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これが聖女の力ってやつ?
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そうと決まれば、まずは時間稼ぎだ。私は夏芽に近づき、こそっと耳打ちする。
「夏芽、次の攻撃は一緒にやろう。首の後ろ辺りを蹴って転ばせよう」
モンスターは今度こそ、といった具合で「ぐるぁぁ!!」という声と共に大きな黒い牙をむき出しながら、突進してきた。
「おっと」
私たちはギリギリのところで避け、首の後ろ目掛けて強い蹴りを入れた。勢いをつけて突進してきたモンスターは私たちが蹴りを入れた方向に、すっ転んでいった。
今だ。私たちはモンスターが転んだ反対方向に飛び、距離を取った。
そして私たちは顔を見合わせ、深呼吸する。
ええっと、この耳元でぼそぼそいっているものをそのまま歌えばいいんだよね。
一斉に口を開き、声を出す。
「~~~♪、♪~~♪♪~………♪」
不思議だ。自分の声なのに、初めて聴く音のように聞こえる。
脳内で流れていた声と歌詞は初めて聞いたもので、それを口に出すにも初めてだ。
夏芽と練習だってしていない。それなのに、当たり前のように声を出せる。
まるで、自分自身が楽器になってる気分。脳内に流れているのが「楽譜」で歌を歌うという行為が「演奏」。私たち二人がやっているのが「二重奏」。
空気が震えていると、はっきりわかる。
こんなの初めでだ。これが聖女の力ってやつ?
「ぐるるるぅあ!ぐぐぐう!!!」
歌声を奏でれば奏でるほどモンスターは悶えるような鳴き声を出し、動きも鈍くなっていった。動きが鈍くなったモンスターはついには金縛りにあったかのようにぴくぴくと指先を動かすのがやっとになっていく。
モンスターの体が一瞬透明になったのがわかる。
目の錯覚?いいや、違う。また、透明になった。
これが女神官の言っていた浄化?
徐々にモンスターの透明化の間隔が短くなり、ついには点滅するような状態になっていった。
私たちはここぞと言わんばかりに声量を大きくする。
「ぐるるるぁ!!!」
モンスターは断末魔のような咆哮を上げる。そのまま、ゆっくりとモンスターの体が消えていった。私たちは歌を止め、顔を見合わせる。
「………………終わった?」
モンスターの姿はどこにもないし、何よりずっと脳内に響いていた女の歌声も消えた。
辺りはしんと静まり返る。
私たちがやったんだよね。浄化したんだよね。
私たちはぼんやりとモンスターが消えた位置を見つめた。
「や、やった!モンスターが消えた!」
「聖女様がモンスターを浄化したぞ!」
「あれが浄化の力か。素晴らしい!」
一瞬の静けさから一転しての歓声だった。モンスターの姿が消えると、見計らったかのようなタイミングで兵や神官が集まってきた。集まってきた兵の中には私たちに向けて「偽物の聖女め」と罵った人間もいる。
なんか、こうもあからさまだとイラッとするな。
まぁ、気持ちはわからないでもないけど。
でも、こういう極端な態度、夏芽はすっごく嫌いなんだよね。私も好きじゃないし。
集まってきた人間の中に女神官もいた。女神官は心底ほっとした様子で近寄ってくる。
「おつかれさまです、聖女様」
にこにこにこにこ、と女神官含めて皆、同じ顔で微笑んでいる。
皆、いい笑顔だねぇ。なんか癪に障るなぁ。
「そういえば、あの王様は?王子様たちもいないね?」
「王族はこの国の象徴的な存在です。わずかな危険も回避する必要があります。モンスターが城門を突破した時点で国王たちは安全な場所に避難させました」
避難?逃げたの間違いじゃないの?
私らを勝手に召喚した黒幕的存在なくせに無責任な人たちだねぇ。
「王からの伝言です。“よくぞ、城を守ってくれた„と」
おお、一目散に逃げた人間のくせに見事なまでの上から目線。どこの世界でもやっぱり、人の上に立つ人種って人任せにするのが仕事なんだね。
「お二人のおかげで被害を最小限にとどめることができました。ありがとうございます」
「私たちがやったのが浄化ってやつ?」
「はい、召喚された聖女様にしかできない特別な力です。私も初めて拝見いたしました。さきほどのように歌を奏でてくだされば、国中の瘴気もすべて浄化することが可能です。お二人が力を合わせれば、きっと成し遂げることができます」
女神官はにこにことした顔を崩さない。
そして、周囲の人間もにこにことした笑顔にキラキラとした瞳を向けてくる。
おいおい、私たちがこの国に留まるのは決定事項?還りたいっていう私らの願望はスルー?
