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第四章 タラッサ連合国編
30.忸怩たる思い
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祭壇に開いた大穴の向こうから、大荷物を担いだ男が歩いてくる。
黒紫のローブ纏いし男は近づけば近づく程線の細さがあからさまに分かるが、抱えている荷物はその男と似たような大きさだった…しかも2つ。
その大きな抱えている動きのない荷物は…人だった。
人の出入り無き神殿入り口に座り込み、いつもと同じ様に憧れ敬う彼の御方を思い浮かべ、尊び称え崇敬の思い込める隠者Ⅰがいた。
同じローブを纏う男が祭壇から戻り来ると、今までの至福の表情から一気に冷え切った表情になり荷物持ち歩み寄る男に冷たく言い放つ。
「随分と時間がかかったじゃないですか」
かなり非難めいた口調である。
「すいません、つい楽しくって遊んじゃいました」
「ちゃんと生け捕りしたんでしょうね」
「う~ん、生きてはいます…ちょっと治療は必要ですけど…」
隠者Ⅸの頬に一筋の赤い線が描かれていた。それを見逃さずに驚き問う隠者Ⅰ。
「食らったのですか?」
「そうなんですよ!! だから面白くなってやり過ぎちゃいましたぁ」
満面の笑みを浮かべ、本気で楽しそうな隠者Ⅸであった。
モーイもミーティも自分がこの隠者Ⅸに及ばないのを分かっていた。分かっている中で最大限の攻撃効果を生むにはどうしたら良いのか考える…。
勿論、隙を作ること。
丁度今日キミアに教えてもらったばかりだが、モーイは早速魔力の纏いかたを変えてみる。受ける攻撃の質が変わったかのように軽く感じる。
ミーティも同等に感じたようでモーイと顔を見合わせた。
2人ともできる範囲で抗う覚悟をする。
隠者Ⅸは遊ぶ気満々の様で。魔力体術のみで攻撃をしてくる。
特定の範囲内での戦いを選択させることが出来れば、勝てはしなくても逃げる時間を作れるはず。
己の力量知る2人の目指す到達点。
そして油断を誘ってからの攻撃の仕方は、目を見合わせた時点で道中の訓練思い出し共通認識が出来上がった。
フレイが先に神殿へ連れていかれた後、ニュールとモーイとミーティは急ぐため交代で高叉角羚羊に魔力纏わせ進むための補助をする。
その分、止まらず運ばれている状態であり荷台に乗る時は暇をもて余す。
ニュールはその前の夜のヴェステの新《三》との戦いで、魔物魔石の効用を聞き、試し、実感したので2人にも使いこなすための訓練を提案する。
「魔物魔石による底上げ…増強…効果。お前らも扱えれば、いざと言うときの助けになるぞ」
ニュールからその情報を得た経緯…と、その実際の有効性を話してくれた。
即決で2人とも訓練する。
「但し、基本の魔石の扱いの上達あってこその底上げって事は忘れるなよ」
手放しで効果を手に入れられる訳では無いと言うことを、痛いほど注意された。
交代で来る荷車での待機時間、通常魔石の魔力に魔物魔石の魔力絡める所から訓練を始めた。
万が一を考え、被害の少なそうな水系魔力の取り出しやすい曹達魔石に水土竜の魔物魔石の力纏わせる訓練をしたが…成功し始めると雑魚魔石同士の組み合わせでも相当な効果が得られる事が分かった。
危うく水で荷物を駄目にしそうになるぐらいには…上手く出来るようになった。
「此を攻撃用魔石を使い…魔物魔石も強者のモノを使い底上げすると、相当な威力が出せると思う。だが、身の丈以上のモノを使うと暴走を起こすかもしれない…其が自身と自身の魔石の回路に起こるのか、彼方との回路に起こるのかは、この魔石の底上げ効果が何処へ働きかけ、得られているのか解明されない内はとても危険だ。だから、決して試そうとするな…」
こうして操作技術は手に入れていた。そして今は訓練後であり魔石は今現在も備えている。
あとは機会を待つだけだった。
攻防は続く。
「以前よりは数段早くなってますね…隠者の末席よりはましですよ。良くできました」
ニイッと冷たく大きく笑い、見下すように褒める。
その間も双方の攻撃入り乱れる。
強者から弱者への何の気持ちの入ってない称賛…だがそれ故に油断が生まれているのをモーイもミーティも見逃さなかった。
