自由な女神様!~種族人族、職業女神が首を突っ込んだり巻き込まれたりの物語。脇に聖女を添えて~

時雨

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本編

27.宝石に込められた想い

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 王城の裏から出た方が早く、裏門を抜け馬で駆ける。瑞姫の指示に従って入り組んだ裏道を抜けて郊外に出れば、その建物は昨夜と変わらずそこにあった。

「ここです」
「こんなところに……!」

 表に二人と馬たちを残し、瑞姫たちが建物の中へと入る。

「なるほど。人が住んでないわりに、床が綺麗ですね」
「二階は埃まみれでしたよ」
「……ミズキ様、もしや二階から侵入なされたので?」

 昨日の埃まみれの様子を思い出したのか、フォリアはまさか?という表情をしつつ瑞姫に顔を向けた。さっ、と瑞姫はフォリアから目をそらしたが、それで確信したようである。地下の入り口はこっちだ、と話をそらし、見つけた入り口に案内した。第三騎士団の団員が先頭に立ち、慎重に降りていく。部屋は、夜と変わらない状態だ。誰も入った形跡はない。

「なるほど、ここが」
「あの地面がボコボコになってるところが、魔方陣がある場所ですね」
「そうです。……他、何かあるかな~」

 魔法陣は地面ごと壊されたまま、机の上や書棚も、変わらずである。イズミルは壊された魔法陣を調べに行った。定番を考えるなら、棚の後ろや机の下だが、更に横?更に下?ありえるか?

「ミズキ様、書類はここら辺にあったのですか?」
「そうそう。机の上に散乱してたり、引き出しの中にあったやつ」

 そう言いながら、瑞姫はよっこいしょ、と棚を横にずらした。しかし、そこには壁。手をついても、叩いても、びくともしない。棚の背面を見たが、これも何もなかった。棚の表は扉がついてない物なので、じっくり調べる必要がない。

「うーん、やっぱなんもないねー」
「……、ミズキ様?腕力ゴリラかなにかですか」
「え、なんで?」

 棚の下に水の道を作り、動かしやすくしただけである。唐突に腕力ゴリラかと言われ、瑞姫は不思議そうに首をかしげた。重い物を持ったり動かしたりするのは、日常でやっていたので、頼ることなんかしない。そんな様子の瑞姫にため息を吐きかけたがどうにかとどめ、男の出る幕がない、と内心そう呟く。どけた棚はそのまま放置。

「やはり、これは呪術の魔法陣ですね。魔法陣の内容から見るに、徐々に体を弱らせていくタイプの物です」
「そこまでわかるものなんですね」
「はい。魔法陣を読み解けば大抵はわかりますよ。これは、もう破壊されているので直しても使えませんけどね」
「魔法陣をそのままにしておいたら、別の人も使えるんですか?」
「えぇ、魔法陣が何に使用するのか理解していれば、別の人間でも使えます」

 魔法陣を調べ終えたイズミルは、瑞姫を見てそう言った。王妃にかけられている呪いを見た瑞姫の見解と、魔法陣を調べたイズミルの見解が一致。
 そのままにしておけば、別の人間にも使えるとなれば、壊しておいて良かったというものだろう。一応、ここに倒れていたのはあの呪術師一人だし、王妃の元から飛んでいった呪い返しも一つだったから、関わっているのはそいつだけのはずだ。誰でも出入りできる場所であるから、他に人が入ってこないとも限らないが。あの書類たちを見たら、呪術師一人の名前しか載っていなかったので、他人が関わっている可能性は低いと見える。

「うわ……、ミズキ様!」
「え、なに?」

 机を調べていたフォリアが声を上げたので、イズミルと共に慌てて近寄った。フォリアは一つの引き出しを引っ張り出し、机の上に上げていて、それをのぞき込んでいる。瑞姫たちものぞき込めば、うわ、と声を上げる羽目になった。

「引き出しの深さがおかしかったので、二重底だと思ったのです。開けるのに手こずりましたが……」
「うっわ~……、これ……気づかなかったな」
「……これには、封印魔法が施されていたようです。恐らく、呪術師本人が倒れたことにより、解かれたのかと思います」

