自由な女神様!~種族人族、職業女神が首を突っ込んだり巻き込まれたりの物語。脇に聖女を添えて~

時雨

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本編

48.浄化システムについて

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 翌日、公表されたのは大まかに四つ。
 一つ目は、王妃が病ではなく呪いで倒れていた。その件で侯爵家がそれに関わっていたこと。
 二つ目は、子爵や侯爵が王族殺害計画を立てていたこと。
 三つ目は、聖女の出立が決まったこと。
 四つ目は、シリウスが正式に王太子になるため、立太子式を行うこと。
 前二つは昨日報告されたことを要約した内容だったので、それは別にいい。最後の二つは初耳なのだが。

「まあ、出立はね、ごたついてたから遅れたんだろうけど」

 黒幕が捕まり、全体的に落ち着いてきたからだろう。聖女が瘴気を浄化するための出立準備が、ようやく整った、ということだ。聖女に随行するのは、リカルドを筆頭に、その側近たちと第一騎士団長レイノートなど、あと何人かの少数精鋭になるらしい。

「そうですね。あそこまで大ごとになるとは、恐らく誰も思っていなかったはずです」

 若干、遠い目になっているフォリアに言われ、ハハハ、と瑞姫は乾いた笑いを上げる。瑞姫とて、ここまで大ごとになるとは思ってなかった。

(聖女ねぇ。……まあ、頑張って、としか言いようがないな……)

 薄情かもしれないが、瘴気の浄化は聖女しかできず、瑞姫ではどうしようもないので見守るしかない。やれることと言えば、怪我をしないように、無事に帰ってこられるように、祈るだけだ。

「……そういえば、被害報告ってあるの?」
「はい。ですが、ほとんどが魔物による被害でしたね。ただ、これは私が騎士団に所属していた時に上がってきた報告ですので……」
「あー、魔物か……。飛躍的に力が上がるんだっけ」
「そうです」

 被害報告は、瑞姫たちが召喚される前からある。しかし、そのほとんどが魔物の狂暴化によって、人々に被害が出ているようだ。人が狂暴化した報告もあるにはあるが、魔物に比べて圧倒的に少なく、すでに対処済みらしい。……イコール、殺したということだ。
 人や魔物が瘴気に触れ狂暴化すると、約二倍近く魔力量や攻撃力が上がると統計がとれている。昔から、これは変わらないらしい。

「瘴気って、目に見えるようになるし、発生場所は大体決まってるんでしょ?」
「はい、そうです」

 その瘴気だが、普段は目に見えるものではない。見える前に、世界によって浄化されるからだ。世界、というよりは、この惑星の地核部分に浄化を行うシステムが組み込まれていて、そこが常に稼働しているから浄化できている(これは、この惑星が誕生したと同時に組み込まれている、と大昔に女神より御神託を受けたと書物に記載されていた)。仕組みとしては、瘴気を吸い込みそこで浄化し、奇麗な空気で吐き出される感じだ。地球で言えば、汚染された空気をフィルターで濾過ろかし、奇麗な空気を吐き出すファン方式のようなもので。

(空気清浄機かっ、て内心突っ込み入れたよね……)

 しかし、その浄化システム自体が瘴気により汚染され、浄化できなくなる。そうなっても吸い込みは続くから、浄化されないままの瘴気は超高濃度な塊になって吐き出され、目に見えるようになるのだ。空中にいきなり、空間がひん曲がったような歪みが発生し、最初は五センチチセルほどの小さな黒点が出現。それが瘴気だ。
 そして、瘴気の発生場所は決まっている。これは、世界のツボといわれているのだが、世界中に点在していた。数十カ所にも上るが、その中から二百年ごとに十カ所以上ランダム発生するらしい。ただ、人の負の感情に引き寄せられて発生することもあるので、絶対とは言い切れないところが怖いところで。全て同時に発生することはないが、五,六カ所同時というのはあるようだ。というか、現在、すでに三カ所観測されており、どこも直径六十センチチセル強はあるとのこと。これでも小さい方で、過去、最大で二メートルメルン強あったそうだ。

「確か、八十センチチセルに達すると警告が届いて、一メートルメルンくらいになると緊急要請がかかるんだっけ」
「はい。周囲が腐敗し始め、魔物の狂暴化が増え、人がそれに引き寄せられる、と伝わっております」

 瘴気というよくないものが発生して、周囲に影響が何もなく平穏、とはさすがに都合よくいかない。大体、一メルン前後になると、まず、その周囲が腐敗し始める。そして、狂暴化する魔物が倍に増える。最後に、人々がそれに引き寄せられるのだ。これは、種族など関係がない。なので、八十センチチセルに達すると観測所から聖女、というより、この国に警告が届く仕組みになっている。

「フォリア見たことある?」
「えぇ、ものすごく遠目に見ただけでしたが……」

 フォリアが見たのは、直径三十センチチセルほどの大きさだったらしい。瘴気発生場所から少し離れたところにその観測所があり、そこから見せてもらえたそうだ。

「一回、私も見てみたいな。そこってここから近いの?」
「いえ。私が行った場所は、辺境の地でしたので」
「え、ちょっと遠いね。聖女が行くところも、そこが先?」
「どう、でしょうか。現在、報告がある場所は、辺境、南の山脈、国境を越えた北の大河です」

 それぞれ、かなり離れた位置である。辺境は東のシェリトン辺境領、南の山脈は、学園都市を超えた先にある国境付近の山で、北の大河は、隣国に流れる世界で三番目に大きい川だ。

