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本編
51.女神イシスと
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イシス神殿。この国が信仰する、女神イシスを祀る神殿だ。強力な魔術師的存在としてその名が広まっており、魔術の女神と呼ばれている。元の世界では豊穣の女神としての側面もあるが、こちらはないようだ。
王都から馬で一時間走らせた所に、イシス湖という湖がある。まるで空の色を落とし込んだかのような、青く澄んだ湖だ。湖畔にはたくさんの花が咲き乱れおり、白い石柱が所々に建っている。時折吹く風に乗って、花の香りが鼻腔をくすぐった。湖にはぽつりぽつりと石灯籠が建っていて、夜になると勝手に灯りがつき、昼間とはまた違った幻想的な風景を見せてくれる。その湖の中心に、ぽつんと浮かんでいる小島がある。そこに、神殿が建っていた。白い列柱に囲まれた神殿は円形で、ドーム型の屋根をしている。
小島まで架けられている橋を渡り終え、二本の柱の間を通った瞬間、空気ががらりと変わったのが肌で感じ取れた。元の世界でも神社や寺に入ったときに感じたことのある、荘厳で神聖な空気。瑞姫の背筋が、無意識のうちに伸びた。それはフォリアも同じらしい。
「っ。……空気が」
「神域だね。あの柱、鳥居の役目かー」
二本の柱は、神域への門なのだ。そして、多種族が住む俗界と神域を隔てる結界の役目もある。そのため、ここには魔物は出ない。
瑞姫たちを出迎え、さらに案内をしてくれたのは、二人の男女。一人は大司教のセルマ。白髪で瞳は抹茶色。齢七十を超える好々爺然とした風貌だ。
もう一人は巫女のアルミラ。髪はミルクティー色のセミロングで、瞳も同じ色。二十代前半の柔らかな雰囲気を纏った女性だ。
まさか、巫女直々にと思ったが、神殿とはそういう所だったことを思い出す。巫女は国王陛下と同等な立場であった。
神殿の在り方は元の世界と同じく、神を祀る神聖な場所であり、主に祭事を行う場所。誰でも入れる教会とは違い、信者はもちろんのこと、一部の聖職者以外立ち入り厳禁な場所である。
「こちらになります。終わりましたら、またお声がけくださいまし」
「ありがとうございます」
すすす、と足音を立てず、アルミラは部屋を出て行った。
(いやー、凄い子だったな……。まさか、あんなに興奮されるとは)
瑞姫は、神殿前に到着したときのことを思い出していた。
頭を下げて待っていたので、普通に上げるよう声をかけたのだ。姿勢を正したセルマは、柔らかな笑みを浮かべている。対して、アルミラは顔を真っ赤にし、感激したように目を潤ませ、両手は胸元で力強く握られていた。ずいぶんと興奮した様子に、瑞姫は顔が引き攣りそうになる。
「これ、アルミラ様」
「はっ!……も、申し訳ありません!わ、わわ、わた、わたくし、わたくし!」
「落ち着きなされ。申し訳ありませんなぁ。アルミラ様は、黒色フェチでしてな。……お披露目パーティーでは、懸命に抑えておられたのですじゃ」
「はぁぅ……っ!もう、本当に、素晴らしく麗しい見事な御髪……っ」
フェチと聞き、瑞姫は目を瞠った。確かに、お披露目パーティーに二人は来ていたし、挨拶も交わしたのを覚えている。その時も、アルミラの頬は紅潮していたが、気品ある物腰だった。どうやら、その時は暴走する自分を懸命に押さえ込んでいただけらしい。黒色フェチというだけあり、黒色を見ると興奮する。その時、言葉がおかしくなるのは、セルマ曰く通常運転だそうだ。
その後も、アルミラが鼻血を出しかけたり気絶しかけたりとなんやかんや騒がしかったが、ようやく落ち着いて。大理石で造られた神殿内を案内してもらう。と言っても、奥に一室しかないのだが。それでは何故二人は来たかと言えば、この神殿、玄関の扉に施してある術式により、巫女しか開けられない仕組みになっているのだ。それならば巫女だけでいいのではと思うだろうが、セルマはお目付役。もっと細かく言えば、瑞姫の黒髪黒目を見て暴走するだろうから諫める役、である。