正しき2人1組で隠者Ⅸに立ち向かう。
今まで以上の連携と共に、カロッサまでの道程の中でニュールに教えてもらい訓練していた雑魚の魔物魔石での増強効果を、攻撃魔石から導きだした魔力に重ね纏う。
一瞬で同等水準まで登った2人の連携した攻撃は有効打となり隠者Ⅸの頬を切り裂く。
だが、その渾身の一撃さえ、やっと相手を捉えたと言うだけだった。
「へぇ~、もう習得出来てるんだ凄いな! 僕なんか1の月もかかったのになぁ」
扱える魔力の許容量が多いが故に時間を要したのであろう。
「本当はこれで《三》に挑戦してみたかったんだけど…君たちで試したくなっちゃったから付き合って下さい」
隠者Ⅸの目が狂気を帯びた色に変わる。
「嫌、とは言わせないよ…だって僕を楽しくしちゃった君らのせいなんだからさ!」
そこからは一方的制裁の様な攻撃がモーイとミーティに降りかかった。
そして虫の息のような2人が出来上がる。
「うわぁ! 不味い…遊びすぎちゃった」
遠のく意識の中で聞こえた声は、容赦なく自分達と隠者Ⅸの格差を知らしめた。
隠者Ⅸは運んできたミーティとモーイを一応拘束し床に転がす。
「さて標的はしっかり手に入ったし、任務完了って事で帰りましょうか」
「そう簡単には帰れなさそうですぞ」
隠者Ⅰが見つめる方向に青く輝く転移陣が出現する。それと共に2人の人影が現れる。
もちろん、そこに現れたのはニュールとフレイリアルだった。
レグルスリヤとコンキーヤの境界付近に飛来した人工物が、賢者の塔の排除設定が動き出して射出された物と把握し、《二》を放置し急ぎ戻る。
登録してある終点を意識し魔力を動かし飛ぶ。
いつもの様に一瞬で景色変わるが、認識できる程度になった景色は破壊された建物と防御結界陣の干渉を感じる。
「結界陣がある…終点の変更をする。少し衝撃があるから…」
「ニュール大丈夫だよ!」
そう言うとフレイリアルは目をつぶり干渉魔力を一瞬で辿り、驚異的な解除を行う。
お師匠さん譲りの陣の操作は相変わらずの様だった。
「あぁ、助かる。此処からも少し難儀なようだからな…」
転移完了と同時に飛来する激しく鋭い攻撃を、素早く立ち上げた防御結界で防ぐニュール。既に広げてある探索魔力に、神殿の結界を解除したことで王宮からの兵が押し寄せてくる気配もある。
「フレイ、此処に余計な者が入り込まないようにする結界は張れるか?」
「出来るよ!」
一瞬で周囲の魔力を集め陣を形成する。
以前よりも速やかに操っている。
「本当に化け物ですね…。エシェリキア様が騒ぎ立ててたのも、一概に馬鹿騒ぎだった…と否定しきれませんね」
そこには中年…を少し超えたような老年手前の紳士と言った風情の男が立っていた。
「第6王女フレイリアル様には、大変ご無沙汰しております…と言っても1の年は経過してないのですよね…」
全く面識を持った覚えのない老紳士からの言葉にフレイリアルは戸惑う。
「第六王女様の守護者さまにも、大変お久しぶりの対面となります…いや、こちらにはもしかしたら正式なご挨拶は初めてになりますか…」
そして恭しく一礼してから挨拶を始める。
「私、かつてはエリミア辺境王国第6都市ゼスの王位継承権47位のサランラキブと名乗っておりました。現在は育った地であるヴェステに戻り、王立魔石研究所にて崇高なる第2王女サンティエルゼ様の下で隠者サーラとして励んでおります。…一応、隠者Ⅰも名乗らせていただいてます」
謙虚に名乗る隠者Ⅰ。
フレイリアルもニュールも自己紹介の内容を聞いて唖然とする。
この老年…ともいえる見た目の紳士が、まだ子供…とも言えたサランラキブだと名乗ることに愕然とした。
言葉無き2人に代わり話し続けるサランラキブ。
「お2人に言っても詮無き事…とは言え18層からヴェステへ繋ぎ飛ぶことと引き換えに…塔に繋がり魔力を搾取され…生命力が魔力に変換され…この様な姿となってしまいました」
目を細め笑んでいるが、恨み言ではない…と言い切れない表情で2人を見やる。
「だけど、今現在の状況は悪くはないのですよ。この姿のおかげで侮られることもなく、尊きあの御方に仕える事が出来ているのです。だから、あの御方の後ろに控えるに相応しき隠者の最上位も手に入れました…」
