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10章 海は広くて冒険いっぱい
376.掘り出し物?
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商業ギルド支店から近い店を順に覗いていく。
並べられている商品の多くは、イノカン国の街でも見たことがあるアイテムだったけど、たまに不思議なものがあって面白い。
特に興味を惹かれたものを指して、店員のエルフに話しかけてみる。
「このスノーボールみたいなものはなぁに?」
「それは海の水槽ですよ」
店員さんがアイテムを手に取り、僕に差し出した。遠慮なく受け取り、マジマジと観察する。
それは水のようなものが閉じ込められた丸い玉だ。大きさは僕の顔の半分ほど。転がすと、水と一緒に入っている砂が舞い、キラキラと光る。
——————
【海の水槽】レア度☆☆☆☆
海水を閉じ込めているドーム
空間魔術で見た目より内部が広い
海で生きるモンスターに最適な環境
テイムモンスターを入れることで、素早く召喚できるようになる
——————
モンスター空間の海版だ!
こういう形のものもあるんだねぇ。
感心しながら観察していたら、ふとアイテムボックスに仕舞ったままの海獣の卵を思い出した。
海上レイドイベントのミッションクリア報酬でもらったもので、いつ孵るのかなぁと楽しみにしながら、たまに磨いているのだ。
とりあえずアイテムボックスから海獣の卵を取り出してみる。
この卵から生まれたモンスターには、海の水槽があった方がいいかな?
「おや、珍しいものをお持ちで」
店員さんが目を見張る。
僕は「でしょー」と胸を張り、最近もらったばかりなのだ、と説明した。
「なるほど。それは幸運でしたね。モンスターの卵はモンスターを懐かせなくてもテイムできる特別なアイテムですから。あぁ、でも、あなたにはあまり利点には感じられないかも……?」
僕の傍に大人しく控えているスラリンたちに視線を向け、店員さんがふふっと笑う。冷たい印象の顔が一瞬で柔らかく穏やかに感じられた。
「んー、友だちが増えるのは嬉しいから、利点とかはどうでもいいよ」
「そうですか——海獣の卵をお持ちなら、海の水槽を持っていた方がいいですよ」
店員さんに勧められて購入を決めた。お値段は一万キィン。サクッとお支払いして、ふと店員さんを見上げる。
「お兄さん、お名前は?」
「パリアルシュライガーラナハイツマルコシアスです」
「なんて???」
名前とは思えないような長さだったぞ。呪文じゃないの?
僕がポカンと口を開けると、店員さんがククッと笑う。予想通りの反応をしちゃったらしい。
「皆にはパルーと呼ばれています。海のエルフは長い名を持ちますが、そのまま呼ばれることはほとんどありません」
「パルーさんね。呼ばれないなら、なんで長い名前をつけるの?」
「呪い避けです」
再びポカンとした僕に、パルーさんがニコニコと微笑みかける。
不穏な言葉が聞こえた気がするんだけど、聞き間違いだったかな?
「聞き間違いではありませんよ。呪いです、呪い。それを回避するために、わざわざ長い真名をつけるのです」
「……どういうこと?」
詳しく聞いてみる。
パルーさん曰く、かつて海底都市リュウグウは『暗黒の魔術士』と呼ばれる者に国民が呪われ、滅亡の危機に陥ったことがあるらしい。絶滅危機自体はイノカン国の神殿の助けを受けてなんとか回避できたものの、同じことが起きないように、呪い対策を徹底することにしたそうだ。
当時国民にかけられた呪いは、特定の名前の者に死をもたらすものだったから、それを回避するために一人ひとり違う名前を持つようになったんだとか。同じ名前にならないようにすると、自然と名前が長くなったらしい。
そんな対策でどうにかなるものなんだ?
「昔はほとんどの者が『海の』という名だったんですよね」
「みんな同じ名前ってこと!?」
え、それ不便じゃない? というか、名前がある意味がなくなってる気がする。
首を大きく傾げ、パチパチと瞬きする僕に、パルーさんは「私たちは個にして全なので」と意味のわからないことを言った。
「それぞれ個人としての意識はありますが、海のエルフという集団としての意識が何よりも強いのです。今は名が分かたれ、集団意識が薄れてきていますが、それでも海のエルフの一員であることには変わりありません」
「よくわかんない……」
僕が困惑しても、パルーさんは「理解せずとも構いませんよ」と答えるだけだ。そして、スッと通りの奥の方を指す。
「この国の歴史や海のエルフについて知りたければ、宮殿図書館に行くといいですよ。どなたでも閲覧できる書物に私が今言ったことも記載されているはずです」
「図書館があるんだ? 許可なく行けるの?」
「海精霊に気に入られている方を拒むことはありませんよ」
パルーさんは僕の傍でふわりと飛んでいる海精霊を見て、目を細める。思っていた以上に、海精霊ってこの国で特別な存在なのかな?
「そっか、じゃあ、時間があったら行ってみる!」
「ええ、ぜひ。宮殿に行けば、秘宝を見せてもらえるかもしれませんよ」
秘宝! それって、ラファイエットさんが『盗んだら老いの罰が下る』って言ってたやつだよね? ちょっと怖いけど、気になる。どんなお宝なんだろう?
「それなら絶対行かないとね!」
前向きに答えた途端、アナウンスが聞こえてきた。
〈シークレットミッション【海底都市の呪い調査】が開始しました〉
——————
シークレットミッション【海底都市の呪い調査】
遥か昔、海底都市リュウグウは呪いで滅亡の危機に陥った。
その影響は今もなおこの国を蝕んでいる。
過去に何が起きたのか調べてみよう。そうすれば、新たな道が開けるはずだ。
〈クリア報酬〉
宝物庫立ち入り許可証
シークレットエリアのマップ
——————
……これ、ミッションだったんだね?