そして今。案内された部屋を見回した。壁一面に、ヒエログリフのようなレリーフが彫られている。
「ミズキ様、あの像が、女神イシス様でございます」
「あれが……」
入り口からまっすぐ十歩ほど進んだところに、女神像は建っていた。二メルンはあるだろうか。頭にはティアラが飾られていて、耳の上あたりに牛の角が左右に一本ずつ生えている。腰まである髪は、柔らかなウェーブを描いていた。首にはチョーカー、マーメイドラインのドレス。右手には、先端が土星のような形になっている、女神像より少しだけ低いロッドが握られていた。
「よし。応えてくれるかはわからないけど、ちょっといってくるね」
「はい。私はここでお待ちしております」
フォリアは、入り口付近で見守る体勢をとる。瑞姫は女神像の前までまっすぐ進み、その前に置いてある長方形のクッションに両膝をついた。深緑色の生地に金糸で見事な刺繍が施された、ふっかふかなものである。
(ていうか、神様にどうコンタクトとればいいのかな?とりあえず、呼びかけてみるかな……)
目を閉じ、両手を胸の前で組んで、頭から余計な雑念を払う。心の中でイシス様と呼びかけた瞬間、ふ、と意識が闇に落ち――
《やっと来たわね》
「!」
鈴を転がすような声が脳に響き、瑞姫ははっ、と意識を取り戻した。目を開ければ、目の前の女神像がうっすらと輝いている。
《初めまして、ね?見てわかる通り、私はイシス。ようこそ、異界の神二柱の魂の欠片を持つ人の子》
「……は、はじめ、まして……?」
(まさか、応えてくれるとは……)
《もちろん、応えますとも。あのサラスちゃんが、珍しく加護をつけた子ですもの。それに、神の魂の欠片を持つ人の子なんて、初めてだわ》
心の中で呟いた声に、イシスは普通に返してきた。驚きで目を瞬かせる瑞姫だが、まあ、神だからね、とあっさり納得させる。
イシスが“あのサラスちゃんが”と驚いた理由は、こちらのサラスバティーはものすごく臆病で、人に加護を与えることが滅多にないから、のようだ。
《うふふ。っと、そうだったわ。こちらに降りてこられるのは限られた時間だけなのよ。あなたの疑問に答えるわね》
「あ、はい。えぇと」
どうやら、何故瑞姫たちがここに来たか、イシスにはお見通しのようで。雑談もそこそこに、すぐさま本題に入る。
「この世界に来て、私の異能がとても強くなっているんですけど、加護があるからですか?」
《えぇ、もちろん。本当はそこまで強く出るものではないのだけれど、あなたとサラスちゃん、相性抜群だから》
「魂の欠片……」
《そ。まあ、欠片と言っても、ほんの一滴よ?決して、あなたの魂を染め上げるほど大きいものではないわ》
だからこそ、人族のままなのだ。それでも、ドライアドが言っていた通り、存在するだけで世界が安定する。瘴気こそ浄化できないが、それが沸くことはある程度抑えられるのだ。抑えられると言っても、沸くのがゆっくりになり、大きくなるのも遅くなると言うだけではあるが。
「加護の付与ができるんですけど、そういうスキルがあるんですか?あと、思ったことがつくんですか?」
《そうね。あなたには、サラスバティーの加護という称号があって、その影響で加護付与というスキルがあるわ。思ったことではなくて、必要なのは心の底から祈ることよ》
「称号……?肩書みたいなものですか?……あー、祈りかぁ」
《称号そのものに力はないわ。本当に肩書よ。ただ、称号に相応しいスキルがつくのよ。ついでに、あなたにある称号とスキルを教えてあげるわ》
「助かります」
称号:二柱の魂の欠片を持つ者、サラスバティーの加護、水のエキスパート、宝石のエキスパート、水の精霊、水の怪物、自由な女神様、アンデッド・スレイヤー。
スキル:言語理解、宝石箱、水の申し子、状態異常無効、火魔法耐性、魔力感知、真偽鑑別、加護付与。
これは元の世界からのもあるらしく、人としては多い方らしい。二つ名が称号になることもある。
