聖女として召喚された性悪双子は一刻も早く帰還したい

キリアイスズ

文字の大きさ
22 / 68

影薄王子

しおりを挟む
「兄上!兄上からも何か言ってやってください!」

長髪王子は私を指差しながら振り向く。

ん?兄上?
不能王子は部屋に引きこもってるんじゃないの?
私は首をかしげながら、長髪王子の視線を追った。

「うお!?」

思わず声が出た。びびった。
私はその人物はドア付近にいると思っていた。しかし、その人物はドア付近に待機しているのではなく、長髪王子のすぐ傍の背後にいた。

思わぬ人物を視界に捉えたので、私の心臓がドキンと鳴った。

マジでびっくりした。目の前にいる人間って長髪王子だけだと思っていたから。
まさか、こんな近距離にもう一人いるとは思わなかった。

どんだけ影が薄いの。某スポーツ漫画の主人公並みの影の薄さだ。
兄上と呼ばれた男は一歩前に出る。

私は改めてまじまじと男を眺める。

目の前にいる男はあの不能王子ではなかった。銀髪と青い瞳は同じだがまったくの別人。
不能王子ほどのイケメンではなかったが、この男もなかなか整った顔立ちをしている。整ってはいるが、際立った顔立ちではない。一つ一つのパーツがそれぞれ主張していないため、全体的に控えめなあっさりとした顔立ち。

つまり、存在感のなさそうなイケメン。

そういえば、この男も召喚時に見かけたかもしれない。

長髪王子はこのあっさり顔の男のことを兄上って言っていたよね。
つまり、この男も王子ってことか。
さしずめ、現在部屋に引きこもっている不能王子が第一王子でこの影薄王子が第二王子、隣にいる私をずっと睨みつけている長髪王子が第三王子ってところかな。

影薄王子は私をじっと見つめていた。
いや、見つめているというよりも考え込んでいると言ったほうが正しいのかもしれない。
そんな姿勢を数秒間ずっと続けているため、妙な居心地の悪さを感じる。

「あのさ、言いたいことがあるんだったら言えば?」

「………………え、あ」

影薄王子は私から話しかけられるとは思わなかったようで、言葉にならない声を漏らし、視線をさまよわせる。影薄王子が私を観察しているように私も影薄王子を観察してみる。

う~ん、私を怖がって言葉が出ないってわけではなさそう。
人見知り?それともただ単に女が苦手。

はっきりとしない態度に私は首をかしげる。

「もう、いいです!俺がなんとかします!」

何も言おうとしない影薄王子に業を煮やした長髪王子は再び私に向き直り、距離を詰めてきた。

「俺が言いたいことは二つある。兄上に詫びろ」

「詫びる?」

「そうだ、人として当然の行為だ!」

詫びるって言っても蹴り上げたのは私じゃないし。

「そして、聖女としてのけじめを付けろ」

「けじめ?」

「間違いで召喚されたとはいえ、お前たちは曲がりなりにも聖女だ。聖女なら相応の振る舞いを覚えるべきだ」

「相応の振る舞い?」

「聖女なら浄化の一つや二つするのが当たり前だろ」

「………………当たり前」

勝手に呼び寄せておいて?浄化するのが当たり前?
勝手に呼び出したことに対しての私らの詫びはスルー?

なんか、鼻につく言い方だな。

「………………おい、ずっと気になっていたんだが」

「何?」

「それは何だ?」

長髪王子が私のスマホに目をやっている。

「なんなんだ。その道具は?召喚時からずっと持っていたものだよな。そんな道具、見たことがない」

「だろうね」

「もしかして、浄化に関係のある特別な道具か?」

「は?」

「ちょっと見せろ」

そう言って長髪王子は私のスマホに触ろうと手を伸ばす。

「ふ・ざ・け・る・な」

私のスマホを触ろうなんて言語道断。百歩譲って触っていい許可を出しているのは双子の妹、夏芽だけ。それ以外の人間は指先だって触らせやしない。

私は近寄ってきた長髪王子の股間をぐいっと握った。

「ひぐっ!?」

股間を突然握られ、長髪王子は石のように硬直した。

まったく、せっかく面白い写真を撮れていい気分になっていたのに台無しにしないでくれない?

