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本編
47.続・報告
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元侍女の恋人の正体の答えは、簡単である。
「そいつが、ナイトメアだった」
「やっぱりか……。いや、待って。ナイトメア?それ偶然?」
「偶然だったら子爵を責められないだろうね」
その口ぶりでは偶然ではない。ということは、当然、子爵が一枚噛んでいたことになる。
「巡り巡って子爵にたどり着く?……子爵の指示、ってこと?」
「その通り。自分の手を汚したくないと考えた子爵は、ナイトメアに依頼し、元侍女を誘惑して恋人枠に納まらせたようだ」
“やめると働き口がなかったために、仕方なく働いていた”そんな元侍女に、子爵は目をつけた。
「つまり……あ~、元侍女の感情が爆発したのは恋人が唆したからで、その上、毒を盛らせるように仕向けた、って?」
「そういうことだ」
その子爵の指示に従い、ナイトメアは恋人になれるよう上手く取り入る。納まった後は、元侍女の愚痴を聞きつつ、少しずつ殺意を膨れ上がらせた。そして、子爵が外出すると決まっていたお披露目当日に、盛るよう仕向けたのが事の真相らしい。つまり、元侍女は体の良い捨て駒にされたと言うことだ。
「そいつ生きてるの?」
「驚いたことにね。ミズキが異能で撃ち抜いた男だよ。覚えている?」
「……あぁ……」
最後の男だ。今聞いてよかった。その前に聞いていたら、過剰制裁を加えそうだった。
元侍女は、恋人がナイトメアだと知らなかった。しかし、彼女が収容されていた牢屋の前を、あろうことかその男を連れた騎士が通ったのだ。そして発覚したというわけである。元侍女は、恋人だと思っていたが実際はそうじゃなかったことと、そんな男に騙され殺してしまったことに茫然自失状態だそうだ。そうなるのも無理はないだろう。
「爵位持ちの夫人を殺害した罪は消えない。しかし、情状酌量の余地ありとみて、減刑はされる」
「まあ、そうなるよね」
六つ目、黒幕の件
「子爵の後ろにいた人物と、呪術師に依頼した人物は、同じだったよ。いや、正しくは別人なんだけど、ね」
「あー……共犯?家ぐるみ?というか、え?もう完了?」
「あぁ。両方、というところかな。――――今朝、ね。抜かりはないさ」
おー、と瑞姫は拍手した。
元々、包囲網は完成していたので、捕まえるまでが早かったのだろう。瑞姫たちが北の森にいたころ、シリウスたちは大捕物の前日と言うことで、ぎりぎりまで準備で忙しかったようだ。リカルドがシリウスに代わって来たのもその関係である。
シリウスの言う両方とは、子爵の後ろにいたのが本家、呪術師に依頼したのがその分家で、両者間で莫大な金額が動いていたらしい。
「本家、分家、揃って全員すでに拘束済みだ。証拠もわんさか出てきたよ。まあ、本人たちは何かの間違いだ、だの吠えているけど」
往生際の悪いやつがよく言う台詞である。まず、子爵の後ろにいた人物だが、侯爵家だった。アコーネル侯爵。瑞姫もお披露目パーティーの時に会ったが、温厚そうに見えた。他の貴族とそう変わらず、本心を見せない笑みを浮かべてはいたが、貴族特有の言い回しで会えて嬉しい、と言う言葉に嘘はなかったと思ったが。
「領民にも慕われていてね……。孤児を拾っては孤児院に預けて、支援もしていたんだ。だがね、その孤児たちはある程度育つと、どこそこへ売られていたようだよ」
「孤児を売って収益を得ていたんだね……」