今度は心からの笑みを浮かべサランラキブであると語るその男は、あの御方…と言う度に陶酔するように遥か彼方を見つめ思い入れ語る。
思わずニュールが顔をしかめるような久々に見る、"あっち側" に行ってしまっている者だった。
「まぁ、おかげでくだらない任務が割り振られる事もあるのですが…致し方ありません」
「やぁっと任務のこと思い出してくれました?」
神殿の壊れた祭壇の方から男が1人近付いてくる。
隠者Ⅸであった。
これ以上は無いと言う位、対する前からすでに胃もたれ起こす気分になる組み合わせの2人だった。
「旧交温めていただけです。ご挨拶は大切ですからね…それに元《三》は私の幼き頃にも研究所から拝見させていただいていて、是非直接面と向かってお話したかったのですよ…」
「それを言うなら僕だって何時でも元《三》の事思ってますってば!」
そこへ何時もウンザリさせてくれる隠者Ⅸまで現れサランラキブに張り合う。
モテたくもない面々から大モテなニュールであった。
「準備は整っているので余計な荷物は先に送っておきますね」
「余計な事言わずにサッサと進めてください」
「え~、伝えるからこそ楽しさが倍増するんです!」
宣言した後、隠者Ⅸはニュールに向き合う。
「任務は餌の確保でした。だから確保したので持ってきますね! お嬢さんとお兄さんを頂きます!」
言葉と同時に祭壇前に青い転移の輝きが現れる。
一人ずつ転移陣の中に飲み込まれるように落ちていく。150メル程先の人間の様子でありハッキリとは見えないが金色の髪と黒の髪が陣に吸い込まれるのが分かった。
そしてギリギリで、その方向に向けかけた詳細な探索魔力の反応は2人とも本物であった…。
「おいっ、此処は結界内だぞ!」
この不安定な場で転移させた事にいきり立つニュール。
「あぁ、それなら大丈夫ですよ! 王女様が作った転移陣魔石使ってるから干渉しないはずなんで…本人の築いた陣同士ですから転移先に歪みはできないと思います!」
「何で!」
フレイリアルが叫んでいた。
「あぁ、ここで使った原型はサルトゥスで拾いました。すごく便利ですよね!」
賞賛と感嘆の言葉込めて伝えてくる。
「もうヴェステで真似して量産してるんですけど、この低位~中位の微妙な魔石の魔力で転移出来ちゃう陣が出来ていることは…未だ解明できないようなんです。だからヴェステのは高位魔石をつかっているらしくて、好き勝手に多用できないのが不便なんです。あぁ~プラーデラで天空の天輝石を運ぶときにも使いました」
フレイは苦虫を咬み潰したような表情で隠者Ⅸを睨む。
「技術も情報も秘匿するなら徹底的に遣らないと駄目ですね!」
いい笑顔で隠者Ⅸが指を立て、フレイリアルを叱責するように指摘する。
反論できない注意を敵から受けてしまった。
「赤の将軍と青の将軍とあの御方から元《三》へのご招待です、有難く受けなさい」
サランラキブが居丈高に述べる。
ニュールの中で怒りが高まり、利用できる魔石全てから魔力が導かれそうになっている。
「今は、人質の安否を気にする貴殿方のほうが不利です」
その魔力が渦巻き降りてきそうな中で落ち着き払ってサランラキブは述べ、更に続ける。
「明後日、王宮の陣へお越しください。王宮の陣はご存じですよね。来客は丁寧に治療施し、おもてなしさせて頂きますのでご安心ください」
「治療??」
フレイが悲痛な表情で叫んでいた。
隠者Ⅸがばつが悪そうに言う。
「ちょっとだけ、手合わせをお互いに楽しんでしまったんだ。でも大丈夫だよ、保障します!」
隠者Ⅸの目が泳ぎ、とてつもなく胡散臭い。
「何にしても更に一戦…と言うのならお相手しますが、我々の安否が略取対象者の待遇に影響することをお忘れになりませんように」
どこまでも冷静に事を運ぶサランラキブ。手出し出来る状態では既に無かった。
「あぁ、このガチガチの結界陣の解除もお願いしますね…本当はどこまで強固なのか試してみたいものです」
従うより他無かった。
「では、明後日にお待ちしております」
其々がヴェステで作られた転移陣魔石を利用し飛び、その場から姿を消した。
今回はニュール達が歯噛みしながら見送るしか無かった…。
黒紫のローブ纏いし男は近づけば近づく程線の細さがあからさまに分かるが、抱えている荷物はその男と似たような大きさだった…しかも2つ。