「もう夜が更けました。近々、聖女様お披露目のパレードを開きたいと思っていますので明日はその話し合いを――ぐっ」
はい、そろそろキレる頃だと思ってました。
いや、遅いほうかな。
夏芽は女神官の胸倉を片手で鷲掴みした。女神官は私たちの背丈と同じくらいだったが、胸倉を上方向にぐいっと持ち上げているため、女神官はつま先立ちになる。おべっかを使ってばっかりだった周囲は一瞬でぎょっとした表情になる。
「………………」
夏芽は無表情で女神官を見つめる。
うん、こりゃキレてる顔だな。目が据わってるんだから。
まぁ、キレる気持ちもわかるよ。ツッコミどころ満載の発言ばっかりするんだから。
「あ、あのっ、聖女さ………ま」
「………………」
「放し………て、くだ………さ」
「………………」
「放してっ!」
「………………ふん」
夏芽は鼻を盛大に鳴らして女神官をぽいっと捨てる。
「ごほっ、ごほっ、な、何を………」
私はせき込む女神官に近づく。
「夏芽が思ってることを代弁すると“勘違いするなよ、別にあんたらのために歌ったわけじゃない。ガタガタうるさい地響きを止めたかったし、何よりずっと鳴っている咬みたいな歌声を止めたいから歌ったんだ。ていうか、あんたらこれ幸いばかりに話を進めるんじゃない。還りたいって私らの意見、忘れてるんじゃないだろうな”だと思うよ」
夏芽は苦しそうに喉元を抑える女神官に構わず再び胸倉を掴み、今度は上方向ではなく引き寄せた。
「還せ」
「い、いえ………それは」
「還せったら還せ」
「せ、聖女様………お、落ち着いて」
「還せっつってんだろ?この臭ぇ化粧ばばぁ」
夏芽の一言が一瞬にしてその場を凍らせた。
「………け………け………け」
女神官はひくひくと顔を引きつらせる。
皆が青ざめている中、ただ一人笑いを堪えている人間がいた。
私だ。
「夏芽、それは言い過ぎだって。時と場合を考えなよ。私ら還れなくなるかもしれないじゃん。せめて、そこは“化粧と香水のきついケバさま”っていいなよ」
女神官を見たときからずっと思っていたことだった。
真っ赤な口紅、目元に施している口紅と同じ色の太いアイライン、顔面に塗りたくっている白粉、濃いピンクの頬紅。そして、今にも虫が数匹たかりそうな、甘ったるい香水の香り。
ウケとか狙ってるんじゃないかと半分本気で思うほどのケバさ。
私らの世界でもこんな化粧きつい女はいないわ。
さすがの私もゲテモノ系の写真は撮りたいと思わない。だから、あえてとスルーしてた。
「………………………まずは、手を、離して。いただけませんか」
おお、耐えてる耐えてる。顔すっごい引きつってる。やっぱり、我慢強いなこの化粧おばさん。
あ~、でもそろそろぷっつんするかもな。
夏芽はしぶしぶといった態度で手を離し、腕を組む。
「まずは訂正していただきたい。いくらなんでも、聞き捨てなりません」
「は?訂正?化粧ばばぁを化粧ばばぁって言って何が悪い」
ん?集まってきた周囲の様子がおかしいぞ。
ぷるぷる震えている女神官から一歩、また一歩と距離を取っている。
それに私の気のせいかな。夏芽が化粧ばばぁって言った時からカタカタとステンドグラスやシャンデリアが小さく揺れているような。
「私は………私は………まだ二十歳です」
悔しさが思いっきり混じった声で女神官が言い放った。
「は?二十歳?」
どう見ても30代にしか見えないのに?
この香水ぷんぷんしててでたらめな化粧塗りたくってる女が二十歳?