その孤児院の院長も加担しており、浮いたお金は自分の懐へ入れていたようだ。領民から疑われなかったのは、ある程度、孤児の子供たちに新しい服を与えたり、時たま食事を豪華にしたりして、不正はないアピールをしていたらしい。院長自身の服も、安く買える服だったこともあり、裏の顔には気づかなかったようである。子供たちも、長くいる子たちは薄々気づいていたらしいが、言い出せなかったようだ。他にも、侯爵は闇オークションの主催や、非合法の奴隷商の支援もしていたらしい。子爵経由でナイトメアにも人さらい、または殺しを依頼していたようである。
そして、親が親なら子も子で、親がやっているし、やれと言われたからやっただけだ、私は知らん!と言う態度らしく、騎士団をいらつかせているようだ。ちなみに、侯爵夫人は亡くなっており、弟はいたのだが数年前に勘当されて絶縁しているとのこと。
そして、呪術師に依頼した人間だが、伯爵家の夫人だった。この伯爵夫人、名前をイージベル・ジョルノンといい、元アコーネル侯爵家の令嬢である。さらに言えば、現国王陛下、元王太子の婚約者候補筆頭だった。彼女の性格を一言で表せというのならば、傲岸不遜。または、とても我が儘で横暴で自分が一番じゃなきゃ気がすまない傍若無人。
「父上と同学年だったんだが、問題を起こす天才だったようだね。退学になりかけてからは、大人しくしていたようだが」
「なんか、想像ついた……。要するに、自分が選ばれると思ってたら選ばれなくて、えーっと、確か王妃様は元伯爵令嬢だったっけ?自分より下の爵位が選ばれたあげく、自分の爵位が下がったものだから逆恨み?」
「それもあるし、母上は剣の腕も立つから、野蛮だの、自分の方がふさわしいだの」
「……。つまり、自分の方が優れているってことだよね」
「あぁ。まあ、成績ですら母上に負けていたようだが」
それはなんとも救いようのない。現在、伯爵夫人は牢にてそう喚き散らしていて話が通じないようだ。
七つ目、王妃の件
「ありのままを伝えることにした。公表は明日だが。スキアーヴォ子爵の件から呪術師が割れ、そいつを調べたら犯人が浮き上がってきた、とね」
「あれ、でも、私が子爵の件で手伝ってることは、皆知ってる話だよね?」
“子爵が呪術師に呪いを依頼した件で気づいたことがあり、女神様が自主的に騎士団に協力している”という話は、騎士団のみならず、他の貴族たちも知っているはずだが。
「それも相談しようと思ったんだ。その話はそのままにするんだけど、何故ミズキが動いたか、という動機がいるんだよね」
「え、動機?うーん……私がやれることをやっただけだよ。職業病なところもあるけどね~。でも、どうしても理由がいるなら……。面白そうだったから勝手に首突っ込んだ、でいいと思う」
「……さすがに、面白そうだったから、というのはなしだな。職業病か……」
結果、女神は元の世界で犯罪を取り締まる職業に就いており、犯人逮捕に積極的だったのはそのため。リネルカイトの件は、たまたまその場に居合わせた。ナイトメアの件は、北の森の異変を聞いた女神が乗り込んでいったら偶然見つけた、になった。
「あと、母上がお目通りを願っているのだが、いいだろうか」
「……あ、そっか。犯人捕まったから、もう良いんだ?そうだね、私もお会いしたいな」
「わかった。詳細は追って伝えるよ」
“王妃の体がきちんと動かせるようになるのと、犯人逮捕までは臥していることにする”ということになっているため、今まで会えなかった。王妃はもう、剣を振り回せるくらい回復しており、何も問題ないとのことで。詳細はシリウス経由で伝えてくれるらしい。
八つ目、報酬の件
「と言ってもね。正直、女神に報酬ってどうかなとも思うんだよ。いつものように上から目線で、これをやろう、なんてできるわけないし」
「う、うん?」
「まあ、だから、勝手に品を献上しようか、と言う話が出ていてね」
うん?と瑞姫は首をかしげる。勝手に品を献上とは?……少し、嫌な予感がしてきた。
