聖女として召喚された性悪双子は一刻も早く帰還したい

キリアイスズ

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長髪王子

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部屋中に響くほどの声で怒鳴ったおかげで、しんと静かになる。

怒鳴ったすぐ後、私はぐっと右手に力を込めた。それは夏芽も同じだった。
端から見たら、私たちの間に鏡が挟まっているように見えるだろう。

ほんっと、私たちって妙なところ似てるよね。

「………………………ふざけるなよ。お前たちのせいで、お前たちのせいで」

ふっ、面白い。久方ぶりのファイトだ。
そして再び、鳴り始めている蚊は後で退治するとしよう。

蚊退治はたぶん、一瞬で済む。

私たちはお互いの右頬目掛けて拳を振り上げた。

「お前たちのせいで兄上のアレがたたなくなったんだ!兄上のアレがダメになったかもしれないんだ!お前たちのせいでずっと伏せっているんだぞ!」

「「ん?」」

私たちはピタッと拳を止め、思わずお互いの胸倉を離す。

「アレ?兄上?何のこと?」

アレ?たたなくなった?

私たちは初めて隣にいるだろう人物に目を向けた。
長い銀髪を一つに束ね、深い青い瞳をした中性的な容姿の少年がそこにいた。

「ううぅ、こんのっ!」

少年は青い瞳に涙をいっぱい溜め、顔を真っ赤にしながら唸っている。

ん?この顔どこかで………ああ、そういえば召喚直後にいたな。

「君、もしかして召喚された時にいた王子様?」

「ぐうう!」

へらっと笑いながら言ってみると王子様は犬みたいに唸った。
どうやら、図星みたい。

「アレ?たたなくなった?」

夏芽も私と同じように体を横に向け、首をかしげている。
私たち二人は本当に妙なところが似ている。
こういう興味の移り方とかね。今は喧嘩よりもこっちにほうがお互い気になってしまっていた。
だからひとまず、一時休戦といこうか。

私たちは同時にベッドにボスン、と座る。

そして、私はこの私たちよりも背の低い王子様の言っていた意味を考えてみた。

………………この子のお兄さん………………アレがたたない。

アレ?………ん?もしかして、たたないって「勃たない」って言う字を書く?
じゃあ、アレってあれのこと?

この子が言っている意味を3秒で察した。

夏芽のほうをちらりと見る。
どうやら、夏芽も王子様の言っている意味を察したみたい。
そういう顔をしている。

この子が言っている「兄上」は夏芽に股間を蹴られた王子のことだろう。

あ~、そういえばいたね。そんな人が。
正直、さほど気に留めることでもなかったら存在自体忘却の彼方に飛ばしてしまっていた。

「ねぇ、アレってやっぱり股間についてるアレのことだよね。勃たなくなったってマジ?やっぱり夏芽が蹴り上げたから?」

長髪皇子はキッと私を睨みつけてきた。

「やっと思い出したか!そうだ!あれから兄上はずっと部屋に引きこもって出てこないんだ!一体どうしてくれるんだ!お前たちのせいでこの国の未来が危ぶまれているんだぞ!」

あのイケメン皇子が部屋から出てこない?

「………………あの兄上が、あんなに憔悴した姿は見た事がない」

アレが勃たなくて憔悴してる?

「………アレが勃たない?引きこもっている?」

隣りにいる夏芽は顔を伏せ、体全体を小刻みに揺らしていた。

「私たちのせいで?」

口元を押さえていても、声が漏れる。
どうしよう。手だけじゃなくて声もどうしようもなく震えてしまう。

「そうだ!お前たちの責任だ!お前たちは責任を感じるべきだ!」

目の前の長髪皇子はキャンキャン、と子犬みたいに私たちに向かって吠えている。

「……………く………うぐ………は、あははは。あっはははっ!きゃはははは!!」

夏芽はもう我慢できないと言った様子で爆笑し始めた。
腹を抱え、ベッドに転がって足をバタバタと動かしている。

ちょっと夏芽。何やってんの。
ずるいじゃんか。私よりも先にそんな風に笑うなんて。

だめだっ、私もう我慢できない。

「ひゃっははは、あはっ、はははは!」

私も夏芽に続いてベッドに転がり込んだ。

私たちは完全に笑いのツボに入ってしまっていた。

「ははははは、あーはははははっ、イケメン王子が不能王子になっちゃったって、ウケる!ウケすぎてお腹痛い!勃たなくてベッドに伏せるってギャグかっての!」

イケメンのアレが蹴りの衝撃で勃たなくなった、なんて話聞いて笑うなってほうが無理あるって。
不能王子って面白すぎだろ。

「不能王子?はははっ、なんだよ不能王子って。イケメンなのに不能王子ってばっかみたい、きゃははは」

世話ないわ。自分が思いついた言葉で、こうやってツッコむなんて。
面白すぎだろ、不能王子なんて。気に入っちゃったよマジでそのボキャブラリー。

「な、な、なんだ。お前たち………」

長髪王子の狼狽した声がかき消されてしまうほどの声で私たちは笑い転げた。

「はっはっは、あ~、マジウケる」

あらかた笑ったおかげで、私たちは徐々に落ち着きを取り戻していった。
二人揃ってこんなに爆笑したのっていつぶりだろう。

笑ったら気分が良くなってきた。
なんか、写真撮りたいな。

「おいこらっ!笑うんじゃない!お前たちのせいで兄上は心に傷を負ったんだぞ!普通だったら申し訳なさそうにするもんだろ!」

私たちはベッドに寝っ転がったまま、長髪王子を見る。

長髪王子は私たちの反応に、大変ご立腹の様子。
ますます顔が真っ赤になっている。頭から今にも湯気が出そうだった。

う~わ、なんて面白い顔。なんていい被写体。

「とにかく、起き上がれ!僕は王子なんだ!無礼にもほどがある!」

私は思いっきり、反動をつけて起き上がった。

「はい、起きたよ」

起き上がった時、長髪王子との距離が意外にも近かった。

「うっ」

いきなり私が起き上がるとは思わず、長髪王子はビクッと身を震わせ、一歩下がった。

私はスマホを長髪皇子に向けて、カシャッと一枚撮った。

「なんだ今の音?なんなんだその道具は」

私は長髪皇子の疑問を一切無視し、撮った写真を確認する。

怒りで赤く染まった頬、涙を多く含んだ青い瞳、唖然と開かれた口。
私ってやっぱり、サドッ気の傾向があるっぽい。
こういう写真を見ると、自分の中にある嗜虐心がくすぐられる。

さっきまでのもやもやが嘘みたいに今、すごく気分がいい。

私は被写体の長髪王子ではなく、目の前の本物の長髪王子に目を向けた。

「王子様と話していて、ふと思い出したんだけどさ。そういえば、王様はどうしてるの?召喚された時からまったく姿を見かけたりしないけど」

「ち、父上はお前たちを怖がっ………じゃない、お前たちを警戒しつつ、公務室で今後の対策を練っているんだ」

「怖がって?今、怖がってって言った?」

「言っていない!」

「ぷっくく、マジかよ」

さっきほどじゃないけど、これも爆笑するのに十分なネタだ。
たかだか二人の小娘を怖がって公の場に出てこないって王様ってなんだよ。ウケんだけど。
そんな臆病者が王様で大丈夫?この国。

王族って皆、揃いも揃って私を愉快にさせるんだね。

「に、偽物聖女のくせに。王族をバカにしていいと思っているのか」

悔しさで唇を噛みしめながら、長髪王子はキッと睨みつけてきた。
うん、まったく怖くない。むしろ、面白い。
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