あららららぁ。なんて、残念な若者だ。
「二十歳………?」
夏芽は一言呟いた後、まじまじと女神官を見つめる。
「………………………はっ」
そして大層馬鹿にしたかのような顔で、笑った。
「わ………わ………わ………」
あれれ?いつのまにか兵や神官たちがあんな遠いところにいる。
「笑うんじゃないわよ!!!」
女神官は人が変わったかのように声を荒げた。
おお、ぷっつんした。うわっ、面白い顔。
最初はクセが強すぎて「ないわ~」って思ってたけど、この顔は面白い。
ある意味、ピカソみたいな芸術性があるかも。
やっぱり、撮ろうかな。
ポケットの中のスマホを握り締めた時だった。
ステンドグラスがパリンパリンと割れた音を響かせ、天井に釣るしていたシャンデリアのパーツのクリスタルが数個落ちてきた。
「うわっ、あぶなっ」
「人が下手に出てれば、調子に乗って!聖女じゃなかったらあなたたちなんかにぺこぺこしないわよ!」
怒鳴り散らしている女神官の目元には涙がたまっている。
「なんでそんな酷いことが言えるのよ!」
ありゃ、もしかして老け顔って言葉、この人にとって地雷だったりする?
よくよく考えれば、年若い娘に老け顔はちょっと言い過ぎたかも。
ちょっと悪いこと言っちゃったかもね、夏芽。
夏芽?
見ると夏芽はどこかぼーとしていた。目の焦点も合っていないように見える。
あ~らら、こりゃ限界みたいだな。ちょっと揺れてるし。
女神官は舌打ちしそうな勢いで、ぷいっと顔を背けた。
おやおや、今までの態度とはえらい違いだね。ぷっつんとして、開き直った感じ?
でもよくよく考えてみると、老けて見えるのはそんな気持ち悪いくらいに塗りたくった厚化粧のせいじゃないの?私たちが悪いって思う必要ないんじゃない?
「私たちはあなたたちに敬意を払ってあげているのよ?あなたたちだってそれ相応の振る舞いをすべき―」
「ふぁ~~」
悪態を吐かれている夏芽の反応は盛大なあくびだった。
「は?」
まさか、この場であくびをされるとは露とも思ってなかった女神官は一瞬でぽかんとした顔に変わった。
そして、数秒の間の夏芽からの一言。
「眠い」
ぼそりと独り言のように呟くとその場に崩れるようにして倒れた。
「夏芽、次の攻撃は一緒にやろう。首の後ろ辺りを蹴って転ばせよう」
モンスターは今度こそ、といった具合で「ぐるぁぁ!!」という声と共に大きな黒い牙をむき出しながら、突進してきた。
「おっと」
私たちはギリギリのところで避け、首の後ろ目掛けて強い蹴りを入れた。勢いをつけて突進してきたモンスターは私たちが蹴りを入れた方向に、すっ転んでいった。
今だ。私たちはモンスターが転んだ反対方向に飛び、距離を取った。
そして私たちは顔を見合わせ、深呼吸する。
ええっと、この耳元でぼそぼそいっているものをそのまま歌えばいいんだよね。
一斉に口を開き、声を出す。
「~~~♪、♪~~♪♪~………♪」
不思議だ。自分の声なのに、初めて聴く音のように聞こえる。
脳内で流れていた声と歌詞は初めて聞いたもので、それを口に出すにも初めてだ。
夏芽と練習だってしていない。それなのに、当たり前のように声を出せる。
まるで、自分自身が楽器になってる気分。脳内に流れているのが「楽譜」で歌を歌うという行為が「演奏」。私たち二人がやっているのが「二重奏」。
空気が震えていると、はっきりわかる。
こんなの初めでだ。これが聖女の力ってやつ?
「ぐるるるぅあ!ぐぐぐう!!!」
歌声を奏でれば奏でるほどモンスターは悶えるような鳴き声を出し、動きも鈍くなっていった。動きが鈍くなったモンスターはついには金縛りにあったかのようにぴくぴくと指先を動かすのがやっとになっていく。
モンスターの体が一瞬透明になったのがわかる。
目の錯覚?いいや、違う。また、透明になった。
これが女神官の言っていた浄化?