「私は提案したんだ。――――ミズキの像を造ればいいと」
「却下」
瑞姫は、ものすごく嫌そうな顔を全力でして、シリウスの言葉に食い気味で答える。ぶはっ、と吹き出して笑い始めたのは、それまで沈黙を貫いていたライハルトだ。
「ほらぁ!やっぱり嫌がるっていったじゃーん!」
「くっ。やはり駄目だったか」
やはり、ということは拒否されるのは想定内だったようだが、何故そんなにも悔しそうなのか。セイランとガラルドは、表情こそ変わらないが、シリウスに向ける視線は心なしか冷たいような気がする。
「ご安心ください。陛下はご賛同なされましたが、王妃様が反対なされました。それでも食い下がる方がこちらにおられますので、ミズキ様がお断りなさったら諦める、と約束が交わされました」
「絶対、嫌」
「殿下、諦めなさいませ」
「――――仕方がない、諦める」
セイランが安心させるように瑞姫にそう言ったので、瑞姫はもう一度反対の言葉を口に出した。そう残念そうにされても、嫌な物は嫌だ。というか、何故献上品が像を造る事になるのだろうか。
「んじゃあさー、女神様って、逆に何か欲しいとかあります?」
笑いをガラルドの拳骨によって強制的に止まらせられたライハルトは、頭をさすりながら瑞姫に聞いた。その言葉に瑞姫はぐるぐる、と思考を巡らせる。正直、欲しいものなど今言えと言われても思いつかない。
「ミズキ様」
「うん、なあに?欲しいものでもあった?」
「私は欲しいものはないので結構です。いえ、そうではなく。布はどうですか?」
「……あー!それだ!フォリア覚えてたの偉い!」
まだフォリアと主従契約を結ぶ前に、戦闘服に切り替えようかな、という話をしたことがあった。それをフォリアは律義に覚えていたようだ。さすが従者である。
「あのね、布が欲しい!」
「え、布?服じゃなくてかい?」
「服は自分でつくるよ!できれば、フォリアの服に使われてるミルシドークがいいんだけどっ」
亜人族の大陸で主流の高級素材だ。品質は絹に近いのだが、デメリット(変色する、洗濯しにくい、虫に食われやすいなど)はない。逆に、魔法付与ができて防御に優れたものを作れるため、メリットしかない素材である。ミルシドークとは魔物の名前だ。餌を与えておけば勝手に糸を吐き出してくれるし、育てやすいので養殖されている。デメリットは大量繁殖するので、間引きが大変なところ。しかし、これはアドニス大陸には出回らない。
「アドニス大陸じゃ手に入れにくいから、これはクロンダイク大陸に調達しにいくしかないか、と思ったんだけど!」
「ワー、コノ女神様ホント行動力アルナー」
理由は、ミルシドークがクロンダイク大陸にしか生息しておらず、養殖もそこでしか行っていないためだ。逆に、クロンダイク大陸に出回らないのが、アドニス大陸で主流の高級素材テーンサフタ。これも魔物の名前である。アドニス大陸にしか生息しておらず、養殖もそこでしか行っていない魔物だ。品質がサテンに近いテーンサフタは、ミルシドークに比べて少し重い。瑞姫は戦闘向けで、なおかつ軽い素材が欲しかったのだ。フォリアの薦めでもある。
いつになくテンション高めな瑞姫の勢いに、ライハルトが少し引いたように片言で呟く。その横にいるセイランやガラルドは、同意するよう小さく頷いた。
「わかったよ。父上にはそう伝えておくよ」
「わーい、よろしくね」
嬉しそうに笑う瑞姫に、シリウスはひょい、と肩をすくめた。
「ミズキが関係していた件の報告は以上だよ。少し多かったかな」
「うん、情報過多だったと思うよ……」
「まあ、明日公表するものもあるから、それを聞いた後に質問があれば答える、という形でいいかな」
明日、公表されるものは、一連の件とは関係ないものもあるらしい。正直、今のでお腹いっぱいなので、明日に回してくれるのはありがたかった。あとは、皆で軽い雑談をして解散。
