聖女として召喚された性悪双子は一刻も早く帰還したい

キリアイスズ

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いや、何かしたな

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私は賓客の間に続く長い廊下を歩く。
今のところ、大司教の部屋の前からここまですれ違ったり、目にする人間は一人もいなかった。しんと静まり返った廊下には私の足音だけが思いのほか、響く。

だから、わかる。
大司教の部屋の前から離れてすぐに、私の後を付いてくる人間がいることを。
姿が見えなくても、間違いなかった。

後から付けられるなんてことは、実際のところよくされていることだった。
つい五日くらい前に、喧嘩を売られたためにボコったチンピラの一人が私たちの弱みを何かを掴もうと、学校からの帰り道、長い間ずっと尾行されたことがあった。

まぁ、結局は夏芽が鬱陶しいと半殺しにしちゃったんだけど。

もう尾行なんて何十回もされてきたため、私らは直感だけで察してしまうレベルまでに達していた。まぁ、あのチンピラの尾行は尾行なんて言える代物じゃなかったけど。今、思い出しても小学生のほうがもっとうまくできるって思うわ。

でも、この尾行者はあの時のチンピラとは比較にならないくらいレベルが高い。私の歩調と足音とを合わせるようにして歩いている。私は足をピタッと止めて、振り返った。
誰もいない。上手く隠れたな。
この廊下には身を隠すのに十分な大きな柱やでっぱりが所々にある。
そのどこかに隠れたんだろう。普通の人間だったら、なかなかこういう尾行には気づかないだろうな。でも、生憎だったね。私、非常識な側の人間だから気づいちゃうんだ。

私は意識を後ろに向けたまま、再び足を進める。尾行者もまたついてくるのがわかった。
誰だ、一体。庭園に出くわした令嬢の中の一人がまた、いちゃもんつけにきたの?
ほうほう、根性ある令嬢だね。しかも尾行の技術を持ち合わせているなんて、なんて魅力的なんだろう。
その度胸に敬意を払おうじゃないか。
今度は下の下着だけじゃなく、上の下着もはぎ取ってあげよう。きっと、素晴らしい人生の経験値を得るはずだよ。

私はにやりと笑い、駆け出した。私が突然駆けだすと思っていなかった尾行者は足並みを揃わせる余裕がないまま、私の後を追ってくる。私は右側の曲がり角に曲がり、足を止め、尾行者が追ってくるのを待つ。

駆けてくる足音が迫ってくる。

来た!

人影が視界に入ってきたのと同時に私は胸倉を掴んだ。

「この私の後を追ってくるなんていい度胸じゃない!お礼にパンツ下ろして………………え?」

私は思わず、目を見開く。
私が目の前の胸倉を掴んでいる尾行者は意外な人物だったからだ。

第二王子の影薄王子だった。

私は廊下のほうを見る。
誰もいない。誰もいないということはやっぱり尾行者の正体はこの影薄王子ということだ。
影薄王子は胸倉を掴んでいる私の手を払うこともせず、気まずそうに視線を泳がせていた。
私はそんな影薄王子をじっと見つめる。

………まさか王子とは思わなかったな。
さすがに王子のパンツの下ろすのはだめか。というか、なんか萎えちゃったな。

影薄王子だとわかって拍子抜けした。その言葉が正しいだろう。
私は掴んでいた胸倉を放す。

「あなた、どうして私を追っていたの?」

「そ………れは」

「何?」

私はずいっと顔を近づける。
すると、影薄王子はいきなり私の顔が近くなって驚いたのか、バッと顔を逸らした。
なんなの、この王子。コミュ障かよ。コミュ障に付き合っていられるほど私は暇じゃない。私は影薄王子よりも夏芽の写真を優先しようと思い、賓客の間に向かおうと一歩足を前に出そうとした。

パシッ。

その一歩を出すことができなかった。
影薄王子に腕を掴まれたからだ。

………いい加減にしなよ、影薄王子。
私は今から、またあんたに質問するよ?
もし、またしどろもどろな答えが返って来るなら王子と言えど、パンツを下ろしちゃうかもしれないよ?