徐々にモンスターの透明化の間隔が短くなり、ついには点滅するような状態になっていった。
私たちはここぞと言わんばかりに声量を大きくする。
「ぐるるるぁ!!!」
モンスターは断末魔のような咆哮を上げる。そのまま、ゆっくりとモンスターの体が消えていった。私たちは歌を止め、顔を見合わせる。
「………………終わった?」
モンスターの姿はどこにもないし、何よりずっと脳内に響いていた女の歌声も消えた。
辺りはしんと静まり返る。
私たちがやったんだよね。浄化したんだよね。
私たちはぼんやりとモンスターが消えた位置を見つめた。
「や、やった!モンスターが消えた!」
「聖女様がモンスターを浄化したぞ!」
「あれが浄化の力か。素晴らしい!」
一瞬の静けさから一転しての歓声だった。モンスターの姿が消えると、見計らったかのようなタイミングで兵や神官が集まってきた。集まってきた兵の中には私たちに向けて「偽物の聖女め」と罵った人間もいる。
なんか、こうもあからさまだとイラッとするな。
まぁ、気持ちはわからないでもないけど。
でも、こういう極端な態度、夏芽はすっごく嫌いなんだよね。私も好きじゃないし。
集まってきた人間の中に女神官もいた。女神官は心底ほっとした様子で近寄ってくる。
「おつかれさまです、聖女様」
にこにこにこにこ、と女神官含めて皆、同じ顔で微笑んでいる。
皆、いい笑顔だねぇ。なんか癪に障るなぁ。
「そういえば、あの王様は?王子様たちもいないね?」
「王族はこの国の象徴的な存在です。わずかな危険も回避する必要があります。モンスターが城門を突破した時点で国王たちは安全な場所に避難させました」
避難?逃げたの間違いじゃないの?
私らを勝手に召喚した黒幕的存在なくせに無責任な人たちだねぇ。
「王からの伝言です。“よくぞ、城を守ってくれた„と」
おお、一目散に逃げた人間のくせに見事なまでの上から目線。どこの世界でもやっぱり、人の上に立つ人種って人任せにするのが仕事なんだね。
「お二人のおかげで被害を最小限にとどめることができました。ありがとうございます」
「私たちがやったのが浄化ってやつ?」
「はい、召喚された聖女様にしかできない特別な力です。私も初めて拝見いたしました。さきほどのように歌を奏でてくだされば、国中の瘴気もすべて浄化することが可能です。お二人が力を合わせれば、きっと成し遂げることができます」
女神官はにこにことした顔を崩さない。
そして、周囲の人間もにこにことした笑顔にキラキラとした瞳を向けてくる。
おいおい、私たちがこの国に留まるのは決定事項?還りたいっていう私らの願望はスルー?
「もう夜が更けました。近々、聖女様お披露目のパレードを開きたいと思っていますので明日はその話し合いを――ぐっ」
はい、そろそろキレる頃だと思ってました。
いや、遅いほうかな。
夏芽は女神官の胸倉を片手で鷲掴みした。女神官は私たちの背丈と同じくらいだったが、胸倉を上方向にぐいっと持ち上げているため、女神官はつま先立ちになる。おべっかを使ってばっかりだった周囲は一瞬でぎょっとした表情になる。
「………………」
夏芽は無表情で女神官を見つめる。
うん、こりゃキレてる顔だな。目が据わってるんだから。
まぁ、キレる気持ちもわかるよ。ツッコミどころ満載の発言ばっかりするんだから。
「あ、あのっ、聖女さ………ま」
「………………」
「放し………て、くだ………さ」
「………………」
「放してっ!」
「………………ふん」
夏芽は鼻を盛大に鳴らして女神官をぽいっと捨てる。
「ごほっ、ごほっ、な、何を………」
私はせき込む女神官に近づく。
「夏芽が思ってることを代弁すると“勘違いするなよ、別にあんたらのために歌ったわけじゃない。ガタガタうるさい地響きを止めたかったし、何よりずっと鳴っている咬みたいな歌声を止めたいから歌ったんだ。ていうか、あんたらこれ幸いばかりに話を進めるんじゃない。還りたいって私らの意見、忘れてるんじゃないだろうな”だと思うよ」
夏芽は苦しそうに喉元を抑える女神官に構わず再び胸倉を掴み、今度は上方向ではなく引き寄せた。
「還せ」
「い、いえ………それは」
「還せったら還せ」