 一番下の引き出しが、外観の深さと中の深さに違和感があったので、二重底かもといじくり回したら開いたらしい。お手柄である。二重底の蓋には封印魔法が施されていた。イズミルが言うには、この封印魔法は不完全だったらしい。完全であれば、本人が倒れたところで解かれることはないのだとか。本人が倒れることにより、封印が解かれる仕組みになっていれば話は別だが、これは施した人間のミスだそうだ。瑞姫が気づかなかったのは、急いでいたからと、完全に上辺だけしか見ていなかったため、見逃したのだろう。

「呪いの媒体……?にしては……」
「呪いの?……え、このネックレス……!見たことありますよ……、どこで、だったかな……」

 出てきたのは、ネックレス。真ん中に大粒の紫の宝石と、それを囲うように細かい白の宝石が埋まっているものだ。紫の宝石は、ひびが入っている。瑞姫が呪いの媒体かと思ったのは、王妃を蝕んでいた呪いと同じ力がこれからしたからだ。黒い靄も、少しだがにじみ出ている。だが、少し違うように思えた。
 イズミルはこれを見たことあるようだが、思い出せないらしい。こんな高価で豪華なもの、つけられるのは限られてくる。

「……、宝石は紫がチャロアイト。白がセレナイト……、もしかして、これ……」
「ミズキ様?」

 瑞姫は、加工された宝石を触れば、宝石の加工をした人たちや、贈った側の込められた想い、持ち主に大切にされていたかどうか、を少しだけ読み取れることができる。宝石から何か読み取れないか、とそっと触れれば、ふわりと宝石が光った。浄化の光である。それと同時に読み取れた想いに、瑞姫はほぅ、と感嘆のため息をこぼした。

「……なるほどね……。さすがは宝石だわ。これを贈った方は、とてもこの方を愛していたんですね。素晴らしいものです」
「女神様、何かおわかりに?」
「はい。……この宝石が、呪いを軽減させていたようです。媒体として使われたみたいですが、これの持ち主を守る方に作用していたみたいですよ。通りで、半年も体が保ったわけです」

 特殊な力が宿っていると考えられている宝石をパワーストーンと呼ぶが、このネックレスはそれが顕著に現れていた。
 チャロアイト。ラリマー、スギライトに並ぶ世界三大ヒーリングストーンの一つ。石の特性は、ヒーリング、危機回避、エネルギーの解毒、不安の克服など。特に強力なのは、ヒーリング効果と、マイナスエネルギーからの保護。浄化作用も強い。
 セレナイト。世界三大ヒーリングストーンには及ばないものの、これもヒーリング効果のある石だ。石の特性は、ヒーリング、滞ったエネルギーの解放、保護、浄化など。浄化力が優れており、滞ったエネルギーの解放を促す石だ。外的影響からの保護作用も強い。
 二つとも、ヒーリングと保護、浄化も持ち合わせている。
 このネックレスは、後者二つの効果がとても強かった。チャロアイトの危機回避、エネルギーの解毒、保護、浄化。セレナイトのエネルギーの解放、保護、浄化。贈った側は、守護の願いと想いを込めている。贈られた側は、その想いを受け止め、同じく願った。それらが作用し、呪いの媒体になったにもかかわらず、少しずつだが呪いを軽減させていたようだ。かけられていた呪いが弱かったのもある。
 呪術師は、媒体にする物を間違えたとしか言い様がない。皮肉なものだが、これのおかげで呪術師も命があるといえる。

「ではこれは……」

 イズミルも気づいたのだろう、王妃様の、と口の中でつぶやいた。

「本人に返してくださっても問題はないです。ですが、これは役目を終えてしまった。守護の力はもうないです」
「……ご本人に確認します」
「それがいいです。それと、役目を終えた宝石には労りと感謝の言葉を。ご本人から一言。宝石も喜ぶでしょうね。この宝石をまた加工したいなら、私に声をかけてください。この宝石はまだ死んでませんから。でも下手に加工すると、拗ねちゃいますので」
「……宝石が、拗ねるのですか」
「感覚的に、っていう話だよ」

