自由な女神様!~種族人族、職業女神が首を突っ込んだり巻き込まれたりの物語。脇に聖女を添えて~

時雨

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番外編

フォリア・エヴィル(本編37~45話)8

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 朝は鼻歌でも歌えそうなくらいによかった機嫌が、今はどん底に落ちているフォリアがいた。原因は、ソラーレ食堂で会った(フォリアにとっては再会)男、アラン・ウェルナイトの存在である。ウェルナイトでわかるかと思うが、宰相レスニア・ウェルナイトの息子で四男だ。そして、フォリアの幼馴染みでもある。

(折角、ミズキ様と二人で出かけられると思っていたのに……っ)

 しかし、そんな苛立ちもギルドに行けばぴゅっ、と突風に吹き飛ばされた。ミニ追放劇から始まり、流れで男の呪いを解呪。それから、冒険者ギルド、副ギルドマスターのエイバン・フォレステインを加えて北の森へ急行。
 現在、女神が鼻歌を歌いながらアンデッドをばっさばっさと切り捨てていくところを、後ろから見ているところだ。

(いや、本当にすごいな?……こうもアンデッドをあっさり一撃で片付けることができる方は、見たことがない)

「いや、女神様すげぇな?……爽快感はすげぇあるけど」
「ちょっと、私、初めてアンデッドに同情したわ」

 フォリアも、アランとエイバンの言葉には同意する。二人は気づいていないようだが、フォリアは気づいた。女神が力を使う一瞬、手元や刀の刃が煌めく事に。だからこそ、女神が使う異能が宝石ではないか、と思った。言われてないので、推測ではあるが間違いではないだろう。

(呪いの気配に近いと仰っていたから、恐らく浄化作用のある宝石、ということか。……まあ、女神様だからな。もはや何でもありではないかと思えてしまうが……。楽しそうで何よりでは)

 次々と湧き出てくるアンデッドの魔物が、女神一人によって屠られていく。危なくなったら手を出そうと思ったフォリアだが、そんな必要どこにもなく、アラン達とともに魔石回収しながらついていくだけだ。

「これ、アレだな。二つ名、アンデッド・スレイヤーになりそうだな」
「曲がりなりにも女神様よ?それは少し、かわいくないわね。わかるけれど」
「……あまり肩書にこだわる方ではないので、広めても問題はないと思いますが」

(というか、かわいいとか、かわいくないとかの問題ではないのでは?……ミズキ様なら、笑って受け入れそうなものだが)

 そんな女神についていけば、何か発見したようで立ち止まる。何かある、としーっ、と唇に人差し指を当てながら小声で言う女神に、きゅんとしたのはフォリアだけだ。全くもって緊張感がない。そんな女神が見つけたのは、朽ちた小屋。木の陰から様子をうかがう。人なんか住めなさそうだが、人の気配がある。それに、呪いの気配も感じ取れた。本当に女神が憶測を立てたように、ナイトメアの残党がいるというのか。
 ある程度のところまで近寄り、また木の陰に隠れる。小屋の全体が見えるギリギリの位置で観察していれば、小屋を囲うような一定間隔をもって、地面に描かれている魔法陣に気がついた。フォリアがそれに気づくのだから、当然女神とて気づくわけで。

(おかしい。罠というのなら、隠蔽されて見えないはずだが……)

 難しい顔をしていれば、女神は見えるといい、アランやエイバンは見えないと首を振る。女神が言う魔力感知では、仕掛けてある魔法陣は見えない。エイバンの言うよう、魔力は感知できるが隠蔽された物が見える事はないのだ。正直、女神なら見えてもおかしくないと少し思うフォリアである。

(隠蔽、か。……もしや、これは、真偽鑑別スキルが関係している、か?)