称号の最初の二つ、最後の四つはいいとして、水と宝石のエキスパートは、知識や力の扱い方などが特化しているという意味。
スキルの言語理解はこの世界の言葉を理解し、読み書きができる。宝石箱は、宝石の異能のことで、創造・加工・強化等、解呪もここに入る。水の申し子は、水の異能のことで、水関係全般のスキルの総称だ。水魔法無効、水魔法吸収など他にもある。状態異常無効は呪い無効も含む。火魔法耐性は名前そのまま、怪我は負うが軽減される。魔力感知、真偽鑑別は前説明したとおり。加護付与も、今説明されたとおりだ。
「ウルカグアリー?……聞いたことない名前の神様」
《金属と宝石、地下資源を司る神よ。だけれど、この世界には存在しないわ》
説明されても、さっぱりだ。そもそも、神話に精通しているわけじゃないので、そうなんだ、しか感想がでてこない。ただ、宝石の異能がどの神から授かったかわかっただけである。この世界にはいないそうなので、心に留めておくだけでいいだろう。
《さ、あとは?》
「あ、えと、どうして私が喚ばれたんですか?」
《たまたまよ》
「たまたま……」
《今回の聖女って、歴代の聖人よりほんの少しだけ力が弱いのよね。それを補う人が必要だったの。あの時、あの場所に、あなたと聖女が近くにいて、魔法陣の召喚条件に当てはまったからよ》
「他の人では駄目だった、と」
《そうよ》
世界は違えど、場所は同じだった。その召喚条件は教えてもらえなかったが、偶然が重なり、条件が当てはまったから、だったようだ。
《神々がこの世界に降り立っても良いけれど、それだと影響が強すぎて逆に駄目になるわ。あなたくらいが丁度いいのよ。周りに影響は与えないけれど、世界にほんの少し影響がある。いい方向にね。だから、あなたは世界に立っているのが役目よ》
「な、なるほど」
《あ、そうそう。これは謝らなければいけないのだけれど》
「なんですか?」
《えぇ、あのね。――――》
イシスは時間になったらしく《何かあったらまたいらっしゃい。あなたの声には応えるわ。それじゃ》と、返事も聞かずに消えてしまった。動揺を露わにする瑞姫を、置いたまま。
――――天界
「よろしかったのですか?あのことを言わなくて」
様々な花が咲き乱れる池の畔。そこに立って下界を覗いていたイシスの後ろから、別の女神が声をかける。
「あのこと?」
「わかっておいででしょうに。彼女たちの精神の話しですよ。元の世界に対しての思いが薄れ、不安や恐怖などの負の感情が軽減される、と」
「ふふ、いいのよ。伝えたところで、どうにかなるようなものじゃないわ」
「まあ、それはそうですけど」
薄れるだけで、彼女たちの中から完全に消えるわけじゃない。ただ、元の世界に帰りたいと思わなくなるだけだ。そういう風に、瑞姫たちの精神をいじった。帰れないと絶望して命を投げ出さないようにする為。負の感情が軽減されるのも、簡単に壊れてしまわないようにする為。彼女たちにはわからないよう、少しだけ。精神に負担をかけ過ぎないようにする意味もある。人間はもろいから。
瑞姫が早々に気持ちの整理ができたのは、楽天的思考かつ大雑把な性格もあるが、これもあったからだ。ゆりあが一晩で立ち直ったのも、そう。
「まあ、精神をいじらなくても、欠片を持つ子は折り合いをつけられたでしょうけど、聖女は潰れるわね」
「そうですね。やっと強くなってきた、といったところでしょうか」
「あとは、見守るだけよ」
「今までと同じく、ですね」
「そうね」
ふっ、と笑ったイシスは、女神とともにその場から消えたのだった。
王都から馬で一時間走らせた所に、イシス湖という湖がある。まるで空の色を落とし込んだかのような、青く澄んだ湖だ。湖畔にはたくさんの花が咲き乱れおり、白い石柱が所々に建っている。時折吹く風に乗って、花の香りが鼻腔をくすぐった。湖にはぽつりぽつりと石灯籠が建っていて、夜になると勝手に灯りがつき、昼間とはまた違った幻想的な風景を見せてくれる。その湖の中心に、ぽつんと浮かんでいる小島がある。そこに、神殿が建っていた。白い列柱に囲まれた神殿は円形で、ドーム型の屋根をしている。
