」
「殿下?」

 ぺらぺら、とミズキが持ってきた書類をめくっていれば、ある一点でシリウスの指は止まった。目は見開いている。セイランの声で我に返ったシリウスは、上の書類をどけて、食い入るようにそれを見た。不思議に思ったセイランたちも、後ろからのぞき込む。そして、揃って息をのんだ。

「王妃を呪殺せよ……、って、これ……!」
「ライハルト、宰相を呼べ。女神のことは内密にせよ」
「あ、はっ」

 ライハルトはシリウスの命を受け、途端真面目な顔つきになると、すぐさま執務室を飛び出した。

「……なるほど。通りで緊急というわけだ。スキアーヴォの件だけかと思ったのに……、大きい手土産をもってやってきたものだ」
「となると、昨夜の呪術師は……」
「あぁ、王妃を呪っていた本人だろうね。……どうしようか、セイラン、ガラルド。ミズキに頭が上がらないのだけど」
「もとより、女神様であります」
「最初から誰も頭が上がりません」
「ふ、ははっ、それはそうだ」

 次の書類を見れば、呪いを依頼した依頼主からの手紙やら成功報酬やら、事細かに書かれた証拠が何枚もあった。依頼主の名前は載っていなかったが、特定できる紋章が押されていて、誰かなど一発でわかる。半年も探して見つからなかったのに、瑞姫が関わった途端これだ。

「先ほど、ライハルトが言っていた、女神様は女神様だったと言う言葉、なるほど納得だ」
「それ以外に言い様がありませんね」
「王妃様の呪いを返し、その足で犯人のもとまで飛んでいき、証拠と共に本人までも一緒に持ち帰る。さすがです」
「言うなよ」
「わかっております」

 誰もができるわけではないそれを、簡単にあっさりとやってのける瑞姫に、敵ではなくて誰もが安心した。

「女神は……いろんな意味で、強いな?」
「そうですね。あと、行動力がありすぎるかと……」
「……徹底して隠し通さなければね。ふむ……、調、でどうかな」

 貴族たちに何か言われたときの、いいわけである。瑞姫が呪いに気づいたのは王妃の件だし、調査に協力したわけではなく勝手に動いただけだ。しかし、呪術師は子爵にも関係があったので、あながち間違いではない。

「よろしいかと。ミズキ様と口裏を合わせなくてはなりませんね」
「あぁ。先ほどの文に書いたこを変えねばならないな」

 瑞姫に託した文には、少し別の書き方をしてある。また後で、口裏を合わせなければいけない。
 半年の間くすぶっていた王妃の件が一気に動き出し、解決の兆しがようやく見えてきた。他の書類も確認していれば、宰相をつれたライハルトが戻ってきたのだった。

 瑞姫たちは第三騎士団に来ていた。

「あれ、女神様じゃねぇっすか」
「おー、メイズ君!久しぶり~」
「はは、久しぶりって感じしねぇっすけどね」

 入り口でばったりと会ったのは、メイズ・ライナー。ギルドの飛び級試験を受けた際、試験管を務めてくれた豹族の男だ。瑞姫は、彼に駆け寄る。どうやら、休憩から戻ってきたところらしい。ピコピコ動く耳に、ものすごく癒やされた。

「フォリアさんまでつれて、どうしたんっすか」
「団長さんに用があってね~。案内してもらってもいい?」
「いいっすよ」

 瑞姫の頼みをあっさりと引き受けたメイズは、こっちっす、と先導する。三人で雑談しながら歩けば、団長の執務室まであっという間だ。

「団長にお客さんっす」
「あ、アポとってないんですけど、今大丈夫ですか?」
「え、女神様!?しょ、少々お待ちください」

 部屋の前にいた護衛が、慌てて室内に確認しに行く。中から何かが落ちる音やぶつかる音がしたが、直ぐに護衛がどうぞ、と扉を開けてくれた。メイズやフォリアは中の音が聞こえていたのか、笑いを耐えている。

「え、大丈夫なの?」
「だ、大丈夫っすよ。んじゃ俺は戻りますんで」
「え、あ、うん、ありがとうメイズ君」

 戻っていくメイズを見送りながら、若干戸惑いつつもフォリアを伴い室内に入ると、第三騎士団長ソレイユ・トーリアンと、第四騎士団長イズミル・ウォーレンが立っていた。瑞姫を見ると直ぐに頭を下げる。

「あ、いえ。どうぞ楽にしてください。突然お邪魔して申し訳ありません」

 瑞姫が遠慮がちにお邪魔しました?と聞けば、二人そろって首を横に振った。お邪魔したわけではなさそうで、ほっと息を吐く。フォリア曰く、瑞姫が突然来訪したから驚いて書類やら何やらが散乱して慌てて片付けただけらしい。ごほん、と誤魔化すように、ソレイユは咳払いした。イズミルは苦笑いしている。
 どうぞおかけください、といわれてソファに腰掛けた。フォリアはその後ろに立つ。ソレイユやイズミルにも座るよう促した。