その大きな抱えている動きのない荷物は…人だった。
人の出入り無き神殿入り口に座り込み、いつもと同じ様に憧れ敬う彼の御方を思い浮かべ、尊び称え崇敬の思い込める隠者Ⅰがいた。
同じローブを纏う男が祭壇から戻り来ると、今までの至福の表情から一気に冷え切った表情になり荷物持ち歩み寄る男に冷たく言い放つ。
「随分と時間がかかったじゃないですか」
かなり非難めいた口調である。
「すいません、つい楽しくって遊んじゃいました」
「ちゃんと生け捕りしたんでしょうね」
「う~ん、生きてはいます…ちょっと治療は必要ですけど…」
隠者Ⅸの頬に一筋の赤い線が描かれていた。それを見逃さずに驚き問う隠者Ⅰ。
「食らったのですか?」
「そうなんですよ!! だから面白くなってやり過ぎちゃいましたぁ」
満面の笑みを浮かべ、本気で楽しそうな隠者Ⅸであった。
モーイもミーティも自分がこの隠者Ⅸに及ばないのを分かっていた。分かっている中で最大限の攻撃効果を生むにはどうしたら良いのか考える…。
勿論、隙を作ること。
丁度今日キミアに教えてもらったばかりだが、モーイは早速魔力の纏いかたを変えてみる。受ける攻撃の質が変わったかのように軽く感じる。
ミーティも同等に感じたようでモーイと顔を見合わせた。
2人ともできる範囲で抗う覚悟をする。
隠者Ⅸは遊ぶ気満々の様で。魔力体術のみで攻撃をしてくる。
特定の範囲内での戦いを選択させることが出来れば、勝てはしなくても逃げる時間を作れるはず。
己の力量知る2人の目指す到達点。
そして油断を誘ってからの攻撃の仕方は、目を見合わせた時点で道中の訓練思い出し共通認識が出来上がった。
フレイが先に神殿へ連れていかれた後、ニュールとモーイとミーティは急ぐため交代で高叉角羚羊に魔力纏わせ進むための補助をする。
その分、止まらず運ばれている状態であり荷台に乗る時は暇をもて余す。
ニュールはその前の夜のヴェステの新《三》との戦いで、魔物魔石の効用を聞き、試し、実感したので2人にも使いこなすための訓練を提案する。
「魔物魔石による底上げ…増強…効果。お前らも扱えれば、いざと言うときの助けになるぞ」
ニュールからその情報を得た経緯…と、その実際の有効性を話してくれた。
即決で2人とも訓練する。
「但し、基本の魔石の扱いの上達あってこその底上げって事は忘れるなよ」
手放しで効果を手に入れられる訳では無いと言うことを、痛いほど注意された。
交代で来る荷車での待機時間、通常魔石の魔力に魔物魔石の魔力絡める所から訓練を始めた。
万が一を考え、被害の少なそうな水系魔力の取り出しやすい曹達魔石に水土竜の魔物魔石の力纏わせる訓練をしたが…成功し始めると雑魚魔石同士の組み合わせでも相当な効果が得られる事が分かった。
危うく水で荷物を駄目にしそうになるぐらいには…上手く出来るようになった。
「此を攻撃用魔石を使い…魔物魔石も強者のモノを使い底上げすると、相当な威力が出せると思う。だが、身の丈以上のモノを使うと暴走を起こすかもしれない…其が自身と自身の魔石の回路に起こるのか、彼方との回路に起こるのかは、この魔石の底上げ効果が何処へ働きかけ、得られているのか解明されない内はとても危険だ。だから、決して試そうとするな…」
こうして操作技術は手に入れていた。そして今は訓練後であり魔石は今現在も備えている。
あとは機会を待つだけだった。
攻防は続く。
「以前よりは数段早くなってますね…隠者の末席よりはましですよ。良くできました」
ニイッと冷たく大きく笑い、見下すように褒める。
その間も双方の攻撃入り乱れる。
強者から弱者への何の気持ちの入ってない称賛…だがそれ故に油断が生まれているのをモーイもミーティも見逃さなかった。
正しき2人1組で隠者Ⅸに立ち向かう。
今まで以上の連携と共に、カロッサまでの道程の中でニュールに教えてもらい訓練していた雑魚の魔物魔石での増強効果を、攻撃魔石から導きだした魔力に重ね纏う。
一瞬で同等水準まで登った2人の連携した攻撃は有効打となり隠者Ⅸの頬を切り裂く。
だが、その渾身の一撃さえ、やっと相手を捉えたと言うだけだった。
「へぇ~、もう習得出来てるんだ凄いな! 僕なんか1の月もかかったのになぁ」
扱える魔力の許容量が多いが故に時間を要したのであろう。
