もふもふで始めるのんびり寄り道生活 便利なチートフル活用でVRMMOの世界を冒険します!

ゆるり

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9章 もふうさフィーバー

351.イタズラうさぎ

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 カジノを荒らした、なんて不名誉な評価をされた翌日。
 僕は予定通り王都近くの船着き場に来ていた。

「おお、たくさんのプレイヤーがいるなぁ」

 船着き場は人で埋め尽くされている。ほとんどがプレイヤーで、みんなバッチリ装備を整えて、海上のレイドイベントに向けてやる気十分な表情だ。
 それを見ていると、僕も『がんばらなきゃ』と気合いが入る。

 もう二回イベントが開催されているはずだけど、どんな感じなのかなー。全然情報を集めずに来ちゃった。
 一応、どんな状況にも対応できるように、アイテムは揃えてきたつもりだけど。

「まずはルトを探さないと」

 キョロキョロと周囲を見渡す。
 待ち合わせ場所を細かく決めてなかったのが悔やまれるくらい、人の数が多い。この中からルトの姿を見つけるのは至難の業では……?

 ちょっぴり諦めが入ったところで、背後から「よお」と声を掛けられる。
 僕がパッと振り向くと、ルトが口の端を上げて微笑み立っていた。僕が探さなくても、ルトの方から来てくれたらしい。

「お前、すごく目立つし、いろんな人の視線の先を追うだけで見つけられるから、こんな時は助かるぜ。まぁ、近づいたらすげぇ視線に刺されてる気分になるのは難点だけどなぁ」

 よいしょ、としゃがみ込んで視線を合わせてきたルトに、僕はニコッと微笑みかけた。
 ルトがなんか言っていたみたいだけど、ほぼ聞き流しちゃったよ。たぶん挨拶のようなものだから、聞いてなくても大丈夫のはず。

 普段とは違う僕の様子に、ルトが訝しげに目を細めた瞬間——僕はアイテムボックスから取り出したアイテム【使役鳥(鳩)】を投げた。

「うわっ!? なんだこれ!」

 ルトの周囲を「クルッポー」と鳴きながら三羽の白い鳩が飛ぶ。ルトを嘴でつっつきながら。
 立ち上がったルトが鳩から逃れようと動き、変な踊りをしてるように見えた。鳩ちゃん、いいぞ、もっとやれー!

「えっへん、おどろいたかー」
「驚いたよっ! だから、これ、止めろ!」
「ごめん、それ発動したら、効果時間が終わるまで消えない」
「はあああ!? お前、俺にどんな恨みがあって、っ、イテッ、この鳥野郎!」

 ルトが鳩を手で払いのけようとするけど、それはスカッと空振る。
 この鳩ちゃんたち、幻影のようなものなのだ。つつかれてる感触はあってもダメージは負わない。でも、つつかれることからは逃げられない。

 まぁ、お遊びアイテムの一種だよ。なんでこんなアイテムが存在してるかはわからないけど、それこそ運営さんの遊び心の賜物だろう。
 探してみたら、結構ドッキリに使えそうなイタズラアイテムのレシピがたくさんあったし。

「ルトさん、どうしたんです?」

 気づいたら、タマモが僕の隣に来ていた。心底不思議そうにルトを見つめてる。

「僕のことを『台風の目だ』ってソウタに言ってたらしいから、その仕返しー」
「……なるほど」

 タマモがなんとも言えない表情で頷いた。台風の目っていう発言に対して否定がなかったんだけど、まさかタマモも僕のことそう思ってる?

 僕がジトッとタマモを見ると、タマモは慌てたように目を泳がせた後、ハッとした表情で手を叩いた。嬉しそうな笑みが顔いっぱいに広がってる。

「——あ、モモさん、もふもふ教にメダル金を百枚もくださりありがとうございます! それに、昨日はカジノで励む方たちに随分と幸運を分けてくださったんですよね? おかげさまでたくさんの方が目標を達成できました。もうすぐ無人島を入手できそうです!」

 話を逸らされた気がしなくもないけど、まぁいっか。ルトの奇妙な踊りを見れて、ちょっとは気が済んだし。

 それにしても、昨日のカジノで勝った人多かったんだ? 本当に僕の幸運を分けられたのかどうかはわからないけど、喜んてもらえたなら何より。
 ……カジノの人にとっては災難だっただろうなぁ。でも、僕は悪くないよ?

「おお、もうすぐ無人島入手かー。楽しみ!」
「ご期待くださいませ。無人島を手に入れたら、素敵なもふもふアイランドを作りますよ!」

 グッと拳を握ったタマモはやる気に満ちていた。タマモならきっといい場所を作ってくれるんだろうなぁ。

 ついでにうさぎの遊具の入手状況を聞いてみたら、たくさんのもふもふ教の信徒によって、ほぼすべてを網羅できているらしい。
 今は、たくさんの人が遊べるように各種二つ目の入手を目指してるんだとか。

「おー、僕もうさぎの遊園地で遊びたいなぁ」
「ぜひ一緒に!」

 前のめりになって誘ってくるタマモに、僕は微笑みながら「うん」と頷く。
 友だちと一緒の方が、遊園地は楽しいもんね。

「……おい、お前ら、俺のことスルーしてんなよ」

 不意に低い声が聞こえてきたかと思うと、僕の頭にグッと重しがかかった。

「重い重い重いー!」
「つつかれ続けた俺よりマシだろ、このウサギ野郎ぉ」
「ルトが悪いんだよー。僕の変な噂流すから!」
「間違ったことは言ってねーだろ」

 ルトの手に上から押さえつけられながら、プンプンと怒った理由を説明したけど、全然理解してくれない。もう一回鳩ちゃんをけしかけちゃうぞ? アイテムは一個じゃないんだからね?

「……お二人は本当に仲が良いですねー。羨ましいです」

 タマモがちょっぴり羨望の眼差しでルトを見つつ、僕を押さえつけているルトの手を「ていっ」と払い除けてくれた。

 体術士の能力で叩かれて、ルトが手を押さえて悶絶してる。
 プレイヤー同士で戦った場合、ダメージは負わなくても衝撃を感じるって知っていたけど、悶絶するほどって、タマモはどんだけの威力で叩いたの……?

「イッテェな!?」
「タマモ、ありがとー」
「私はいつでもモモさんの一番の味方ですから!」
「うん、わかってるよ」

 キリッとした顔で言うタマモに僕はすぐさま頷いた。タマモの気持ちはちゃんと受け取ってるよー。

「絶対今の八つ当たりだっただろ、タマモ!」
「まさかーそんなことはアリマセンヨー」
「カタコトじゃねーかよ!」

 うふふ、とふざけた感じで笑うタマモをルトがギロッと睨む。
 二人は僕の友だちだけど、こんな感じで話してるのは初めて見た気がする。なぜか感動に似た思いが込み上げてきた。

「ルト……ボッチじゃなかったんだね……!」
「おいコラどこから湧いたその疑惑ふざけんじゃねーぞウサっ子コノヤロー」

 句読点なくツッコミを入れられた。ルトの目が据わってる。
 ヤバい、ほんとに怒ってる。逃げろ逃げろー。
 僕がスタコラサッサと駆け出そうとしたところで、アナウンスが聞こえてきた。

〈海上レイドイベント第三回が開始します。プレイヤーの皆さまはお好きな船に乗船してください〉

「あ、始まるって。二人とも行こう!」

 わーい、とはしゃぎながら船へと駆ける僕の背後から、「ふああ、無邪気なモモさんかわゆいぃい!」というタマモの声と、ルトの大きなため息が聞こえてきた。

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