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9章 もふうさフィーバー
350.カジノに降臨
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何回ルーレットで遊んだだろう。
僕の側には九十九枚のメダル金が塔のように積み上がっていた。
「モモ……リアルラックがえげつないにゃ……もう、もふもふ神というよりカジノ神だにゃ……」
「まさか、ここまでとはボクも思ってませんでした……」
ムギとソウタに引かれてる気がする。
ここまで僕の勝率が80%を超えてるんだから、そうなるのも仕方ないとは思う。
「あはは……僕もこんなに勝つとは思わなかったよ……」
ちょっと怖いです。こんなにたくさん幸運がやって来るって、この後ひどいことが起きる前兆じゃないよね?
キラキラと輝かしいメダル金を眺めて、僕は乾いた笑みを浮かべる。
「もう終わりにしますか?」
ずっと僕たちの相手をしてくれていたディーラーさんが微笑みながら言った。その顔がだいぶ青白くなってる気がする。僕のせいかな。なんかごめんね。
ディーラーさんの表情が『もう帰ってくれ、カジノ荒らしめー!』と嘆いてるように見えたから、僕はそっと目を逸らした。
「最後に一回……」
「え」
「どうせなら、キリよく百枚にしたいなーって」
「え」
言葉を失いながらも、ディーラーさんはプロ根性を発揮して、ルーレットを回した。玉を握る手が震えているのは見なかったことにする。
「あたいはもういいにゃ。モモのおこぼれで随分と稼げたからにゃー」
「さすがに可哀想になりますしね」
ムギとソウタがゲームを辞退した。二人もこれまで何度か僕の賭け方に合わせて、順調に勝てていたからねー。そして、ディーラーさんを憐れむように見てる。
二人の反応を見たら、僕がひどいことをしてるように思えてきちゃうよ。
ちょっぴり納得いかない気分のまま、僕は「黒」と言い、メダル金一枚を賭けた。これで勝てば、メダル金二枚になって返ってくる。
ディーラーさんが投げた玉がルーレット内を走る。
増えた観客が固唾をのんでその行方を見守った。
——カラン。
玉がポケットに落ちる。
ディーラーさんが震える声で「黒の14……」と呟き、僕にメダル金二枚を渡した。そして、ゆらりと体を揺らしたかと思うと、バタッと倒れる。
「……え、倒れた!?」
予想外の事態にびっくり仰天。
観客から上がりかけた歓声が、ピタリと止まった。
カジノスタッフが慌てて駆け寄ってきて、ディーラーの体調を確認し、どこかに連れて行く。
「体力回復薬を渡そうと思ったんだけど……」
アイテムボックスから取り出したアイテムが行き場を失った。なんかすっごく悪いことをした気分なんだけどぉ。
勝利を喜ぶ気分は消え去り、しょんぼりと肩を落としちゃう。
「お客様、大変失礼いたしました。あの者は、体力が削られたわけではございませんので、どうぞその薬はしまってください」
優雅な仕草でカジノのスタッフがやって来て微笑んだ。
「じゃあどうして倒れちゃったの?」
「精神疲ろ、げふん、ごほん……いえ、おそらく休みをとっていなかったからでしょう。こちらで休ませますので問題ありません——ああ、申し遅れました、わたくしはこのカジノの支配人カールです」
なんと、ただのスタッフじゃなかったらしい。
支配人が出てくるって、凄くない? 僕、怒られちゃわないよね? ルールから外れたことはしてないよ。
「えーっと……そっか、たくさん休ませてあげてね! お大事に、って伝えてください。あ、僕、これから用事があるからもう帰るねー」
怒られるのは嫌だなー、と思って僕は逃げるが勝ちだと席を立った。
ムギとソウタがちょっと呆れた顔をしながらもついてきてくれる。
「さようでございますか。どうぞ末永くご用事がありますように」
「……ふえっ!?」
空耳かなー? にこやかな笑みで、『もう絶対来るんじゃねーぞ』って言われた気がするんだけどなー?