「本当はこれで《三》に挑戦してみたかったんだけど…君たちで試したくなっちゃったから付き合って下さい」
隠者Ⅸの目が狂気を帯びた色に変わる。
「嫌、とは言わせないよ…だって僕を楽しくしちゃった君らのせいなんだからさ!」
そこからは一方的制裁の様な攻撃がモーイとミーティに降りかかった。
そして虫の息のような2人が出来上がる。
「うわぁ! 不味い…遊びすぎちゃった」
遠のく意識の中で聞こえた声は、容赦なく自分達と隠者Ⅸの格差を知らしめた。
隠者Ⅸは運んできたミーティとモーイを一応拘束し床に転がす。
「さて標的はしっかり手に入ったし、任務完了って事で帰りましょうか」
「そう簡単には帰れなさそうですぞ」
隠者Ⅰが見つめる方向に青く輝く転移陣が出現する。それと共に2人の人影が現れる。
もちろん、そこに現れたのはニュールとフレイリアルだった。
レグルスリヤとコンキーヤの境界付近に飛来した人工物が、賢者の塔の排除設定が動き出して射出された物と把握し、《二》を放置し急ぎ戻る。
登録してある終点を意識し魔力を動かし飛ぶ。
いつもの様に一瞬で景色変わるが、認識できる程度になった景色は破壊された建物と防御結界陣の干渉を感じる。
「結界陣がある…終点の変更をする。少し衝撃があるから…」
「ニュール大丈夫だよ!」
そう言うとフレイリアルは目をつぶり干渉魔力を一瞬で辿り、驚異的な解除を行う。
お師匠さん譲りの陣の操作は相変わらずの様だった。
「あぁ、助かる。此処からも少し難儀なようだからな…」
転移完了と同時に飛来する激しく鋭い攻撃を、素早く立ち上げた防御結界で防ぐニュール。既に広げてある探索魔力に、神殿の結界を解除したことで王宮からの兵が押し寄せてくる気配もある。
「フレイ、此処に余計な者が入り込まないようにする結界は張れるか?」
「出来るよ!」
一瞬で周囲の魔力を集め陣を形成する。
以前よりも速やかに操っている。
「本当に化け物ですね…。エシェリキア様が騒ぎ立ててたのも、一概に馬鹿騒ぎだった…と否定しきれませんね」
そこには中年…を少し超えたような老年手前の紳士と言った風情の男が立っていた。
「第6王女フレイリアル様には、大変ご無沙汰しております…と言っても1の年は経過してないのですよね…」
全く面識を持った覚えのない老紳士からの言葉にフレイリアルは戸惑う。
「第六王女様の守護者さまにも、大変お久しぶりの対面となります…いや、こちらにはもしかしたら正式なご挨拶は初めてになりますか…」
そして恭しく一礼してから挨拶を始める。
「私、かつてはエリミア辺境王国第6都市ゼスの王位継承権47位のサランラキブと名乗っておりました。現在は育った地であるヴェステに戻り、王立魔石研究所にて崇高なる第2王女サンティエルゼ様の下で隠者サーラとして励んでおります。…一応、隠者Ⅰも名乗らせていただいてます」
謙虚に名乗る隠者Ⅰ。
フレイリアルもニュールも自己紹介の内容を聞いて唖然とする。
この老年…ともいえる見た目の紳士が、まだ子供…とも言えたサランラキブだと名乗ることに愕然とした。
言葉無き2人に代わり話し続けるサランラキブ。
「お2人に言っても詮無き事…とは言え18層からヴェステへ繋ぎ飛ぶことと引き換えに…塔に繋がり魔力を搾取され…生命力が魔力に変換され…この様な姿となってしまいました」
目を細め笑んでいるが、恨み言ではない…と言い切れない表情で2人を見やる。
「だけど、今現在の状況は悪くはないのですよ。この姿のおかげで侮られることもなく、尊きあの御方に仕える事が出来ているのです。だから、あの御方の後ろに控えるに相応しき隠者の最上位も手に入れました…」
今度は心からの笑みを浮かべサランラキブであると語るその男は、あの御方…と言う度に陶酔するように遥か彼方を見つめ思い入れ語る。
思わずニュールが顔をしかめるような久々に見る、"あっち側" に行ってしまっている者だった。
「まぁ、おかげでくだらない任務が割り振られる事もあるのですが…致し方ありません」
「やぁっと任務のこと思い出してくれました?」
神殿の壊れた祭壇の方から男が1人近付いてくる。
隠者Ⅸであった。
これ以上は無いと言う位、対する前からすでに胃もたれ起こす気分になる組み合わせの2人だった。
