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偽造1†そこには魂の嘆きが転がっている
<プロローグ> ある男の最期(おわり)
しおりを挟む一八八八年 スコットランド・グラスゴー
ザアァァ ┈┈…
深い夜の帳に眠りにつく街を、土砂降りの雨が支配する。
今は深夜の二時頃だろうか? ┈分からない。雷鳴と共に地面に打ち付ける喧ましい雨は、街中に時刻を告げる聖なる鐘音の残響さえも消し去ってゆく。
ああ、この世に神なんていないさ。
┈┈街の中心部から少し外れ、日中であっても人が通る事を躊躇するような薄汚れた路地裏。
そこには一刻一刻と迫りくる死を待つだけの身体中、至るところが砕け、皮膚から白骨をむき出しにした男の人形が、雨の受け皿に成り果て、辛うじて人間だった姿を留めて仰向けに横たわっていた。
「……ダ、誰か…助けて…ク、れ…」
男は朦朧とした意識の中、残りわずな力を振り絞って助けを口にしてみるが、もはや息をするのがやっとだった。力なく開いたままの口には、呼吸を遮るように雨水が入り込み、内蔵が負傷し溢れ出る血に只、ゴボゴボとむせ返りを起こし溺れてしまう。
路面に流れ出た大量の血をも大粒の雨は少しずつ、ゆっくりと雨水に還ようとしている。
絶え間なく襲いくる孤独は、容赦なく身体に残る微かな体温さえ奪い、贖罪を求める。どこで人生を間違ったか?今になっては、それすらもう┈分からない。
俺は自分の生き方を変えたくて幸せにさせたくて。妻の笑顔を、ただ見たかったんだよ。
┈┈まだ死にたくない。
生への執着か?それとも無に消えてしまうかもしれない死への恐怖か? ┈┈いや、違う。
心の奥底から湧き上がる、この熱は死への恐怖でも妻や子供に会いたい生への執着でもない、アイツらへの"憎悪" 。
裏切ったアイツらが堪らなく憎い。
死にたくない┈┈!!!!
死へ抗うことも叶わず、そうして俺は事切れた。
いつの間にか雷雨も弱まり、靄が一匹の蛇のようにゆっくりと路地を漂い始めた頃。
ポツ、ポツと雲に残った雨粒が屍体の光りが消えた虚ろに開いたままの瞳へ落ち、頬を伝い涙となって地面に落ちた。
雨水と混ざりあった血は新たな小川を作り流れ、事切れた俺の屍を靄の中から眺める "男" の足元に届いた。
『苦しいですか?悔いていますか?泣いているのですね 』
┈┈何故だ?俺はもう死んでいるにも関わらず、その声はハッキリと聞こえた。
コツ、コツ┈┈
ゆっくりとした足どりで一歩一歩、靴と杖の音が屍体の頭上から近付く。
そして仰向けになった俺の死に顔を、覗きこんできた "男" の眼は┈┈とても奇妙で、人間とは思えなかった。シルクハットを被り、長く伸びた前髪から覗いた眼差しは、無機質で冷酷さに満ち、瞳孔の奥には更にもう一つの瞳孔があった。
憐れみの視線を俺に落としながら "男" はこう言った。
「魂の泣き声が聞こえたので。良ければ吾輩に聞かせてください。あなたの人生を、」
悪魔か?死神か?なんだっていい┈┈。アイツに復讐が出来るなら、この魂さえ売っても構わない。
そして "それ" は 自らをこう名乗った。
"人生の偽造者"と┈┈
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