「な、な………ななな」

長髪王子は口をパクパクとさせ、視線をあっちに行ったりこっちに行ったりとさせている。

「そっちこそ覚えておいて。こっちはあんたの大事で大切で唯一無比のお宝を潰すことに一切の躊躇いも良心の呵責もないってことに。お兄様みたいにお宝を残念な結果にさせたくなかったら、私らの前で調子に乗った振る舞いは慎んだほうが良いよ」

声を凄ませて言い放つと、握っていた手をゆっくりと放してあげた。

あ~あ、服越しとは触っちゃったよ。
生々しい。

「あ………………あ、あ」

ずっと硬直していた長髪王子は体全体をカタカタカタカタカタとまるで壊れた玩具のように動かし始めた。そして、怒りのせいか羞恥心のせいか、これでもかというほど顔が真っ赤になっていく。
うわうわ、顔りんごみたい。おもしろ。

ていうか、長髪皇子のあの大きさ………………年齢にしては、随分と。

私は、この世界に召喚されて初めて心の底から哀れに思う男の子に会ったかも。
私はいまだに金魚のように顔を赤くしながら口をパクパクさせている長髪王子にこれでもかというほど優しい笑みを向けてあげた。

「少年、人生これからだよ。たとえ、赤ちゃんのような壊れそうな小ささでも宝物は宝物だよ。大事にね」

「!!!!!」

あらら、慰めていったつもりだったのに。
長髪王子の何かが噴火したみたい。

「………お前なんか、お前なんか」

長髪王子はひっくひっくと、しゃくり上げながら泣き出した。
あらら、泣いちゃった。いや、この場合は私が泣かせたことになるのか。

「お前なんか、大っ嫌いだ~~~!!」

そう言い捨てながら、長髪王子は部屋から走り去っていった。

あらら、あんな小学生みたな捨て台詞久しぶりに聞いた。
あの真っ赤な顔、撮ればよかった。面白かったのに。
惜しいことしたかも。

私は長髪皇子の姿がまったく見えなくなると、取り残されたもう一人の王子に目を向けた。

影薄王子はわずかに眉根を寄せた難しい表情で私を見つめている。しかし、なぜかその瞳の奥からはなぜか、私への嫌悪感は感じられなかった。

「あ………」

次に見せた表情は何かを言おうとしているようで、ぐっと言葉を喉に詰まらせているような、そんな表情だった。

「何?王子だったらはっきり言えば?」

なんなんだろう、この煮え切らない態度。
私に文句を言おうとしているようには見えないけど、だからといって何もないっていう風にも見えない。長髪王子は二十秒ほどそんな仕草を繰り返すと、己の何かを吐き出すように大きく息を吐きだした。そして、影薄王子も長髪王子の後を言うように、部屋から出て行ってしまった。

「結局何しに来たんだろう。あの王子」

何かの捨て台詞を言われるかと思っていたので、拍子抜けしてしまった。

ふと、私はあれ?と思った。夏芽が奇妙なほど静かだったからだ。
いつもの夏芽だったら、ああいう一方的な長髪王子のような物言いは絶対に気に喰わないだろうから、途中からグーパンが入ってきてもおかしくなかった。でも、私が長髪王子の股間をぐにっと握るまで夏芽は何のアクションも起こさなかった。

「もしかして」

振り返ってみた。

「やっぱり」

案の定だった。いつのかにか、会話に飽きて眠っていた。
そんなあまりにも自由過ぎる夏芽にムスッとせずにはいられなかった。

「もう、私らケンカしていたんじゃないの?ラウンド2するんじゃなかったの?………………はぁ」

私も影薄王子のようなため息を零した。

キレたり大笑いしたりしたいせかな、私も眠くなってきたな。
私は目を軽く擦り、バタンとベッドに倒れ込んだ。そして、スマホを握ったまま目を瞑り、眠りの中に落ちた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

処理中です...