「旧交温めていただけです。ご挨拶は大切ですからね…それに元《三》は私の幼き頃にも研究所から拝見させていただいていて、是非直接面と向かってお話したかったのですよ…」
「それを言うなら僕だって何時でも元《三》の事思ってますってば!」
そこへ何時もウンザリさせてくれる隠者Ⅸまで現れサランラキブに張り合う。
モテたくもない面々から大モテなニュールであった。
「準備は整っているので余計な荷物は先に送っておきますね」
「余計な事言わずにサッサと進めてください」
「え~、伝えるからこそ楽しさが倍増するんです!」
宣言した後、隠者Ⅸはニュールに向き合う。
「任務は餌の確保でした。だから確保したので持ってきますね! お嬢さんとお兄さんを頂きます!」
言葉と同時に祭壇前に青い転移の輝きが現れる。
一人ずつ転移陣の中に飲み込まれるように落ちていく。150メル程先の人間の様子でありハッキリとは見えないが金色の髪と黒の髪が陣に吸い込まれるのが分かった。
そしてギリギリで、その方向に向けかけた詳細な探索魔力の反応は2人とも本物であった…。
「おいっ、此処は結界内だぞ!」
この不安定な場で転移させた事にいきり立つニュール。
「あぁ、それなら大丈夫ですよ! 王女様が作った転移陣魔石使ってるから干渉しないはずなんで…本人の築いた陣同士ですから転移先に歪みはできないと思います!」
「何で!」
フレイリアルが叫んでいた。
「あぁ、ここで使った原型はサルトゥスで拾いました。すごく便利ですよね!」
賞賛と感嘆の言葉込めて伝えてくる。
「もうヴェステで真似して量産してるんですけど、この低位~中位の微妙な魔石の魔力で転移出来ちゃう陣が出来ていることは…未だ解明できないようなんです。だからヴェステのは高位魔石をつかっているらしくて、好き勝手に多用できないのが不便なんです。あぁ~プラーデラで天空の天輝石を運ぶときにも使いました」
フレイは苦虫を咬み潰したような表情で隠者Ⅸを睨む。
「技術も情報も秘匿するなら徹底的に遣らないと駄目ですね!」
いい笑顔で隠者Ⅸが指を立て、フレイリアルを叱責するように指摘する。
反論できない注意を敵から受けてしまった。
「赤の将軍と青の将軍とあの御方から元《三》へのご招待です、有難く受けなさい」
サランラキブが居丈高に述べる。
ニュールの中で怒りが高まり、利用できる魔石全てから魔力が導かれそうになっている。
「今は、人質の安否を気にする貴殿方のほうが不利です」
その魔力が渦巻き降りてきそうな中で落ち着き払ってサランラキブは述べ、更に続ける。
「明後日、王宮の陣へお越しください。王宮の陣はご存じですよね。来客は丁寧に治療施し、おもてなしさせて頂きますのでご安心ください」
「治療??」
フレイが悲痛な表情で叫んでいた。
隠者Ⅸがばつが悪そうに言う。
「ちょっとだけ、手合わせをお互いに楽しんでしまったんだ。でも大丈夫だよ、保障します!」
隠者Ⅸの目が泳ぎ、とてつもなく胡散臭い。
「何にしても更に一戦…と言うのならお相手しますが、我々の安否が略取対象者の待遇に影響することをお忘れになりませんように」
どこまでも冷静に事を運ぶサランラキブ。手出し出来る状態では既に無かった。
「あぁ、このガチガチの結界陣の解除もお願いしますね…本当はどこまで強固なのか試してみたいものです」
従うより他無かった。
「では、明後日にお待ちしております」
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12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
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主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
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(本作品はAIを活用して構成・執筆しています)
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