――――そして、翌日。
「そいつが、ナイトメアだった」
「やっぱりか……。いや、待って。ナイトメア?それ偶然?」
「偶然だったら子爵を責められないだろうね」
その口ぶりでは偶然ではない。ということは、当然、子爵が一枚噛んでいたことになる。
「巡り巡って子爵にたどり着く?……子爵の指示、ってこと?」
「その通り。自分の手を汚したくないと考えた子爵は、ナイトメアに依頼し、元侍女を誘惑して恋人枠に納まらせたようだ」
“やめると働き口がなかったために、仕方なく働いていた”そんな元侍女に、子爵は目をつけた。
「つまり……あ~、元侍女の感情が爆発したのは恋人が唆したからで、その上、毒を盛らせるように仕向けた、って?」
「そういうことだ」
その子爵の指示に従い、ナイトメアは恋人になれるよう上手く取り入る。納まった後は、元侍女の愚痴を聞きつつ、少しずつ殺意を膨れ上がらせた。そして、子爵が外出すると決まっていたお披露目当日に、盛るよう仕向けたのが事の真相らしい。つまり、元侍女は体の良い捨て駒にされたと言うことだ。
「そいつ生きてるの?」
「驚いたことにね。ミズキが異能で撃ち抜いた男だよ。覚えている?」
「……あぁ……」
最後の男だ。今聞いてよかった。その前に聞いていたら、過剰制裁を加えそうだった。
元侍女は、恋人がナイトメアだと知らなかった。しかし、彼女が収容されていた牢屋の前を、あろうことかその男を連れた騎士が通ったのだ。そして発覚したというわけである。元侍女は、恋人だと思っていたが実際はそうじゃなかったことと、そんな男に騙され殺してしまったことに茫然自失状態だそうだ。そうなるのも無理はないだろう。
「爵位持ちの夫人を殺害した罪は消えない。しかし、情状酌量の余地ありとみて、減刑はされる」
「まあ、そうなるよね」
六つ目、黒幕の件
「子爵の後ろにいた人物と、呪術師に依頼した人物は、同じだったよ。いや、正しくは別人なんだけど、ね」
「あー……共犯?家ぐるみ?というか、え?もう完了?」
「あぁ。両方、というところかな。――――今朝、ね。抜かりはないさ」
おー、と瑞姫は拍手した。
元々、包囲網は完成していたので、捕まえるまでが早かったのだろう。瑞姫たちが北の森にいたころ、シリウスたちは大捕物の前日と言うことで、ぎりぎりまで準備で忙しかったようだ。リカルドがシリウスに代わって来たのもその関係である。
シリウスの言う両方とは、子爵の後ろにいたのが本家、呪術師に依頼したのがその分家で、両者間で莫大な金額が動いていたらしい。
「本家、分家、揃って全員すでに拘束済みだ。証拠もわんさか出てきたよ。まあ、本人たちは何かの間違いだ、だの吠えているけど」
往生際の悪いやつがよく言う台詞である。まず、子爵の後ろにいた人物だが、侯爵家だった。アコーネル侯爵。瑞姫もお披露目パーティーの時に会ったが、温厚そうに見えた。他の貴族とそう変わらず、本心を見せない笑みを浮かべてはいたが、貴族特有の言い回しで会えて嬉しい、と言う言葉に嘘はなかったと思ったが。
「領民にも慕われていてね……。孤児を拾っては孤児院に預けて、支援もしていたんだ。だがね、その孤児たちはある程度育つと、どこそこへ売られていたようだよ」
「孤児を売って収益を得ていたんだね……」
その孤児院の院長も加担しており、浮いたお金は自分の懐へ入れていたようだ。領民から疑われなかったのは、ある程度、孤児の子供たちに新しい服を与えたり、時たま食事を豪華にしたりして、不正はないアピールをしていたらしい。院長自身の服も、安く買える服だったこともあり、裏の顔には気づかなかったようである。子供たちも、長くいる子たちは薄々気づいていたらしいが、言い出せなかったようだ。他にも、侯爵は闇オークションの主催や、非合法の奴隷商の支援もしていたらしい。子爵経由でナイトメアにも人さらい、または殺しを依頼していたようである。