「私は、外した方がよろしいですか?」
「……無関係、というわけではない、はず……?」
「そうですね。呪術関係であれば、第四騎士団にも話は行くはずです」

 少し自信なさ気にフォリアを見れば、瑞姫を安心させるように大きく頷く。第四騎士団には、呪術師もいた。当然、その中には解呪できる者もいる。その筆頭が第四騎士団長のイズミルである。イズミルは、魔法にも特化しているが、呪術もでき、中でも解呪に長けているのだ。

「でしたら、時間があれば聞いていってください」
「承知いたしました」

 イズミルは、ソレイユの隣に座り直す。瑞姫は、フォリアに預けたシリウスの書簡をソレイユに渡すよう指示を出した。受け取ったソレイユは、慎重にペーパーナイフで封を切り、読み始めた。シリウスが何をどう書いたかわからないが、少し驚いたように表情を変える。読み終えれば、無言でイズミルにも渡した。そのイズミルも、読み終えた頃には驚いた顔をしていた。

「……なんと、言えばよろしいのでしょうか……。その……、昨夜はだったのですね……?」
「なんて書いてあるかはわからないですけど、昨夜はということになってます」
「なるほど、そういう……。わかりました。それで口裏を合わせましょう。、と書かれています」
「あぁ、なるほど」
「その他のことは何も言ってないから、知らないことになっている、と。ですが、夜明け前に捕らえられた呪術師は……、一体?詳しい罪状が、わかっていなくて」

 あぁ、そういえば詳しいことは影にも言っていない。ただ、王妃に呪いをかけていたという証拠を見せただけだ。

「……今朝、王妃様が回復なさったそうですね」
「えぇ、……まさかっ」
「あの呪術師は、そういう……っ」
「私は病に臥していたという情報しか持ってないですけど、よかったですね」

 王妃が回復したという情報は、王や側近、シリウスや上層部の数人しか知らないものだ。それを、女神が知り得ているというヒントを教えれば、詳しい罪状など言わずとも気づくというものである。余計なことを言われる前に、病で臥している情報しか持っていない、ときっちり釘を刺しておく。

「一応、あの呪術師は、今はスキアーヴォ子爵の件で捕らえたという理由にしたい、と思ってます。証拠などはすべてシリウスに渡したので、ここにはないんですけど。子爵もあの呪術師に、別件で呪いを依頼していたようだったので」
「……表だって、感謝を申し上げられないのが、苦痛ですな」
「お気持ちだけ受け取っておきます」

 にっこり笑ってそういえば、ソレイユたちは苦笑いした。

「それで、この呪術師がいた場所まで案内しますけど」
「え、よろしいのですか?」
「えぇ、とは言っても……。使用していた魔法陣は壊しちゃったし、書類系はシリウスに全部渡しちゃったので、何もないと思うんですけどね。でも暗くてよく見てないので、まだ何かあるかな」
「……女神様。隠したいんですか、隠したくないのですか」

 ばれたらばれたときではあるが、今、王妃の件が貴族にばれなければいい。呪術師に依頼した犯人に逃げられてはたまらない。

「しかし、女神様が自ら……?」
「ミズキ様しか、場所をご存じないのですよ、団長。私、置いてかれましたので」
「……女神様……」
「従者を置いていってどうされます……」

 それは、ちょっとは反省している。部屋に戻ってきたときの、フォリアに対するあの罪悪感を思い出した。

「第四騎士団にも話が来るという意味が、わかりました。私が同行しましょう」
「こっちからも、二,三人同行させよう。今からでよろしかったでしょうか」
「大丈夫ですよ」

 第三騎士団副団長であるリズノーン・スウェンが現場に出ているため、何かあったときのためにソレイユは動けないらしい。一緒に行きたかったと、少し悔しそうに言われた。心なしか、恨めしそうな目でイズミルや団員たちを見ていた。
 移動には馬車をという話も出たが、たかだか現場を見に行くだけでそんな目立つ物には乗れない、と瑞姫は拒否した。その代わりに、変装魔道具で髪と瞳の色を変えて行くのと、マントを被っていく。フォリアもそのままでは目立つが、彼の分の変装魔道具はないので、マントを目深にかぶることになった。瑞姫は横を滑走(空気中の水分を足下に集め、水の道を作りつつその上を滑る)すると言ったが、それが許されるはずもなく、フォリアの馬に乗せてもらうことになった。
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