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8.婚約者

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 上手いこと契約が済んでほくほく気分のマリアは、緑茶の豊かな香りを楽しみながらユアナとの歓談を続けた。
 同じ伯爵家といえども、ユアナの方が二つ歳上ということで、これまであまり付き合いがなかったのだ。ロナルドとの関係も気になるし、ここは少し仲良くなっておきたい。

 どうロナルドについての話を聞こうかと考えていたら、ユアナの方が先に口を開いた。

「――マリア様は婚約者の方と仲がよろしいのですね」
「え、……ええ。元々幼馴染みのようなものですから」
「トーナー子爵家といえば、リディクト伯爵家の縁戚でしたわね。……マリア様と婚姻されたら、婿入りなさるのですよね?」
「そうですね。まあ、マリアが既に領地運営も行っているので、私は婿という立場以上にはならないでしょうが」

 ロイズの答えにユアナの目が少し見開かれた。男性優位の貴族社会では、ロイズの考え方は珍しいものだろう。
 ロイズの家がマリアの家の寄子よりこのようなものだからこそ、成り立つ関係だ。ロイズ自身に出世心があまりないのも理由か。

「そうですの……。私の婚約者も、同じように考えてくだされば良かったのですが……」

 ユアナが俯きがちに呟く。その声音には、既に諦めの色があった。ユアナも現在噂されていることは知っているらしい。ロナルドの計画をどこまで把握しているかは知らないけれど。
 もし知っているなら、ユアナがどうこうする前に、メルシャン伯爵が動きそうなものだ。ロナルドがメルシャン伯爵家を乗っ取り、正統な血筋を離れに押しやるなんて、伝統を重んじる貴族が許容できることではない。親としての立場で考えると尚更だ。

「ユアナ様の婚約者は、リスト侯爵家のロナルド様でしたわね? ……あまり、良い噂を聞きませんが」
「……マリア様の耳にも入ってらしたのね。ロナルド様は、昔はもっと謙虚で素敵な方でしたのに……変わってしまわれましたわ……」

 困った様子で頬に手を添え、ユアナが過去を思い出すように目を細める。その様子に、ロイズが軽く肩をすくめた。それが気になって視線を向けると、ロイズは声を出さずに唇を動かす。

(ロナルド・リストは下の者に横暴だと、わりと昔から言われていたよ。婚約者関係の相手にだけ、良い顔をしていたんだろうね)
(まあ……ロイズも何かされたことがあって?)
(僕は幼い頃から君の婚約者に決まっていたからね。そこまで酷いことをされたことはないけど、友人たちが色々されているのは見たことがあるよ)
(……なんて人なの)

 無言のやり取りに、思わず眉間が寄ってしまいそうになるのを、必死に堪えた。ユアナに悟られて、これを説明するのは申し訳ない。既に傷ついているのに、追い打ちをかけるようなものだ。

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