私はゆっくりと振り返りながら、口を開こうとした。

「私は………」

先に影薄王子が口を開いた。影薄王子は掴んだ指先や唇を震わせながら、言葉を必死で絞り出そうとしていた。照れているのか、心なしか頬や耳が赤く見える。

「私は―」

「何?」

おいおいおい、何言うつもりだこの男。
気でも触れたか。

「ひいい!?」

ん?『ひいい』?
なんだ、今の声。
女の声だったから、この影薄王子の声じゃないことだけはわかる。

声を後ろのほうから聞こえた。

「放して」

私は掴まれていた腕を払い、振り返った。

そこにいたのは、つい先刻廊下ですれ違い、私をクスクス笑っていた令嬢達だった。あれほど私をバカにしていた令嬢達が、今ではすっかり怯え切っている。しかも怪我こそしていないものの、綺麗に結い上げられた髪やドレスがほつれていたり破れていたりと、見た目がぐちゃぐちゃになっていた。

なんだなんだ、短時間で何があった。

「ねぇ、なにがあったの?」

「ひいい、ごめんなさいごめんなさい!」

「もう、あんなこと言わないから!」

「私たちが間違っていたわ。だから近寄らないで!」

令嬢達はわっと泣き出した。

私はこの子たちには何もしていない。
むしろ、されたほうだと思う。

さっきまで令嬢達は私をバカにし、見下すような発言をしていた。
それが今、私の顔を見た途端この変わりよう。

もしかしてこの令嬢達、私と夏芽を間違えている?
あの子、この令嬢達に何かしたの?

いや、何かしたな。

「あのさ、あんたら夏芽に何かされたの?」

「………え」

「何かされたんでしょ?言っておくけど、あなたたちに何かした人間は私じゃなくて妹の夏芽だよ」

私の言葉は全部令嬢達の耳に入っているはずだ。
それでも、夏芽と私は同じ顔をしているからか、令嬢達は怯え切ったままだ。

「ていうかあんたたち、夏芽に何か言ったの?」

そう聞くと、令嬢達はあからさまにビクンと肩を震わせた。
やっぱり。この令嬢達は廊下ですれ違いざまにわざと私の耳に入るような、侮辱の言葉を口にしていた。もし、私と同じような態度や言葉を夏芽の前で口にしたとすれば―――。

うん、この令嬢たちのボロボロの格好を見れば、どうなったかなんて目に浮かぶな。

「え、いや………その」

令嬢達はしどろもどろな態度で互いを見合わす。

「怒んないからさ、何て言ったのか教えてよ」

「あの」

「早く言って。怒るよ」

「は、はい。あなたは庭園に出ていこうとしていたので、さきほど鉢合った彼女が片割れのほうだと私たちは気づきました。そ、それで、わ、私たちは彼女に………」

「で、何て言ったの?」

声と共に体を縮こませる令嬢達に向けて、私はにっこりと笑ってあげた。
早く言え、という意味を込めて。

「さっき見かけた聖女のほうが雰囲気に卑しさが滲み出ていた、とか」

「この聖女よりもあの聖女のほうが底意地が悪そう、とか」

「よく見たら、さっき見た聖女のほうが猿並みの知性しか持ち合わせていなさそう、とか」

令嬢たちは今にも泡を吹きそうなほど青ざめている。

「ふーん。で、夏芽はどうしたの?」

「か、彼女は無言で私たちに近寄って、そして………」

「あ~、やっぱりいいや。だいたい想像つくよ、そのザマを見たらね」

ぐちゃぐちゃになった髪、乱されたドレス。
まず、夏芽は無言で近寄ると、令嬢の一人のドレスの胸元を乱暴に持ち上げて、ぶん投げた。驚いた令嬢二人は逃げようと背を向けた時、夏芽の令嬢二人の髪を掴んで、壁にぶん投げた。そして、一人ずつ髪とドレスを両方掴み、相手が吐きそうになるほどゆらゆらと揺さぶり続けた。

そして、一人ずつこう囁いた。

『今度何かいったら、ぶっ殺すぞ』

そして、飽きた夏芽は、そそくさとその場を後にする。

たぶんこんな感じになったんだろうな。

「はっ」

なんか、笑えてくる。好みや性格は似てない部分が多いのに、変なところが似ちゃうんだね。
自分の悪口じゃなくて片割れの悪口を言われてブチ切れるなんてさ。

「ひっ、ごめんなさい。も、もう言いませんから」

私が笑った意味を別の意味に令嬢たちは捉えたのか、ビクンと肩を震わせてその場から脱兎の如く逃げていった。


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