「ていうか、全部結構離れてるよね?え、これ強行軍あり?」
「そうなるかと思われます」
「わー」

 聖女業は、思ったよりも結構ハードである。だが、これも最初の内だけだ。聖女が世界のツボを浄化し回れば、同時にその力も吸い込むので、汚染された浄化システムも徐々に浄化されて回復していく。

(簡単に言えば、フィルターが汚染されて濾過しきれなくなったから、奇麗に掃除しましょうね、っていう事だもんね……)

 聖女はそういう役割だ。なので、浄化し回っていれば徐々に瘴気の発生も落ち着いてきて、最終的に出動もなくなる。とは言っても、最多で五年かかったこともあるようだが。しかし、それはそれとして、

(初っぱなからそれはきついな……。せめて、スケジュールに息抜き出来るような時間があると良いけど)

 大丈夫かな、と少し心配になった瑞姫だった。

「……で、シリウスの立太子式ね……。遅い、ってわけじゃないの?」
「そうですね。他国では成人と同時に、もしくは、学園をご卒業と同時に、という事もございます。我が国では、陛下のご意志によりますので。その陛下も、殿下と同じ頃に王太子になられた、と聞き及んでおります」
「そっかー」

 シリウスが例外的に遅い、というわけではないらしい。

「なんにせよ、おめでたいことだよね~」
「えぇ」

(おめでたいな。うん。……お祝いって、贈った方がいいのかな。いや、でもな。本物の王子様に何を贈れって感じだよね)

 これが普通の知り合いであれば、お菓子とかを適当に見繕って贈る。だが、相手は王子で、しかも王太子になる。その辺の適当なものでは失礼だろう。と思ったが、瑞姫とシリウスは、肩書を取っ払った友人関係だ。“王太子”に媚びへつらい物を貢ぐのは他の貴族の役目で、瑞姫がそれに右へならえなんかしなくてもいいし、する必要もない。瑞姫が贈るのは肩書ではなく、シリウスという一人の友人だ。
 しかし、考えていたが思いつかないので、

「……で、聞きに来たわけか」
「そー」

 本人に聞いてみる事にした。仕事の話じゃないけど空いている時間があれば空けて、と文を送ったら、また夕食後になって今に至る。

「急に言えと言われても、思い浮かばないものだね」
「あ、やっぱり?」

(まあ、大抵、お金で手に入りそうだけどね~。何欲しいかわかんないけど。そう簡単に手に入らないものって……)

「その前に、私より従者にはあげたのかい?」
「フォリア?え、あげたよね」
「はい、いただいております」
「そうか」

 シリウスが懸念しているのは、従者は独占欲が強いから、物をあげるならば最初は従者にあげないと拗ねる、というところだろう。ご機嫌取りが大変だったりするのだ。逆も然り、だが。そのとき、瑞姫の脳裏にぴこん!とアイデアが浮かんだ。

「あっ!そうだ、ねえ、女神の加護は?」
「……は?女神の、加護?」
「え"。女神様、それってそんな簡単にホイホイと……、ていうか、え?女神様加護を付与できるの!?」
「うん、できた~」

 何でもかんでも報告するわけじゃないが、これは言っておいた方が良かったかな、と苦笑いする。見せてほしいというのでフォリアに目配せすれば、彼はそれを取り出した。一目見て顔を引き攣らせたシリウスは、怖いから机に置いてくれと言う。何も怖い事はない。ただちょっと、呪いのような加護がついているだけで。あと、価値がとんでもないことくらい。売買不可だが。

「ガラルド」
「――――見させていただきました。はい、加護が付与されております……。フォリア以外は長時間持つ事は不可能で、一定範囲を超えると彼の手元に戻る、ですね」

 シリウスに呼ばれ、机の側で膝をついたガラルドは一瞬意識が飛んでいるように見えた。彼は無機物の鑑定しかできないそうだ。どうやら、それが鑑定中の状態らしい。そのガラルドも顔を少し引き攣らせている。

「ミズキ様、長時間とはどの程度ですか?」
「五分きっかり。ちなみに、範囲は百メートルメルンね」
「短いですし、意外と狭い範囲ですね。となると、もうそろそろですか」

 瑞姫もそれは思った。実験したときにフォリアと短っ!と、声を漏らしたくらいである。セイランの言うとおり、そろそろ五分経つ。皆がそれに注目していれば、唐突にそれがふっ、と消えた。そして、すぐにフォリアの手元に現われる。

「あんな感じのでどう?」
「その前に、聞きたいのだが。宝石の異能は使用を控えるのではなかったかな」
「知ってる人の前だけなら、使おうかなって。時と場合は選ぶけど、アンデッドに効果抜群だったの聞いた?」
「……あぁ、アンデッドを一撃で屠っていたと聞いたが、宝石の異能だったのか」
「それ~」

 アランやエイバンは異能の事を知らないので、宝石の異能を使用した、とは報告が上がらなかったらしい。帰り道は、何故かアンデッドがほぼ出てこなかったので、瑞姫の出番がなかったのもあるだろう。リカルドも知らないはずだ。シリウスは納得したように頷く。

「どうする?お祝いだから大サービスしちゃうよ」
「……それは、私の要望を通してくれる、と?」
「できるかどうかは、私のイメージ力次第だけどね~」

 瑞姫の言葉に少し思考を巡回させたシリウスは、なら、と口を開いた。

「……なら、――――」

 その要望に、瑞姫は笑顔で頷いたのだった。
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