小島まで架けられている橋を渡り終え、二本の柱の間を通った瞬間、空気ががらりと変わったのが肌で感じ取れた。元の世界でも神社や寺に入ったときに感じたことのある、荘厳で神聖な空気。瑞姫の背筋が、無意識のうちに伸びた。それはフォリアも同じらしい。
「っ。……空気が」
「神域だね。あの柱、鳥居の役目かー」
二本の柱は、神域への門なのだ。そして、多種族が住む俗界と神域を隔てる結界の役目もある。そのため、ここには魔物は出ない。
瑞姫たちを出迎え、さらに案内をしてくれたのは、二人の男女。一人は大司教のセルマ。白髪で瞳は抹茶色。齢七十を超える好々爺然とした風貌だ。
もう一人は巫女のアルミラ。髪はミルクティー色のセミロングで、瞳も同じ色。二十代前半の柔らかな雰囲気を纏った女性だ。
まさか、巫女直々にと思ったが、神殿とはそういう所だったことを思い出す。巫女は国王陛下と同等な立場であった。
神殿の在り方は元の世界と同じく、神を祀る神聖な場所であり、主に祭事を行う場所。誰でも入れる教会とは違い、信者はもちろんのこと、一部の聖職者以外立ち入り厳禁な場所である。
「こちらになります。終わりましたら、またお声がけくださいまし」
「ありがとうございます」
すすす、と足音を立てず、アルミラは部屋を出て行った。
(いやー、凄い子だったな……。まさか、あんなに興奮されるとは)
瑞姫は、神殿前に到着したときのことを思い出していた。
頭を下げて待っていたので、普通に上げるよう声をかけたのだ。姿勢を正したセルマは、柔らかな笑みを浮かべている。対して、アルミラは顔を真っ赤にし、感激したように目を潤ませ、両手は胸元で力強く握られていた。ずいぶんと興奮した様子に、瑞姫は顔が引き攣りそうになる。
「これ、アルミラ様」
「はっ!……も、申し訳ありません!わ、わわ、わた、わたくし、わたくし!」
「落ち着きなされ。申し訳ありませんなぁ。アルミラ様は、黒色フェチでしてな。……お披露目パーティーでは、懸命に抑えておられたのですじゃ」
「はぁぅ……っ!もう、本当に、素晴らしく麗しい見事な御髪……っ」
フェチと聞き、瑞姫は目を瞠った。確かに、お披露目パーティーに二人は来ていたし、挨拶も交わしたのを覚えている。その時も、アルミラの頬は紅潮していたが、気品ある物腰だった。どうやら、その時は暴走する自分を懸命に押さえ込んでいただけらしい。黒色フェチというだけあり、黒色を見ると興奮する。その時、言葉がおかしくなるのは、セルマ曰く通常運転だそうだ。
その後も、アルミラが鼻血を出しかけたり気絶しかけたりとなんやかんや騒がしかったが、ようやく落ち着いて。大理石で造られた神殿内を案内してもらう。と言っても、奥に一室しかないのだが。それでは何故二人は来たかと言えば、この神殿、玄関の扉に施してある術式により、巫女しか開けられない仕組みになっているのだ。それならば巫女だけでいいのではと思うだろうが、セルマはお目付役。もっと細かく言えば、瑞姫の黒髪黒目を見て暴走するだろうから諫める役、である。
そして今。案内された部屋を見回した。壁一面に、ヒエログリフのようなレリーフが彫られている。
「ミズキ様、あの像が、女神イシス様でございます」
「あれが……」
入り口からまっすぐ十歩ほど進んだところに、女神像は建っていた。二メルンはあるだろうか。頭にはティアラが飾られていて、耳の上あたりに牛の角が左右に一本ずつ生えている。腰まである髪は、柔らかなウェーブを描いていた。首にはチョーカー、マーメイドラインのドレス。右手には、先端が土星のような形になっている、女神像より少しだけ低いロッドが握られていた。
「よし。応えてくれるかはわからないけど、ちょっといってくるね」
「はい。私はここでお待ちしております」
フォリアは、入り口付近で見守る体勢をとる。瑞姫は女神像の前までまっすぐ進み、その前に置いてある長方形のクッションに両膝をついた。深緑色の生地に金糸で見事な刺繍が施された、ふっかふかなものである。