 実際に、宝石には感情などない。しかし、物には魂が宿ると言われるように、石も例外ではない。魂、というより、霊的あれこれだが。
 瑞姫が拗ねると表現したのは、加工がしにくくなる点だ。瑞姫の宝石の異能は、天然であればどのような状態であろうと加工し、別の形にできるのだが、宝石にあった加工をしないとはじかれてしまうことがある。なので、真剣に宝石と向き合い、その声(宝石が話すわけではなく、なんとなく脳裏によぎる)を聞いて加工するのだ。まあ、これは瑞姫の場合、と注釈がつく。他の人は瑞姫のように力を注ぐわけではなく、手で地道に加工するのではじかれることはまずない。

「わかりました。そう申し伝えます」
「お願いしますね」

 ネックレスは、イズミルが丁寧にハンカチにくるみ、懐にしまった。その後は、色々と部屋の中を調べるもたいした物はなく、仕掛けもなかった。二階も一応調べたが、昨夜と同じく家具も何も置かれておらず、変わったところもない。なので、その場から引き上げた。
 外の様子も変わりなく、邪魔も入らなかったのですんなりと城に帰れた。その足で第三騎士団に戻り、ソレイユへ報告する。

「――――なるほど、そういうことでしたか」
「私は、報告書を作成したら、王へ報告に行ってきます」

 例のネックレスをソレイユに見せたら、彼はそれを王妃のだと一発で気づいた。昔は、お気に入りだと言って毎日つけていたらしい。いつからか見なくなったが、そのときにはもう盗まれていたのだろう。呪術師か、呪術師に呪いを依頼した人物か、どちらかはわからないが、窃盗罪追加だ。

「そういえば、呪術師に依頼した人物が判明いたしました」
「……え、はっや」
「なんでも、書簡に紋章が押されていたらしく、そこから判明したようです」
「ダミーではなかったんですね」
「筆跡と紋章の鑑定をしたそうですが、本人の物と一致しました」

 ソレイユが言っているのは、王妃の方だろう。瑞姫がシリウスの執務室に書類を投げ込み、第三騎士団から現場に行って帰ってくるあの時間内に、そこまで調べ上げられるとは。確かに、行って帰ってくるまでには数時間かかったが。シリウスは本気を出したのか、と思ったら、書簡に紋章が押してあり、その紋章鑑定を行っただけらしい。

「えぇ……、間抜け」
「えぇ、間抜けです。ただ、間抜けだったおかげで一気に捜査がはかどります。……犯人は、お聞きになりますか?」
「うーん……、気にはなりますが……。すべて終わった後で、聞きます。今は余計な情報はいらないので」
「承知いたしました。この件は、シリウス殿下が指揮を執っておられますので、殿下よりお話があるかと思います」
「わかりました」

 いったん話が切れたので、イズミルは早速報告書を書いてくると席を立ち、第四騎士団宿舎へと戻っていった。

「女神様、シリウス殿下より伝言がございます」
「なんですか?」
「今日はゆっくり休むように、と」

 にっこり、とソレイユは笑いながらそう言った。どうやら、瑞姫たちが徹夜明けだというのが、シリウスたちにばれたらしい。というか、考えれば直ぐにわかることである。
 深夜に王妃のもとへ、呪術師が夜明け前に牢屋へ。そして綺麗に並べられている書類。はて、女神はいつ休んだのか?まさかと思いつつ影に聞けば徹夜です。女神何やってるの!ガラルドよりシリウスからの文と共に、女神は徹夜なので帰還されしだいお休みいただくように、とのこと。
 フォリアは瑞姫の後ろで当然だ、と言うように頷いている。まだ大丈夫なのにな、と思っても、瑞姫が休まねばフォリアも恐らく休まない。なので、瑞姫は素直にそれに頷いたのだった。
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