聖女として召喚された性悪双子は一刻も早く帰還したい

キリアイスズ

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「うるっせぇ!!」

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長い廊下を私は小走りで目的の場所に向かっていた。走れば走るほど周囲の慌ただしい声が増えていく。
地面が震える。轟くような音が鳴り響く。

「うわっ、これ地震………じゃないんだよね」

この地響きが轟くたびに何度も足がもつれそうになる。

「ねぇ、モンスターって何?なんで現れたの?」

私は走りながら事の詳細を聞こうとさっきのメイドに話しかけた。

「神官様から説明があったと思いますが、今この国には瘴気が蔓延しております。瘴気が一定の密度に達するとモンスターへと変貌を遂げるんです」

「ああ、言ってたね。そんなこと」

「モンスターは絶対に王都に蔓延させるわけにはいきません。なので、常日頃からこの国の高名な術者や神官様たちが王都に入ってこられないように結果を張っています」

「結界?瘴気が蔓延しているんじゃないの?」

「結界はモンスターが入りこまないようにするためのものなんです。巨大な結界なため、どうしても瘴気は結界の隙間を通り抜けてしまうのです」

結界ってもしかして巨大な網みたいなもの?瘴気ってその名の通り、煙みたいなもの?
じゃあ、通り抜けちゃうかもな。

「それがなんで、この城の中に入って来てんの?」

メイドはなぜが言いづらそうにしている。

「じ、実は聖女様の召喚はかなりの魔術量が必要となるんです。それこそ、結界への魔術も注ぎ込まないといけないほど。だから、その………一時的に結界を解いて、その分の魔術を召喚のために使いました。おそらく、その一時的の間にモンスターが一匹入り込んだと予想されてます」

「はっはーん、なるほど。私らのせいだってことか」

私はあくまでにこにこと応対した。端から見たら不気味に思えるほど。

「あ、その、今までモンスターがこの王都に、しかもこの城に自発的に向かってくることなんてなかったんです、だから、モンスターの襲撃は誰にとっても予想外………」

「いやいや、あんたらの怠慢のせいでしょう。今までなかったからちょっと結界解いても大丈夫だろうなんて。馬鹿だねぇ」

権力者ってやっぱり怠慢寄りになっちゃうんだね。

「まぁ、いいや。とりあえずそのモンスターをちょっと拝見してみようかな」

私はさらに足を速めた。

玉座の間に近づくたびに私自身に奇妙なことが起こっていることに気づく。耳の奥から「声」が聞こえてきていた。足を進めるたびにその声が大きくなってくる。か細い、女の声で呪文のようなものが脳内に入ってくるようだった。

「ねぇ、メイドさん。さっきから何か言ってる?」

「え?何ですか」

「あれ、違う?」

なんなのこれ、ぼそぼそぼそうるさいな。
しかも、大きくなってくるし。

鬱陶しく感じながら足を進めていたら、いつのまにか目的の場所に着いていた。

「うっわ、なんだありゃ」

最初に目に飛び込んたのは暴れ回る見たことのない、モンスターだった。
黒い霧状の集合体で、獣の姿を形取った生き物。顏、胴体、牙もすべてが黒い。唯一、黒以外のものは血のように赤い、二つの目だった。
モンスターは象よりも一回りも大きい。形をやっと保っているような姿なのに、獣の足元のひび割れた地面がモンスターの重量感を物語っている。獰猛なモンスターは聞いたことない不気味な唸り声を上げながら、暴れていた。

「なんだありゃ、タタリ神の親戚?」

あんなの見たことがない。生きものなんだよね、あれ。
CGとか特殊メイクじゃなくて。

こりゃ、カメラじゃなくて動画だな。私はさっそく、スマホを向け動画ボタンを押した。
縦画面にしようかな。いや、ここはやっぱり横かな。

ていうか、ここ一番に「声」うるさいな。
ぜんぜん、止まないし。耳鳴りとかじゃないよね、これ。

「聖女さま、なんとかしてください!」

さっきのメイドが必死の形相で懇願してきた。メイドだけじゃない、王座の間に残っていた貴族や騎士たちも私に期待の目を向けていた。

「なんとか?」

「瘴気のモンスターは聖女様にしか浄化できないんです」

「どゆこと?」

「あのモンスターには物理的な攻撃やどの魔術も効かないんです。モンスターからの攻撃は魔術で防げても、ダメージを与えることはできなくて」

「マジで。そりゃ大変だ」

「神託によると、異世界から召喚された聖女様にはモンスター浄化の特別な――」

「おっ、あれ見てよ」

私はメイドの言葉は遮断した。負傷していた騎士の一人がモンスターに向かっていくのが見える。
その手には槍が握られていた。

「大丈夫?あの人。モンスターには攻撃は効かないんじゃなかった?」

私はスマホに映った騎士から目を離さなかった。
大丈夫じゃなさそうだな。頭から血が流れてる。
意識朦朧って感じだ。あの様子じゃ、モンスターへの攻撃が効かないってわからないね。

いなないていたモンスターが騎士を捉えた。その瞬間、モンスターの赤黒い目がギラリと光り出す。新しい獲物を見つけた目だ。

「聖女様!お願いです、助けてください!」

「ん~、なんとかねぇ」

私は隣にいるメイドをちらっとだけ見た。
あれま、よく見るとこのメイド、可愛い顔してる。泣き顔、チョーいいじゃん。
ちょっと一枚撮りたい顔だけど、今録画中なんだよね。

それにしてもこれ、すっごい映像になるだろうな。
映像だけ見れば、まさにパニック映画だ。だれもこれがリアルだなんて思わないよね。
あ~あ、これアップとかできないんだよね。せっかくいいもの撮ってるのに。
悔しいったらないな。

「おっ?」

気がちょっと滅入っていると、スマホの向こうにいる騎士がふらりと動き出した。騎士はふらふらの体で槍をモンスター目掛けて槍を投げた。しかし、槍はモンスターの体をすり抜けて床にガチャンと落ちてしまった。

「ふぅん、攻撃が効かないって本当だったんだ」

SNSにアップはできない。
できないとわかっているのにどうしても面白いものを撮りたい、映える映像を撮りたいという気持ちを抑えられない。

「聖女様!あの騎士を!」

う~ん、もっとパンチがある何かがあればいいんだけど。

「ねぇ、あのモンスターって人食べる?」

「………え」

「食べるの?」

「私は………聞いたことがありません」

「へぇ………………………なんだ」

まぁ、贅沢は言っちゃだめだな。
最期の力を振り絞ったのか、騎士は膝から崩れ落ち、床に手を付いてしまった。
モンスターはまるで騎士を嘲笑うかのような唸り声を上げる。そして、今度は自分の番だと言わんばかりに口を大きく開けた。

「お、食べるか。やっぱり」

ちょっと興奮気味にスマホを向けていると、モンスターに突っ切っている人影が写り込んだ。

「ん?」

何だろうと思いながら、目を凝らして見た。

「うるっせぇ!!!」

聞き慣れた妹の怒号。夏芽だと気づいた時にはモンスターは夏芽の鋭い右ストレートをくらい、ゆっくりとその場に倒れた。

赤黒く光っていた目の光が消えていく。
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