そして、親が親なら子も子で、親がやっているし、やれと言われたからやっただけだ、私は知らん!と言う態度らしく、騎士団をいらつかせているようだ。ちなみに、侯爵夫人は亡くなっており、弟はいたのだが数年前に勘当されて絶縁しているとのこと。
そして、呪術師に依頼した人間だが、伯爵家の夫人だった。この伯爵夫人、名前をイージベル・ジョルノンといい、元アコーネル侯爵家の令嬢である。さらに言えば、現国王陛下、元王太子の婚約者候補筆頭だった。彼女の性格を一言で表せというのならば、傲岸不遜。または、とても我が儘で横暴で自分が一番じゃなきゃ気がすまない傍若無人。
「父上と同学年だったんだが、問題を起こす天才だったようだね。退学になりかけてからは、大人しくしていたようだが」
「なんか、想像ついた……。要するに、自分が選ばれると思ってたら選ばれなくて、えーっと、確か王妃様は元伯爵令嬢だったっけ?自分より下の爵位が選ばれたあげく、自分の爵位が下がったものだから逆恨み?」
「それもあるし、母上は剣の腕も立つから、野蛮だの、自分の方がふさわしいだの」
「……。つまり、自分の方が優れているってことだよね」
「あぁ。まあ、成績ですら母上に負けていたようだが」
それはなんとも救いようのない。現在、伯爵夫人は牢にてそう喚き散らしていて話が通じないようだ。
七つ目、王妃の件
「ありのままを伝えることにした。公表は明日だが。スキアーヴォ子爵の件から呪術師が割れ、そいつを調べたら犯人が浮き上がってきた、とね」
「あれ、でも、私が子爵の件で手伝ってることは、皆知ってる話だよね?」
“子爵が呪術師に呪いを依頼した件で気づいたことがあり、女神様が自主的に騎士団に協力している”という話は、騎士団のみならず、他の貴族たちも知っているはずだが。
「それも相談しようと思ったんだ。その話はそのままにするんだけど、何故ミズキが動いたか、という動機がいるんだよね」
「え、動機?うーん……私がやれることをやっただけだよ。職業病なところもあるけどね~。でも、どうしても理由がいるなら……。面白そうだったから勝手に首突っ込んだ、でいいと思う」
「……さすがに、面白そうだったから、というのはなしだな。職業病か……」
結果、女神は元の世界で犯罪を取り締まる職業に就いており、犯人逮捕に積極的だったのはそのため。リネルカイトの件は、たまたまその場に居合わせた。ナイトメアの件は、北の森の異変を聞いた女神が乗り込んでいったら偶然見つけた、になった。
「あと、母上がお目通りを願っているのだが、いいだろうか」
「……あ、そっか。犯人捕まったから、もう良いんだ?そうだね、私もお会いしたいな」
「わかった。詳細は追って伝えるよ」
“王妃の体がきちんと動かせるようになるのと、犯人逮捕までは臥していることにする”ということになっているため、今まで会えなかった。王妃はもう、剣を振り回せるくらい回復しており、何も問題ないとのことで。詳細はシリウス経由で伝えてくれるらしい。
八つ目、報酬の件
「と言ってもね。正直、女神に報酬ってどうかなとも思うんだよ。いつものように上から目線で、これをやろう、なんてできるわけないし」
「う、うん?」
「まあ、だから、勝手に品を献上しようか、と言う話が出ていてね」
うん?と瑞姫は首をかしげる。勝手に品を献上とは?……少し、嫌な予感がしてきた。
「私は提案したんだ。――――ミズキの像を造ればいいと」
「却下」
瑞姫は、ものすごく嫌そうな顔を全力でして、シリウスの言葉に食い気味で答える。ぶはっ、と吹き出して笑い始めたのは、それまで沈黙を貫いていたライハルトだ。