(ていうか、神様にどうコンタクトとればいいのかな?とりあえず、呼びかけてみるかな……)
目を閉じ、両手を胸の前で組んで、頭から余計な雑念を払う。心の中でイシス様と呼びかけた瞬間、ふ、と意識が闇に落ち――
《やっと来たわね》
「!」
鈴を転がすような声が脳に響き、瑞姫ははっ、と意識を取り戻した。目を開ければ、目の前の女神像がうっすらと輝いている。
《初めまして、ね?見てわかる通り、私はイシス。ようこそ、異界の神二柱の魂の欠片を持つ人の子》
「……は、はじめ、まして……?」
(まさか、応えてくれるとは……)
《もちろん、応えますとも。あのサラスちゃんが、珍しく加護をつけた子ですもの。それに、神の魂の欠片を持つ人の子なんて、初めてだわ》
心の中で呟いた声に、イシスは普通に返してきた。驚きで目を瞬かせる瑞姫だが、まあ、神だからね、とあっさり納得させる。
イシスが“あのサラスちゃんが”と驚いた理由は、こちらのサラスバティーはものすごく臆病で、人に加護を与えることが滅多にないから、のようだ。
《うふふ。っと、そうだったわ。こちらに降りてこられるのは限られた時間だけなのよ。あなたの疑問に答えるわね》
「あ、はい。えぇと」
どうやら、何故瑞姫たちがここに来たか、イシスにはお見通しのようで。雑談もそこそこに、すぐさま本題に入る。
「この世界に来て、私の異能がとても強くなっているんですけど、加護があるからですか?」
《えぇ、もちろん。本当はそこまで強く出るものではないのだけれど、あなたとサラスちゃん、相性抜群だから》
「魂の欠片……」
《そ。まあ、欠片と言っても、ほんの一滴よ?決して、あなたの魂を染め上げるほど大きいものではないわ》
だからこそ、人族のままなのだ。それでも、ドライアドが言っていた通り、存在するだけで世界が安定する。瘴気こそ浄化できないが、それが沸くことはある程度抑えられるのだ。抑えられると言っても、沸くのがゆっくりになり、大きくなるのも遅くなると言うだけではあるが。
「加護の付与ができるんですけど、そういうスキルがあるんですか?あと、思ったことがつくんですか?」
《そうね。あなたには、サラスバティーの加護という称号があって、その影響で加護付与というスキルがあるわ。思ったことではなくて、必要なのは心の底から祈ることよ》
「称号……?肩書みたいなものですか?……あー、祈りかぁ」
《称号そのものに力はないわ。本当に肩書よ。ただ、称号に相応しいスキルがつくのよ。ついでに、あなたにある称号とスキルを教えてあげるわ》
「助かります」
称号:二柱の魂の欠片を持つ者、サラスバティーの加護、水のエキスパート、宝石のエキスパート、水の精霊、水の怪物、自由な女神様、アンデッド・スレイヤー。
スキル:言語理解、宝石箱、水の申し子、状態異常無効、火魔法耐性、魔力感知、真偽鑑別、加護付与。
これは元の世界からのもあるらしく、人としては多い方らしい。二つ名が称号になることもある。
称号の最初の二つ、最後の四つはいいとして、水と宝石のエキスパートは、知識や力の扱い方などが特化しているという意味。
スキルの言語理解はこの世界の言葉を理解し、読み書きができる。宝石箱は、宝石の異能のことで、創造・加工・強化等、解呪もここに入る。水の申し子は、水の異能のことで、水関係全般のスキルの総称だ。水魔法無効、水魔法吸収など他にもある。状態異常無効は呪い無効も含む。火魔法耐性は名前そのまま、怪我は負うが軽減される。魔力感知、真偽鑑別は前説明したとおり。加護付与も、今説明されたとおりだ。
「ウルカグアリー?……聞いたことない名前の神様」
《金属と宝石、地下資源を司る神よ。だけれど、この世界には存在しないわ》
説明されても、さっぱりだ。そもそも、神話に精通しているわけじゃないので、そうなんだ、しか感想がでてこない。ただ、宝石の異能がどの神から授かったかわかっただけである。この世界にはいないそうなので、心に留めておくだけでいいだろう。