「せ、聖女様………お、落ち着いて」
「還せっつってんだろ?この臭ぇ化粧ばばぁ」
夏芽の一言が一瞬にしてその場を凍らせた。
「………け………け………け」
女神官はひくひくと顔を引きつらせる。
皆が青ざめている中、ただ一人笑いを堪えている人間がいた。
私だ。
「夏芽、それは言い過ぎだって。時と場合を考えなよ。私ら還れなくなるかもしれないじゃん。せめて、そこは“化粧と香水のきついケバさま”っていいなよ」
女神官を見たときからずっと思っていたことだった。
真っ赤な口紅、目元に施している口紅と同じ色の太いアイライン、顔面に塗りたくっている白粉、濃いピンクの頬紅。そして、今にも虫が数匹たかりそうな、甘ったるい香水の香り。
ウケとか狙ってるんじゃないかと半分本気で思うほどのケバさ。
私らの世界でもこんな化粧きつい女はいないわ。
さすがの私もゲテモノ系の写真は撮りたいと思わない。だから、あえてとスルーしてた。
「………………………まずは、手を、離して。いただけませんか」
おお、耐えてる耐えてる。顔すっごい引きつってる。やっぱり、我慢強いなこの化粧おばさん。
あ~、でもそろそろぷっつんするかもな。
夏芽はしぶしぶといった態度で手を離し、腕を組む。
「まずは訂正していただきたい。いくらなんでも、聞き捨てなりません」
「は?訂正?化粧ばばぁを化粧ばばぁって言って何が悪い」
ん?集まってきた周囲の様子がおかしいぞ。
ぷるぷる震えている女神官から一歩、また一歩と距離を取っている。
それに私の気のせいかな。夏芽が化粧ばばぁって言った時からカタカタとステンドグラスやシャンデリアが小さく揺れているような。
「私は………私は………まだ二十歳です」
悔しさが思いっきり混じった声で女神官が言い放った。
「は?二十歳?」
どう見ても30代にしか見えないのに?
この香水ぷんぷんしててでたらめな化粧塗りたくってる女が二十歳?
あららららぁ。なんて、残念な若者だ。
「二十歳………?」
夏芽は一言呟いた後、まじまじと女神官を見つめる。
「………………………はっ」
そして大層馬鹿にしたかのような顔で、笑った。
「わ………わ………わ………」
あれれ?いつのまにか兵や神官たちがあんな遠いところにいる。
「笑うんじゃないわよ!!!」
女神官は人が変わったかのように声を荒げた。
おお、ぷっつんした。うわっ、面白い顔。
最初はクセが強すぎて「ないわ~」って思ってたけど、この顔は面白い。
ある意味、ピカソみたいな芸術性があるかも。
やっぱり、撮ろうかな。
ポケットの中のスマホを握り締めた時だった。
ステンドグラスがパリンパリンと割れた音を響かせ、天井に釣るしていたシャンデリアのパーツのクリスタルが数個落ちてきた。
「うわっ、あぶなっ」
「人が下手に出てれば、調子に乗って!聖女じゃなかったらあなたたちなんかにぺこぺこしないわよ!」
怒鳴り散らしている女神官の目元には涙がたまっている。
「なんでそんな酷いことが言えるのよ!」
ありゃ、もしかして老け顔って言葉、この人にとって地雷だったりする?
よくよく考えれば、年若い娘に老け顔はちょっと言い過ぎたかも。
ちょっと悪いこと言っちゃったかもね、夏芽。
夏芽?
見ると夏芽はどこかぼーとしていた。目の焦点も合っていないように見える。
あ~らら、こりゃ限界みたいだな。ちょっと揺れてるし。
女神官は舌打ちしそうな勢いで、ぷいっと顔を背けた。
おやおや、今までの態度とはえらい違いだね。ぷっつんとして、開き直った感じ?
でもよくよく考えてみると、老けて見えるのはそんな気持ち悪いくらいに塗りたくった厚化粧のせいじゃないの?私たちが悪いって思う必要ないんじゃない?
「私たちはあなたたちに敬意を払ってあげているのよ?あなたたちだってそれ相応の振る舞いをすべき―」
「ふぁ~~」
悪態を吐かれている夏芽の反応は盛大なあくびだった。
「は?」
まさか、この場であくびをされるとは露とも思ってなかった女神官は一瞬でぽかんとした顔に変わった。
そして、数秒の間の夏芽からの一言。
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