支配人をちらりと見ても、その表情は揺らぐことなく完璧な微笑みのまま。
「——そっか! たぶんしばらくカジノに来る余裕はないよー。イベントで忙しいからね!」
僕がちょっぴり顔を引き攣らせて宣言すると、支配人だけでなく、カジノスタッフ全員がホッと安堵の息を吐いた気がする。
そんなに僕が来るのが嫌ですかー。毎回こんなに勝てるわけじゃないよ。たぶん、きっと、おそらく。
……僕自身、わりとリアルラック高めだと自覚してるから、断言できない。
よし、カジノを荒らすのは極力避けよう。よっぽど欲しいアイテムがなければ、カジノには来ないぞ。
逆に言うと、欲しいものがあれば遠慮なく勝ちに来るけども。
「あ、みんなは引き続きカジノを楽しんでねー」
僕たちのやり取りを静かに見守っていたプレイヤーさんたちにフリフリと手を振る。
カジノのディーラーさんたちが損失を取り返そうと躍起になるかもしれないけど、どうかみんながそれなりに勝てますように。
「ふあー、さすモモ!」
「モモさんは神!」
「ヤベー、もふもふ神さまは賭け事の神でもあった? なんか今日は勝てる気がしてきたー」
一気に騒がしさが戻ってきた。ついでに、負けフラグを立ててる人がいる気がしたけど、そっと目を逸らす。
トテトテとカジノの外に向かう僕の横に、ムギとソウタが並んだ。
「モモはどこにいても騒ぎを起こすにゃー」
「さすがルトさんに台風の目と言われるだけありますね」
ムギの呆れたような言葉はともかく、ソウタが感心したように放った言葉には納得できないんだけど!
「僕は台風の目なんかじゃないよ! ルト、そんなことをソウタにまで言ってるの!?」
「うんうん、そういうのって、自分じゃ気づかないものだにゃー」
「え、自覚なかったんですか……?」
優しいソウタにドン引きされて、ちょっぴりショックです。
これはきっとルトのせい。明日会ったら、仕返ししちゃうぞ。八つ当たりだなんて言わせないんだからなー!
僕の側には九十九枚のメダル金が塔のように積み上がっていた。
「モモ……リアルラックがえげつないにゃ……もう、もふもふ神というよりカジノ神だにゃ……」
「まさか、ここまでとはボクも思ってませんでした……」
ムギとソウタに引かれてる気がする。
ここまで僕の勝率が80%を超えてるんだから、そうなるのも仕方ないとは思う。
「あはは……僕もこんなに勝つとは思わなかったよ……」
ちょっと怖いです。こんなにたくさん幸運がやって来るって、この後ひどいことが起きる前兆じゃないよね?
キラキラと輝かしいメダル金を眺めて、僕は乾いた笑みを浮かべる。
「もう終わりにしますか?」
ずっと僕たちの相手をしてくれていたディーラーさんが微笑みながら言った。その顔がだいぶ青白くなってる気がする。僕のせいかな。なんかごめんね。
ディーラーさんの表情が『もう帰ってくれ、カジノ荒らしめー!』と嘆いてるように見えたから、僕はそっと目を逸らした。
「最後に一回……」
「え」
「どうせなら、キリよく百枚にしたいなーって」
「え」
言葉を失いながらも、ディーラーさんはプロ根性を発揮して、ルーレットを回した。玉を握る手が震えているのは見なかったことにする。
「あたいはもういいにゃ。モモのおこぼれで随分と稼げたからにゃー」
「さすがに可哀想になりますしね」
ムギとソウタがゲームを辞退した。二人もこれまで何度か僕の賭け方に合わせて、順調に勝てていたからねー。そして、ディーラーさんを憐れむように見てる。
二人の反応を見たら、僕がひどいことをしてるように思えてきちゃうよ。
ちょっぴり納得いかない気分のまま、僕は「黒」と言い、メダル金一枚を賭けた。これで勝てば、メダル金二枚になって返ってくる。
ディーラーさんが投げた玉がルーレット内を走る。