《さ、あとは?》
「あ、えと、どうして私が喚ばれたんですか?」
《たまたまよ》
「たまたま……」
《今回の聖女って、歴代の聖人よりほんの少しだけ力が弱いのよね。それを補う人が必要だったの。あの時、あの場所に、あなたと聖女が近くにいて、魔法陣の召喚条件に当てはまったからよ》
「他の人では駄目だった、と」
《そうよ》
世界は違えど、場所は同じだった。その召喚条件は教えてもらえなかったが、偶然が重なり、条件が当てはまったから、だったようだ。
《神々がこの世界に降り立っても良いけれど、それだと影響が強すぎて逆に駄目になるわ。あなたくらいが丁度いいのよ。周りに影響は与えないけれど、世界にほんの少し影響がある。いい方向にね。だから、あなたは世界に立っているのが役目よ》
「な、なるほど」
《あ、そうそう。これは謝らなければいけないのだけれど》
「なんですか?」
《えぇ、あのね。――――》
イシスは時間になったらしく《何かあったらまたいらっしゃい。あなたの声には応えるわ。それじゃ》と、返事も聞かずに消えてしまった。動揺を露わにする瑞姫を、置いたまま。
――――天界
「よろしかったのですか?あのことを言わなくて」
様々な花が咲き乱れる池の畔。そこに立って下界を覗いていたイシスの後ろから、別の女神が声をかける。
「あのこと?」
「わかっておいででしょうに。彼女たちの精神の話しですよ。元の世界に対しての思いが薄れ、不安や恐怖などの負の感情が軽減される、と」
「ふふ、いいのよ。伝えたところで、どうにかなるようなものじゃないわ」
「まあ、それはそうですけど」
薄れるだけで、彼女たちの中から完全に消えるわけじゃない。ただ、元の世界に帰りたいと思わなくなるだけだ。そういう風に、瑞姫たちの精神をいじった。帰れないと絶望して命を投げ出さないようにする為。負の感情が軽減されるのも、簡単に壊れてしまわないようにする為。彼女たちにはわからないよう、少しだけ。精神に負担をかけ過ぎないようにする意味もある。人間はもろいから。
瑞姫が早々に気持ちの整理ができたのは、楽天的思考かつ大雑把な性格もあるが、これもあったからだ。ゆりあが一晩で立ち直ったのも、そう。
「まあ、精神をいじらなくても、欠片を持つ子は折り合いをつけられたでしょうけど、聖女は潰れるわね」
「そうですね。やっと強くなってきた、といったところでしょうか」
「あとは、見守るだけよ」
「今までと同じく、ですね」
「そうね」
ふっ、と笑ったイシスは、女神とともにその場から消えたのだった。
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本編「35」まで拝読しました! 面白くて、一気に読んでしまいました~。
瑞姫は、めちゃくちゃカッコイイですね! フォリアとの関係にも、ニヨニヨしちゃいます。
ゆりあは、そこまで悪い子じゃ無さそうなんだけど、いろいろと心配ですね。続きも楽しみにしています。
ありがとうございます(*^▽^*)
かっこいいと言ってくださて嬉しいですっ。フォリアのストッパーがいないので、暴走しないようにするのが大変ですが(^_^;
ゆりあのことも気にかけてくださってありがとうございます!頑張りますねっ(*⌒▽⌒*)
いま序盤を読んでいます。
本編4話くらいなのですが今のところR18指定の要素が見当たりません。
これから暴力、残虐シーンなどが問題になりそうなのでしょうか?
もうちょっと読み進めてみます(´ω`*)
い、今の時点では、ですが。最新話の35話からグロ表現が入るので・・・!え、これもしかして、表現詐欺?もしや私、そういうシーン、か、勘違いしてる・・・?お、思ってたんと違うとなったら、誠に申し訳ありません。表現力の、問題?小説の方も、勉強しながら頑張ります・・・っ。
おもしろい!
お気に入りに登録しました~
わあ!嬉しいです、ありがとうございますっ!(*^o^*)