並べられている商品の多くは、イノカン国の街でも見たことがあるアイテムだったけど、たまに不思議なものがあって面白い。
特に興味を惹かれたものを指して、店員のエルフに話しかけてみる。
「このスノーボールみたいなものはなぁに?」
「それは海の水槽ですよ」
店員さんがアイテムを手に取り、僕に差し出した。遠慮なく受け取り、マジマジと観察する。
それは水のようなものが閉じ込められた丸い玉だ。大きさは僕の顔の半分ほど。転がすと、水と一緒に入っている砂が舞い、キラキラと光る。
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【海の水槽】レア度☆☆☆☆
海水を閉じ込めているドーム
空間魔術で見た目より内部が広い
海で生きるモンスターに最適な環境
テイムモンスターを入れることで、素早く召喚できるようになる
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モンスター空間の海版だ!
こういう形のものもあるんだねぇ。
感心しながら観察していたら、ふとアイテムボックスに仕舞ったままの海獣の卵を思い出した。
海上レイドイベントのミッションクリア報酬でもらったもので、いつ孵るのかなぁと楽しみにしながら、たまに磨いているのだ。
とりあえずアイテムボックスから海獣の卵を取り出してみる。
この卵から生まれたモンスターには、海の水槽があった方がいいかな?
「おや、珍しいものをお持ちで」
店員さんが目を見張る。
僕は「でしょー」と胸を張り、最近もらったばかりなのだ、と説明した。
「なるほど。それは幸運でしたね。モンスターの卵はモンスターを懐かせなくてもテイムできる特別なアイテムですから。あぁ、でも、あなたにはあまり利点には感じられないかも……?」
僕の傍に大人しく控えているスラリンたちに視線を向け、店員さんがふふっと笑う。冷たい印象の顔が一瞬で柔らかく穏やかに感じられた。
「んー、友だちが増えるのは嬉しいから、利点とかはどうでもいいよ」
「そうですか——海獣の卵をお持ちなら、海の水槽を持っていた方がいいですよ」
店員さんに勧められて購入を決めた。お値段は一万キィン。サクッとお支払いして、ふと店員さんを見上げる。
「お兄さん、お名前は?」
「パリアルシュライガーラナハイツマルコシアスです」
「なんて???」
名前とは思えないような長さだったぞ。呪文じゃないの?
僕がポカンと口を開けると、店員さんがククッと笑う。予想通りの反応をしちゃったらしい。
「皆にはパルーと呼ばれています。海のエルフは長い名を持ちますが、そのまま呼ばれることはほとんどありません」
「パルーさんね。呼ばれないなら、なんで長い名前をつけるの?」
「呪い避けです」
再びポカンとした僕に、パルーさんがニコニコと微笑みかける。
不穏な言葉が聞こえた気がするんだけど、聞き間違いだったかな?
「聞き間違いではありませんよ。呪いです、呪い。それを回避するために、わざわざ長い真名をつけるのです」
「……どういうこと?」
詳しく聞いてみる。
パルーさん曰く、かつて海底都市リュウグウは『暗黒の魔術士』と呼ばれる者に国民が呪われ、滅亡の危機に陥ったことがあるらしい。絶滅危機自体はイノカン国の神殿の助けを受けてなんとか回避できたものの、同じことが起きないように、呪い対策を徹底することにしたそうだ。
当時国民にかけられた呪いは、特定の名前の者に死をもたらすものだったから、それを回避するために一人ひとり違う名前を持つようになったんだとか。同じ名前にならないようにすると、自然と名前が長くなったらしい。
そんな対策でどうにかなるものなんだ?
「昔はほとんどの者が『海の』という名だったんですよね」
「みんな同じ名前ってこと!?」
え、それ不便じゃない? というか、名前がある意味がなくなってる気がする。
首を大きく傾げ、パチパチと瞬きする僕に、パルーさんは「私たちは個にして全なので」と意味のわからないことを言った。
「それぞれ個人としての意識はありますが、海のエルフという集団としての意識が何よりも強いのです。今は名が分かたれ、集団意識が薄れてきていますが、それでも海のエルフの一員であることには変わりありません」
「よくわかんない……」
僕が困惑しても、パルーさんは「理解せずとも構いませんよ」と答えるだけだ。そして、スッと通りの奥の方を指す。
「この国の歴史や海のエルフについて知りたければ、宮殿図書館に行くといいですよ。どなたでも閲覧できる書物に私が今言ったことも記載されているはずです」
「図書館があるんだ? 許可なく行けるの?」
「海精霊に気に入られている方を拒むことはありませんよ」
パルーさんは僕の傍でふわりと飛んでいる海精霊を見て、目を細める。思っていた以上に、海精霊ってこの国で特別な存在なのかな?
「そっか、じゃあ、時間があったら行ってみる!」
「ええ、ぜひ。宮殿に行けば、秘宝を見せてもらえるかもしれませんよ」
秘宝! それって、ラファイエットさんが『盗んだら老いの罰が下る』って言ってたやつだよね? ちょっと怖いけど、気になる。どんなお宝なんだろう?
「それなら絶対行かないとね!」
前向きに答えた途端、アナウンスが聞こえてきた。
〈シークレットミッション【海底都市の呪い調査】が開始しました〉
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シークレットミッション【海底都市の呪い調査】
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その影響は今もなおこの国を蝕んでいる。
過去に何が起きたのか調べてみよう。そうすれば、新たな道が開けるはずだ。
〈クリア報酬〉
宝物庫立ち入り許可証
シークレットエリアのマップ
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……これ、ミッションだったんだね?
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