 見えるはずのものを見えないそこにあるのにないと嘘を言っている、という意味に捉えれば、見えるのではないか、という強引にこじつけたものだ。本来ならば、隠蔽されているものも見えないはずで。でも、その可能性が高い。女神に進言すれば、なるほど、と考え込まれた。

「しっ」

「――――ッ!」

 小屋から聞こえた声が、空気を震わす。

「言い争いですね。……所々しか聞こえないのですが。しかし、この殺気は……」
「あぁ、強いな」

 フォリアは一生懸命声を聞き取ろうとするが、うまくこちらに風が流れてこずあまり聞こえない。言い争っているのはわかる。じ、と様子をうかがっていれば、殺気が膨れ上がりそして――――

「ぎゃぁぁあああ!」

 断末魔と共に、男が血飛沫を上げながら扉を巻き込んで飛ばされてきて、全員が息をのむ。そのまま地面に叩きつけられた男は、何回かバウンドし動かなくなった。事切れているのがわかる。そこからは、胸くそ悪い展開が続き、全員が顔をしかめた。そして、最初に我慢ならなくなったのは意外にも女神で。
 元々、ここら辺は薄暗く気温が低いが、女神から漂う冷ややかな空気でさらに温度が低くなる。顔を伏せているのでその表情は見えないが、フォリアだけは、女神から流れてくる感情が怒りである事がわかった。

(これほどまでに、強い怒りの感情を感じ取れた事はないな……。だが、怒りを感じはするが、ミズキ様からは殺気だった空気は感じ取れない……。押さえ込んでいる、という事か……)

「殺さない程度にやる」

 耳元でぼそりと呟かれた物騒な言葉に返事をする暇もなく、女神はすでに行動開始していた。アランやエイバンが驚いているのが見えたが、構っている暇はなく。女神の気配を追うと、小屋の上空にいた。

(速い……っ!)

 女神が右手を水平に動かすと、水の塊が作られる。上げた腕を勢いよく振り下ろすと、その水は地面を抉る威力を持って降り注いだ。その衝撃により砂埃も舞って、フォリアたちも様子が見えなくなる。しかし、混乱している声は聞こえてきた。次いで、打撃音と潰れたような声と気に重たい物がぶつかった音が立て続けに聞こえてくる。それからすぐに、砂埃は相手の風魔法によって払われた。もう、そこからは一瞬で。アランやフォリアが手を出したのは、最後の最後。ほんの少し。

(しかし、お強い。不意を突いたとはいえ、相手は暗殺者。……これは、ミズキ様が強すぎたのか、それとも相手が弱すぎたのか……。まあ、どちらでもよい。凜々しいお姿を拝見できただけでも……っ)

 それから、リカルド率いる騎士団と解呪した男(実はノヴェアン王国第六王子殿下)が現われたり、呪いの気配が強い朽ちた小屋内を調査したり、と少し慌ただしい時間が過ぎ、夕食もとって落ち着いた頃。
 見張りを省き、就寝の準備をしていれば女神の姿が見えず、魔力を辿れば小屋の裏に移動していた。追ってフォリアも裏へ行けば、女神は大きめの石に腰掛けて空を見上げている。とは言っても、星すら見えないほどの暗闇だ。ざっ、と足音を立ててしまい、声をかける前に振り向かれる。ランプの明かりが女神を照らし、宝石のような瞳が光に反射して煌めいた。

「ミズキ様、お風邪を召されますよ。それと……お眠りには?」
「大丈夫。……うーん、たぶん、人が多すぎて寝られないと思うから……」

(あぁ、知らない気配が多いという事か……。まあ、わからなくもないが)

 魔力判別スキルは、意識しないと発動しないので、それは今切っているはずだ。それでも多いと感じるのは、人の気配だろう。それは、フォリアもよくわかる。
 ところで、とフォリアは話題を変えた。追いかけてきたのは今のことを言うのもそうなのだが、別件もあってのことで。夕食を作っているときに、いやに感情の起伏があったから、それをずっと聞きたかったのだ。まさか、第六の女性たちに何か言われたのか?と思い聞いてみたが、別に嫌みを言われたとかそういうわけではないらしい。だが、当たらずと雖も遠からず、というところか。女神は少しだけ気持ちが沈んでいるのがわかる。