増えた観客が固唾をのんでその行方を見守った。
——カラン。
玉がポケットに落ちる。
ディーラーさんが震える声で「黒の14……」と呟き、僕にメダル金二枚を渡した。そして、ゆらりと体を揺らしたかと思うと、バタッと倒れる。
「……え、倒れた!?」
予想外の事態にびっくり仰天。
観客から上がりかけた歓声が、ピタリと止まった。
カジノスタッフが慌てて駆け寄ってきて、ディーラーの体調を確認し、どこかに連れて行く。
「体力回復薬を渡そうと思ったんだけど……」
アイテムボックスから取り出したアイテムが行き場を失った。なんかすっごく悪いことをした気分なんだけどぉ。
勝利を喜ぶ気分は消え去り、しょんぼりと肩を落としちゃう。
「お客様、大変失礼いたしました。あの者は、体力が削られたわけではございませんので、どうぞその薬はしまってください」
優雅な仕草でカジノのスタッフがやって来て微笑んだ。
「じゃあどうして倒れちゃったの?」
「精神疲ろ、げふん、ごほん……いえ、おそらく休みをとっていなかったからでしょう。こちらで休ませますので問題ありません——ああ、申し遅れました、わたくしはこのカジノの支配人カールです」
なんと、ただのスタッフじゃなかったらしい。
支配人が出てくるって、凄くない? 僕、怒られちゃわないよね? ルールから外れたことはしてないよ。
「えーっと……そっか、たくさん休ませてあげてね! お大事に、って伝えてください。あ、僕、これから用事があるからもう帰るねー」
怒られるのは嫌だなー、と思って僕は逃げるが勝ちだと席を立った。
ムギとソウタがちょっと呆れた顔をしながらもついてきてくれる。
「さようでございますか。どうぞ末永くご用事がありますように」
「……ふえっ!?」
空耳かなー? にこやかな笑みで、『もう絶対来るんじゃねーぞ』って言われた気がするんだけどなー?
支配人をちらりと見ても、その表情は揺らぐことなく完璧な微笑みのまま。
「——そっか! たぶんしばらくカジノに来る余裕はないよー。イベントで忙しいからね!」
僕がちょっぴり顔を引き攣らせて宣言すると、支配人だけでなく、カジノスタッフ全員がホッと安堵の息を吐いた気がする。
そんなに僕が来るのが嫌ですかー。毎回こんなに勝てるわけじゃないよ。たぶん、きっと、おそらく。
……僕自身、わりとリアルラック高めだと自覚してるから、断言できない。
よし、カジノを荒らすのは極力避けよう。よっぽど欲しいアイテムがなければ、カジノには来ないぞ。
逆に言うと、欲しいものがあれば遠慮なく勝ちに来るけども。
「あ、みんなは引き続きカジノを楽しんでねー」
僕たちのやり取りを静かに見守っていたプレイヤーさんたちにフリフリと手を振る。
カジノのディーラーさんたちが損失を取り返そうと躍起になるかもしれないけど、どうかみんながそれなりに勝てますように。
「ふあー、さすモモ!」
「モモさんは神!」
「ヤベー、もふもふ神さまは賭け事の神でもあった? なんか今日は勝てる気がしてきたー」
一気に騒がしさが戻ってきた。ついでに、負けフラグを立ててる人がいる気がしたけど、そっと目を逸らす。
トテトテとカジノの外に向かう僕の横に、ムギとソウタが並んだ。
「モモはどこにいても騒ぎを起こすにゃー」
「さすがルトさんに台風の目と言われるだけありますね」
ムギの呆れたような言葉はともかく、ソウタが感心したように放った言葉には納得できないんだけど!
「僕は台風の目なんかじゃないよ! ルト、そんなことをソウタにまで言ってるの!?」
「うんうん、そういうのって、自分じゃ気づかないものだにゃー」
「え、自覚なかったんですか……?」
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