「ほらぁ!やっぱり嫌がるっていったじゃーん!」
「くっ。やはり駄目だったか」
やはり、ということは拒否されるのは想定内だったようだが、何故そんなにも悔しそうなのか。セイランとガラルドは、表情こそ変わらないが、シリウスに向ける視線は心なしか冷たいような気がする。
「ご安心ください。陛下はご賛同なされましたが、王妃様が反対なされました。それでも食い下がる方がこちらにおられますので、ミズキ様がお断りなさったら諦める、と約束が交わされました」
「絶対、嫌」
「殿下、諦めなさいませ」
「――――仕方がない、諦める」
セイランが安心させるように瑞姫にそう言ったので、瑞姫はもう一度反対の言葉を口に出した。そう残念そうにされても、嫌な物は嫌だ。というか、何故献上品が像を造る事になるのだろうか。
「んじゃあさー、女神様って、逆に何か欲しいとかあります?」
笑いをガラルドの拳骨によって強制的に止まらせられたライハルトは、頭をさすりながら瑞姫に聞いた。その言葉に瑞姫はぐるぐる、と思考を巡らせる。正直、欲しいものなど今言えと言われても思いつかない。
「ミズキ様」
「うん、なあに?欲しいものでもあった?」
「私は欲しいものはないので結構です。いえ、そうではなく。布はどうですか?」
「……あー!それだ!フォリア覚えてたの偉い!」
まだフォリアと主従契約を結ぶ前に、戦闘服に切り替えようかな、という話をしたことがあった。それをフォリアは律義に覚えていたようだ。さすが従者である。
「あのね、布が欲しい!」
「え、布?服じゃなくてかい?」
「服は自分でつくるよ!できれば、フォリアの服に使われてるミルシドークがいいんだけどっ」
亜人族の大陸で主流の高級素材だ。品質は絹に近いのだが、デメリット(変色する、洗濯しにくい、虫に食われやすいなど)はない。逆に、魔法付与ができて防御に優れたものを作れるため、メリットしかない素材である。ミルシドークとは魔物の名前だ。餌を与えておけば勝手に糸を吐き出してくれるし、育てやすいので養殖されている。デメリットは大量繁殖するので、間引きが大変なところ。しかし、これはアドニス大陸には出回らない。
「アドニス大陸じゃ手に入れにくいから、これはクロンダイク大陸に調達しにいくしかないか、と思ったんだけど!」
「ワー、コノ女神様ホント行動力アルナー」
理由は、ミルシドークがクロンダイク大陸にしか生息しておらず、養殖もそこでしか行っていないためだ。逆に、クロンダイク大陸に出回らないのが、アドニス大陸で主流の高級素材テーンサフタ。これも魔物の名前である。アドニス大陸にしか生息しておらず、養殖もそこでしか行っていない魔物だ。品質がサテンに近いテーンサフタは、ミルシドークに比べて少し重い。瑞姫は戦闘向けで、なおかつ軽い素材が欲しかったのだ。フォリアの薦めでもある。
いつになくテンション高めな瑞姫の勢いに、ライハルトが少し引いたように片言で呟く。その横にいるセイランやガラルドは、同意するよう小さく頷いた。
「わかったよ。父上にはそう伝えておくよ」
「わーい、よろしくね」
嬉しそうに笑う瑞姫に、シリウスはひょい、と肩をすくめた。
「ミズキが関係していた件の報告は以上だよ。少し多かったかな」
「うん、情報過多だったと思うよ……」
「まあ、明日公表するものもあるから、それを聞いた後に質問があれば答える、という形でいいかな」
明日、公表されるものは、一連の件とは関係ないものもあるらしい。正直、今のでお腹いっぱいなので、明日に回してくれるのはありがたかった。あとは、皆で軽い雑談をして解散。
――――そして、翌日。
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