「んー……なんっていうか、フォリアは私以外の誰かの隣に立つのかなと」
「あり得ませんが」

(しまった。あんまりな言葉に食い気味に答えてしまった。……しかし、何故そうなるのか。……以前、本心を語ったはずなのだが)

 フォリアの機嫌は少しだけ悪くなった。お披露目の時にも言ったはず。あの時は、女神はフォリアの真意に気づかず、恐らく従者としての台詞だと、さらっと流されたあの言葉。あれは、言葉通りそのままの意味でとってもらって良かったのだが。ただ、女神の気持ちは浮上したらしい。

(これを機に、もう少し強めに言っても良いかもしれないな)

 フォリアはすぐに行動に移した。

「お披露目の時にもお伝えしましたが、私は、ミズキ様一筋です……。この際なので、しっかり伝えさせていただきます」

 そう言って、フォリアは女神の前に片膝をつき、膝の上に置かれている手をとった。フォリアの瞳が、ランプの明かりで煌めいている女神の瞳とぶつかる。

「私はあなたと出会えたことを、運命とさえ思いました」

(主従契約で誓った言葉も、お披露目の時に言った言葉も、嘘偽りはない。身も心も、全てを捧げると誓ったのは、ミズキ様にだけだ。その俺の隣に、他の誰か?……とんでもない。ミズキ様は、まだまだ、主従契約を結んだ従者の独占欲をなめていらっしゃるな)

 そう思いながら、言葉を紡いでいく。女神から目をそらさず、思いの丈をぶつけた。

「ですので、他の誰かが何を言おうが、言われようが、手を離すことだけは、しません。絶対に、です」

 そう言い切ったフォリアは瞳を下に動かし、女神の白魚のような手を口元まで持ってきて、その指先にそっと口づける。聞こえるようにリップ音までつけて。そして、また女神の顔を見上げるように瞳を動かせば、うっすらと頬が色づいていた。気恥ずかしさも感じているらしい。フォリアの口元は、自然に弧を描いていた。

「ですので、ミズキ様」
「っ、は、はい」
「二度と、えぇ、二度と。そのようなことは口になさらないように、お願いします、ね?」
「!?は、ハイッ!」

 何故そこで敬語になり、さっと顔が青くなるのか。どこか怯えた感じも伝わってきて内心首を傾げたが、フォリアは言葉を続けた。まさか、ランプが良い感じにフォリアの顔を照らして影を作っていたとは知るよしもなく。女神は、ひぇっ、と肩を揺らして返事をした。フォリアは立ち上がり、女神を小屋の表の方へ誘うが、その大きすぎる肩書に気を遣って戻る気はないようで。

(人が多いところで眠れないのは、周りを信用しておらず、安心できないからだ。……以前、一徹した事はあるが、あれは仕事の意味合いが強かったからな。“影”もいないここでは、駄目か)

 小さく息をつくと、女神の体を抱き上げる。そのまま蛇化し大蛇になると、女神を中心に絡みつくようにとぐろを巻いた。

(できれば、屋内で横になっていただきたいが、それは無理そうだ。……なら、致し方ないが、これで我慢して……、あぁ、そうだった。ミズキ様は、興奮される方だった。……失敗だったか?)

 頭を女神の膝の上に落ち着かせたが、内心首を傾げる。喜び、嬉しさ、驚きが混ぜこぜになった感じが伝わってきたので、興奮しているらしい。ちらりと女神の顔を仰ぎ見れば、手で口元を押さえてはいるが、瞳は色々な意味で煌めいていた。自分を押さえ込んでいるのがわかる。

(逆効果だったか。……まあ、そのうち落ち着かれるだろう。……あぁ、あと、そうだ)

 気配は消しているが、フォリアの耳には小さな声が先ほどから届いている。こちらをのぞき見ている四人を睨み付けた。すぐさま頭が引っ込んだ後、すぐ表に戻った気配がしたのでフォリアは内心ため息を吐き、女神と二人っきりの空間を堪能するのだった。
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